オレオレ会話
【2286文字】
人は会話をするとき
当然ながら自分の話をするものだ
「私はこう思う」といった意見だけではない
先日こんなことがあったとか
テレビがこう言っていたとか
自分のフィルターを通して
自分が経験した話として
その出来事や聞いた話などを
会話のネタにするものだ
それは全然問題ない
ただこれは独り言ではなく
誰かに向かって会話しているわけで
なのでそれを聞いている者も
それなりの相槌や意見を述べる必要がある
話し手の話術も然り
その相手が上手に対応できてるかどうかによって
その会話が盛り上がるかどうかが決まって来る
受け答えは大変重要である
受け答えのマズい例
をひとつ
「いや先日ね駅の階段を踏み外しちゃってね
周りにたくさん人がいたんだけど
遠慮なくすっ転んじゃって
足首グネッてさ
まだ痛いんだよ」
「あぁ僕もやったことあるよ
段差も何もないところでつまづいちゃって
体勢を整えようとしたら
逆に足首グネッちゃってさ」
「これがなかなか治らなくてね
若い頃はもうちょっと早く治ったと思うんだけど」
「そうそう1か月は痛かったかな
パンパンに腫れちゃって
仕事するのも苦労したっけな」
ってな感じの会話をそんじょそこらで聞く
あたかもラリーっぽく交互に話をしているが
全く相手の話に触れていない実に妙な会話だ
相手の話は自分が話すためのトリガーでしかない
互いのエピソードを投げつけるような
己が己の話を勝手にしてるだけの
なんだか残念なやり取りだ
「そうそう私もね」とか
「俺も前にさぁ」を必ず前置詞的に話す人は
会話の相手として要注意だと思っていい
自分のエピソード
を披露したのに
全くそれに触れられないというのは
やはりちょっと残念なもんだ
なので人が話し出したら
先ずは感嘆詞を含めつつ感想を述べ
次にその続きはどうなったのかと聞くぐらいでいたい
もちろん自分の似たような経験の数々が
ふと頭をよぎったりもするだろうが
そこは一旦頭の引き出しに付箋を付けてしまいこむ
その付箋の役目は
一通りその話題の山を迎え
収束または失速した際
変な間が出来ぬよう
緊急用ですぐ取り出せるための印である
話題を提供してくれた人を先ずはリスペクトし
提供者に気持ちよくなってもらえた方が
後々の会話のテンポも良くなっていくものだ
この様に
こちらから話題を提供してやったのに
相手が己の話ばかりで返して来たら
「うんうんそれでどうした?」とか言って
スッと相手の話に乗り換えてやればいい
僕は基本的に狭量な男なので
「人の話を奪ってまでもしたい話でしょうから
この後さぞかししっかり盛り上げてもらえる事でしょう」
といった心持ちで話の成り行きを観察するのである
案の定会話が尻つぼみになってゆく様子を
ただ遠目に見ているだけである
相手をリスペクトし
その話題に反応を示す場合でも
単に相槌を深めにしたり
感嘆語を大げさに繰り出し過ぎると
逆に嘘くさくなりむしろ失礼だ
反応はとにかくサラッとするのがコツだが
相槌や感嘆だけというのも簡略すぎる
なので以下の事に注意を払い合いの手を入れたい
1,同等関係= 言い換え
2,対比関係= 反対
3,因果関係= 因果と結果
同等関係
とはつまり
(A)を表現したい相手に対し
イロハの(イ)みたいな感じ?と聞いてみたり
つまりアルファベットのド頭ね
とか言って同等な文言に言い換えること
対比関係
とは
(1)じゃなくて(A)ね?とか
(Z)が最後なら最初はそりゃ(A)だよね
などと反対の事を対比させて
話をより際立たせること
因果関係
とは
〇BCDとくればやはり〇は(A)だよね
とか
B+A=CならA=C-Bだよね
などと因果関係をかみ砕いてやること
この辺りを繰り出しつつ
間合い間合いに相槌と感嘆をちりばめれば
まあ大抵のどんなしょぼい話でも
一様に盛り上がったように見えるもんだ
話をしている本人はきっと満足どころか
ご満悦で話を終えることが出来るだろう
しかし
これは万能に使える手法ではない
皆ももちろんそんなことには気づいてるだろう
どんな会話にも通用すると思ったら大間違いだ
話の内容にしっかりした意味がある場合は
これは逆効果に成るので気を付けたい
養老孟子先生がお話している間合い間合いで
この手法をぶち込んだりしてはいけない
この場合はゆったり静かにうなずきながら
耳を傾けるのがベストだから気をつけて欲しい
この手法で一番盛り上がれるケースは
その会話の内容にほぼ意味がない場合に
恐ろしいほどの効果を発揮する事がある
みうらじゅん氏
いとうせいこう氏
リリーフランキー氏
この辺の人らが語りそうな
ニッチで全く身にならないと思われる話題に
この話法は異常な効果を発揮する事がある
身にならないと思われた話が
語録として残されるまでに昇華する事があるのだ
試しにこの3人の名前の後に
「語録」と書いてググってみるといい
珠玉の迷言がズラリと並ぶ
これらは全部この話法で輝いた言葉たちだ
彼らはプロなので
この話法をたった一人で話を振って一人で解釈し
そして一人でちゃんと結論付けられる
これが出来ればあなたもサブカルライダーだ
しかし我々アマチュアは無理をしてはいけない
2人以上で試すのが無難である
話を向ける方は話に徹し
受ける方は合いの手を尽くすことで
上手くいけば会話にリズムが湧き出て
結果盛り上がった会話にすることが出来る
もちろんこの場合は
その場だけの盛り上がりに過ぎない
プロのようにその会話から
後世に残せるような迷言など
一切期待してはならない
我々一般人には
かりそめに盛り上がれる会話が出来ただけでも
十分有難いのだと心得る必要がある
ともあれ
少なくても冒頭で例を上げたような
互いが互いの話に終始するような
ダサダサの会話だけは避けてほしいと
声を大にして言いたい
それだけが言いたかっただけである