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東南アジア放浪記~宿の少年~

部屋で休んでテレビを見ているとテレビ台の前を黒い影が横切った。あまりの速さにはっきりとは見えなかったが俺はすぐに勘づいた。ゴキブリだという事を。俺はほっとかずに駆除することにした。早めに駆除しなければ奴に自由を与えてしまい、俺の靴やリュックの中などに入り込んでしまうかもしれない。そうなるとゴキブリ嫌いな俺はたまったもんじゃない。ただ自分一人で戦う勇気はなく仲間が欲しかった。そこで閃いた。宿の主人に小学生くらいの息子がいて、さっきまでフロントの前の共有スペースでスマホのゲームをしていた。俺は彼に助けを求めることにした。とりあえず横切った黒い影がゴキブリだという確証が欲しかったため、恐る恐るテレビ台の裏を確認する。すると案の定ゴキブリが姿を現した。そして奴は俺をおちょくるようにスローペースでトイレの中に逃げ込んだ。俺は一旦トイレのドアを閉め、閉じ込めることに成功した。ああ、何度見てもゴキブリは気色が悪く、恐ろしい。

イスに座り一息ついた後、俺は部屋を出て主人の息子に助けを求めに向かう。
少年は共有スペースにあるソファに横たわり、スマホのゲームをしていた。「お願いがある。ゴキブリが出たんだ。追い出してくれ。」そう言うと、少年はゲームをやりながらしぶしぶ立ち上がる。
物置に立ち寄り、殺虫スプレーを手に取った少年は目の色を変えた。追い出せと伝えただけが少年は奴を殺す気だ。

部屋に着き、「さっきトイレに閉じ込めた。俺がドアを開けて奴を探すから見つけたら後は頼む」俺は少年に言った。なんて格好の悪い大人なのだろう。自分よりはるかに小さいゴキブリ相手にこんなにも恐れ、小学生の子供を頼ってしまっている。

覚悟を決めドアを開けるといきなり壁に張り付いてる奴を見つけた。しかし、さっき俺が閉じ込めた奴と明らかに大きさが違う。不思議に思い、辺りを見回すと便器の横にさっき閉じ込めた奴も見つけた。相変わらず奴はおちょくるようにこっちを見ているようで気に食わない。その瞬間、少年は素手で一匹、二匹と手づかみで奴らを確保し、部屋の外へ放すと、続けて踏みつぶした。ゴキブリを凌ぐほどのスピードと恐れが一切ない勇敢な姿に、俺は感激した。
結局少年は殺虫スプレーを使用せずに奴らを駆除してしまった。俺には少年の気持がよくわかる。ドラクエやポケモンなどのゲームで有効なアイテムを持っているにも関わらず、それを使わずに敵を倒してしまうのは俺も同じだからだ。
任務を終えた少年は嬉しそうにスマホのゲームに戻ると、俺の部屋を後にした。

気付かなかったがこの宿の部屋にはゴキブリが二匹いたことになる。こうなると他にもいるんじゃないかと考えるのが自然で、少し部屋をチェックすることにした。すると早くも新たな侵入者を見つけてしまう。アリの行列だ。時間を忘れしばらくアリの行列を観察することに没頭してしまっていた俺は、何とも言えない懐かしさを感じた。そして、もう他に奴が部屋に潜んでいようとどうでもいい気持になった。今夜はどこへ行って何をしようか。
とりあえず日本へ帰国したら久しぶりにドラクエをやろう。そう心に決めた。


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