見出し画像

奏心声音⑫

母の日
色とりどりのカーネーションでどこも賑やかだ
さんな花々には目も触れず
少女は黙々と歩く

一体何を考えているのか

少女にとっての母親とは
一度そういえば聞いたことがある

少女は全くその会話に興味を示さず
話が続かなかったことを思い出した

今日の母の日についても問い掛けない方がよさそうだ
僕はそう思いながら
少女の後ろを歩く

ふと立ち止まって振り向いた少女
『これがいいな』

少女の手に可愛いクッキーが

『これが欲しいのかい』
僕が尋ねると少女は笑って
お小遣いで貯めたお金のチェックを始めた
そしてどこかに消えていく

そういえば最近クッキーなんて買ってないな
特に僕はクッキーが苦手だ
口の中で溶けてまとわりつく感じが嫌いなんだ
しかし
子供って確かにクッキーをよく好んで食べているな
そんなことを考えながら少女を探す

すると笑顔で帰ってくる少女を見つける
手には小さな紙袋

『大好きだよ』

そう言って僕に紙袋を差し出す
もちろん中身はさっきのクッキーだ
たくさんのお手伝いをして貯めたお小遣いで
こんな可愛いクッキーを

『大好きだよ』と僕もつぶやく

そして一口
少女の 大好きが口の中で広がって
いつまでもまとわりついて離れない
【こんなに美味しかったかな】
この感覚が本当は嫌いだったはずなのに
なんだか幸せな気持ちになる

ありがとう  この日があってよかった

僕は僕の母に
傘を送る 優しい色の雨の日も傘の中に太陽を

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?