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本当に探していたもの

私は、図書館が好きだ。

たくさんの本に囲まれた空間。

一人一人がそれぞれ何かと向き合っていることを表しているかのような、静けさ。

木の香り。
木で出来た本棚と、
もともと木だったものから紙になり、紙が束になった本たちに囲まれて…まるで森林浴だ。

タン、タン、タン。
コツ、コツ、コツ。

響く靴の音。


スッ…ストン。

本を棚に戻す音。


そして何よりも、

ペラッ。シャリッ。

ページをめくる音。

この空間の中で、
みんな何かを求めて、探して。
時々休んでは、夢中になっているのだろう。

みんな
探し物は、見つかっただろうか。


“図書室”が好きだった


学校における、“図書室”という空間。

図書館に似ているけれど、規模が少し小さく感じる。

学校で、私が最も好きだった場所だ。


よく、偉人の漫画や図鑑、絵本などを読んだりしていた。

当時はそこまで読書が好きではなかったけれど

図書室に集まる、本が好きな人々や
静かな図書室から眺める、賑やかな外の景色と
授業での勉強以外の学びがそこにはたくさんあり、好きだったのだと思う。

不思議なもので
先生に「勉強しなさい」と言われたことは「嫌だな〜」と思い、
何も言われてないのに自発的に「気になるな」と思ったことは、「勉強したい、知りたい」と思っていた気がする。


そこにはきっと司書の方もいたのだろうけれど、
“貸し出しカードを渡す人”としか思っていなかったので、
今となっては「もっと色々な話をしてみればよかった」と、後悔している。

そして、図書室は基本的に
混んでいるということがなかった。

それが一番、好きな理由だったかもしれない。


居場所と、話せる“大人”


私は今、音楽の講師として働いている。

最初の頃は、レッスンをするので精一杯だったし、正直今でも、楽になったわけではない。

ただ、少しずつ生徒との関係性が築けてきて、いい意味でお互いに緊張感が以前よりも少し減り、楽しいと思える時間も増えてきた。

小学生から、中学生、高校生、大学生、フリーター、会社員、フリーランス、経営者、役員、主婦、定年退職した人…

肩書で言えば、本当に幅広い。
詳しく話していないので、他にも色々な人がいるのだろう。


その中で、私が最も気になるのは、学生だ。
小、中、高、大学生。

学校ひとつにしても

普通科に行く人
英語科に行きたい人
専門学校に行きたい人
通信制に行く人
学校に行きたくない人

その中でも、
楽しく通っている人。
愚痴を言いつつも、仲のいい友人の話をイキイキと話す人。
毎日憂鬱そうな人。
何も話したがらない人。

…色々である。


私が学生だった時。

“学校”という場所で、
居場所と、話せる“大人”が欲しいと思っていた時期がある。


場所で言えば
学校の教室や職員室はもちろん、
保健室や、カウンセリング室という場所では、“心が休まらない”時があったのだ。

唯一、“図書室”だけ。
学校ので、平和な時間を過ごせた場所だ。

あとは、“ピアノ教室”。
学校のでの、社会。習い事である。

しかし、中学生になってからは部活動が忙しくなり、通わなくなってしまった。
…これが、失敗だったと思う。

学校の中だけを全ての世界だと思ってしまうと、とても苦しくなる時がある。そのため、習い事や好きな場所など、いつでも逃げ場として行ける場所を用意しておくことは、とても価値のあることだと、今となっては思うのだ。

通わなくてもいい。
気が向いた時に、いつでも行ける場所。

そしてその場所に、
いつでも話を聞いてもらえて、
自分から話をしたいと思える大人がいたら…。

カウンセリング室で
カウンセリングという形で話すのではなく、

まるで世間話のように
気軽になんでも話せる大人との関係性とその空間があったら、とても嬉しかった。

…だから今度は私が、その話せる大人と居場所になりたいと思った。


毎日元気に楽しく学校に行っている子でも、悩んでいることはたくさんあるし
学校に行かずに悩んでいる子でも、学校以外でいくらでも楽しい世界を見つけられる。

私がやりたいことは、
自分のように落ち着ける場所や話そうと思える大人がいないと感じる子供たちが、希望を持って心地よく、毎日生きていけるようにすることだ。


子供の頃の生活や、思い出は
良いものも、良くないものも。
大人になっても根強く残っていたり
人格を形成したりする。

だからこそ
子供の頃をどう生きたかは、人の一生の中でとても大切なことなのだと思う。


私は、学校の図書室のような場所になりたい。

さらに言えば、
いつでも行ける、音楽室のような場所になりたい。

本に囲まれて、落ち着く場所。
静かで、穏やかな場所。
いつでも話を聞いてくれる人がいる場所。

さらに、一緒に音楽を楽しめる場所。
歌ったり、踊ったりできる場所。

“「そんな場所を、好きな音楽を通して学生たちに提供できたら」”

これが私の探していた、“夢”なのかもしれない。


本当に探していたもの


青山美智子さんの『お探し物は図書室まで』を読んで。

自分の探していたもの、求めていたもの。
そして
これまでの人生のこと、これからの人生のこと。

一度立ち止まって、ゆっくりと考えるきっかけを与えてもらえた気がする。


この本を手に取った時、私は書店に足を運んでいた。
その時。私は、本を探していたのではない。
おそらく居場所や生き方を探して、書店へ辿り着いたのだ。


登場人物たちが、図書室に足を運び、
本に出会い、自分なりの答えを見つけていくように

私自身も、この本に出会えたことで
今の自分が探していたものが見つかったような気がする。

…今の仕事は、私の描く夢に遠からず。とも思える。
これまでやってきたことは決して無駄ではなかった。
しかしこの夢の実現には、もう少し他のやり方もあるかもしれない。
考え始めると、これまでの悩みや葛藤の雲が少しずつ晴れていき、心が明るくなってきた。


探し物は、どのタイミングで見つかるか、わからない。

“見つかる”と言うよりも、自分で“気づく”のかもしれない。

そして、ひょっとしたら
ふと思い立って図書館にでも足を運んだ時などに
思いがけず見つかったりするものなのかもしれない。


2023.12.28

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