映画『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』


ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋


 ジョナサン・レビン監督の『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』は、典型的なロマコメ映画だ。恋する2人がさまざまなハードルを乗り越えながら、繋がりを強めていくストーリー。

 しかし、本作は小さじ一杯のひねりを加えている。社会的ステータスのある男性が庶民の女性を見初めるといった、『マイ・フェア・レディ』(1964)や『プリティ・ウーマン』(1990)みたいなパターンではない。アメリカの国務長官であるシャーロット・フィールド(シャーリーズ・セロン)に、冴えないジャーナリストのフレッド・フラスキー(セス・ローゲン)が憧れを抱く構図なのだ。これまで作られた多くのロマコメ映画で見られる男性優位な性役割を逸脱し、物語を紡ぐ。女性の社会進出が進み、そのことへの理解もある程度広まってきた現在を意識した作りだ。

 その姿勢は、シャーロットを通して描かれる働く女性の大変さにもうかがえる。テレビに登場すれば、ファッションやセクシーさなどの見た目に言及される。対等に話をしていたと思いきや部屋に誘われ、あしらわなきゃいけない。ヒステリーと言われるから怒りは出さないし、他国の首相と談笑しただけでロマンスが噂されてしまう。さらに、シャーロットとフレッドの仲にひびが入りかねない件では、シャーロットの受けるダメージのほうが大きいという理不尽さも描かれる。これらの描写にあるのは、“女だから”の色眼鏡に対する批判だ。

 コメディー要素も抜かりはない。特に秀逸なのは、冒頭で登場する「WHITE PRIDE」のシーンだ。白人至上主義団体に潜入していたフレッドが逃げだす流れは、ステレオタイプに留まらないとする本作の姿勢と、コメディーとして笑える娯楽性を共立させている。他にも、『ゲーム・オブ・スローンズ』やマーベルのネタをぶっこんだりと、際どいユーモアが目立つ。下ネタやドラッグ描写も含め、過激度は高めだ。

 突出した点のなさは惜しいといえば惜しいが、現在の価値観を反映した半歩先のロマコメとしては十分に評価できる。



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