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大阪フィル 尾高忠明池田香織 オールワーグナープロ 大阪遠征記

あれは忘れもしない2016年7月15日。。新国立劇場高校生のための鑑賞教室「夕鶴」最終公演を指揮し終えた私は、出演者、合唱で活躍してくれた子どもたちとの別れもそこそこに、急いで劇場を飛び出した。飯守泰次郎指揮関西フィルハーモニー管弦楽団『トリスタンとイゾルデ』3幕のコンサートがその日の19時からシンフォニーホールで行われるからだ。ところが京急がノロノロ、なんと大阪行きの飛行機に搭乗できなかった!二塚直樹さんのトリスタンをどうしても聞きたくて、こんな無理なスケジュールを組んだのが仇になったか、、結局新幹線で現地入りし着いたのは終演後。コンサートを観た幸せな方たちとの飲み会だけに参加したのだった。。

と、大阪に行くとなるとどうしてもこの体験が思い出されてしまうのだ。今回の遠征では時間に余裕をとりまくって、大阪入りを果たしたのだ。さて今回の目的は大阪フィルハーモニー交響楽団第561回定期演奏会、曲目出演者は以下の通り。

2022.9.22 (木) 19:00
9.23(金) 15:00
フェスティバルホール
指揮:尾高忠明
メゾ・ソプラノ:池田香織
ワーグナー/歌劇「リエンツィ」序曲
ワーグナー/ヘンツェ編 ヴェーゼンドンク歌曲集
ワーグナー/楽劇「神々の黄昏」より
(夜明けとジークフリートのラインの旅~葬送行進曲~ブリュンヒルデの自己犠牲)

池田香織がヴェーゼンドンクと自己犠牲を歌う!しかもヘンツェ版を使うというし、黄昏の豪華なサウンドを大阪フィルで聴けるとあって、これは是非聴きに行かねばと思った次第。

池田香織が初めてヘンツェ編のヴェーゼンドンクを歌った時から、私はこの版と付き合っている。とてもユニークな31名編成の室内オーケストラ用に書かれている。

フルート、アルトフルート
オーボエ、イングリッシュホルン
クラリネット、バスクラリネット
ファゴット、コントラファゴット
上記木管各1
ホルン2
ハープ1
弦6-4-4-4-2

弦はそれぞれがソロの役割を担い、楽器の組み合わせは繊細を極める。モットル版に比べるとより色彩的で耽美的、調性がワーグナーのオリジナルより短3度低いのもそう感じられる要因かもしれない。

演奏は大編成で豪快に鳴ったリエンツィ序曲の後だけに、よりしっとりと聞こえた。2日目は若干立ち位置を変えたのか、声の飛びが初日より格段に良かった。聞くところによると2日目公演前にもリハをやったというのだから、尾高マエストロのこだわりも相当なものだったろう。

後半は黄昏、「ラインの旅」も「葬送行進曲」も一度終止して照明が暗くなる。結局3つの曲の開始が全て「運命の動機」で始まることとなった。和音形態が全て違うのでそれぞれの味わいが感じられたのは興味深かった。

「夜明けとジークフリートのラインの旅」:夜明けを告げるチェロのメロディーはモヤの中に包まれている。もう少し聞こえて欲しかった!2人の「ハイルハイル」の部分を経て大騒ぎコーナーへ。オケだけだと「ブリュンのハイCがちゃんと伸びるだろうか?」などという余計な心配をしなくて良いので助かる。ジークフリートの角笛が舞台裏から聞こえてくる。そこから「ラインの旅」に。ここのブリッジはアンサンブルの難所なのだ。今日も崩壊ギリギリ持ち堪えたって感じだったかな。ところでいつも不思議に思うのだがこの先に「ローゲの動機」が出てくるのである。その理由について自分的に答えを出しているのだが、、長くなるのでまたいつか語ろう。1場に行く直前の和音がh-mollに終止するエンディング。バストランペットが大変良かった。

「葬送行進曲」:葬送のリズムは楽譜通りの16分音符、ドイツなどではこの16分を時間かけて演奏することがあるからね。チェロとヴィオラの9連符、これなかなか合わないのだけど良い感じで決まっていた。クライマックスに向かう弦のうねりはあまり感じられず。泰で慣れていると色々もどかしくはある。到達したクライマックスは大阪フィルならではのもの。よくあるc-mollの終止を付けて終わっていた。

「自己犠牲」:冒頭運命の動機がとってもスローに演奏されたので「どんな重い演奏なのか?」「池田香織が泰次郎風な芸風でやるのか?」と思案していると、予想に反して"ターーン タタタ ターーン タタタ"が超軽く始まった!初日は少しそれに惑わされていた感もあったが、2日目は完全に自分の世界を作り出していた。そして自己犠牲全部が何より『楽劇』だったのだ!ブリュンヒルデとして、ハーゲンの手下に命令、横たわるジークフリートを見ながら、ヴァルハルにいるヴォータンを遠く見ながら、カラスを見ながら、指環を還し、グラーネを喜びを持って迎え、恍惚として火に飛び込む、、さすがである。
ローゲが盛大に館を燃やし、ライン河が氾濫(ここの穏やかな感じの演奏だけは解せない!!)、そして会場にいるかなりの人数が"Züruck vom Ring!!"と心で歌った箇所を経て、ヴァイアヴァーガが戻り救済の動機へと到達、最後のDes-durの響きも完璧だった。
オーケストラもブリュンヒルデと共にドラマを構築し見事!特にカラスの部分のコントラバスポザウネのlow Cが素晴らしい音で感激(オタクすぎる感想ですいません)!時には鳴らしすぎで「ここはバイロイトのピットではない」と感じた部分もなくはないが、豪快な大阪フィルのサウンドを堪能できたのが嬉しかった。

ということで2回とも公演を堪能してきた。いや〜ワーグナーが好きなのか池田香織が好きなのか、、とにかく遠征してでも見たい聞きたい公演があるというのは素晴らしいことだねえ。

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