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ぶんぶく灰皿

彼岸の入りの一日前。快晴。

父に誘われ、祖父の墓参りへと、祖母と父と三人で行った。


墓参りは多分、中学生ぶりくらいだから、勝手が分からず、箒を持ってうろうろしたり通りすがりの猫を追いかけたりしていた。

風が強くてマッチの火が点かない。タバコをやめた父が、私に「ライターあるか」と聞く。
2本くらい持っていたから、もちろんすぐさま差し出した。ようやく役に立った。

線香をあげて、祖父を思い出しながら合掌していると、祖母が小さな声で「生まれたところに戻ってこられて良かったわ。街にいるよりいいわね。」と言った。

カーオーディオでは昨日から、ひとに教えてもらったオールディーズのプレイリストを流していた。体が揺れるリズムが運転するのに心地よい。
祖母は時々口ずさみながら、「昔の曲だわ。ばあさんが若い頃の曲。」と嬉しそうにしている。

リアルタイムの人なのか、と不思議な感覚になり、祖母に歳を聞いたら「82歳よ。」と言った。スイミングに通い毎日自転車で買い物をしている祖母だから、もう10歳くらい若いと思っていた。可愛いし強い祖母が、昔から大好きだ。


照れくさくて自分から遊びに行くことは思春期にはほとんどなかったが、22歳を過ぎたあたりからたまに話しに行ったり用事があれば少しお喋りをして帰ったりしていた。
祖母は話好きで、いつも色んな話をした。
時々、祖父が元気だった時のことを昨日の事のように楽しそうに話す。仲良しなんだ。

素敵なティーカップやグラスの沢山並ぶ祖母の食器棚に目をやると(いつもついよく見てしまう)、何だか黒くてまん丸の、変わった形の鉄器があるのに気がついた。
祖母はヨーロピアンな趣味の人だから、珍しいなと思ってよく見るとそれは、たぬきの形の灰皿。
とぼけ顔がおかしくて、祖母に「これなぁに!」と尋ねると、祖父が昔使っていた灰皿なのだという。可愛すぎるな。

その灰皿についても、
「最初は趣味が悪いわと思ったの。でもなんだか、たぬきがウチには集まるのよ。お父さん(祖父)が買ってくるものだし、捨てられなくて。」
と語る。
つぶらな瞳に目を奪われた私は、
「これ、貰ってもいい?」
と聞いた。

ちなみにこれだけ煙に塗れた生活をしている私だが、唯一祖母にだけはタバコを吸っている姿は見せていない。祖母は可愛い人で、私の事を昔からりさちゃんりさちゃんと一番に可愛がってくれたから、何となくショックを受けさせたくなかった。

「いいけど、灰皿よ。使わないでしょう。」
いや、良すぎる。灰皿が一番欲しい。部屋に何個あってもいい。

とは言わず、
「丸くて可愛いから。」
などと弱い理由で押し切って貰ってきた。


祖父は私が生まれてからずっと寝たきりでじょうずに話せなかった。

タバコを吸っていたのも、初めて知った。

初めて祖父から物を貰った。

遊びに行くとすごくゆっくり「よく来た。」と言ってくれた祖父。

意外と可愛いたぬき好きの祖父。

25歳になる年のお彼岸で、家族の知らなかった一面を知った。


タバコ吸ってるのはまだなんとなく秘密にしておくね。
ばあさん、元気で過ごしてね。

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