城谷正博

オペラを生業としています。ここでは私が人生を懸けて愛するワーグナーのことを中心に、さま…

城谷正博

オペラを生業としています。ここでは私が人生を懸けて愛するワーグナーのことを中心に、さまざまな音楽の話題をお届けできればと思っています。 また私はメディカルアロマコンサルタントとして、お薬に頼らずエッセンシャルオイルで日々の健康をサポートすることもお伝えします。

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    オリヴィエ・メシアンの作品の解読を行なっています。特にトゥランガリーラ交響曲の分析が中心です。

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ワーグナー、そしてメシアン

こんにちは、城谷正博です。 日々オペラと向き合う生活を送っています。 あらゆる時代のオペラと関わっていますが、その中で最も頻繁に取り組んでいるのがワーグナーの作品です。 これまでに主要10作品の上演に関わり、すべてをレパートリーとして持つことができました。作品を知れば知るほど深みにハマっていくその魅力を解き明かしたいと、飽くなき興味を持って研究を積んできました。難しいと思われているワーグナーをもっと身近にしたいという思いで「わ」の会を立ち上げたのが10年前、その活動は認知さ

    • メシアン『トゥランガリーラ交響曲』 分析ノート 第10楽章

      第10楽章「終曲」 Final この楽章は一聴すると第5楽章「星々の血の喜悦」によく似た音楽に聞こえる。同じ3/16という拍子で書かれ、調性も Des dur 〜 Fis dur と対置される。3度の連鎖である「彫像の主題」で構成された第5楽章のテーマと、3度と4度を中心に構成される第10楽章のファンファーレ主題とは親近性を感じることもできる。しかしながら音楽の構造や語法、とりわけテンポ(第5楽章は1小節138、第10楽章は1小節100である)の違いも顕著であり、与える印象

      • メシアン『トゥランガリーラ交響曲』 分析ノート 第9楽章

        第9楽章「トゥーランガリラ3」 Turangalîla 3 全曲中3つ目の「トゥランガリーラ」楽章。冒頭に提示されるテーマと3つの変奏で構成されるが、それより中心的な役割は打楽器によるリズムセリーだ。途中から参入する13人の弦楽器は、そのリズムとハーモニーが打楽器のセリーに従属するという特殊な仕組みをとっている。 本稿ではオリヴィエ・メシアンの以下の著作物から引用を行っている。引用元は "OLIVIER MESSIAEN TURANGALÎLA SYMPHONY pou

        • メシアン『トゥランガリーラ交響曲』 分析ノート 第8楽章

          第8楽章「愛の展開」 Développement d'Amour 昔のCDではこの楽章の和訳は「愛の敷衍」となっており、この「敷衍」という言葉が Développement のニュアンスをよく表していて、私は好きだ。しかしここではわかりやすく「展開」という言葉を使いたいと思う。 「トゥランガリーラ交響曲」のような巨大な作品においては「音楽的展開」となる一つの楽章が必要だった。それがこの第8楽章である。あちこちに散らばっている短い展開を除いて、この作品のいくつかの曲は本質的

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          メシアン『トゥランガリーラ交響曲』 分析ノート 第7楽章

          第7楽章「トゥランガリーラ2」 Turangalîla 2 第3楽章「トゥランガリーラ1」に続く「トゥランガリーラ」楽章。この楽章は短いながら最も変化に富んだアクション満載の楽章。リズムセリーや音価の操作など、多くのアルゴリズムが設定されている。 なお本稿ではオリヴィエ・メシアンの以下の著作物から引用を行っている。引用元は "OLIVIER MESSIAEN TURANGALÎLA SYMPHONY pour piano solo,onde Martenot solo

          メシアン『トゥランガリーラ交響曲』 分析ノート 第7楽章

          Tristan und Isolde 徒然⑪ ある1つの単語について 〜開幕の日に〜

          本日は2024年3月14日、新国立劇場「トリスタンとイゾルデ」幕開きの日です。この3週間あまり、公演の稽古に明け暮れ、この作品のことだけを考え過ごしてきた幸せな時間でした。その成果を公演という形でお客様にご覧いただけるのは望外の喜びです。 「トリスタンとイゾルデ」第1幕は船上で話が進みます。第3幕はイゾルデの船を待ち望むトリスタンのモノローグが主です。ということで「船」という単語がたくさん登場することになるわけです。第1幕では4回、第3幕では、何と17回も登場します。ここで

          Tristan und Isolde 徒然⑪ ある1つの単語について 〜開幕の日に〜

          メシアン『トゥランガリーラ交響曲』 分析ノート 第6楽章

          第6楽章 愛の眠りの庭 Jardin du Sommeil d'Amour 前楽章とは対照的な穏やかな響きに満ちた楽章。「愛のテーマ」が完全な形で出現する。このテーマはのちの第8、10楽章で大きく展開されていく。 なお本稿ではオリヴィエ・メシアンの以下の著作物から引用を行っている。引用元は "OLIVIER MESSIAEN TURANGALÎLA SYMPHONY pour piano solo,onde Martenot solo et grand orchest

          メシアン『トゥランガリーラ交響曲』 分析ノート 第6楽章

          Tristan und Isolde 徒然⑩ 死への憧れ

          トリスタンは「死にたくても死ねない」運命を背負った人物でして、幾度も死を覚悟した瞬間があるのにも関わらず、死ねないのです。詳しくは過去記事をご覧ください。 そんな彼ですから「死に対する憧れ」は人一倍強いのです。それを体現するようなライトモティーフが存在します。「死への憧れの動機」です。 2幕2場昼の対話の最後の場面です。これを最後に長〜い夜の対話に入っていきます。トリスタンの歌う「神聖な夜への憧れ」というのは「死ヘの憧れ」と言い換えても良いかもしれません。 このテーマの

          Tristan und Isolde 徒然⑩ 死への憧れ

          Tristan und Isolde 徒然⑨ お団子4個をいろんな並べ方にしてみよう!

          今日は最初にちょっと「和音」のお勉強をします。でも決して堅苦しいことはありませんよ。これがわかると「トリスタン」の秘密が見えてくるようになるので、楽しみながらお読みください。 一般的に「和音」と呼ばれるものはどのように出来ているでしょうか?その組み合わせの基本は3度音程をだんご🍡のように重ねていくことです。音階の音を一個とばしで重ねる、ということです。普通は3つ以上の重なりを「和音」と言います。 「ド」の音を基準に考えてみますと、基本は「ドミソ」の和音です。「ド」は変えず

          Tristan und Isolde 徒然⑨ お団子4個をいろんな並べ方にしてみよう!

          Tristan und Isolde 徒然⑧ 前奏曲冒頭のヴァリエーション その4

          今回は「薬」に関する場面に登場するヴァリエーションのご紹介。まずはいつものように前奏曲冒頭の楽譜を再掲します。 「トリスタンとイゾルデ」における「薬の交換」は劇における重要なファクターです。これはワーグナーの創作でありまして、原作にあるわけではありません。ブランゲーネがイゾルデに命令された「死の薬」を「媚薬」に取り替えたことで起こるドラマなのです。 ところで前奏曲冒頭動機は全体がひっくるめて「憧れの動機」とか「憧憬の動機」と呼ばれますが、今日見ていくように最初のチェロの導

          Tristan und Isolde 徒然⑧ 前奏曲冒頭のヴァリエーション その4

          Tristan und Isolde 徒然⑦ 前奏曲冒頭のヴァリエーション その3

          前奏曲冒頭の音楽のヴァリエーションを探るシリーズ3回目は、第3幕に現れるシーンから。いつも通り前奏曲の楽譜を再掲します。 そして今回俎上に乗せるのが第3幕のこの場面。 2幕最後、メロートの剣に自ら飛び込んだトリスタンは深手を負い気を失います。肩幅の広い屈強の男クルヴェナルによって運ばれ、小舟で故郷カレオールに連れ戻されました。その後トリスタンは意識を取り戻すものの、傷は悪化しており、クルヴェナルは治療のためイゾルデに使いを送ったことをトリスタンに告げます。それを聞いたトリ

          Tristan und Isolde 徒然⑦ 前奏曲冒頭のヴァリエーション その3

          Tristan und Isolde 徒然⑥ 前奏曲冒頭のヴァリエーション その2

          前奏曲冒頭の音楽のヴァリエーションを探るシリーズ2回目は、第2幕第3場マルケ王の長い嘆きが終わったあとの場面を取り上げます。 まずは前奏曲冒頭の楽譜を再掲します。3つのセクションに分けています。 そして今日考察する場面はこれ。 トリスタンの裏切りを滔々と語ったマルケ王、その最後の単語"kund"の小節からセクション1の音楽が始まります。しかし「憧れの動機」を演奏する楽器はチェロではなくイングリッシュホルンのソロです。イングリッシュホルンと言えば!3幕でトリスタンの運命体

          Tristan und Isolde 徒然⑥ 前奏曲冒頭のヴァリエーション その2

          Tristan und Isolde 徒然⑤ 前奏曲冒頭のヴァリエーション その1

          前回記事で取り上げた前奏曲冒頭部分は、そのヴァリエーションが全曲中に4回現れます。最も印象的な音楽ですので、これが現れると誰もが特別な感覚を覚えます。出現箇所のシチュエーションを探りながら、音楽的にどのように展開されているのか見てみたいと思います。長くなりそうなので4回に分けて語っていきます ヴァリエーションの一つ目は全曲中で大きな転換点となる、1幕5場トリスタンとイゾルデが死の薬、もとい愛の薬を飲む場面です。まずは前奏曲冒頭の楽譜をご覧ください。今後の話を円滑にするために

          Tristan und Isolde 徒然⑤ 前奏曲冒頭のヴァリエーション その1

          Tristan und Isolde 徒然④ 前奏曲の冒頭を味わってみよう!

          「トリスタンとイゾルデ」前奏曲の最初で鳴らされる「トリスタン和音」は作品全体を貫く印象的なサウンドであることに異論はないでしょう。全曲で数限りなく出てくるこの和音はそこかしこでドラマを牽引する役割を果たします。しかし「トリスタン和音」の本当の味わいはこの和音自体にあるのではなく「その後どのような和音に進むか」にあるのです。 前奏曲冒頭は同じような音楽が3回繰り返されるような印象を持つ方も多いと思いますが、実は!ちょっとずつ変化を加えているんですよね。冒頭から11小節目までの

          Tristan und Isolde 徒然④ 前奏曲の冒頭を味わってみよう!

          Tristan und Isolde 徒然② 昼の動機

          「トリスタンとイゾルデ」第2幕の開始部分は印象的です。 「れーーーーーそーーらしーーーーー」 と始まります。 このテーマの名前は俗に「昼の動機」(Tages-Motive)と呼ばれています。長い音で始まり5度(4度6度の場合もある)下降し順次進行で上昇するフォームです。「この幕のテーマはこれですよ!」と宣言してるかのようです。 長大な愛のシーンである第2場で、トリスタンとイゾルデは俗世の象徴である「昼」について長く対話をします。その際にこのテーマが、これでもか、これでも

          Tristan und Isolde 徒然② 昼の動機

          Tristan und Isolde 徒然① マルケ王の嘆き

          3月14日より新国立劇場「トリスタンとイゾルデ」公演が開幕するにあたり、この作品の気になる色々を語ってみようと思います。内容はあっちゃこっちゃ飛ぶ予定。簡単な内容ばかりではないかもしれませんが、興味を持っていただける方には楽しい読み物になるのでは?と思います。 まず初回は「マルケ王は何を長々と嘆いているのか?」について考えてみましょう。 トリスタン2幕の後半はマルケ王の独擅場、10分以上!にわたって嘆きます。長〜い愛の場面が終わってお聞きになる皆さんの集中力が途切れそうな

          Tristan und Isolde 徒然① マルケ王の嘆き