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まるで幻のような

人生、何があるかわからない。ほんの数ヶ月前には想像すらしていなかった現実を、今こうして生きている。


結論、私はあの人から何一つ得ることができなかった。SNS上では幸せそうに見えていた、いや見せていたのは、それっぽく脚色して自分を納得させるため。これでいいんだと無理やり妥協するためにすぎなかった。

つまり、この場所で私は嘘をついていたことになる。申し訳なくは感じていたのだけれど、ごめんなさい、それでもやっぱり、そうしなければ私は私でいられなくなるくらい、追い詰められていたのです。きっと気づいてくれていた人もいるはず。だから、こうして告白しています。

今ならわかる。私はこれっぽっちも幸せじゃなかったし、そんな自分を認めることが恐ろしかったのだ。何も与えてくれない存在に縋る、そんなことでしか自分を保てなかったから。


今度こそは、と覚悟を決めて離れる努力をしていたとき、現れたのは彼だった。いや、現れた、というのは少し語弊がある。彼はずっと私を近くで見守ってくれていたのだけれど、無我夢中になっていた私の視界に入らなかっただけ。この無我夢中というのはあの人に対してではなく、現状を肯定するしかないと自己暗示を重ねていたことに対するものだ。

だから、彼は決して弱っていた私につけ込んだわけじゃない。私が過去を捨て去ると決意して、ようやく外に目を向けることができたから、ただそれだけ。


彼との日々は楽しい。面白い。気持ちがいい。幸せ。そして必要不可欠だ。もはやなくてはならない存在。この人の隣にいない未来が想像できない。単なる一時的な盛り上がりで抱く感情では、ないと思う。あまりにもない。

燃え上がるような昂りも、緩やかに歩む長い道のりも、どちらも等しく彼と経験できる確信がある。どんなに灯火が小さくなったとしても、新たに火をくべる体力がなくなったとしても、この人とならいつまでも消えない炎を燃やし続けていられそうなのだ。

そう思える自分が信じられないし、きっと信じてもらえないだろう。だけど仕方ない、これはどうやったって私たちでしか共有できない感覚で、あらゆる手を尽くして他に伝えようとしても限界がある。そういう言語化できない域のものを、言語を扱う私たちが感じている。


穏やかな寝息が聞こえてくる。そんなとき、無性に湧き上がってくるような、胸が締めつけられるような、苦しいのに満ち足りたような気持ちになる。繋がっているだけで、もう、私は。

ああそうか、これが本物なのか。今まで軽い意味でしか使ってこなかった言葉の、ほんとうの大きさを知った。そんなもの幻だと思っていたのに。すっかり諦めていたのに。それなのに、ああ、ただ私が何も知らなかっただけなのね。

この感覚が理解できるのは、心からそれを感じ、共有したことがある人だけだ。そしてそれぞれに違った形がこの世には無数に溢れているのだろう、まるで雪の結晶みたいに。私たちもその中のひとつ、誰にも侵食されることのない、唯一無二を抱きしめている。


何も得られなかった、むしろ大切なものをどんどん川底へと沈めていった2年半。そんなものと対比するまでもない。天地の差、どころの話ですらない。これは異次元だ、異次元という言葉が大げさな響きを纏わないほどに。

ばか真面目にとんでもなく寒いことを書き連ねてしまったけれど、こんなものをくだらないとしか感じられなかった私はもういない。そのことに誰よりも困惑しているのは私自身なので、ご安心を。


これでまだまだ始まったばかりだというのだから、ああ、人生って面白い。おそらく一生経験できないであろう、未知の世界への第一歩。何も怖くない、躊躇いなんてない。だって隣には、握った手を決して離さない、消えてくれない人が確かにいるのだから。


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