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ウクライナ軍によるクリミア半島奪回の動きー米のATACMS(長射程のミサイル)の供与問題

ウクライナ軍によるクリミア半島奪回の動き
―米のATACMS(長射程のミサイル)の供与ー
  2023.9.25 記            石河正夫

1.ウクライナ軍によるクリミア半島攻略の動き
最近はウクライナの反攻の動きが冴えないとがっかりしている今日この頃であるが、
ロイターなどが外電によると、いよいよウクライナ軍による天下分け目の戦いが始まったようだ。
9月22日及び23日の外電がウクライナ軍の反攻の動きにつき次の3つの動きを伝えている。
 
(1)「戦争研究所」によれば、ウクライナの装甲車部隊が南部ザポロジェ州のベルポペ地方(次の陣地トクマクに通ずる要衝)に構築された3重の防衛網(塹壕、地雷、竜の歯)を苦労して突破した。
 
ちなみに、ミリー米統合参謀議長は「冬の到来までに残された期間は30日余りでトクマクまでの戦いは、実質上、天下分け目の最終決戦」と最近述べている。
なおトクマクはアゾフ海岸のベルジャンスクに抜ける主要なポイントである。
 
(2) ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアの港セバストポリは、歴史的にも有名であるが、現在ロシアが不法占拠しており造船所やロシアの司令部が置かれている。
その司令部に22日,突然ミサイル攻撃があった。

9月22日ストームシャドウによって狙われた黒海艦隊司令部の位置


ウクライナ国防省のブダノフ情報総局長は「ボイス・オブ・アメリカ」ウクライナ語版の取材に対して、22日の攻撃で少なくとも9人が死亡、ロシア軍の将軍を含む16人が怪我をしたと明らかにした。
 
また、イギリスのBBCはウクライナ軍関係者の話として、この攻撃で、負傷者の中には軍の司令官も含まれているとしている。
英が供与した長距離巡航ミサイル「ストームシャドー」が使われ、コンクリート製の会議室が簡単に破壊された威力が報じられている。
 
(3)ところで、ウクライナが最も渇望しているミサイルは、「ストームシャドウ」よりも強力な米国製長距離対空ミサイル、「ATACMS」である。
 
ロシア軍がこれまでに優勢だったのは戦力の大きな差である。ロシア軍は総じてウクライナ軍約5倍の兵器を有している。
戦車、歩兵戦闘車・・・・4倍
装甲車・・・・・・・・・・・・・5倍
火砲 ・・・・・・・・・・・・・・2倍
戦闘機…………・・・・・8倍
 
ロシア戦闘機と攻撃ヘリコプターは、ウクライナ軍防空missileの射程外からミサイルや爆弾で攻撃を行っている。これらの敵機、つまりロシア戦闘機や攻撃ヘリを撃墜するためにF16戦闘機と搭載する対空弾道ミサイルを必要とするのである。ATACMSが手に入れば、まずこのロシアの空からの攻撃を防ぐことが可能となる。
 
米陸軍のサイトによると、ATACMSは射程約300キロで、前線から離れた指揮統制センターや防空施設、兵站(へいたん)施設など遠方の目標を攻撃する能力を持つ。
ロシアはクリミアに200以上の備蓄用倉庫を有し、前線へのロシア軍補給の80%を賄っており、ウクライナ農産物の輸出入に不可欠な黒海の制海権を取り戻すためにも戦略的に重要である。
 
ATACMSが供与されれば、ザポロジエ正面で兵站や補給を困難にし、クリミア大橋の破壊などをも可能にする。
 
ウクライナ軍はATACMSの活用によって今後は、本土と半島をつなぐ二つの橋の遮断や、露南部につながるクリミア大橋への再度の攻撃を狙い、半島を通る補給ルートの遮断を図っていくことが10月中にも可能となるかもしれない。
 
当面は、ザポロジエ州のトクマクやメリトポリの奪還が目先の目標である。ウクライナ軍はアゾフ海まで進軍し、露軍の補給ルートを東西に分断することを狙う。
 
2.ATACMS(長距離射程のミサイル)の対ウクライナ供与問題
 
バイデン大統領は、これまでゼレンスキー大統領による繰り返してのATACMSの供与につき、首を縦に振らなかったのは、長射程のミサイルATACMS(最大射程300キロ)を供与すれば、ロシア領地の奥深くまで攻撃可能なので、ロシアを過度に刺激する恐れがあると慎重な姿勢を示してきたからである。

米国製のATACMS(長射程弾道ミサイル)が発射された瞬間
BBCによる資料映像 2,023年9月21日


 
今回ゼレンスキー大統領が国連演説のためニューヨークを来訪した機会に、恐らく、対面でゼ大統領が膝詰め談判で、バイデン大統領の懸念を払しょくし、例えばATACMSを絶対にロシア領地の奥深くモスクワなど向けないなどの約束をした上で合意を取り付けたものと推察される。
 
ロシアの指導者は、クリミア喪失によるマイナス効果の大きさを理解しており、米国のNBCによれば、メドベージェフ安保会議副議長はロシアが核戦力を使用する可能性に触れ、牽制している。
 
また、ロシアのシンクタンク「ロシア国際問題評議会」の会長を務めたアンドレイ・コルトウノフも3月、NHKの取材に対して「クリミアを奪還する試みはロシア指導部にとっては勿論レッドラインだ」と指摘している。
これら悪党たるロシアの言い分を取材していること自体は悪くはないが、国内法の次元に照らしてみると「強盗犯人の言い分のみ」を聞いているがごとき錯覚に陥る。
取材だけのニュースだから、緊急性の点から一方の相手のみの発言だけも通常は有りだと考えられるも、アンバランスだと時々心に引かかってくる。
 
蛇足だと承知しているも、
クリミアのケースでは「ロシアが強盗のごとく武器を使ってクリミアを奪取したのであり、さらに脅すのでなく平和裏に返還するのが国際正義にかなう。」旨の国際世論をももっと喚起すべきと強く思う。
そうすることが、核兵器の使用の抑止に貢献するはずである。むつかしい問題であるが、これについては、北方領土問題を含め別途論じることとしたい。
 
(了)

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