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はじめてのSummer

夏の終わりのある日、Merciと一緒に、電車で海へ出かけた。
犬のイベントがあるとお誘いを受けたからだ。

私は、免許はあるが、運転はできない。
子どもが生まれ、何度か運転技術を復活させたほうが良いかもしれないという思いに駆られたのだけど、重い腰が上がらずここまできてしまった。
運転をやめた原因が事故だったことも大きい(大した事故ではない、念のため)。
運転は向いてない、きっと。

出かける先の近くに古い友人が住んでいて、急だったけれど連絡を入れた。
タイミングよく会うことができ、イベントついでにランチの約束を取り付けた。

友人は、地域の経済新聞の記者をしている。
このイベントも記事にすると聞いた。仕事とプライベートがちょうどいい具合に曖昧で、私はそういうスタイルが嫌いじゃない。何も言わずにすっと、意味のあることをいつの間にか始めている友人。言うだけ言って、日々の繰り返しに甘んじる自分を省みると「いかんな」と思う、いつも。
彼女はいつもいろいろなヒントをくれる。地域の経済新聞の始め方も教えてくれたのだけど、いつの間にか地元でも誰かが始めていた。ある時はエッセイを書くことを勧めてくれたけれど、まだ1ページも始まっていない。ずっと広告の隅っこでやってきた自分は、課題とか締め切りがないと、動けないのかもしれない。

ところで、Merciと電車に乗るのは初めてだった。
そもそも、先住犬のまるめも、癲癇が出始めてからは、電車で出かけることは、たまにの通院以外ほとんどなかったので、私も久しぶりだった。犬のイベントも、最後に行ったのはいつだろう。

路線検索では家から1時間半。なんとかなるだろうと意を決して向かったが、
最寄駅で駐輪場がなかなか見つからず、またMerciが思いのほか重かったことで
私の足取りも重く、予定の電車を逃してしまった。
結局、目的地まで2時間かかってしまったが、道中Mecriは騒ぎもせず、ワガママも言わず、誰にも迷惑をかけず電車に乗れた。

到着駅には、友人が車で迎えに来てくれた。
彼女が運転する姿は初めてみた。食事のときや、子連れで会う際も電車が常だったから、なんだか新鮮だった。

目的の場所は、稲毛海浜公園。前にも一度訪れたことがあったのだが、その頃よりもだいぶアップデートされて、とてもお洒落に生まれ変わっていた。
キッチンカーが多数並び、海沿いにはソファとテーブルがセットされた有料エリアがあり、キッチンカーで買った食事を楽しめるようになっていた。他にも手ぶらでできるオシャレなBBQエリアなどもあるようで、地元の子連れ家族は、ポップアップテントを持ち込み、海風と景色を楽しんでいた。

Merciにとって、もしかしたら初めての海かもしれない、それとも、かつては海の近くに住んでいたかもしれない。そんなことをぼんやり考えながら、潮の香りと海風と、心地よい波の音をひとりと1匹で愉しんだ。
友人が撮ってくれた写真のMerciは、なんだか自信に満ち溢れているような、これまでみたことのない表情でとても気に入っている。

ゆくゆくは、海の近くで暮らしたいと考えている。憧れと、実際暮らすのは違うだろうけど、海にも山にも近い伊豆あたりはどうだろう、都心にも出やすいし、など。稲毛海岸も、自然と町がほどよい距離感で、犬と暮らすのは楽しそうだ。キッチンカーが並び人が集う、賑やかな雰囲気もいい。散歩コースに海があって、毎週末、もしかしたら毎日歩いて海に行けるなんて、なんて幸せなんだろう。

父は昔からよく、千葉の海に釣りに出かけていた。アジや鯛、イナダ、スズキなんかもたまに。釣果が思わしくない時は帰りに干物を買ってくるのがお決まりで、干物だとがっかりしたものだ。昔から魚は美味しいものを食べさせてもらっていた。もう父はいないので今度は自分で、海の恵みのお裾分けをいただこうか。ちなみにこれまで釣りの経験は一度もないけれど。

そういえば、ずっとずっと小さな頃は父が勤める会社の別荘が千葉の白浜にあって、毎年夏に1週間ほど過ごしていた。驚くほど大きなクモがいて(大人の手のひらぐらい)怖かったけれど、海は楽しかった。父の同僚が家族連れで集まり、年上のお姉さんやお兄さんに混じって、海で遊んだりBBQをしたり、いつまでも心に残る思い出だ。友人然り、高校時代からの親友も、千葉に住んでいる。なんだかんだ千葉は縁があるんだなと、改めて。

現実逃避はこの辺で。将来の海辺暮らしを夢見て、締め切りのある仕事を仕上げるとしよう。Merci、海辺の暮らしはもうちょっと待っていてね。

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