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【2021年版あり】2020年型浦和レッズの基本戦術を理解するための5ステップ

▼2021年版の戦術解説

この記事でわかること

・2020年浦和レッズの基本守備戦術
・4-4-2ゾーンディフェンスの概要
・これまでの浦和のサッカーとの違い
・試合を観るときに、どこに着目すれば良いか

はじめに

2020年の浦和レッズは昨シーズンまでと比べて何が変わったと感じていますか?

「3カ年計画」で示されたコンセプトを基準にし、「浦和のサッカー」を作っていくと決めて出発した2020年。低調だった昨シーズンから首脳陣・スカッドの刷新はほぼ行われない中で、「4-4-2への移行」という変化は大きな話題となりました。フォーメーションの数字の羅列は目に見えてわかりやすいので大きく取り沙汰されますが、ただ配置が変わっただけではありません。

では、今季の浦和は4-4-2で何をやろうとしているのか。我々サポーターが今季のサッカーを観て、何を基準にチームやクラブと向き合えばいいのか。

今回は大槻監督の腹心である上野コーチの経歴から、2020年型浦和の幹となる守備戦術「4-4-2ゾーンディフェンス」について紐解いていきます。

上野コーチは栃木SCで現役引退後、そのままクラブに残り指導者としてのキャリアをスタートしていますが、その際に師事したのが当時の監督である松田浩氏でした。同氏は4-4-2ゾーンディフェンスの日本における第一人者で、神戸などでも指揮を執った人物です。また、上野コーチが監督を努めた当時の栃木SCユースチームの戦術は同氏を彷彿とさせるものだったそうです。

大槻・上野体制のルーツから浦和が4-4-2へ移行したことの意味を理解するには、松田浩氏を知ることが必要ではと考え、同氏著「詳しいことはわかりませんが、サッカーの守り方を教えてください」から「4-4-2ゾーンディフェンス」について学んでみました。

本著は4-4-2ゾーンディフェンスについてわかりやすく解説されている本で、その内容は浦和の試合で起きている事象と多くの共通点が見受けられます。

本エントリーでは私が本著から学んだゾーンディフェンスについて、5つの項目に分け、2020年の浦和レッズに落としこんで解説していきます。

1. ゾーンディフェンスとは何かを理解する

突然ですが質問です。サッカーにおける「守備」は何を指しているのか、何を目的としているのか?と聞かれたら、どのように答えますか?

守備戦術の話の前に、そもそもの前提を整理しておきましょう。サッカーとは90分でのゴール数の多さで勝敗が決まるゲームであり、ゴールを決めることができるのはボールを保持しているチームです。そのため、サッカーにおける守備、即ちボール非保持の局面においては「ボールを奪う」「ゴールを守る」ことが大きな目的になります。

では、この前提を踏まえて「ゾーンディフェンス」とは何なのか。本著では、前述の守備目的を達成するための方法のひとつであり、「味方の位置でポジションが決まるのがゾーンディフェンス」と定義されています。

相手の位置ではなく、味方の位置でポジションを決めるとはどういうことでしょうか。具体的な原則としては次のように解説されています。

ボールから一番近い味方を最初の基準とし、他の選手は周りの味方の位置を基準に自身のポジションを取ること。つまり、「相手がどこにいるか」ではなく「ボールと味方がどこにいるか」を意識した位置どりを行うことをチームとして目指すことが、ゾーンディフェンスの方法であるというのです。

では、味方同士を基準にすることで何が起きるでしょうか?相手ではなく、味方を基準にする。すると常に前後左右の味方との距離を一定に保つことができ、お互いにカバーしあえる関係が構築できます。【図1】

この味方との距離、関係性を担保に局面の数的優位を確保し続けたうえでチャレンジ&カバーで「守備」を行う。即ち、個人の対人能力だけでボールを奪うのではなく、意図した場所・局面に相手ボールを誘導し、局面の数的優位を活かして「ボールを奪う」「ゴールを守る」という目的を達成することが「ゾーンディフェンス」の正体というわけです。

味方同士の「適切な距離」についても本書では具体的な数字で記されており、各ライン間は10~12.5m、第1ライン〜第3ラインは常に20~25m以内が原則とされています。また、ピッチをバランスよく埋められる4-4-2が、ゾーンディフェンスを実現するための最もオーソドックスな配置であることも記されています。

【図1】ゾーンディフェンスの原則

では、ゾーンディフェンスではどのように「ボールを奪う」のでしょうか?

本書では最も基本的な方法の一例として、サイドにボールを誘導したのち、SHでボールを奪うことを第1の奪いどころに据える、と解説されています。
それでは、このSHで奪うパターンを実現するための基本的なステップについて説明していきます。

まず、ボールに一番近い選手から全てがスタートします。つまり、殆どの場合は最前線のFWの位置がゾーンディフェンスを敷く上での最初の基準になります。

最初の基準となる2トップはセンターサークル頂点あたりをスタートポジションとし、ボールを奪いにいくのではなく、ラインを越えさせない位置どりを行い、サイド(=ボールを奪いたい場所)へ誘導することを最優先します。

これは、誘導できず第1ライン(=FWのライン)を越され、中央を使われるとゴールを守ためにSHが中に絞らざるを得なくなるためです。中央ではタッチラインという壁を利用することができませんし、「ラインを越される」ということは、そのラインの選手は守備に参加できないことを意味し、味方とのカバー関係で数的優位を確保するゾーンディフェンスの効力が十分に発揮しづらくなります。

チームとしてサイドへの誘導を原則として持ち、実行することができればSHはボールの流れを予測でき、早いタイミングでプレスに出てチャレンジできます。当然、チャレンジする選手の周辺では「味方の位置を基準にポジションを取っている」選手がカバー関係を確保しているので、数的優位の局面が生まれます。これを活かしてボールを奪う、というわけです。

【図2】ゾーンディフェンスのボールの奪い方(3枚/7秒毎に変化)

2. マンツーマンとの違いを理解する

ゾーンディフェンスの基本的な考えを理解したところで、マンツーマンとの違いを解説していきます。また、双方の特性を理解することで、今季の浦和とこれまでの浦和を比較します。

「マンツーマン」と「ゾーンディフェンス」、このふたつの守備方法の違いはどこにあるのでしょうか?

マンツーマンディフェンスにおいても、最初の一歩としてボールを中心に守備組織を構築することは変わりません。違いが顕著なのはその後で、マンツーマンでは相手の位置に、より比重を置いて自身のポジションを決定します。味方の位置を基準とするゾーンディフェンスとの違いがここです。

その結果、ピッチ上での事象はどうなるでしょうか。マンツーマンで相手の位置を基準にすると、担当する相手が明確で、マークしている相手を個人能力で上回ることができれば大きな力を発揮できます。

しかしデメリットとして、相手が動くと自身も動くことになるため、相手によってスペースを創出されやすくなります。【図3】

【図3】マンツーマンの性質

簡単に説明しましたが、ピンときた方も多いのではないでしょうか。昨シーズンまでの、特にオリヴェイラ体制以後の浦和は個人能力が高いCBの強みを活かすためにマンツーマン戦術に比重を置いていました。

マンツーマンの性質を理解すると、ACLで中国勢相手に強さを発揮できた理由や、Jリーグでボールを保持してスペースを生み出すことに長けたチームに苦戦した理由が見えてくるのではないでしょうか。

また、黄金時代の2006年前後もCBの個人能力を活かしたマンツーマンが基本でしたので、浦和サポーターにとっては成功体験を積んでいる馴染みがある守り方であるとも言えます。

3. 過去の浦和とは違う守り方であることを理解する

マンツーマンとゾーンディフェンスの違いを学んだところで、ゾーンディフェンスを標榜する今季の浦和を観るにあたって頭の切り替えが必要だということを解説したいと思います。

ゾーンとマンツーマン、白か黒、どちらが良いか悪いかではありません。大槻監督が常に発言しているように、戦術は相手があってのことであるし、選手の強みにも依存します。

また、ゾーンディフェンスを基本としているからといって、マンマーク的要素が全くないというわけではありません。逆もまた然りです。

昨年までマンツーマン寄りでしたが、例えばマークしていた選手が逆サイドに流れた時にそこまでついていくか、というとそうではありません。ゾーンディフェンスでも1vs1の局面が発生する場面は試合中や局面で存在しますし、特定の1人だけマンマークで対応したり、状況に応じて人について行くという場合もあります。

しかし、理解しなければいけないのは、2020年の浦和はこれまでの馴染みのある守り方とは別のベクトルで挑戦をしているということです。基本的な方向性としてゾーンディフェンスを標榜しているのに、これまで同様にマンツーマンの感覚で守備を批評することは見当外れになるでしょう。

次項ではゾーンディフェンスの視点で浦和を観るために、具体的にどこの見方を変えれば良いのか、例を挙げていきます。

4. 2020年浦和における「ハードワーク」の意味を理解する

「ハードワーク」と聞くと何を思い浮かべますか?

攻撃的なポジションの選手が、相手のオーバーラップについて行き、自陣深くまで戻って守備をする。数的不利でも相手のパス回しにも全力で食らいつき、時にはGKまでプレスをかけていく。

埼スタでもこのような動きを見せた選手は大きく拍手を受ける傾向にあると思います。マンツーマンを基本としてきた浦和にとっては当然評価されるプレーですし、頑張りがわかりやすく見えるのでごく自然なことです。

ただし、今年の浦和を観るうえでは少し見方を変える必要があります。「ハードワーク」というキーワードで解説していきます。

正しいポジションを取ることがハードワーク

本書では、ゾーンディフェンスにおける「ハードワーク」の定義を、「正しいポジションを取り続けること」としています。

(1)で解説したように、ゾーンディフェンスの原則となるのは「味方を基準にポジションを取る」こと。鎖にように前後左右の味方と繋がることで、数的優位を維持し、それを活かしながら守備をする方法でした。

裏を返せば、味方との距離感や位置関係が崩れている、つまり正しいポジションを取ることができていない箇所が発生していると、カバーしあう関係性が崩れてしまいます。

これではゾーンディフェンスの特性を発揮することができず、効果を十分に発揮できません。そのため、「正しいポジションを取り続ける」ために運動量を増やすことが、ゾーンディフェンスにおける「ハードワーク」となるわけです。

目前の相手に絶対にやられないようにタイトにマークしたり、対面の選手の運動量に負けないように食らいついて行くーーーこういったプレーは今季の浦和でどう評価するべきプレーなのか、本当に評価するべきはどういうプレーなのかを我々サポーターもしっかり考える必要があると思います。

余談ですが、開幕前に柴戸がキーマンになるのではと思ったのも、この「ハードワーク」を実行できる選手だからと考えたからです。

5. 2020年型浦和を観るための着目ポイント

最後に、今回学んだことを活かして、試合を見る際にどう評価していくかをまとめていきたいと思います。

たとえばカウンターが発動して「守備がうまくいったな」、失点やピンチで「守備がダメだったな」と感じた時。なんとなく関わった選手だけの良し悪しで考えるのではなく、ゾーンディフェンスの原則からの視点を持ち、どうしてこうなったの?を考えるために着目するポイントを明確にしておきましょう。今回は3つのポイントを整理しました。

1. ファーストディフェンダーの質はどうだったか

守備はボールに一番近い選手から始まります。ゾーンディフェンスでは「サイド(orボールを奪いたい場所)に誘導すること」がファーストディフェンダーの役目でした。

ですので、まずは第1ライン、殆どの場合はFWがどう振る舞っているかを確認し、どこに追い込もうとしているか、それを実現できていたのかを見ます。

本書でも繰り返し、失点やピンチを振り返る時は必ず第1ライン、FWがどうだったかを見ることから始めると書かれています。

2. どのようにラインを越されたか / 越されなかったか

ファーストディフェンダーを起点として後ろのポジションが決まっていくゾーンディフェンスにおいて、ボールを奪う/奪えないはこちらの意図通りに数的優位エリアにボールを運ばせているかが重要になります。

例えばFWの間から中央に通された時、サイドに誘導したかったのにFW間を通されて第1ラインを越されているのか、中央でボールを奪いたいからサイドを封鎖して中央に通させているのかを読み取りましょう。

特に失点時は第1ラインから第3ラインまで、どのようにラインを越されてゴールまで持っていかれたのかを確認すると、原因や改善点が見えてくるはずです。

3. チャレンジした選手の周辺は正しいポジションを取れていたか

そして、いざボール奪取を試みた時、そのチャレンジをした選手の周りがどうだったかを確認しましょう。

1人で奪い切ってしまえばその瞬間は問題ないのですが、チャレンジが失敗した時、成功したと思えた瞬間に運悪くボールがこぼれた時にどうなるでしょうか。

鎖のように前後左右の味方と繋がり、数的優位を確保してボールを奪うのがゾーンディフェンスの原則。周りが正しいポジションを取って数的優位を確保していることでボールホルダーから選択肢を奪っているのか、チャレンジする選手をカバーする関係性を周りの選手が構築できているのかを見てみます。

これらを確認することで、ボールが奪えた/奪えなかった、が偶然なのか必然なのかを評価することができます。

おわりに

4-4-2ゾーンディフェンスについて解説していきましたが、いかがだったでしょうか。今季の浦和を見て、考えて議論する助けになれば幸いです。

感想や意見、質問は大歓迎なので、ぜひ下記Twitterのリプライや引用RTでお聞かせください。匿名の場合はこちらまで。

本書はもっと多くのことがわかりやすく書かれていて、例えばゾーンディフェンスの特性がカウンターに繋がる利点や、今季の失点パターンであるクロスにどう対応するべきか、コーナーキックのゾーン守備など、今回は端折った興味深い事柄もありますので是非読んでみてください。

3年計画が始まった2020年の浦和。我々サポーターもクラブやチームが向いている方向を理解して、向き合っていきましょう。

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