大フィルワーグナー池田香織、勝手に応援団


10月22日と23日、大阪フィルハーモニー交響楽団第561回定期演奏会が開かれる。

尾高さんと大フィル、そしてソリストが池田香織でヴェーゼンドンク、黄昏ときたら期待しないではいられない。今日はこのコンサートの「勝手に応援団」!

開幕はリエンツィの序曲。正式タイトルは『リエンツィ、最後の護民官』、1840年に作曲した5幕から成るオペラ。エドワード・ブルワー=リットンの小説『リエンツィ、最後のローマ護民官』を原作とし、作曲者本人が台本を書いた。日本では98年に藤沢市民オペラで日本語で上演され、これには私も関わった。

ヴォーカルスコアは分厚く、マイスタージンガーとほぼ同じ!quasi 電話帳(最近見ないね) カットなしでやったら演奏時間もマイスタージンガーと同じくらいかかるそうだ。

5幕にある「リエンツィの祈り」が有名で、これは序曲の最初に出てくるメロディーと同じ。

「リエンツィ」序曲冒頭部

このメロディーにターンがついている。真ん中に線が入っているので「れーーど♯れみれしー」と下から演奏するのが一般的。

そしてこれと同じ音型がメイン曲の「神々の黄昏」にも現れる。

「ラインの旅」の前、夜明けの場面

「ら♭ーーそら♭し♭ら♭ふぁ」
こちらはターンが実際のメロディー音として書いてあるが「リエンツィ」の音型と一緒なのである。

もしこの関連を考えてプログラミングしたとしたら恐れ入るが、、きっと違うだろう(笑)ワーグナーはターンが好きだったのだ。

「神々の黄昏」の最後に置かれるのがブリュンヒルデによる1人語り、一般に「ブリュンヒルデの自己犠牲」と呼ばれているものだ。

池田が15分以上にもわたり1人で歌い続けるのだが、一体どんな内容なのか紐解いてみよう。語りは大きく6つの部分に分かれている。以下大意。

・ジークフリートの身体を焼くために薪をつみあげて。私もグラーネと共に後を追うの。

・彼ほど誓い契り愛を守った人はいるかしら?そして、彼ほどそれらを裏切った人はいない。どうしてこうなったのか皆さんわかる?

・ヴォータンよ。あなたの思う通りに行動したジークフリートは呪いに陥り私を裏切る羽目になった。それは私が全てを悟るため。神である父上、もう休んでよいのです!

・(ジークフリートの指から指環を抜き取り)ラインの娘さんたち、この指環を返すよ。

・(松明を持ち)二羽のカラスよ、ローゲにヴァルハルに向かうよう指示しなさい。私は壮麗な城に火をつける。(と言って薪に火を放つ)

・グラーネ、友の所に行くのが嬉しくてそんなに嘶くの?私は彼と強い愛の力で結ばれたい!ジークフリート、あなたの妻が挨拶を送る!(火に飛び込む)

まとめると

火葬のお願い → ジークフリートへの思いを吐露 → 神への告発と判決 → 指環の返還宣言 → 火をつける → 恍惚状態で火に飛び込む

このように流れを理解しておくと20分間のモノオペラのように味わえるのではないだろうか?今まで何度も歌う機会に恵まれこの曲を十八番にする池田香織の絶唱が聴ける。何よりすごいのは、リングのブリュンヒルデを池田は全て演じており、その経験からくる歌唱が他の追随を許さないということ。いやが上にも期待は高まる。

彼女が歌い切ると、その後館は業火に包まれライン河は氾濫する。ローゲの火はヴァルハルにまで達し壮麗なる城も焔に包まれる。。指環の終焉。。
大フィルの豪快なサウンドが今から楽しみだ。

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さて真ん中のプログラム「ヴェーゼンドンク歌曲集」は、プログラムに表記がないが、ヘンツェ編曲版で演奏される。(これ重大なことだから書いといてほしいな!)
原曲より短3度低く、オーケストラは31名編成の室内オケだ。弦楽器は一人一人がソロのような扱いで、全体の響きはワーグナーの原曲に比して、より耽美的だ。特に5曲目「夢」は細分化された音が網目のように連なり、トリスタンの夜の世界をさらにマシマシにした印象。
池田香織は今までにこのヘンツェ編曲版を何度も歌っている。私もこちらの方を聞き慣れすぎて、最近ワーグナーの原曲に違和感を感じる始末、トホホ。。ともかく!ワーグナーの世界観を100年後の20世紀の巨人ヘンツェが編み直した幽玄の世界に導いてくれるはずだ。期待せずにはいられない。

あ、ヴェーゼンドンクの1曲目「天使」の最後、後奏の部分のフルートにこういう音型がある。

フルートのターン!

これでプログラム3曲の関連性は完璧だ!!

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