「もじょまじょ!」第3話
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第2話
第3話
○美咲の家・リビング(夜)
加恋がやってきたのに気づき、ソファから立ち上がる美咲。
美咲「やっと来たのね、加恋。待ちくたびれたわ」
加恋「美咲……」
加恋、走ってきたせいで上がる息を堪え、美咲に問いかける。
加恋「美咲が洗脳したの? あのツイート……あれから世の中がおかしくなって……」
美咲「まさか」
鼻で笑う美咲。
美咲「ただの人間の私にそんなことできるわけないじゃない」
美咲の頭にはツノが生え、肩には黒い影が乗っている。
マギサ、そこではっと気づき、
マギサ「あ、あれは……妖怪・ルッキズム!」
加恋「ルッキズム?」
マギサ「人々が心に抱く外見至上主義が生み出した妖怪よ」
マギサ「宿主の力を吸って、実体化できるほど大きくなっているなんて……」
美咲の背後で、ズモモ…と大きくなる黒い影。部屋を覆うほど。
加恋「なるほど。喪女狩りを扇動したのはこいつってわけね」
マギサ「ああ、喪女の宿敵とも言うべき存在だ」
両手に持ったサイリウムを構える加恋。
体を屈め、美咲に襲い掛かるチャンスを窺うマギサ。
美咲「ふぅん。やるつもりなんだ。ブスのくせに生意気じゃない」
マギサ「伏せろ、加恋!」
加恋「……ッ!」
美咲が手を広げ、石礫を飛ばしてくる。
フローリングの床に、ドカドカと大きく穴が開く。
加恋、咄嗟に魔法で盾を作り、それらをかわすが、石礫はいくつか貫通し、加恋の頬をかする。
美咲「いつも思ってたんだけどさぁ……」
美咲、加恋を冷たく睥睨し、
美咲「その姿でよく生きていけるわね」
美咲「私だったら自殺するけど」
と笑う。
マギサ「聞くな、加恋! 精神攻撃よ!」
美咲「醜い顔に、たるんだ体。汚い肌に、ぼさぼさの髪。美意識の欠片もないダサい服」
加恋「あ……」
美咲「何の生産性もないただのゴミクズ」
加恋「やめて……」
美咲「一生誰からも愛されないし、幸せになれるわけない」
加恋「やめてってば!」
加恋、美咲に衝撃波を浴びせる。
加恋「どうしていつも私を馬鹿にするの? 私なんかした?」
加恋「ブスだって必死に生きてるのに!」
美咲「何も努力してないあんたに言われたくない!」
美咲、顔を怒りに歪めて、黒い魔弾を撃つ。
(石礫より大きく、破壊力が高いもの)
魔弾は盾を突き破り、加恋に直撃。壁や天井がバラバラと崩れる。
マギサ「加恋!」
美咲「私は美しくなるために毎日頑張って、時間もお金もかけて、やっとこの見た目を手に入れたのよ!」
美咲の思い出カットをいくつか。
(アイプチ片手に化粧する様子、ダイエットに励む様子、美容整形する様子)
加恋、瓦礫の中、立ち上がり、
加恋「美咲ががんばってたのは知ってる。すごいなって思ってた」
加恋「でも、だからって、それを私に押し付けないで!」
加恋、美咲相手に反撃。(風魔法のかまいたちを飛ばすなど)
加恋の喪女レベル:88。
加恋「美しいものが善で、醜いものが悪だなんて、誰が決めたの?」
美咲「は……そんなの……」
答えようとして、言葉に詰まる美咲。
加恋「目を覚まして、美咲!」
加恋「この国は昔から、みんな、みんな、ルッキズムに洗脳されてるの!」
加恋「本当は、あなたこそがルッキズムの被害者なのよ!」
美咲「……ッ!」
美咲、はっと後ろを振り返る。
自分の背後にそびえ立つ、黒い影(ルッキズム)と目が遭う。
加恋「私は、美の基準は自分で決める! 他人にジャッジを委ねない!」
加恋「他人から評価してもらうことでしか幸せを感じられないあなた達なんかより、よっぽど幸せよ!」
加恋の喪女レベル:95。
美咲「そんな……」
今までの価値観が揺らぐ美咲。
美咲の洗脳が解けかかっていることに気付いたルッキズム、慌てて支配を強めるべく、術を使う。
美咲「あああああ!」
美咲、その場にくずおれる。
ドクンと心臓が脈打ち、頭が締め付けられるように痛む美咲。
加恋「美咲!」
加恋、慌てて駆け寄るが、ルッキズムによる美咲の再洗脳は完了。
目をギンッと血走らせ、こめかみに血管を浮かべる美咲。
美咲「うるさい! うるさい、うるさい、うるさい!!」
再び石礫が降ってくる。今度は大粒で大量。
美咲「喪女のくせに!! 社会の最底辺の分際で、私に指図するな!」
第二形態に変身する美咲。
巨大化した美咲は、家の天井を突き破り、空高く飛び上がる。
○美咲の家・上空(夜)
周囲に炎を撒き散らし、暴れる美咲。
加恋、美咲にはもう自分の声は届かないかもしれない、と心を痛めつつ、
加恋「……そうね。私たちは一人一人だととても弱い」
加恋、空を見あげ、
加恋「でも、私たちが大勢集まったらどうかしら?」
美咲を追って空へと飛びあがる。
加恋「喪女魔女限定解除(リミテッド・オーバー)!」
満月を背に、大きな翼を生やし、
加恋「みんな、私に力を貸して!」
サイリウムを振り、世界中の喪女に協力を呼びかける加恋。
加恋「喪女魔女最終決戦超進化(ファイナル・スペシャル・トランスフォーメーション)!」
サイリウムの光は、瞬く間に地球上を駆け巡り……
加恋の呼びかけを聞いた喪女たちが、戦闘服(全身タイツ)に変身し、各地から美咲の家の上空に集まってくる。
マギサ「こ、これは……喪女魔女百鬼夜行(スターナイト・カーニバル)!」
夜空に続々と列をなし、集まってくる喪女魔女たちを見て、驚愕するマギサ。
マギサ「古(いにしえ)の魔導書に伝わる、伝説の技を加恋がどうして……」
はっと気づくマギサ。
加恋が以前、サバトで魔導書を買っていたことを思い出す。
マギサ「まさかあの子、一度読んだだけで習得したというの?」
集結した100人ほどの喪女魔女たちを従え、センターでドヤ顔を決める加恋。
加恋の喪女レベル: 100にカンスト。
一方、加恋たちと対峙し、余裕の笑みを浮かべる美咲。
美咲「ふん! 喪女が何人集まったところで、ゴミはゴミ! 何ができるって言うの?」
加恋「見てればわかるわ!」
加恋「みんな、いくわよ! ミュージック・スタート!」
加恋、手を叩く。
すると、どこからともなく陽気な音楽が流れ始め、喪女魔女たちが一斉に踊り始める。
喪女魔女たち「オ~レ~♪ オ~レ~♪」
音楽に合わせ、ドヤ顔で一斉にポーズを決める喪女たち。
喪女魔女たち「喪女魔女サンバ♪」
美咲「きゃああああ!」
ダメージを受け、苦しむ美咲。
喪女たちのダンスは続き、腹太鼓を鳴らし始める者も。
加恋「ふふ……どう? 一緒に踊りたくなるでしょう?」
美咲「やめて! これ以上、汚いものを見せないで!」
ムッとする加恋。
加恋「まったく失礼しちゃう! そんなあなたには……!」
加恋「喰らえ! 喪女魔女全裸舞踊(ダンシング・オールナイト)!」
全身タイツを脱ぎ、踊りながら美咲の眼前に迫る喪女たち。
美咲「目がぁ~! 目がぁ~~~!!」
目を押さえ、仰け反る美咲。
加恋、ガッツポーズをして、周囲の仲間に声をかける。
加恋「効いてる……! みんな、ここから一気に畳みかけるよ!」
喪女魔女たち「おう!」
と、夜空に一つの巨大な球体が浮かび上がる。(加恋が魔法で生成したもの)
球体の外側には着火線のようなものがついており、半円状に蓋が開いた内部には座席が並んでいる。
美咲「何をするつもり……? まさか……!」
喪女魔女たち、球体の中に並んで座り、おもむろに蓋を閉める。
加恋「あなたにこの世の美を見せてあげる!」
加恋、球体の外側に伸びた着火線に火をつける。
加恋「夏の風物詩! 喪女魔女打ち上げ花火(ファイア・ワークス)!」
球体が夜空に打ちあがり、巨大な花火となる喪女たち。
美咲「いやああああ!」
マギサ「おー、綺麗だなー」
加恋「かーらーのー!」
加恋、花火となってパラパラと落ちてくる喪女たちの体に重力魔法をかけ、落下方向を操る。
加恋「星に願いを! 喪女魔女流星群(メテオール・シューティングスター)!」
美咲「ぎゃあああああ~~~!!!!」
美咲の体めがけて、流星群となって降ってくる喪女たち。
ズタズタに切り裂かれる美咲の体。
美咲「や、め、て……これ以上はもう……」
よろめく美咲の体から、黒い影(ルッキズム)が蒸発しかけている。
それを見た加恋、勝機を逃すまいと、必殺技を繰り出す。
加恋「これでとどめよ! 真剣必殺☆喪女魔女竜巻大爆発(トルネード・エクスプロージョン)!」
美咲「ぐああああああ~~~~!!」
夜空に爆散する美咲。霧散する黒い影。
気を失い、落下する美咲の体をキャッチし、仲間と微笑み合う加恋。
(美咲の頭からはツノが取れている)
○世界喪女魔女連合・日本支部・事務所(昼)
加恋、ノートパソコンに向かい、仕事をしている。
傍らの机の上には、丸くなってあくびをするマギサの姿。
<あれから二か月――>
<人々は喪女狩りをやめ、世界は元に戻った>
いつもと変わらないスクランブル交差点の様子。
暇そうにしている警察官。
洗脳が解け、自宅で元気に料理をしている美咲。
<だが、ルッキズムは完全に消滅したわけではない>
<今も人々の心の奥深くに根付き、洗脳の機会を窺っている>
公園で、ブスと美人の女の子たちが一緒に仲良く遊んでいる。
子どもたちを見守る母親の手には、美容広告が表示されたスマホ。
<ルッキズムのほかにもレイシズム、セクシズム、エイジズム、シングルハラスメント……>
<私たちの敵はまだまだたくさんいる>
TVのワイドショー、Youtubeチャンネル、SNSに投稿された動画。
それらに映る人々の頭には、様々な形のツノが生えている。
<私の今の仕事は、そんな社会を見張り、彼らの暴走を未然に防ぐこと>
パソコンを閉じ、大きく伸びをする加恋。
と、正面に座っていた喪女魔女Aが加恋に電話を取り次ぎ、
喪女魔女A「加恋さん、お電話です!」
電話を受け取った加恋、にっこりと微笑み、
加恋「世界喪女魔女連合・事務局です。何かお困りですか?」
と、再び仕事を始める。
END
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