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小さな幸せを見逃さずに

平日お昼の無人駅。住宅街の中にひっそりと佇むその駅で、私は一人電車を待っていた。

自転車が盗まれたという話を前にしたけれど、そのせいで私はとにかくご機嫌斜めだった。
この日は盗まれた自転車関連でわざわざ授業のあとに出かけねばならず、どうして被害にあった側があれこれ立ち回らないといけないんだ、とむくれていた。最近とにかくツイてない。

自転車がありさえすれば20分ほどで行ける距離を、電車と徒歩で向かう。何も悪くない私の方が時間もお金もかけなければいけない。呪いたい相手が不確定というところが、余計に精神にきていた。

駄々をこねたくても、こねさせてくれる相手がいない。どうにかして自分で自分の機嫌をとるしかなかった。
この際精一杯自分を甘やかしてやろう。そう思い立って寄り道したのは本屋さんだった。


昔から溜め込みやすかった私は、ストレスが一定まで溜まると本に囲まれたくなる習性がある。大学受験期の夏休みには図書館に通いつめたし、新しい本も欲望のままに買った。たとえ読む時間がなくても、どんどん積み上がっていく積読を眺めるだけでほくほくしてしまう。いや、眺めるだけじゃ意味ないんだけれども。

この日は思い切って2冊の文庫本を手に取った。
noteで誰かがおすすめしていた本と、たまたま見つけてたまたま惹かれた知らない作家さんの本。この偶然の出会いのときめきが癖になる。

本を買っただけなのに、その時点で私の機嫌はかなりよくなっていた。というのも、そのあと用事を済ませてから、近くの喫茶店でこの本を読もうと心に決めていたから。

そこから20分ほどの道のりはちっとも苦じゃなかった。さらに目的の用事もあっという間に終わって、喜び勇んで喫茶店へと向かう。


さて、この日訪れたのは「星乃珈琲店」。私にしては珍しくチェーンの喫茶店だ。チェーン店は心のどこかでいつでも行けると思ってしまうところがあって、このお店の存在は知っていても足を踏み入れたことがなかった。

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おそるおそる中へ入ると、ふわりとコーヒーの香りが体を包み込む。無事席を探し出して、お冷とおしぼりが運ばれてきて、メニューを開いてほっと息をつく。この時間が案外好きかもしれない。嬉しいことに、このお店にはカフェインレスのコーヒーがあった。

そう、私は喫茶店好きのくせにカフェインを摂取すると胃にダメージがきてしまう体質なのだ(緑茶や紅茶はいける)。いつもはお腹を犠牲にするかしれっとカフェオレやココアで気分を誤魔化そうとするのだけれど、これはありがたい。チェーン店はこういうところが強い。

この日は、定番商品らしいスフレパンケーキとカフェインレスコーヒーのセットを頼むことにした。

パンケーキは出来上がりに時間がかかるため、先にコーヒーが運ばれてくる。ちゃんとコーヒーを飲むのは久しぶりかもしれない。買ってきた本のブックカバーが可愛らしくて、コーヒーとのツーショット(スリーショット?)を何枚も撮ってしまった。

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さて、コーヒーが冷めないうちに一口、と啜ってみる。薫り高い苦みが広がる。この苦みにはまだもう少し慣れが必要だけれど、愛さえあればこのまま飲めるようになるはず、きっと。

本を読みつつコーヒーを飲みつつしていると、待ちに待ったパンケーキが。

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ほかほかの出来立てにメープルシロップをかけていただく。
スフレパンケーキという名の通りふわふわなのは大前提として、ホイップバターと合わせて食べるとその濃厚さがぐっとその魅力を引き立てる。

ところで今これを書いているMacBookは変換と同時に辞書のような説明が出てくるのだけれど、「スフレ」と打ったら説明の一部に「熱いうちに食べる」とあった。だからわざわざ注文から作って提供なのか、なるほど。

お熱いうちにほかほかを食べて、コーヒーで一息。
そこからはのんびり読書タイムの始まりだ。

ちなみに、今回買った2冊の本は、せっかくだから読み終わってから感想でも上げようと思っている。つまり読みきってはいないということなんだけれど。こうやって溜めた読みかけの本が何冊あるか知れない。でも必ず、内容を忘れないうちに読みきるつもり。


ふわふわの甘いパンケーキ、それと調和のとれた苦くて濃密な香りのコーヒー、新しい本。それらに囲まれて過ごしていれば、自分のご機嫌なんて簡単にとれてしまった。帰り道もるんるん気分で、お花の写真を撮ったりなんかして。行きの不機嫌はどこへやら。

何気ない日の何気ない幸せだけれど、こんな日々の中でもこうした幸せの花を少しずつ摘んでいきたい。
ツイてなくても忘れたくない幸せに気づかされた、そんな一日だった。



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