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心宿るところ_脚本(シナリオ)

※連載漫画用の脚本(シナリオ)です。
こちらのプロットの第1話をシナリオ化したものです。

※横読み漫画で24p前後の尺になるかと思います。


■タイトル

「心宿るところ」

■登場人物

  • 仁科 悠斗(18) 大学生

  • 櫻井 敬一郎(26) ピアニスト

  • 仁科 真由(18) 大学生、悠斗の双子の妹

■脚本(シナリオ)

■帝都大学病院・集中治療室・中

心臓移植手術を終え、麻酔から目覚める仁科悠斗(18)。
(悠斗の視界)徐々に瞼が開き、白い天井が浮かびあがる。

<ああ また……>

<また 生き残ってしまった……>

部屋の中に心電図と人工呼吸器の音が響いている。

看護師A「悠斗くん?」

看護師A、ベッドの上から悠斗の顔を覗き込んでくる。
悠斗、かすかに瞬きをする。

看護師A「先生 悠斗くんの意識が!」

看護師A、笑顔で部屋から出ていく。

■同・正面玄関・昼間

帝都大学病院の外観。
ガラス張りの自動ドアの前で、大勢の医師や看護師と向かい合っている悠斗。両手には大量の花束。

悠斗「今までどうもお世話になりました」

悠斗、深く頭を下げる。周囲から大きな拍手が起きる。

看護師A「寂しくなっちゃうわね」

看護師A「小児科にいた頃から 悠斗くんは私たちのアイドルだったから」

看護師B「そうよ 一般病棟に移ってからも モテモテだったじゃない」

看護師B「主に 同室のお婆ちゃんたちと 私たちに」

一同、大笑い。
医師、悠斗に右手を差し出し、

医師「なにはともあれ 退院おめでとう 悠斗くん」

医師「これからは 今までの十八年間を取り返すつもりで 学校生活を楽しんでおいで」

悠斗「はい」

悠斗、医師と握手する。

■同・駐車場・昼間

車がまばらに停まっている。
イヤホンをつけた仁科真由(18)が、ピンク色の軽自動車に寄りかかって立っている。

悠斗「お待たせ」

真由、近づいてきた悠斗に気づき、イヤホンを外す。

真由「遅い」

真由は運転席、悠斗は助手席にそれぞれ乗り込む。
二人、シートベルトを着けながら、

悠斗「なに聞いてたの?」

真由「櫻井敬一郎の『君のために』」

悠斗「なにそれ」

真由「今流行ってる連ドラの主題曲」

悠斗「ふぅん」

真由「興味ないなら最初から訊かないでよね」

悠斗「ないってわけじゃ」

悠斗、車内を見渡す。

悠斗「真由 ゴミ箱は?」

真由「そこ」

真由、助手席の足元に置かれた黒いゴミ箱を指さす。
悠斗、手に持っていた花束をゴミ箱に突っ込む。

悠斗「入りきらないや」

真由「最低」

真由、顔をしかめる。

真由「どうして神様も あんたみたいな人間に 心臓を恵んでくれたんだか」

真由、ため息をつき、車を発進させる。

真由「お父さんがあんたの面倒見ろって言うから 明日だけは一緒に大学行ってあげるけど」

真由「帰りは別ね 私バイトあるから」

悠斗、助手席の窓に映る景色をぼんやりと眺め続ける。

■南里大学・正門・夕方

南里大学外観。「入学式」の看板。桜が散る中、サークルの勧誘がチラシを配っている。
悠斗、受け取ったチラシを見て、すぐに握りつぶす。
正門の脇にはスーツ姿の櫻井敬一郎(26)が立っている。櫻井、悠斗に気づくと、駆け寄ってくる。

櫻井「あの すみません 仁科悠斗さんですか?」

櫻井に左腕を掴まれ、悠斗、眉間に皺を寄せる。

悠斗「そうですが なにか?」

櫻井「よかった 不躾なお願いで恐縮なのですが……あなたの胸を触らせていただけないでしょうか?」

悠斗「は?」

櫻井「お願いします! 少しだけ! 少しだけで構わないので」

悠斗「お おい」

櫻井、シャツの上から悠斗の左胸に手を当てる。

櫻井「ミキ……ミキ……やっと会えた」

両目から涙をこぼし、その場にくずおれる櫻井。
櫻井の右手は大きな火傷の痕があり、小指がない。

悠斗「あんた まさか……」

悠斗、大きく目を見開き、自分の胸元に視線を落とす。

■喫茶店・中・夕方

ボックス席に向かい合って座る悠斗と櫻井。
悠斗の前にはクリームソーダ、櫻井の前にはアイスコーヒーが置かれている。
櫻井、深々と頭を下げて、

櫻井「先ほどは取り乱してしまってすみませんでした」

櫻井、【ピアニスト 櫻井敬一郎】と書かれた名刺を取り出す。

櫻井「私 こういう者です」

名刺を片手で受け取った悠斗、軽く文字を眺めて、

悠斗「ピアニスト?」

櫻井「ええ。まぁ……元 かもしれませんが」

櫻井、歯切れ悪く、うつむいて、

櫻井「恋人が死んでから その……弾けなくなってしまいまして……」

膝の上で握りしめられた櫻井の両手、小刻みに震えている。

悠斗「だから俺に会いに来たってわけ?」

悠斗「その恋人ってのが 俺の臓器提供者(ドナー)なんでしょ?」

櫻井、驚いたようにがばっと顔をあげる。

櫻井「よくお分かりになりましたね」

悠斗「あんた 態度に出すぎだから」

悠斗、つまらなさそうに、クリームソーダをストローで飲む。

悠斗「でも どうやって調べたの?」

悠斗「臓器提供者(ドナー)の情報って 基本非公開なはずだけど」

悠斗、軽く櫻井を睨む。櫻井、目を泳がせて、

櫻井「それは……」

櫻井「少々強引な手を使って 調べたことは認めます」

櫻井、悠斗に向かって頭を下げる。

櫻井「でも決して あなたにご迷惑をおかけするつもりじゃ……」

悠斗「別にどうでもいいけど」

悠斗「現に今 迷惑かけられてるし」

悠斗、残り半分になったクリームソーダをストローでかき混ぜる。

櫻井「すみません……」

<めんどくさ……>

<もう帰っていいかな>

悠斗「じゃあ 俺これで」

悠斗、ショルダーバッグを肩にかけ、立ち上がる。

櫻井「待って 待ってください!」

櫻井、慌てて悠斗の腕を掴み、

櫻井「せっかく会えたんです」

櫻井「君さえよければ これからも定期的に 僕と会ってもらえませんか?」

悠斗「断る」

櫻井「お願いです そんなにお手間はとらせませんから」

悠斗「……会って それで?」

櫻井「それで……」

悠斗「また俺の胸に触りたいって言うんだろ この変態」

悠斗、べぇ、と舌を出し、櫻井の手を振り払う。
絶句する櫻井を放置し、店を出ていく悠斗。

■喫茶店・外・夕方~夜

店を出ると、夕焼けから夜空へと変わりつつある空に、一番星が輝いている。

<マジで無駄な時間だった>

(フラッシュバック)「僕と会ってもらえませんか?」と懇願する櫻井。

<あんな辛気臭い男と会うのは 二度とごめんだね>

悠斗、小さくあくびをして、その場から足早に立ち去る。

<2話につづく>


© 2023 Mashii Imai


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