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東南アジア放浪記~容赦なく撃つ人々〜


タイでは旧正月にあたる、四月のある時期に行われるソンクランというイベントがある。ソンクランは水かけ祭りとして世界に知られていて、この期間は見ず知らずの人にいくらでも水をかけていいとされている。水をかける行為には敬意を払うという意味があるらしいが、俺はこのイベントが好きではない。何故ならこの水のかけ合いに参加する参加しないの選択肢はなく、望んでいなくても強制的に水をかけられてしまうからだ。

町の至る所で楽しそうに水を掛け合っている人々。それは大きな駅前、イベント会場だけではなく、宿までの帰路でもそうだ。ある夜、シャワーを浴び終わり、部屋でくつろいでいたが小腹が空いてしまったため、俺は近くのコンビニへ軽食を買いに行った。しかし、道中で水鉄砲の襲撃にあってしまう。郷に入っては郷に従えとは都合のいい言葉だ。大体察しがつくだろう。夜にパジャマで財布だけを持ち、すぐそこにあるコンビニへと向かっている俺。100歩譲って俺が奴らにフレンドリーに話しかけたとか、俺が水鉄砲を手に持っているだとか、目を合わせて水をかけられたそうな顔をしたとかだったら理解できる。しかし、ソンクランの期間では否応なしに水をかけられてしまうのだ。

別の日。俺は全ての荷物が入っているリュックを背負い、新しく泊まる宿へと歩いていた。すると路地裏で奴らに見つかってしまった。奴らはニコニコしながら俺の元へと駆け寄って来て、俺はバケツで水を頭からかけられた。奴らに見つかったらおしまいだ。幸い、リュックの中に入っていたカメラやパソコンなどの電子機器は無事だったが嫌な気持ちになった。半べそをかきながらママに電話しようとも思ったが、俺もいい歳した大人なのでやめといた。自分の持っている常識や良識などは簡単に崩れてしまうものだと痛感した。

ただ、実際ソンクランが終わってみると残るのは不思議と良い思い出だけだ。

両手に水鉄砲を持ち、イベントに参加した日もあった。

他人を撃ちまくるという非日常的な体験はこの先も俺の記憶に残り続けるだろう。


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