君がいる夏 (ミスチルが聴こえる)
僕の好きな夏が終わってしまった。同時に、学校が始まってしまった。夕暮れも悲しくなる季節が来る。海を見ても虚しくなる季節が来る。冷たい風が吹き、寒くなるこれからが、僕は嫌いだ。
「何聴いてるの?」
放課後。君はイヤホンをした僕の肩を叩いて、訊く。
「言っても知らないよ、君は」
それでも君は僕を離さない。
「いいじゃん、教えてよ」
小さな子供みたいにせがむ君。仕方なく、僕は教える。
「『君がいた夏』」
「『君がいた夏』? 誰の曲?」
「Mr.Children」
「あー、ミスチルか。HANABIだけは知ってるよ。もう一回、ってやつでしょう?」
みんなが知っている名曲。僕は「そう」とうなずく。それから僕が聴いていた曲について簡単に話す。
「ちなみに君がいた夏は、ミスチルのデビュー曲だよ。デビューして今年で22年になるけど」
「へえ、結構長いんだね。それで、『君がいた夏』は良い曲なの?」
人によって、良い曲の基準は違う。だけど僕は胸を張ってこの曲の好きなところを言える。
「僕は好きだよ。曲調は明るいのに、歌詞がね、なんとも寂しくなる。でもね、桜井さんが放つ声のおかげか、その先には眩しいくらいの希望があるように感じる。だから好きなんだ」
「そっかあ。今度聴いてみようかな」
「うん。聴いてみるといいよ」
僕の好きな夏が終わってしまった。だけど、学校へ行けば君と会うことができる。それだけは嬉しかった。
僕が好きな夏は、毎年終わってしまう。だけど、僕のそばにはいつだって君がいる。だから他の季節を憂うことはなくなった。そして一層、夏が好きになった。
「『ケモノミチ』やっぱカッコいいよなあ」
君がしみじみと言う。
「そうだね。僕は『記憶の旅人』が好き」
「いいよね。歌詞を聞くだけで情景が思い浮かぶ。やっぱ桜井さん天才だな」
「それに、演奏も素敵」
「わかる。Mr.Childrenは彼らだからこそ成り立つんだろうな」
「もう、今年で32年だって。すごいよね」
「へえ。それでもまだ進化し続けるわけだから、俺らも頑張らないとな」
「そうだね」
それでも僕は、いつでも『君がいた夏』を再生する。確かに歌詞は寂しい。ただ、僕にとっては君と僕を結びつけて、眩しいくらいの希望を放つ曲だから。
これからもずっと、君を手放すことなく生きたい。
Mr.Children、デビュー32周年おめでとうございます。
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