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【レビュー】失ったコントロール - 2020 J1 第27節 横浜F・マリノス vs 浦和レッズ

浦和レッズサポーター間での戦術的な議論活性化のきっかけを目指す、浦和レッズ戦術分析、マッチレビュー。試合後1~3日後にアップされます。今回も読んで頂けること、Twitterで感想・意見をシェアして頂けること、感謝です。ありがとうございます。

・挑戦 - 王者への挑戦、その意欲
・喪失 - 失ったコントロール、プラン
・瓦解 - 前と後ろの分断、理性と一体を失ったチーム
・受容 - 不利は承知でも受け入れたオープン展開
・自信と気概、裏腹に失ったコントロール

はじめに 

好調を維持しながら、3バックとの連戦で手詰まり感も残した浦和。連戦続きの厳しい日程をこなしてきた今季でしたが、久しぶりに2週間近くインターバルが空いての試合となりました。

選手全員が練習に参加することができたという中、選ばれた布陣はやはり直近で結果と内容を得ているメンバーでした。

十分な回復と準備ができたはずの試合でしたが、結果はまさかの大敗。開始直後から連続的に失点を重ねるとコントロールを失い、最終的には2-6の大敗を喫しました。

開始直後から何が起きていたのかを中心に振り返っていきます。

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理想が壊れた開始15分

自分たちのやり方に一定の自信をつけてきた浦和は、昨年のチャンピオンチームに対して正面から、自分たちの理想の武器でぶつかろうとしました。主体的な守備から始め、押し込まれ続けることを許容するのではなく中盤や前線でボールを奪い、素早いカウンターで仕留める。

相手をリスペクトしすぎず、自分たちの積み上げで凌駕することができるか、という挑戦だったと思います。準備期間も十分にあったこと、柏戦から仙台戦、セレッソ大阪戦を経て手にしてきた自信。主体的な守備、局面の循環で発生させるトランジションでの強度、もとから目指してきたスタイルでゲームをコントロールするという意欲があったと思います。

後述しますが、そのためのプランも用意していたはずで、その具体的な一端も試合後の会見で明かされています。しかし、その意欲やプランが十分に現象として現れ、観測できる前にゲームは壊れてしまいます。

わずか開始2分に失点。きっかけは横浜FMのゴールキックからでした。素早くリスタートを行う横浜FMに対し、浦和は後手を踏みます。前から嵌めに行くことはプランの一部だったと思いますが、完全に配置に就く前にプレーがスタート。

興梠の規制が間に合わずにCBから背後を使われ、降りるオナイウで前進、目一杯幅を取った水沼から中央へフリックされると、前向きにスピードを乗せると特徴を発揮するジュニオール・サントスと、そういうシーンに弱い岩波の1on1になってしまいました。

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リトリートではなく、ミドルラインから前で主体的に守る。そのために縦のコンパクトネスを維持して、後ろが前を押し上げる、前が後ろを押し上げるという狙いがあったのは会見などでも伝わってきます。

「連続失点はメンタルの問題」という話は聞きますが、開始直後、前から嵌めにいったところを綺麗に裏返されたこの失点で、少なからずチームに動揺があり、その後の振る舞いを難しくしてしまいました。

大槻監督 試合後会見 抜粋
 ゲームプランとしては、ボランチのところで1枚、センターバックとVを作るところを2トップで規制して、真ん中のところを締めながら、相手が縦目のトップになっているところにきちんと規制をかけて、というプランで臨みました。相手のサイドバックが浦和のボランチとサイドMFの間のエリアを使おうとするところを、縦のコンパクトでしっかりと寄せるところを作りたかったのですが、最初の失点のところで、センターバックがワントップに剥がされて失点したことで、少し後ろに体重がかかってしまいました。
 1点を取られたことで、前は少し前に行きたいということで間が空いて、そこでラインを上げようという形で、試合中も言いましたし、自分たちも常に言っていました。そこが普段だったらスッと入れるところが、今日の試合の重要さを彼ら自身が感じているところで、メンタルのコントロールが『もう少し前に行きたい、ここで早く取り返そう』というところを含めていったところでトントンといってしまいました。我々としてはもう少しオーガナイズをとった形で進めたかったというのはあります。

それでも失点直後の浦和は、保持やカウンターである程度はチャンスクリエイト。異様なほどのハイラインと横の狭さを維持して前からくる横浜FMに対し、ボランチ周りで降りる興梠で後方の"発射台"に時間とスペースを与え、マルちゃんを中心に大外最前線に張っているSHにボールを届ける形は4:20や5:25で表現。

また、8:30のように長澤の推進力、武藤の受ける・収める力、汰木のスプリントで自陣から素早く相手の裏を攻略するカウンターで最後はマルちゃんのクロスバー直撃ループシュート。たれ・ればですがここで同点に追いついていたらまた違った展開、もとのプランの遂行が見られたのかもしれません。

とはいえ、このカウンターも横浜FMの土俵であるオープンな展開でのもの。クロスバー直撃後もその流れでボランチが前がかりになりすぎる、少し無謀とも見えるハイプレスを行ってかわされると、広大なスペースが中盤にあるのでそのまま再び浦和ゴール前へ。このあたりが、先述の「メンタルのコントロールが『もう少し前に行きたい、ここで早く取り返そう』というところを含めていったところでトントンといってしまいました。」というコメントが指している事象なのではないでしょうか。

なんとかピンチを凌ぐもCKを獲得され、ここで2失点目を喫してしまいます。このような、ゴール前を行ったり来たりするいわゆる「オープンな展開」は横浜FMが意図的に目指している形で、そこで力を発揮する選手たちが前線に名を連ねています。

浦和も局面の循環を早くし、トランジションを発生させてそこの強度で試合を支配する、という志向ですが、あくまでそれは自分たちでコントロールした主体的な循環によるもの。両チームとも広大なスペースを残したり、次の局面への準備よりも先に早く、そして速くボールを前に送ることで両方のゴール前での攻防が交互に頻発する展開は主体性・コントロール権を失うので目指していることではありません。(オープン展開はスタジアムが盛り上がる傾向はありますが。)

事実、これを防ぎたかったということは試合後会見で明かされていて、「主体的な守備、トランジションで王者を上回る」という気概と、それとは裏腹に喫した開始直後の失点でメンタル的なコントロールができずにこのような展開になってしまったのだと思います。

大槻監督 試合後会見 抜粋
今日の中でも走力という部分で走った距離を見ますと、F・マリノスはクイックリスタートからを含めてオープンを作るすべを持っているので、それをさせないようなことをやりたかったのですが、最初の1点目から我々が少しメンタル的なコントロールを失ってそれが難しくなったという印象があります。

失点シーンに話を戻すと、ここでもセットプレーのクイックリスタートからでした。獲得したコーナーキックを素早くショートコーナーで再開した横浜FM。大外でWGが持つと、SBがハーフレーンで槙野を引きつけたうえでクロス。

前回対戦時の浦和は、SBが引き出された場合はボランチがハーフレーンに入ってカバーする仕組みでした。相当な運動量を課された柴戸と青木がこのタスクを完遂しましたが、今回は当時とは状況が違います。

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カウンターの一手目となる2トップの落としを推進力のあるボランチがサポートして前を向き、スピードのあるSHが一気に参加してカウンターを実現する、最近の浦和を支えていたポジティブ・トランジションへのパワーを出すトレードオフとして、このやり方は既に採用しておらず、SBが引き出された場合はCBがカバーに出ています。このやり方で直近の内容も結果も得てきました。

しかし、今回はそれが裏目に。ショートコーナーの流れから水沼が大外でボールを持つと、宇賀神が対応に出ます。ハーフレーンに侵入した小池には槙野がカバーに出ますが、結果としてエリア内が2人になってしまい、数的不利で被弾。

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水沼にボールが渡る前の対応やメンタル的なコントロールを失っていた点などを考慮すると、この構造自体がワークしなかったのか、横浜FM用にチューニングした内容を出せなかったのか、という点などの検証ができず、狙いと結果が断言できませんが、いずれにしろ痛い2失点目を喫しました。

続く12:45はフリーキックのクイックリスタートから失点。1失点目同様、前線の配置や規制が始まっていない状態でプレーが再開します。その状態でSBに出て行った汰木と長澤の間に大きなパスコースが空き、締めたいはずの中央からジュニオール・サントスに起点を作られると、もはやバラバラの最終ラインをつかれて3失点目。

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開始直後、そして連続的な失点で明らかに理性を失ったチームは、前から前から、で先に動いて捕まえに行く前線と、押し上げられない最終ラインとで分断して瓦解し、試合前のプランは意味を成さなくなりました。

許容せざるを得なかったオープン展開

横浜FMの土俵である「オープン展開」を防ぎながら、非保持で前に追い込んだり、主体的に局面を回して王者を上回る算段を立てていた浦和ですが、プランは既に瓦解。0-3、1-4で迎えた飲水、ハーフタイムではもとのプランには戻さず(遂行しようとせず)オープン展開を許容します。

大槻監督は主体性を持って試合を支配する志向を持っており、これまでもそれを目指してチームを構築しています。一方で、ゴール前での攻防が多くなり、スコアが動きやすいオープン展開を点が必要な時に限って手段として許容することはこれまでも一貫してありましたし、そのことは柏戦や鳥栖戦の試合後会見でも発信されていて、今回もそのような展開を許容しました。

大槻監督 試合後会見 抜粋
F・マリノスさんはやはりオープンなゲームを好むというか、彼らの良さが出るのはそういう展開なので、まずそういう展開にはしたくなかったです。0-1で進めば、もしくは百歩譲って1-3で進めばもう少し何かがあったかもしれないですけど、0-3になり、1-4になり、3点差になった時点で、3点差のまま僕らがオーガナイズを取り続けて何かを起こせるか起こせないかというところよりは、少しオープンなところを許容して、スペースを作り出してやっていくという選択肢をとりました。

通常、サッカーという競技の特性上、普通に試合をやって3点差をどうこうすることは容易ではありません。0-3、1-4の状況でもまだ諦めずに追いつくための手法として、横浜FMの土俵であることは認識しつつもオープンな展開を許容しました。その結果として生まれたのが4失点目であり、後半に西川が何度もシュートを弾き返したシーンです。その代わり、興梠の複数回の決定機やマルちゃんのゴールのようなチャンスも生まれたということです。

横浜FMのゴール前まで素早く迫り、ネガティブ・トランジションで半ば突撃のようなハイプレス。当然、中盤には広大なスペースが空き、バックラインの押し上げは叶わないのでボールはゴール前からゴール前へ。中盤の運動量はさらに増大したので後半の青木投入はそういった側面もあったでしょう。

余談ですが、このような試合展開になった時にどう振る舞うかは、その国の文化的な側面も影響するのではないかと思います。例えばイングランドでは、大量失点を喫すると反撃に出るよりはそれ以上の失点を防ぎ、プライドを守ろうとする傾向があります。

日本には「一矢報いる」という言葉があるように、圧倒的不利な状況、可能性がほぼ無いに等しく、大勢が変わる見込みがなくとも、その中で意地や意思・姿勢を見せることが美徳とされていますし、「最後まで諦めない」「どんな時も全力」が美しいことなので、このような選択になるのだと思います。

その結果、相手の土俵に乗りながらも槙野や西川でどうにかしつつ、レオナルドらを投入してオープンな打ち合いを演じました。横浜FMも大勢が決したからといってクローズドに、省エネで終える展開は志向しませんし、オープンな展開に乗りながら前線が力を発揮する試合となりました。この辺りは戦術的にはあまり語ることもないと思いますので、割愛します。

まとめ - 自信とコントロール、問題点の角度

前回対戦ではリトリート中心で、力量差を認めたうえで数少ない武器をもとに結果を目指した横浜FM戦。今節はそこからチームが成長し、表現できるようになってきた上積みと、直近で得てきた結果と内容をもとにつけた自信で王者を上回ってみせる、そんな自信と気概に溢れていたはずのチームでしたが、一瞬で瓦解してしまいました。

当然、相手は横浜FMですから、正面からぶつかれば今回のようになるリスクは孕んでいたと思いますし、監督やチームもそれを理解したうえでこの選択を採ったのだと思います。

そのリスクを考慮しながら実現可能性を試算し、目前の戦術的な選択だけではなく大局的な視点での理想の実現のために前に出るというのは、展開的に厳しいと思われた前節・広島戦の飲水タイムでも行われた選択で、この時はワークしました。(戦術的に特化した選択なら2019年と同じになる)

しかし、これだけ早くゲームが壊れると、そもそもやろうとしていたことが出ていたのか、通用したのか、ということ自体の検証が難しいのが正直なところです。

その前提のうえで、サポーターも様々に問題点を見ていると思いますが、見る角度によって指摘は変わってくると思います。

バックラインが晒されるリスクを背負っているのはこれまでと同じで、そこで負けてしまうような人選ではダメだということであればメンバーの入れ替えや補強が必要になってきますし、そもそもそのリスクが露呈しすぎたという視点で捉えるなら、十分に相手を規制できなかった構造や、自分たちがコントロールできなかった原因の改善が必要になるでしょう。

非保持で前から行く、先に動く時・行かない時の判断なのか、そもそも前から行くという意識が強すぎるのか、リトリートをもっと受け入れるべきなのか。保持での安定感や、試合の運び方、ハイテンポに乗らずにスピードダウンさせる時間がなかったことに問題があったのか。はたまたメンタル的な問題なのか。

チームが理想から逆算してどこを問題として捉え、修正を施すかは、次節以降の試合を分析する必要があります。

神戸戦はすぐやってきますが、3年計画や監督のそもそもの思想・志向、今季の流れを見ても、主体的な守備から前に出て行くことやトランジションの強度を発揮する方向性を示して結果を得たい、その内容を継続したいのは当然だと思います。

しかし、大敗した名古屋戦後の広島戦がそうであったように、チームは生き物でプレーしている選手は人間なので、戦術的な話やピッチ上の事象以外のことが関わってきます。次節・神戸戦はそのような要素も含めて検証しないといけないと思いますが、ようやく波に乗ってきたチームがここで立ち止まらないことを願います。

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