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東南アジア放浪記~微笑みの国タイランド~

夫婦で経営している宿。旅人が多く泊まる宿らしく、主人は気さくでフレンドリーだ。

「君は日本人か?大麻はどうだ?」

これが彼から言われた最初の言葉だ。

フロントではいつも主人が優しい表情で大麻を売っている。客との会話を見る限り、主人はフレンドリーを通り越してお節介が過ぎていると日本人の俺は常に思っている。

日が暮れ、夜の街へ出かけようとフロントの前を通ると、案の定主人が俺に話しかけてきた。

「どこへ行くんだ?」

「夜の街だよ」

俺がそう答えると

「女の子でも捕まえに行くのか?」

と笑いながら冗談を言ってきた。

この時俺は思い出した。風の噂で聞いた話を。
タイのホテルではジョイナフィーと呼ばれるものがあるらしい。チェックインを一緒にしていない人物を部屋に招き入れる時、その人物はゲストとして扱われ、追加料金が取られる。それが友人や家族だとしてもダメだという話だ。俺は主人にこの話が本当かどうか聞くことにした。

「もし女性を部屋に連れ込んだら追加料金かかる?」

そう聞くと、主人は「そんなものはかからないよ。幸運を祈る」と暖かい言葉をかけ、飼っている犬と戯れ始めた。

そして俺はフランス人の友人と夜の街へ繰り出した。世界でも有数のパーティータウン。色々な国の人たちが集まり、賑わいを見せている。

時刻は23:00
2件目のナイトクラブ。路地裏にあるとは思えない程、箱は人で溢れかえっていた。酔いがまわり、俺たちはナンパを始めることにした。

一番楽しそうに踊っているグループを見つけ、彼女たちと一緒に飲むことになった。フレンドリーな彼女たちは俺たちを受け入れ、空いたグラスには次々とお酒を注ぐ。休む暇なく飲まされ酔いがまわった頃、俺は1人の女性と気が合い、一緒に帰ることになった。

彼女の手を引き、通りに出てタクシーを呼び止める。10分ほど走らせ宿に着くと、深夜の3時だというのにフロントの明かりがついていた。恐らくあのお節介な主人は俺の帰りを待っていたのだろう。部屋に辿り着くにはフロントの前を通らなければならない。女性を部屋に連れ込む俺を見て、あの主人はからかうに違いない。俺は腹を括り、宿の扉を開けた。


大麻の匂いが充満する中、彼女の手を引き黙ってフロントの目の前を通る。しかし、主人は何も言わない。不思議に思い、主人の顔を見ると、余計な邪魔をせず、楽しんでこいと俺を見送るような目で優しく微笑んでいた。

その時俺は強く思った。

これぞ微笑みの国タイランドだと。


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