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わたしがヒーローだったらな


なんでこんなことになっちゃったんだろう。

大晦日は、紅白からのEテレを観ながら夫と年越して、干支ソング聴いて、寝た。

元旦は朝から夫がお雑煮つくってくれて、わたしも久しぶりにパンを焼いた。辰年だからって辰パン。中身はあんこと角煮の2種類つくって、ほかほかのパン頬張りながら、今年の抱負どうする?ってゆるゆると話した。


午後からはミスドをかけて夫とスマブラして、一勝ニ敗で負けた。
その後、父親が迎えにきてくれて、実家に行った。両親にお年玉を渡して、うさぎのアルルにはニンジンをあげた。

アルルはぴょんぴょん跳ね回って、でも途中で眠くなってお腹出して寝てしまった。リラックスした顔がとろとろでかわいくて、ずっと見てた。隣では夫と父がビール飲んでて、ちょっと早いけどまあもういいかって母がおせちを机に出してくれて、ちまちまみんなでつついてた。

最初は、揺れたなって分かるけど、そんなに大したことなかった。最近多いね、って話してたら、スマホからビーッビーッって音が鳴って、「地震です!地震です!」って叫んだ。

今までも緊急地震速報は何回か鳴って、その度それほど揺れなくて、今回もそうだろうとみんな思って。

おっとなんか揺れが強いなって思った時にはもう体験したことのない揺れが身体を打って、咄嗟に机に頭を突っ込んだ。すぐ収まる、収まるって耐えたけど、全然収まらなくて、途中で夫がぐっとわたしの身体全部を机に押し込んだ。家が揺れて、揺れて、これきっと全部壊れるまで揺れるんだって思って、しぬのかなって思ったら、ようやく揺れがおさまった。

みんな呆然として、強い地震だったね…って父が慌ててテレビをつけた。アルルは?って見たら、見たことないくらい目をまんまるにして、毛も逆立って、ふるふる震えてた。

怖かったね、大丈夫だよ。
アルルに声をかけてたら、テレビから津波がきます、にげて!!って聞いたこともない絶叫が聞こえて、頭がまっしろになった。

その後も何回も何回も緊急地震速報が鳴り響いて、その度にぐらぐら揺れて、怖くてスマホを投げ出したくなった。

連絡がとれた友だちはみんな無事だったけど、なかにはおじいちゃんが七尾にいて、津波が心配だと不安気にしている子もいた。

わたしには、能登の方に住んでる親族や知人はいないけど、でも能登よりの地域に住んでる親戚のおじさんの家は、30センチ傾いた。階段が曲がってしまったと父の電話から漏れ聞こえた。おじさんの奥さんも、チワワのロンとフクも怖かっただろうけど、無事でよかったと話していた。

SNSで金沢駅の水道管が破裂して、水浸しになってる映像が流れてきた。電光掲示板が無茶をする小学生のブランコくらい乱暴に揺れていた映像も何個も何個も流れてきた。

アパートに帰るのが怖かったけど、幸いお皿は1つも割れてなかったし、いろいろ落ちてるものはあったけど、大きく壊れたものはなかった。それでもお風呂に入ってる間にまた揺れたらと思うと怖くて仕方なかったし、寝てる間に揺れたらと思うとやっぱり怖くてなかなか寝れなかった。余震が何度も何度もきて、その度に飛び起きて、夫に宥められては寝て、を繰り返した。

翌日は富山の夫の実家に行くつもりだったけれど、電車は動かないし、道路も陥没してて車も危ないから取り止めた。
おせちをご馳走になるつもりだったから食料がなくて、自転車で夫とスーパーに向かった。道中、道路がひび割れてたり陥没してるところが所々にあって、うっかり落ちないように下を見て走った。スーパーはたくさん人がいた。こんな時でも営業してくれたスーパーの人には感謝しかなかった。

余震はずっと続いてる。金沢市内にいたわたしでも、こわかったし、今もこわい。能登の人たちはもっとずっとこわかっただろうし、もっとずっとこわいだろうと思う。わたしが体験した揺れよりもずっとずっと強かっただろう。さむいだろうし、不安だろうし、心が引き裂かれる思いをしてるだろう。

ヒーローがいる世界だったら、「わたしがきた」って言ってくれる強くて優しくて、安心の塊が空から音速で飛んできてくれたら。

わたしがヒーローだったらな。すぐにでも助けに向かうだろう。津波は強力な真空波で押し返してみせる。燃え盛る炎はこの手から無尽蔵に出せる水で、一瞬で消してみせる。邪魔な瓦礫は全部念力でどかしてみせる。食料もあったかい毛布も、生活用品も必要なものはみんな怪力で空から運んでみせる。

でもわたしは何もできない。今できるのは募金くらい。わたしがお金持ちだったらな。何億でも渡すのに。ヒーローよりは実現可能性があるかもしれないけれど、そこまでお金がない。自分の生活を賭ける勇気がない。微力な額しか募金できない自分が情け無い。

昔旅行した場所も、なくなった。
だいすきなお店も、被災して再開の目処が立たない。

ニュースとかSNSで、がんばれ、あきらめないで、応援してるよというコメントを見ると涙が出るほどあったかいものが心に宿る一方で、想像力に欠けたコメントもたくさんあって、心が削られる。正月番組なくなってがっかり〜くらいならまだわからなくもないけど(その思いを公にする是非は置いといて)、津波の危険を必死で伝えてくれたアナウンサーや深夜まで救助にあたる方々への心無い批判に、木造の古い家が多いことに対して被災地の防災意識がそもそも低すぎるから仕方ないみたいなことを賢しげに論じる人たちなんかもいて、心が石になる。見ない方がいい、と夫にしばらくスマホを取り上げられた。見ないでいい。見ないことを選べる自由がわたしにはある。

今はどうにもできない。
支援物資とかを届けようとしてくれてる方たちもいるみたいだけど、まだ受け入れ態勢が整ってないから控えてほしいって自治体のホームページに書いてある。受け入れ態勢が整ってないうちはかえって迷惑になりかねないし、何よりあぶない。ニュースでもこのことをきちんと伝えてほしい。助けたいと思う人たちの心がほんとに尊いからこそ、伝えてほしい。

やれるようになれば、やれることはしたい。
金沢でも被災したお店はあるから、営業再開したらお客さんとして応援したい。

ちいさなことしかできない。ヒーローには程遠い。とにかく今は自分の日常を少しずつ取り戻して、ちいさなことでも助けになれるように力を蓄えたい。

1日の日に、だいすきなお友達にかわいい女の子が産まれた。涙が出るほど嬉しかった。ちいさい奇跡はちゃんとある。大丈夫だと思いたい。