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【レビュー】勝敗の分水嶺- 2020 J1 第21節 サガン鳥栖 vs 浦和レッズ

浦和レッズサポーター間での戦術的な議論活性化のきっかけを目指す、浦和レッズ戦術分析、マッチレビュー。試合後1~3日後にアップされます。今回も読んで頂けること、Twitterで感想・意見をシェアして頂けること、感謝です。ありがとうございます。

この記事でわかること

・鳥栖の論理
・浦和の挑戦と許容リスク
・保持の取り組み - 幅の意識と個性の融合
・分かれ目- 結果を得たリスクテイク

はじめに

5連戦を1勝4敗、しかも負けは全てゴールレスというなかなかに厳しい結果で終えた浦和。その間、チームは練習時間が取れない中でも毎試合様々な課題と修正を経て、内容的にも物議を醸した連戦中盤から最後の試合、前節名古屋戦ではやや改善の兆しが見えた中、今節迎えるのは鳥栖戦。

前回対戦はわずか1ヶ月前で、2-2の打ち合いを演じました。

メンバーは、ボランチ・柏木がスタメンに。前節印象的な活躍をしたマルちゃんが引き続きスタメンに名を連ねました。柴戸がまたしてもベンチ外なのが気になるところです。

結果は最後の最後にゴールを奪って0-1の勝利。やっと結果につながりました。

今回は、鳥栖のビルドアップとそれに対峙する浦和、引き続き取り組んでいるボール保持、勝負の分かれ目になった4Qについて振り返っていきます。

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11人と10人

鳥栖はボール保持に強みを持つチームで、PA奥深くまで侵入してゴールの確率を最大限高めることを狙ってきます。また、最初のビルドアップの段階でGKの高丘を積極的に参加させることでFPを11人に増やして論理的に前進をしてきます。

浦和は2トップなので、鳥栖は状況に応じて高丘やボランチがCB間に出入りしたり、左SBの大畑が参加して常に数的優位を得られるよう配置を動かしてきました。CBは大きく開き、右SBを押し出して幅を取る。左はSBの大畑がビルドアップに参加するため、SHの小屋松が幅を取ることが多かったです。

これに対して浦和は、定例会見で言及されたように、なるべく前から嵌めようという姿勢を見せます。しかし、"11人"で前進してくる相手に空転する場面もありました。

本来なら、CBに対して2トップが背後を消しながら出ていきサイドに追い込みたいのですが、その間に+1が出入りします。その結果、浦和はSHが左右に開いたCBにプレスにいくことに。

鳥栖のボランチに対して浦和のボランチがケアしなければいけませんし、幅を取る森下や小屋松にSB、橋岡や宇賀神がマッチアップすることになります。こうなると、最終ラインは孤立気味になり、ハイプレスを外されて前進を許したり、高丘のロングフィードで一気にボールを送られると個の勝負に晒されるというリスクを背負うことになります。

それでも、前で奪って素早い攻撃へと繋げるために前がかりになることを選択し、後方のリスクを受け入れる。連戦前によく見られた形に再トライした試合でした。

6:00や7:00、37:30などはこの形で前進を許し、受け入れているリスクとどう付き合うか、という構造と対峙することになりましたが、ロペスや石井、中に入る樋口に対して槙野を中心に個人の力ではほぼ負けることはありませんでした。

また、9:40のように高丘が参加してロングフィードで前進され、橋岡の判断やマルちゃんの立ち位置もあって危ない局面を作られるようなシーンでも、鳥栖は最後のシュートを決めるという、選手の質に依存するフェーズでクオリティを出せず、浦和は決定的なピンチに陥ることはありませんでした。このあたりは、鳥栖の苦悩が垣間見れます。

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浦和のプレスが嵌る時は、徐々に追い込んで、2トップがCBに出れていた時が多かったと思います。13:00では武藤が松岡につくことで全体的に右側に圧縮し、鳥栖が幅取り役を置けていなかったこともあって奪取に成功しました。

また、構えてからのセット守備についても最終ラインが負けることはほとんどありませんでした。ただし、マルちゃんや柏木の立ち位置は怪しい場面があり、少し不安を感じましたが、攻撃へのトレードオフと天秤にかけての選手起用なので、ある程度仕方がないことかなと思います。

再徹底されている「幅」

ゴールに迫るという意味では前節から引き続き、ボール保持での取り組みも読み取れました。

今節でも、意識されていたことは「幅を取る」こと。SH、マルちゃんと関根がタッチラインを踏んでなるべく高い場所に立ち位置を取ることが多かったです。

最終ラインについては、鳥栖が2トップなのでいつも通りCB+1で優位を取ることからスタート。少し柏木のフリーロール感が強かった感もありますが、エヴェルトンや宇賀神も参加しました。鳥栖はこの"3"に対して、SHが前に出てくることが多かったです。

浦和の左サイドでは宇賀神が下がってビルドアップに参加することが多く、その際に関根が目一杯幅を取るシーンがよく見られました。

前に出てくる鳥栖のSHの背後で、関根が幅を取ると鳥栖のSBを引きつけることになり、鳥栖の最終ラインや中盤の横の距離を長くすることができます。そのことでできるボランチ横のスペースでFWが受けることや、質で上回ることのできるCBとのマッチアップを促すような狙いが見られました。

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また、26:45ではその関根を使って2トップ背後のエヴェルトンに落として前を向かせることで前進。試合が進むにつれて鳥栖のFWがプレスバックすることで同じパターンを消そうとしてきましたが、幅を取ることで相手組織を広げ、その結果として空いたスペースを効果的に使うことはできていました。

右サイドも基本的には大外にマルちゃんが張って、特長を活かしてもらう配置でしたが、状況に応じて橋岡が幅取り役になることもありました。

この辺りも前節からの継続で、状況に応じてSHとSBが内外レーンを使い分ける狙いをある程度表現できていたと思います。また、56:00のように橋岡が最終ラインからインナーラップしてSHに影響を与え、岩波→マルちゃんのパスコースを開通させる動きも前節に引き続き複数回見られました。

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ビルドアップから最終局面へどう繋げるか、という課題を前にして「幅」を取ることを再徹底している浦和。そのメリットで前進したり、個性を活かせるような場面が増えてきていると思います。

また、今節の浦和はロングボールに対する反応も良く、ゴールキックを中心に敵味方から長いボールが入った後の挙動は常に前を狙うもので、西川→橋岡で競り勝つと、一気に裏のスペースをアタックする場面が目立ちました。

鳥栖の論理的なアプローチで前進を許して最終ラインが晒される場面を作られつつも最終ラインが封鎖し、保持やロングボールからのトランジションでいくつか決定機になりそうなチャンスも作りましたが、両チームともゴールを奪うことはできず。概ねこのような構造で後半の飲水タイムまで時間が経過します。

リスクテイクした采配

後半の飲水タイム後、73分に鳥栖が選手交代。小屋松→金森、石井→本田のカードを切ると、鳥栖は左サイドから攻勢に出ます。

SBの大畑がより明確にビルドアップに参加するようになると、金森が目一杯幅を取り、林や本田が周辺のスペースを利用。73:50では大畑がボールを持つと金森が降りて橋岡を釣り出し、空いたスペースを本田と金森に攻略され、あわやのシーンを作られます。

続く76:00では、大畑が左足をケアしたマルちゃんの逆をついてカットイン。77:00では左足から同じようなパターンを狙うと、84:10にはまた大畑を起点に今度は絶妙なタイミングで幅を取った本田を経由して前進を許しました。

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この時間帯、浦和は逆サイドのSHを含めて前がかりになっており、エヴェルトンの運動量もピークにきていたはずで、ラインを越されると途中出場の長澤以外は戻ることができずに最終ラインが単独で守ような場面が連続しました。

ベンチに残されたカードを見てもこの展開に蓋をすることができる人材がいなかったこともあると思いますが、エヴェルトンや汰木を下り目に配置することや、大畑相手に手を焼いていたマルちゃんと汰木のサイドを換えることなどはせず。勝ち点0になるリスクを抱えながらも、あくまで勝ち点3を狙いにいった浦和。

そうして推移した試合はアディショナルタイムに突入。最終ラインの奮闘や、鳥栖の最後のクオリティにも助けられて時計の針が進むと最後にリターンが待ってました。

92:00、ゴールキックのロングボールから試合が再開し、セカンドボールが鳥栖にこぼれると、アタッキングサードまで侵入を許します。競り合いの時点でSHと柏木を含めた4人はほぼ前残り、エヴェルトンも申し訳程度で先述の最終ライン+長澤だけで守っているような状況でした。

PKを外していた林が力んだのかクロスをミスすると、長澤がクリア。ここから"前残り"のリスクを冒していた前線が真価を発揮。健勇のキープとパス、38回スプリントしていたマルちゃんの完璧なファーストタッチとラストパス。これが走り込んだ汰木へと繋がって、長らく見ていなかったゴールをついに挙げたのでした。

最後はマルちゃんの時間稼ぎもあり、0-1で試合終了。清水戦以来の勝ち点を得ることができました。

まとめ - 個性との融合

大槻監督と金監督の試合は毎回殴り合いの様相を呈してきましたが、今節は0-1。浦和としては久しぶりに得た1週間の試合間隔を利用して原点の底上げを図っていたのだと思います。

しかし、主体的に前から追い込み、カウンターに繋げたい非保持については鳥栖の論理的な前進を前に空転することも少なくなかったです。また、セット守備に関しても、マルちゃんや柏木を起用し、柴戸が不在である以上、そこそこ怪しさはありました。

とはいえ、今節は鳥栖の前線と浦和の最終ラインの質勝負でほぼ負けることがなく、そのリスクテイクも許容範囲だったと思います。また、本文中では言及しませんでしたが西川のPKストップも重要なターニングポイントでした。

ボール保持に関しては、「幅」を取っていることについてフォーカスしてきました。今節はトミーがいなかったことや、鳥栖のSHが積極的にプレスをかけてきたこともあり、後方で原則に沿ってそれぞれが立ち位置を取って「運ぶ」ことに関しては前節に比べて減少した印象。柏木のフリーロール感も強まった気がします。

それでも、SHになるべく高い位置で幅を取らせる流れは、その先で個性を発揮する頻度は上げているように思います。特にマルちゃんや関根は大外で1on1を用意してあげることが彼らの特長に合っていますし、汰木にとっても同様です。翻って長澤は中央での起用が増えそうな予感がします。

それでも必ずSHが大外を取る、というようにパターン化しているわけではなく、あくまでも内外レーンをサイドの選手で使い分けるという今季の積み上げの延長線上のように感じます。

そして最後は、運動量のピークを迎えていたこともあると思いますが、オープン展開を誘発し、そこで真価を発揮するタレントがきっちり仕事をすることでついに勝利を得ました。

次節はホームで4失点した柏戦。この頃は最終ラインで優位をとり、SHをMF背後の中央に配置して縦パスを刺すチャレンジをしていた浦和。今回はそこから紆余曲折を経て「幅」を再意識し始めた中での試合になります。また、失点まではハイプレスがしっかりと嵌っていました。前回対戦との対比も含めながら観戦するとより現在地がわかるのではないでしょうか。

(手前味噌ですが前回のレビューを貼っておきます)

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