佐々木 孝文

日本思想史/日本社会史が専門分野です。近世怪異説話の研究、近代文学の社会史、「近代の超…

佐々木 孝文

日本思想史/日本社会史が専門分野です。近世怪異説話の研究、近代文学の社会史、「近代の超克」問題などをテーマにしています。論文・研究履歴は下記をご覧ください。http://researchmap.jp/19690602/

マガジン

  • ミクロストリアの 道具箱(ToolBox)

    もと鳥取市歴史博物館学芸員・やまびこ博士こと佐々木孝文による城跡や近代文化史に関する論考等を、不定期に掲載していきます。

  • さんぶりんぐ(Logos Sampling)

    他者の散文から詩を読み出しテクストに固定する無謀な試み、さんぶりんぐ(Logos Sampling)試作集。

最近の記事

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テクストの「場」 尾崎翠の代表的作品群(1927〜1933)の場合

1、はじめに  尾崎翠は、時に「幻の作家」などと言われることがある。  それは、実際の作品数が少ないだけでなく、作家としての評価の中心となる作品のほぼ全てが、昭和2年(1927)~昭和8年(1933)の約七年間に発表されたものであり、あたかも文化とモダニズムの1920年代の終焉とともに筆を折ったかのような印象を与えるためである 。その印象が、「モダニズム女性文学の作家」 という、実際には時期的にも内容的にもかなり限定的な意味をもつ評価に繋がっている面もあるのではないだろう

    • 新潮社と鳥取のお話し

       近代出版史の基礎文献のひとつ、『新潮社七十年』。  創業者・佐藤義亮のことも含めて、社史にしては中立的な筆致と思われる。しかし、新潮社からみて都合の良い悪い事情は記述を避けたり微妙に記述をずらしたりしている。  そういうことを踏まえてこの本を読むと、戦前の新潮社と鳥取県人脈の関わりの深さが、かなりはっきり見えてくる。  誤解を恐れずに言えば、出版社としての新潮社の基盤づくりには、かなりの部分、当時の鳥取県人脈の文学者が寄与しているのである。  昭和のはじめくらいまで

      • 『燕京文学』と引田春海

         鳥取県立図書館の膨大な鳥取県出身人物のデータベースに登載されておらず、これまで地域の文学研究者にもあまり知られていなかったであろう文学者として、引田春海を紹介したい。  引田は、東伯郡中北条村に大正3年5月に生まれ、小学二年生の時に中国に渡り、ついで旅順に移動した。 昭和8年に旅順第一中学校を、同10年に同学会語学学校を卒業した後、外務省文化事業部の在支第二種補給生として北平中国大学で国文科に進学した。国費留学生であったために、経歴が判明する。  この待遇には、北平日

        • [Logos Sampling Series] Chapter6.山川均君についての話

          明治三三、四年のころ、わたしは万朝報の編集局で初めて山川均君の名に接した。 日刊平民新聞第一号に「前半身に対す、山川生」と題した一文が載っている。 日刊平民の編集局における山川君は寡言沈黙、ただこつこつと働いていた。 日刊平民がつぶれてから、山川君は守田君と一緒に淀橋の柏木に住んでいた。 赤旗事件の前に、屋上演説事件というのがあって、山川君、大杉君、わたし、その外数名が一、二カ月禁固されたことがある。 赤旗事件のため、山川君は二年間、千葉監獄にいた。 大逆事件の後

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          6本

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          [Logos Sampling Series] Chapter5.日本の幸福

          近ごろ、僕はその夢を捨てたくなった 金が無いからもありますよ、けど金が無くたって夢は持って居られまさあね だから金が無いという理由じゃないんだ ミキサーが、やたらに方々で、音を立てているが、これとても、果物の味は、ミキサーの廻転と共に、ふっ飛んでしまっている コテコテコネ廻してあっちゃあ、どうもネ 何を好んで、妙な我慢をしているのかと、全く僕には判らなかった (古川緑波『ロッパ食談』完全版・河出文庫より)

          [Logos Sampling Series] Chapter5.日本の幸福

          [New Mode]

          武器を使った直接戦闘をやってないだけで、ぼくたちはすでに(これまでの戦争概念を覆えす)第三次世界大戦のまっただ中にいる。 いつのまにか、「ここ」も、ほかの紛争地帯と何も変わらなくなってしまった。 みんな、ほんとは気付いてる だから焦っているんでしょ?

          [Logos Sampling Series] Chapter4.「シュレーディンガーの翼のあるライオン」

          自然と宇宙は「人間を逃れ去る」だろう 概念と思考を用いて物質的世界を超越する可能性も消え失せる 現代科学が扱っている宇宙 作業上のリアリティに技術的に翻訳できる原理そのもの まったく表現することのできないもの 未来人は、この与えられたままの人間存在にたいする反抗に取りつかれ 知識と思考とが、真実、永遠に分離してしまうなら 技術的知識の救いがたい奴隷となるだろう 言論がもはや意味をもたないような生活様式 技術的に可能なあらゆるからくりに左右される思考無き被造物

          [Logos Sampling Series] Chapter4.「シュレーディンガーの翼のあるライオン」

          [Logos Sampling Series] Chapter3.高等農林学校設置に関する意見書

          大正五年十二月十日。 右、府県制第四十四條により意見書提出候なり。 本県内に高等農林学校を設置せられんことを建議す。 これが施設に関し協賛の至誠を捧ぐるに躊躇せざる所なり。 願わくば本会の徴衷をくみ県民多年の要望を達せられんことを。 実業の興隆を図り国力の充実を期するより先なるはなし、 農林の業は我が国における最重要の産業にして住民その職業の本意をこれに置かざるはなし。 陣地の開発いまだこれに伴はず。 高等教育機関の欠如に職由せずんばあらず。 高等農林学校を

          [Logos Sampling Series] Chapter3.高等農林学校設置に関する意見書

          [Logos Sampling Series] Chapter2."十八分の一の人生"

          都市と農村の分業がある。 地方と地方との間にも分業がある。 国と国との間にも分業がある。 分業は生産力を増加したが、分業は人生を留針の十八分の一に追い込んだ。 一人で働いては一日に、三本か五本しか造ることの出来ぬ留針を、十八の部門に分けて製造すれば、一日数千本の割合で生産することが出来る。 針の頭を附ける者は、終生、針の頭を天地としなければならぬ。 針の先を尖らす者は、此広い、美くしい世界に背を向けて、五十年の間、一心不乱に針の先ばかりを諦視て居なければならぬ。

          [Logos Sampling Series] Chapter2."十八分の一の人生"

          [Logos Sampling Series] Chapter1."ある御仁曰く"

          ある御仁いわく。 「よく出来た嘘をつくものだ」 現実を直視せよ。 「よく出来た嘘をつくものだ」 国家の、社会の、誰の目にもはっきりした正義がある。 「よく出来た嘘をつくものだ」 個人的なもの、主観的なもの、曖昧なもの。 敢えて言えば何やら全く得体の知れないもの。 そんなものは除外すれば良い。 「よく出来た嘘をつくものだ」 良心の朦朧性などを信じているのは現実逃避である。 「よく出来た嘘をつくものだ」 現実を直視せよ。 (小林秀雄「感想 その(三)」よ

          [Logos Sampling Series] Chapter1."ある御仁曰く"

          資料紹介「飯田年平上記絶版建議」

           結構誤解されているのだが、明治以降の国家神道は、幕末の尊王攘夷運動のバックボーンとして強く支持された平田派国学を継承したものではない。乱暴に言えば津和野・鳥取系の、西洋技術の導入すら是とする現実路線の国学者たちが、長州閥の政治権力と協力して基礎を構築したもので、宗教の外側に国家神道の儀礼システムを置こうとするものである。それによって、神道を宗教でなくすことによって、国家儀礼としての神道行事に、宗教的信条にかかわらず国民を参加させることが可能となるからである。  ところで、

          資料紹介「飯田年平上記絶版建議」

          地域への視線・地域からの視線 ―近世地誌編纂者の世界像―

          (鳥取市歴史博物館平成14年度秋季展覧会の図録『江戸時代、「諸国」繚乱』所載のものをベースに修正。図録所載のものには図版・脚注が付されているが省略。どっちかというと省略したもののの方が面白いので、関心のある向きは是非図録の方をご覧ください。下記で販売されています。http://www.tbz.or.jp/yamabikokan/index-34054.php) はじめに ここでは、寛政三奇人の一人である林子平(仙代藩士)と、近世因幡国最大の史家・地誌編纂者である岡嶋正義(鳥

          地域への視線・地域からの視線 ―近世地誌編纂者の世界像―

          岳亭丘山研究はしがき(基礎史料紹介)

           (2002年頃のメモを再編集。もともとは1997年頃の研究カードを打ち込み直したもののようだ。ウェブサイトで少し触れたら浮世絵研究者から共同研究の声がかかった。当時本業が忙しすぎたのでスルーしてしまったのは惜しかったかも)  近世の文化人として見た場合、岳亭丘山の活動には、際立った特色というものがない。  あえて言うなら絵師としての仕事にある程度特筆するものがあるが、それにしても魚屋北渓門下の逸材、という位置付けでしかない。  戯作者としては『俊傑神稲水滸伝』などの当

          岳亭丘山研究はしがき(基礎史料紹介)

          鳥取市本町四丁目稲荷大明神社資料について

          (鳥取地域史研究 (4), 2002)  本町四丁目の稲荷大明神社は、旧城下町各所に見られる稲荷の小祠の一つである。鳥取城下町にも江戸時代に多数の稲荷が勧請され、現在もその多くが残存しているが、鳥取大火・鳥取大震災という二度の近代の災害などのため資料の多くは失われている。本町の稲荷は当初からの棟札等が残存している僅少な例である。  これは、鳥取大火に際して小谷嘉資氏が危険を顧みず搬出したことと、その当時の本町4丁目の町内会長・門脇秀雄氏が文書の裏打など保存に奔走されたことに

          鳥取市本町四丁目稲荷大明神社資料について

          ノスタルジック・95 ―Windows95登場前夜―

          (1995年頃執筆。ミニコミか何かに公表してたと思うけどなんだか思い出せず。懐かしいというより古臭いというか、作ったきり忘れてた20年物の梅酒みたいになってますが、若さが発酵していい感じに笑えるのでタイトルを変えて再掲載。なお、今出川とは同志社大学今出川校地のこと)  こんにちは、今出川のパソコン人柱です。今月も、何の得もないレビュー記事を書くために、結構苦心してみました。題して、「実用に耐える環境を最低限整えるのにいくらの資金が必要か?なんてね」です。ただし、今回はほとん

          ノスタルジック・95 ―Windows95登場前夜―

          日本語ワードプロセッサの追憶 2.1994年の夏休み

           (引き続き、2011年ころの未定稿。若干のソフトウェアレヴューつき)  ワープロ専用機程度の紙出力ができるMac用のワープロソフトが欲しい、というのが、1994年の夏休みの私の欲求のひとつだった。  なにしろ、普及機種とはいえ、MacintoishであるPerforma520は、貧乏大学院生には分不相応な買い物だったから、投げ出すわけにはいかない。しかし、標準添付のクラリスワークス2.0やSimpleTextはとても私の要求を満たすソフトではなかったし、そもそも舶来のM

          日本語ワードプロセッサの追憶 2.1994年の夏休み