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宇多田ヒカル「SCIENCE FICTION」は僕たちに寄り添ってくれる。これからも


こんにちは。考える犬です。


出ましたね。

宇多田ヒカルのベストアルバム、「SCIENCE FICTION」。

新譜ってわくわくするよね


すでに各所で話題になってますね。
彼女にしては珍しくTVをはじめとしたメディアにも露出し、PRされている本作。さすがに無視できなかった。


買いました。
そして聞きました。


本記事では、その感想を綴っていきます。



まず率直な感想としては…


ずっっっっっと良い音楽を鳴らしてくれるな!この人は!!


本当に、永遠に格好良くて、永遠に気持ち良い。そんなアルバムです。


クールなサウンドだ。色で言うと青系。コバルトブルーとか、ターコイズブルーとかの中に、時折イエローとかの暖色を感じさせる。ジャケットの色合いのそのまま。視覚にすると本当にそんな音色だと思う。いや、↑の映像に引っ張られてそう思うのかもしれないけれど。


さて、ベストアルバムというと「シングルとか人気曲をまとめただけ」というパターンも多い。こういった場合、大体レコード会社の都合が絡んでいるんだけど、日本人はベストアルバム大好きなので、それでもベスト盤は売れてしまう。


…ただその一方、毎回一球入魂でオリジナルアルバムを制作しているアーティストサイドには複雑な心境もあるようで、「ベスト盤は作りたくない」「レコード会社の都合によって、こちらの意志と無関係に作られた」なんて話もちょいちょい耳にする。

宇多田ヒカルも、どちらかと言うとそちら寄りの意見だったようだ。先日とある番組で放送されたインタビューでは、「ベストアルバムを出す意味がわからなかった」なんて発言もあったし。


…ただ、25周年の節目を迎え、少し心境が変わったようだ。以下は、同インタビューからの引用である。

「みんなに気持ちを返す、というか、ずっと一緒に、25年見てくれてきた人達、もちろん最近聞いてくれている人でもいいんですけど、みんなに『ありがとう』という機会になればいいな、と思って

「そう思ったら、ああベスト版ってすごくいいモノだな。自分が振り返るって意味もすごく良かったな、と思ってます」

日本テレビ「with MUSIC」内のインタビューより


そう、「ベストを出したい」「出したくない」というのは言ってしまえばアーティストとレーベルの事情であり、多くのファンは知るところではない。


そうした事情はさておき、ファンにしてみればこれまで大切に聴いてきた宇多田ヒカルの楽曲が新たにベスト盤として手元に届くのは、純粋に嬉しいことだろう。それが本人によって丹精込めて作られたものなら、なおさら。


「25周年をきっかけにそうした形でお届けできるなら、それは素敵なことだな」と彼女は考えた。大人な考え方だ。1998年、当時15歳で鮮烈にデビューした少女は、こんなに素敵な大人になりました。(しみじみ)


さて、こうして肯定的な気持ちから出発したこのアルバム。もちろん過去の人気曲をまとめただけのベストではない。なんといっても初収録が「何色でもない花」「Electricity」の2曲。さらに過去曲も活動休止以前のものは、再編集および再録したバージョンとして収録している。Re-Recordingとか、2024Mixとか、そんな名称で。


期間を経てのセルフカバーというと、分解のち再構築というほど振り切った仕上がりにするアーティストもいる。それはそれでその人の変化が見えて興味深いんだけど、以降のライブはずっとそのアレンジで演奏されると、「あー前のアレンジも好きだったんだけどなぁ」なんて心境になることもしばしば…でも、今回はそんな心配は無用だ。


本作では、もともとのアレンジは大前提としてあって、それをもとにサウンドをよりコンテンポラリーなものに洗練させたり、少しの遊び心を入れたりという程度にとどめている。

ここには、「これまで楽曲を大切に聴いてくれたファンたちの、それぞれの頭にイメージはあるだろうから、それはそのままに」という気遣いを感じる。

(First Love2022Mix。宇多田ヒカル公式チャンネルより)


その気になれば、多くの曲を再構築することもできたはずだ。それくらいの才気に満ちた人である。でも、それをしなかった。


楽曲はリリースしたその瞬間、アーティストのものではなくなると言う。世に放たれた音楽はリスナーが各々受け止め、時間が経っても聞き続け、やがてそれは聞くたびにその人の記憶と密接に紐付き、思い出されるような、大切な存在となる。


そうした我々ひとりひとりの、楽曲に対する思い出はそのままに、ほんの少しのプロフェッショナルな味付けを施すことで、新たな瑞々しさを添えて提供してくれている。まるで「これからも聴いてあげてね」と言うように。


素敵な人だな。宇多田ヒカル。



ちょっと曲単位で見てみる。


たとえば、「First love」「Automatic」といった往年の名曲は、今後の歌唱でそっくりそのまま入れ代わっても違和感ないような仕上がり。1990年代当時、驚きと共に迎えられた当時の響きはそのままに、ほんの少し現代らしい味付けをしてやることで、耳あたりも優しくなっている。


また、「光」「traveling」はRe-Recordingというだけあって、もう少し大胆に手を加えられている。

「光」は原曲のビート感は鳴りを潜め、どこか浮遊感のある神秘的なSEを効かせた、スピリチュアル的ともいえる仕上がり。

「traveling」はBPMを早め、ビートの印象としては少し軽やかになったか。でも、原曲の持つ「クールな疾走感」は損なわない。

いずれも手は加えているのだが…何でだろう。曲本来のもつ魅力や世界観は損なわず、むしろいっそう際立つようだ。この辺のバランス感覚が非常に秀逸である。


思えば、宇多田ヒカルその人自身も、バランス感覚に優れた人だ。


歌詞に見られる科学的なワードの引用や無機質なビートの印象から、当初は理系に振り切った人なのかと思った。しかし、歌詞に見られる言語センスは非常に文系的である。


僕は忘れない。「traveling」で、自然すぎる平家物語の引用を見た時の絶望感を。ちょ、お前、帰国子女で英語ペラペラという触れ込みでデビューしたやないか。なんで日本語のセンスもそんなズバ抜けてるんだよ。帰国子女にそんな歌詞書かれたら、我々日本語ネイティブはどうすれば良いんだよ。


そこから特に「Fantome」以降は、「私と世界」「生と死」といった、ある種哲学的と言えるほどに、どこまでも自己の内面に潜水していくような楽曲が続いた。

そうした楽曲に打ちのめされると同時に、「あぁ宇多田ヒカルは一人異次元に突入したんだな」と僕は思った。

「Fantome」。一番好き。

そんな孤高の天才、どこまでも自分との対話を深めていくという印象だった宇多田ヒカルなので、「ベストアルバム」という賛否両論、でもリスナーは嬉しいというギフトを、こんなにあっけらかんと「どうぞ」と差し出してくれたことに、結構驚いたのである。


本作に僕は、宇多田ヒカルという人の懐の深さ、そして人間としての魅力を感じた。…やっぱり凄いね。この人は。



さて、ではここらで総括を。


宇多田ヒカルのベストアルバム、「SCIENCE FICTION」は、どこを切り取っても最高にクールで気持ち良い、今後おそらく一生聴けるアルバムだ。


と同時に、どこか「孤高の天才」という印象のあった宇多田ヒカルが、


「色々あったけど、今までありがとうね」
「これからもいっぱい聴いてあげてね」


と、リボンを添えて我々に差し出してくれた最高のギフトです。


興味のある方は、迷わず聴いてみてほしい。

ターコイズブルーに微かに暖色が混じるように、クールなサウンドの中に、彼女の優しさと暖かさが見えるはず。


…本日はそんな話でした。


それでは!



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