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【レビュー】 詰めの甘さが招いた結果 - 2020 J1 第17節 浦和レッズ vs 川崎フロンターレ

浦和レッズサポーター間での戦術的な議論活性化のきっかけを目指す、浦和レッズ戦術分析、マッチレビュー。試合後1~3日後にアップされます。今回も読んで頂けること、Twitterで感想・意見をシェアして頂けること、感謝です。ありがとうございます。

この記事でわかること

・前半の「意外とやれそう」の正体
・事前準備の成果 - 的確に突いた川崎の空白
・失点分析 - ブロック形成への詰めの甘さ
・交代策 - 裏目に出た2枚替え

はじめに

前半戦最後の相手となったのは圧倒的な得点力で首位を走る川崎。これまで多くのチームが川崎に挑み、複数得点を奪われ散ってきたわけですが、2020年の折り返しとなる今節、なんだかこういう相手には勝ちそうな浦和が挑みました。

メンバーは柏木がスタメンに名を連ねるサプライズ。川崎の攻撃を受けて、強みを消して勝ちに行くのではなく、こちらもある程度ボールを握ったり、自陣でボールを奪ってもクリア一辺倒ではなく、しっかり繋いでカウンターに移行するという意思が感じられるメンバーでした。

浦和はうまく試合に入れたと思います。狙いを表現しつつ、ゴールへの雰囲気も感じられましたが、エアポケットが生じたような守備で失点をすると、同様の原因で2失点。

交代策も裏目に出た後半は、より川崎に主導権を握られて最後は3失点目を喫しました。「もしかしたらやれるのでは?」と期待を抱いた前半でしたが、終わってみれば大敗。

その要因や理由を理解するため、浦和の狙いと表現できたこと、失点に繋がった原因について振り返っていきます。

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ハイプレスを逆手にとったスペース攻撃

試合開始から浦和はスタメンの狙い通り、ボールを持つ事を諦めるのではなく、ある程度ボールを持って、構造上空くことの多いスペースをアタックする意思を見せました。

川崎のボール非保持はハイプレスが中心。IHの脇坂を1列目に上げ、WGの家長と齋藤学も高い位置を取る4-2-4の形が基本。また、ボールロスト後のネガティブトランジション、つまり浦和の奪取後のポジティブトランジションでは即時奪回を目指すため、ボールサイドに密集する傾向もありました。

この構造上、空くスペースというのが、アンカー守田の周辺のスペース。その中でも浦和の左サイド側は、脇坂が上がるサイドかつ家長のプレスバックが遅いこともあり、関根が守田の横に立ち位置を取ってこのスペースをアタックする狙いが見えました。

このスペースを効果的に使うため、浦和は川崎の陣形を縦に長くするためにハイプレスをあえて引き出します。

バックラインからひとつずつ外して前進する事が狙いではないので、無闇に人数は割きませんがバックラインとボランチ、必要最低限の人数でボールを繋いだり、GK西川まで下げることで川崎の前線を引き出し、守田の横のスペースを顕在化。

バックラインの押し上げに対しても、健勇をジェジェウではなく谷口とマッチアップさせることでロングボールの優位を取り、関根に前を向いて守田の横のスペースをアタックさせるよう組み立てました。

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狙うスペースをより顕在化させるために、ハイプレスを誘発させ、健勇の高さ、西川のキックや右サイドのオンザボールの質でボールを前に運び、その展開を逆算した立ち位置をSHが取る。この狙いは試合序盤から再現性高く表現でき、3分、5分50秒、14分などのシーンで確認できます。

右サイドの功罪

今節スタメン起用された柏木、そしてSBに入るデン、柴戸が右サイドにいることでオンザボールの質も安定。西川に下げる前述のパターンと、右で川崎を密集させることで守田の横を空ける組み立ても見られ、3分20秒ではその流れから山中のスプリントを活かしてゴールまであと一歩まで迫りましたし、33分30秒ではデン、柴戸、エヴェルトン、柏木とボールを扱える選手たちで密集からの脱出を行っています。

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しかし、ボールを持っていない時、非保持については強度不足の弊害が顕在化する場面も見られました。

川崎がボールを持っている時は無闇に前からいかず、ミドルゾーンで4-4-2のブロックを組んだ浦和。正しい立ち位置と健勇の追い込みもあって、中央を通さずに迂回させる守備が序盤はできていました。

オンザボールの質が上がる一方、守備面での強度不足が懸案される右サイドでは、長い距離のスライドが必要な場面は柏木が大外まで下がっていくのではなく、デンが対応。柏木は内側のカバーを担当する事で弱点を覆い隠していました。

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それでも、そのリスクが顕在化することはあり、15分には齋藤にボールが入ってデンが縦を切って対応しますが、柏木が中への進入を防ぐサポートを行う事ができず、最後は柴戸にしわ寄せが来てイエローカード。

デンとの役割分担で蓋をする場面も多くありましたが、後半へと時間が進むにつれて、柏木があまりサポートとして機能していない場面も散見され、鳥栖戦同様に柏木をSHで使うことの功罪はこの試合でも見て取れました。

失点 - 詰めの甘さを見逃してくれない川崎

おそらく、事前にチームとして共有した狙いを表現して試合を進められていた前半でしたが、先にゴールを決めたのは川崎でした。

37分、狙い通りに川崎を縦に広げ、西川から健勇へのロングボールで前進しようとした場面。ボールが合わずに跳ね返され、川崎の大島にボールが渡り、そこに柏木がアタックしますがターンでかわされてしまいます。

問題はここからで、そこからの切り替えが非常に遅いことが失点に繋がります。大島によって右サイドに運ばれたボールに対してはエヴェルトンが対応、柴戸も順当に横のスペースを埋めて時間を稼ぎますが、その間にブロックに戻って欲しい関根と柏木は一向に戻ってきません。手薄となった左サイドを川崎にアタックされ、関根が気づいた瞬間には時既に遅し。

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一瞬のボールズラしで逆サイドへのパスコースを作った大島、スペースを認知してボールを受け、突っかけるドリブルで槙野を引き出した後に背後にランした脇坂、時を止めて魔法をかけた家長、難易度の高いボレーシュートを決め切った山根のクオリティが高かったことも事実ですが、ここまで4-4ブロックを組んで守れていたはずの浦和が、切り替えの遅さから4-2ブロックでの対応を自らに課し、川崎の攻撃に対峙した詰めの甘さが招いた失点でした。

確かに、このサッカーでSHに課されているタスクが重いことは事実です。しかし、4-4ブロックのうち複数人が、味方が時間を稼いでいるのにも関わらず正しい立ち位置を取ることを徹底できないのであれば、川崎などの上位チームに仕留められるのは必然と言えます。

49分の2失点目も同様に、関根が戻り切れていないスペースを脇坂に使われたことで押し込まれ、失点しました。直前の48分でカウンターチャンスを得て前がかりになりますが失敗。関根はその流れで逆サイドまで追いかけます。

その後の浦和は中盤が本来の配置ではない中、ふらふらと連動性に欠けるハイプレスをかけ始めます。当然簡単にかわされて撤退を余儀なくされました。

とはいえ、その後、スピーディーにスペースを使われたわけではなくブロックを再構築する時間は十分にありました。しかし、関根が戻り切れずに脇坂にスペースを使われます。

中央を経由してサイドを変えられたため、家長に山中がカバーなしの1on1で対峙。脇坂にボールを持たれた時点で組織もPA内に撤退せざるを得ず、僅かなズレでも失点に直結する場面となり、案の定、小林悠の駆け引きひとつで追加点を許しました。

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直前のプレーで広範囲にスプリントしていたというエクスキューズはありますが、関根はしっかりブロックに戻る必要がありましたし、少なくとも代わりに対応していた健勇に引き続きSHの位置に入ってもらうよう指示するべきでした。

エヴェルトンの横に人がしっかりいれば、少なくとも脇坂にあのスペースを使われることはなく、ボールを迂回させられますし、前半そうしていたように家長に対して数的優位で守ることもできたはずです。

裏目に出た交代

2失点目から3分後、点が必要になった浦和は交代策。健勇→興梠、関根→マルちゃんという手を打ちますが、ここから非保持の質が大きく下がります。健勇ほどの規制や誘導を行えないレオ・興梠コンビ、マルちゃんの不思議な立ち位置によって、川崎に左サイドをいいように使われ始めます。

背後を消したり、味方との位置を共有できないマルちゃん(ご愛嬌)。エヴェルトンとの間を脇坂や田中に出入りされ、このスペースにパスがどんどん入ります。組織の内側でボールを出し入れされて起点を作られると収縮と拡大を繰り返さなければならないため、ボールへのアプローチで後手を踏みます。

また、大外に山中が対応に出た場合は内側のスペースをカバーするはずですが、この日のマルちゃんは気分が乗っていなかったのかもしれませんが、あまりカバーをすることはありませんでした。

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その結果、槙野が引き出されたり、エヴェルトンや後に交代で入った長澤がカバーを行い、その影響で空くボランチのスペースを使われる場面が散見されました。

点を取るための交代のはずが、良い形でボールを奪う事が徐々にできなくなることで、そもそもスムーズに攻撃に移行する事ができなくなっていきました。

また、元来そういうプレイヤーではないので仕方がないのかもしれませんが、前半から狙っていた脇坂の横のスペースを取ったり、スペースを認知して立ち位置を修正するようなシーンはあまり見られませんでした。ストロングのスピードを活かして裏に走る場面が多かったですがロングボールも通らず、単発的な攻撃に終始しました。

66分では岩波から興梠に4~5人を置き去りにするパスが入りますが、ボランチ脇で受けたマルちゃんで止まってしまい、置き去りにしたはずの川崎の選手たちが戻ってしまいました。もう一歩か二歩、前で受けてSBに向けてドリブルしてくれたら、山中が大外でフリーになれた場面でした。

このように後半は失速してしまった浦和。最後は闇雲にボールにアタックするも川崎にかわされ、3失点目を喫して試合終了。終わってみれば0-3の敗戦となりました。

まとめ

首位をひた走る川崎相手に受けに回らず、こちらが主導権を握るという意思を感じた試合でしたし、力量差を考えれば前半は及第点の内容だったと思います。

しかし、C大阪戦と同様、詰めの甘さからゴールを許し、終わってみれば完敗という内容。シーズン前半戦を終え、浦和より順位が上のチームにはほぼ負けて、下のチームから勝ち点を積んでいる成績通りの試合となりました。

ただし、川崎といえど無敵ということはなかったし、付け入る隙も多分にありました。そこを突くための準備もしてきたし、その狙いを出せていた時間帯もあって、勝算が全くなかったというわけではありませんでした。それでもこの点差になるのは、完成度の違いと言えばそれまでかもしれませんが、「やれたかもしれない」と感じる、非常に悔しい内容でした。

今季から取り組んでいる、ゾーンディフェンスによる非保持、トランジションを利用しての素早い攻撃、空白になるスペースをアタックするために正しい立ち位置を取ることなど、積み上げてきたものを表現できる時間帯はこの試合でもあります。

やってきたこと、狙っていること、それらが感じられる場面がある一方で、細部まで徹底しきれずに失点してしまうのは今回が初めてではありません。

また、ある側面の表現度合いを強めるためのメンバー起用で別の大きいデメリットが生じてしまうのは、編成上の問題でもあります。これは今シーズンのだけの問題ではなく、ミシャ以後の負債の問題です。

恐らく、このままだと中位でシーズンを終えることになります。ACL出場権獲得に向けて、恐らく一番早い解決方法は補強かと思いますが、そのためには枠の問題上、放出しなければならず、それが難しいことが強化部から示唆されています。またコロナ禍の影響で約10億円の赤字が見込まれ、一部では内部留保が全て飛ぶと報道されている今季の浦和が、大きく補強できるかどうかはかなり微妙だと思います。

全チームとの対戦を終えた印象としては、細部までの完成度は低いが大枠での表現はできる試合が増えてきているのではないでしょうか。ただし、その細部の差で上位チームから勝ち点を拾うことができない。前半戦の順位も実力通りかと思いますので、上に行くためには現有メンバーの原則の徹底による底上げが不可欠です。

ここから中2日でアウェイ清水、そこからまた中2日でホーム横浜FC戦、その後も中3日で2戦と非常に厳しい日程で試合がやってきます。メンバーの入れ替えは必須ですが、大枠の原則が変わらず表現されることを期待したいと思います。

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