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【レビュー】新たな壁 - 2020 J1 第25節 大分トリニータ vs 浦和レッズ

浦和レッズサポーター間での戦術的な議論活性化のきっかけを目指す、浦和レッズ戦術分析、マッチレビュー。試合後1~3日後にアップされます。今回も読んで頂けること、Twitterで感想・意見をシェアして頂けること、感謝です。ありがとうございます。

この記事でわかること

・対策 - 大分の非対称変形プレス
・入口 - 見つからない経路
・果敢 - リスクと思想、天秤にかける前ズレ
・特徴 - 2トップ交代で活かした"強引さ"
・現れた壁、兆しはある

はじめに

強敵・C大阪に快勝して波に乗る浦和はここからアウェイ4連戦。初戦の相手は片野坂監督の特徴的なサッカーを展開する大分となりました。

スタメンは前節の継続。宇賀神が出場停止から戻ってきましたが、引き続き山中が名を連ねました。

結果はスコアレスドロー。大分の対策に手を焼き、最近の躍動感も鳴りを潜めて決め手を欠く展開になりました。前節のレビューで久しぶりに4-4-2ではない相手となるので、どうなるか、ということを書きましたがまたひとつ、壁が見えたかなという試合でした。

大分の対策とそれに対する浦和の反応、それでも少なくとも可能性を見せた別の方法を中心に振り返っていきます。

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変形の大分、塞がれた入り口

調子が上向いてきた浦和は、スムーズな局面の循環とそれに伴って発生するトランジションで強度を見せて直近の内容と結果を得てきました。これに対して、2週間近く試合間隔が空いた大分は、浦和の保持を窮屈にさせる対策をとることで、浦和の強みである、相手陣内深くでのトランジションの連続に繋げる流れを分断してきました。

具体的には、5-4-1(5-2-3)をコンパクトに保つこと、そこからの浦和バックラインへの変形プレス、5バックを活かした前向きな迎撃守備。特に前半は、浦和の立ち位置の狭さやリアクションがうまくいかなかったこともあり、窮屈な試合運びを強いられました。

また、実際に数回そうなったように、大分にとっては浦和の前線に前向きにボールを持たれると最終ラインが守りきれないという力量差を隠すためでもあったと思います。

表記上や最初の立ち位置としては5-4-1と表現できるかもしれませんが、大分は右シャドーの三平が1トップの知念と同等の高さに並んで対面の槙野をケアする左右非対称な変則的な形。

浦和の保持攻撃が左を起点とし、槙野から良質なフィードや降りてくる興梠を経由してチャンスクリエイトする形が多いことを十分にケアしてきましたし、左シャドーの高澤は突破力のあるマルちゃんを封じるために、低めの位置までケアすることを厭わない役割でした。

また、浦和としては三平が出てくるならそのスペースを使う、というのが原則としてあると思いますが、大分はこのスペースに入る汰木や2トップに対してCB岩田を中心に前にスライド。5バックであるがゆえに、最終ラインから1枚大きくポジションから離してもまだ3~4枚残すことができるという利点を活かしたカバーでした。

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相手の最前線の背後に潜りたい浦和のボランチに対しては羽田を中心にボランチが強烈にケア。最終ラインを高く保ち、浦和の保持起点に対して前向きに圧縮することでスムーズな局面移行を阻害。浦和が狙いたい高い位置でのトランジションの発生回数はかなり抑えられた前半だったと思います。

とはいえ、距離が近すぎた浦和の立ち位置にも多少の問題はありました。試合後の会見で大槻監督が発言していたように、相手の立ち位置を見て空いている場所を取って進んでいく、という浦和の保持が表現できなった側面もありました。

直近では4-4-2の相手が続いており、2トップの脇や2トップの間、相手SHが出てきたらボランチ横にFWが降りて経由するなど、ある程度、同じような経路で戦えていました。

しかし今節の大分は、知念の1トップでありながら三平が上がり気味で2トップになったり、シャドー両方を出して3枚になったりと、相手の第一ラインの変化が激しく、それを見てどこから進んでいくかという「入り口」を見つけるという点で、うまくアジャストできなかったという面はあったのではないでしょうか。

大槻監督 試合後会見 抜粋
(1週間の準備期間があった中で、3バックの相手との対戦は久しぶりだったと思うが、ここがもう少しうまくはまっていけばよかったと感じたところはあるか?)
「どちらかというと攻撃のところで、ボールの動かし方とか、どこの入り口を使って入る、というところをもう少しやりたかったです。準備の段階では相手のメンバーも分かりませんし、どういう形でやってくるかも分からないので、どちらかというとゲームの中でアジャストしていくようなところが必要だったと思います。ハーフタイムとか、そういうところで少し修正できればいいなと思っていました。」

その中でも、10:45でピッチサイドの大槻監督からの指示を受けながらビルドアップした際は、相手から離れる立ち位置を取ることで相手が移動する距離を長くし、引き出したうえでその裏を取るというシーンがありました。

バックラインと同列に降り気味だった長澤の立ち位置をFWの背後に固定することで相手のボランチに影響を与え、空けた横のスペースで武藤がボールを受けることに成功。

また、内外レーンを交差するという原則とは違う立ち位置ですが、山中と汰木が大外に並ぶことでWBの松本を引き出したうえで、ボランチ横に迎撃に出る岩田を前に出させない効力もありました。

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その後が繋がりませんでしたが、ボランチ横を立ち位置で空けて取るという意味では、原則通り表現できたシーンだったのではないかと思います。

しかし、その後の継続性では乏しく、近い距離感でボールを動かすことが多くなり、直近の試合でも見られた相手を背走させて深い位置にボールを置く裏への長いボールも少なくて窮屈になってしまいました。

保持でクリーンに前に運んでいくことは目指していることですが、直近の試合でどうやってチャンスを作っていたっけ?と考えると、相手陣内深くでトランジションを連続発生させていたわけなので、その点を考慮すると大分の狭く前向きな守備に付き合ってしまった面もあったと思います。

大分の3バック維持と浦和の天秤

一方、大分の保持、浦和の非保持ですが、前回対戦とは少し異なりました。大分は可変したCBをGKと同列まで下げて後方から繋いでいくという姿勢は前回ほど見せず、4-1-5への可変というよりは3バックを維持して浦和のSHを引き出し、それに合わせてWBでSBを引き出して裏を取ったり、逆サイドの大外を取るような狙い。

前回対戦時はハーフウェイあたりでボールの奪い合いが発生していましたが、今回はその箇所をなるべく前にすることで自ゴールがら遠くしていた印象です。練度が上がってきた浦和の非保持とトランジションを警戒してのことかもしれません。

浦和も、これに対して自重せず縦ズレ上等のプレス。結果として、特に岩田を中心にリスクとして許容している場所を使われ、逆サイドの大外やSBの裏を取られる回数も少なくなかったです。

ただし、これも前回同様、CBの質で上回っていたのでさほど決定機には繋がらなかったですし、最後は西川が守り切りました。

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使われがちなSBの裏を放置してでも前に出るのかという点では、主体的な非保持からトランジションへ繋げるという攻撃に重心を置いている思想・コンセプトなので、そことのトレードオフ、CBに大きなスペースを守ってもらうリスクを取り、なるべく前にズレて嵌め込んで攻撃に移行するための選択だったと思います。

前半は大分がしっかりと準備してきた非保持に浦和の保持は苦戦し、その結果、トランジション局面への良質な移行が叶わずに大分ペースで試合が推移しました。

それでも17:00や38:40のカウンターや、26:20のように前線が多少のスペースと時間を得て、大分の個々と質で勝負するような状態を相手陣内深くで作ればゴールまで迫れるよ、という怖さは見せられていたと思います。

後半の変化と交代2トップの強引さ

ハーフタイムを経て、浦和は保持を修正。山中の立ち位置の変更と、長いボールを意識的に増やしていったと思います。

開始直後の46:30では山中が低めの位置で目一杯幅を取ることで相手から離れたり、そこから最終ラインと勝負する前線にボールを入れようとする姿勢は見られましたし、相手を後ろ向きに走らせる長いボールも増えました。

その結果、前半に比べて大分の中盤でコンパクトに閉じ込める守備を回避して相手陣内でプレーすることは増えたと思います。それでも、最後のPA内は5-4-1を活かした人海戦術の大分。クロスやマルちゃんのドリブルを仕掛けてもなかなか決定的なチャンスは作れませんでした。

非保持についても、66:45のようにSHとSBの縦へのスライドをより早くすることで裏へ蹴る余裕をなくし、苦し紛れのロングボールを回収する修正も読み取れました。

大分にそれを逆手に中央を経由されて前進を許す場面もありましたが、前半よりは良い状態と高い位置での回収が増えたと思いますし、その流れのトランジションから前線が前を向くと、シュートまでは繋がるようにもなりました。しかし、これも同様に最後は人海戦術で人で埋め尽くす大分のゴール前を割ることはできず。

試合の主導権を多少取り戻したものの、決定機を欠く浦和は67:00に2トップをレオナルドと健勇に変更し、別の観点からこじ開けようとします。

結果として、この交代で浦和はより前線にオープンな形でボールを持たせるような展開が増えたと思います。健勇のハイボールや背負っている状態でもボールを収められる特徴を利用し、低い位置から長めのボールを入れることで強制的に大分の中盤を越したり、起点を作ることで前後を分断し、最終ラインと対峙させることで前線の個の力を活かす土台を整えらたと思います。

83:00にはその流れで決定機。西川まで下げると大分の前線は追ってきますが、そこからのロングフィード。大分は試合を通して、最近の浦和の特徴であるレイオフを警戒して受け手の周辺をしっかり塞いでいましたが、健勇がひとりで収めきることで前進に成功します。

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ボールが渡ったレオナルド、スピードを上げるSHが前向きに大分の最終ラインと勝負する状況が整うと、マルちゃんの決定的なシュートまで繋がりました。最近はスプリントを繰り返しても最後までその脚を残していたマルちゃんでしたが、76:00のポジティブ・トランジションも含め、今節は少し体力的に限界がきていたようでした。

87:50では、1on1の球際で3人連続ひっくり返されるという失点確実な頭を抱える流れでしたがクロスバーに助けられ、最終的には勝ち点1を持ち帰る結果となりました。

まとめ - もうひとつの壁

久しぶりの3バック・5バックのチームが相手となった今節。4-4-2を相手にひとつ壁を越えたと思わせる内容を見せていた浦和は、ここで新たな壁にぶち当たった印象の試合でした。

変形する前線、最終ラインの枚数を担保にした前向きな守備、根本的に人が多いのでなかなかスペースが空かない相手に対し、バックラインの立ち位置やどの場所を取るかという点でアジャストしきれなかったのが今節だったと思います。

それでも、何もできなかったわけではなく、ここ最近の浦和を押し上げた2トップとは違う特徴を持った健勇やレオナルドがその個性を活かし、それほど場所が空かなくても、ある程度は強引に前に進んで前線の個の力を活かせるよ、という片鱗は見せられていたと思います。

前回対戦でも、コンパクトな陣形を保って圧縮していながらもレオ・興梠コンビに強引にねじ伏せられた大分の最終ラインを考えると、交代はもう少し早くても良かったかなとは感じました。

ここ最近の好調の影に隠れるような形になっていたふたりですが、彼らには彼らなりの特徴があり、別の方法で得点を奪え得るという可能性を少なくとも見せられたという事実は、チームとしての厚みと幅、プランAがワークしなくても、別の方向から確率のある勝負を挑めるという、もうひとつのステップアップをする土壌があることは示せたのではと思います。

また、相手の対策や構造が嵌って劣勢の展開を強いられても失点をせず、最終的に無失点で終えられたことはポジティブですし、このような展開で失点しては閉塞感漂ったまま敗戦していた以前と比べても印象はかなり違うのではないでしょうか。

次節も大分同様に3バック・5バックの広島が相手です。前回対戦では大敗後の一戦とあって、ひたすらに自陣に張り付けになりながら勝ち点3を得ました。

中2日しかありませんし、フォーメーションは同じと言えど大分とはまた違った相手となりますが、同じように空く場所がないという構造に直面したとしても、壁を越えるような試合を期待したいと思います。

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