見出し画像

ブラジリアン・トップチームでのトレーニング 〜柔術編〜

リオデジャネイロ南地区の高級住宅街ラゴアのブラジル銀行保養施設内にある、ブラジリアン・トップチームの道場では、月曜日から金曜日の間、2002年には1日に2回、2006年の時は1日に3回の柔術のクラスがあった。

2002年の時、1回目は朝の9時から、2回目は夜の7時から。朝のクラスを仕切るのは、カーウソン・グレイシーの黒帯であるオラーボ。夜のクラスを仕切るのは、ババ。

2006年の時、1回目は朝の9時から、2回目は午後4時から、3回目は午後7時から。朝のクラスを仕切るのがフーベンス。夕方のクラスを仕切るのはヒカルジーニョ。夜のクラスを仕切るのはババ。

2002年当時、朝のクラスはコンペティションクラスも兼ねていたので、当時はリオのチジューカ・テニスクルービで行われていた柔術世界選手権に出場する選手なども混じって高度な練習が行われていた。夜は仕事を終えた人たちが集まって賑やかなクラスが行われていた。

2006年になると、すでに最後の世界柔術選手権がリオで行われ、柔術の世界的な中心地はリオからカリフォルニアに移っていた。そのため、朝のクラスで以前のようなコンペティションに向けたトレーニングは行われておらず、柔術の好きな時間のある人たちが集まって朝のクラスが行われていた。夕方のクラスも朝と同様で少人数でこじんまりとした感じ。夜のクラスは2002年と同じように、仕事を終えた人たちが集まって賑やかなクラスであった。

ブラジルと日本の柔術のクラスの大きな違いは、ブラジルだとクラスで技を行う前に結構ハードなフィジカルトレーニングをすること。その時間がおおよそ30分ほどかかる。

内容は道場の周りをみんなで走ってから、ブラジル体操的な各種ステップを行い、その後腕立て伏せや腹筋、柔術のポジション的なドリル等が続く。

その後、今日のポジション(技)の練習になりスパーリングまで続くという流れになる。これが日本だと(道場にもよるが)最初にハードなフィジカルトレーニングをする事はなく、準備運動やストレッチから技の練習に入り、そのままスパーリングまでという流れになる。

このブラジルスタイルの大きな利点は、スパーリングに入るまでに結構疲れてしまっているので、スパーリングが力を使ったガチガチのスタイルにはなりにくいと言うことである。必然的に道着の引っ張り合いになったりお互いに力が入って膠着したりということが少なくなり、スパーリングはフローのような状態になりやすい。フロー状態だと、色々な技を試すこともできる。

これは日本でタイ人のコーチとムエタイのスパーリングをした時にも感じたことだが、高度なテクニックの持ち主は、それを使って高度な遊びができるのである。その裏にはガチになってもやられる事は絶対にないという自信もあるだろう。

ブラジルでスパーリングした様々な帯のレベルの人たちも、このような高度なテクニックを使って高度な遊びができていた。

ブルース・リー師祖に言わせるなら、“Turn your sparring into play – but always play seriously.” (遊ぶようにスパーリングを行いなさい。しかし常に真剣に遊びなさい。)といったところであろうか。

子供とガチのスパーリングをする大人はいるだろうか? いや、絶対にいないであろう。それは遊ぶようなスパーリングになろう、しかしその遊びは、子供に付き合っているからといっていい加減なものではなく、真剣である。それを幸運にも長い間経験することのできる子供たちは、驚異的な進化を見せる。

その当時、トップチームで教えられていたポジションは、今で言えばクラシカルなもの。ベーシックなパスやスイープ、サブミッションが中心であった。特徴的だったのは、オープンガードの使い方とそこからのオモプラッタや三角締め、スイープやバックを伺うコンビネーションであった。

このトップチームの特徴的なガードワークは、カーウソン・グレイシーの時代から引き継いできたものらしく、PRIDEでミノタウロが柔術マジシャンとして一時代を築いたのも、このテクニックが礎となっている。その当時に発売されたDVDブック「ノゲイラになる」に収録されている。今でも私はこれらのポジションが大好きだ。

ブラジルの道場には日本と違ってエアコンが存在しない。唯一の空調設備は天井に取り付けてある扇風機だけである。ブラジルでエアコンと言うと富裕層が部屋に取り付けているというイメージ。一般家庭ではその設備の設置費用や電気代を負担しきれない事情から、ほとんどエアコンは普及していない。電気代を節約するために昼間は照明を切っておくことがブラジルでは多く行われていたことからも、その事情は推測されよう。

ただエアコンが普及していないと言う事は、エアコンで発生する熱い空気もないということ。窓を開ければ心地よい風が入ってくるし、40度を超える猛暑でなければ、それほど過ごしにくいということはなかった。

リオのような暑い場所で真夏にクラスが行われると、道着は1時間半の練習で絞れる位にぐっしょりと濡れてしまう。これはフィジカル的な負荷と言う面で考えると、効果が高いと思う。道着なしのクラスが行われようものなら、道場一面は汗で水浸しになるほど。

サンパウロはブラジル高原に位置し、リオほど暑くはならない。しかし標高が850m程あり、高地トレーニングの効果がそれなりに得られる。私の場合だと標高600mを超えると空気の薄さを感じ、サンパウロで車に長時間乗っていると常に眠気を感じるほど。そのやや薄い空気の中でトレーニングしていると、自然と心肺機能も向上する。

柔術は、ブラジルのどこへ行ってもすべての階層の人に広く愛されているという感じがした。身体を使った表現であるから、たとえ言葉が通じなくても現地の人々と交流することができるし、言葉が通じればより深く交流することが可能になる。

世界を旅するなら、何かこういった身体表現を絡めていくと、よりその土地の人々や文化と深く交流することができ、思い出深い旅になる事は間違いない。


画像:https://pixabay.com/images/id-2113836/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?