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忖度【エッセイ】一八〇〇字(本文)

「この(ジャニーズ性加害 筆者追加)問題をめぐっては、これまでも週刊誌等でたびたび報じられ、性加害の事実を認定した東京高等裁判所の判決が2004年に確定するなどしましたが、NHKは、当時、この問題について認識が薄く、その後も、取材を深めてニュースや番組で取り上げることはありませんでした。多くの未成年者が被害にあう中で、メディアとしての役割を十分に果たしていなかったと自省しています」

このコメント(一部)が、NHKのニュース番組で流れた。「東京高等裁判所の判決が2004年に確定」とは、次のことを意味する。


1999年、「週刊文春」でジャニー喜多川氏が所属タレントの少年らに、長年わいせつ行為を行っていると報じられ、ジャニーズ事務所は、同年、文藝春秋を名誉毀損で提訴したが、裁判となった。2002年に「『性加害』の真実性を認める」判決が言い渡された。同年、上告したが、2004年に確定する。

ジャニーズ事務所の4時間に及ぶ会見のほとんどを、観た。「性加害があった」と謝罪したことだけは一歩前進したと言えるが、被害者の救済・補償など他の問題については始まったばかりなので、この後を注視するしかない。新社長の東山紀之氏が「人類史上最も愚かな事件」と表現するなら、言葉通りに「一生をかけて」解決していってほしい。

ここでは、「知っていたであろう」メディア側の「忖度」について言及したい。
再発防止特別チームが指摘した「メディアの沈黙」に関わる記者の質問に、井ノ原快彦氏が「“いま日本にひろがる”忖度」という言葉を使ったのが、いちばん印象的だった。彼が、どこまでの範囲を意識して使ったかはわからないが、「いま『忖度』が日本中に拡がっている」のは事実だ。「忖度」という言葉は、安倍政権時、流行語にもなったが、「メディアの沈黙」という状態は、ジャニーズ事務所・ジャニー喜多川氏の力が絶大になったころからだろうから、かなり昔から根強くある問題と言える。「噂」を聞きながら(もしくは事実を知りながら)、喜多川氏に不利な(人権問題の)報道をすれば、芸能番組に不利になる。人権問題よりも自社の都合を優先したことになる。報道に関わるメディアとしてはあるまじき姿勢ではないか。

「ジャニーズ問題」における「#MeToo」ともいえる動きは、3月18日、19日に放送された英国BBCによるドキュメンタリー番組に端を発している。また、国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会は、8月4日に公表した声明で、ジャニーズ事務所を巡る性加害問題など日本の人権課題について、日本政府に改善を迫った。日本の人権問題を、外から指摘されたことになる。
井ノ原氏が言う「忖度」は、自身を含む所属タレントのワンマン喜多川氏への「忖度」と、一方では、TV、新聞、雑誌等メディアのジャニーズ事務所への「忖度」を意味している。
「所属タレントの忖度」は、われわれと同じく会社組織にある“一人の弱き”被雇用者として、(百歩譲ってだが)同情もできる。しかし、TV、新聞、雑誌業界側は、組織である。特に、ジャーナリズムという社会的に重要な役割を担っている組織である。そこに、組織の利益を優先し、ジャーナリズムの本分を尽くさなかったという事実。この責任はきわめて大きい。
最近の(新聞もそうだが)テレビの報道番組を観ていても、政権に批判的な視点でチェックをしていたはずの局(テレビ朝日やTBS)までもが、歯にものが挟まった言い方をする番組が目立つ。いち芸能事務所に「忖度」し「沈黙」するメディアである。それ以上に「圧力」が大きい政権には、なにも言えていなくなっているのではないかと、とても強い恐怖を感じる。
冒頭のコメントの「この問題について認識が薄く」というのは、裁判所の判決も出ているわけだから、単に言いわけに過ぎない。人権問題への意識が低かっただけでなく、報道機関としての責任を放棄したと言わざるを得ない。たまたま目にしたのがNHKの「コメント」(謝罪ではなく)であって、メディア各社のコメントを調べたわけではないが、報道に関わる組織としてきちんと自己総括するべきである。昨日の「羽鳥モーニングショー」で、元テレビ朝日社員の玉川徹氏が、ジャーナリストとしての意識が低かった旨の反省を述べていた。が、個人ではなく会社として、逃げ口上のコメントでなく、謝罪を求めたい。「人類史上最も愚かな事件」なのだから。

TOP画像:プレジデント・オンラインから

(ふろく)

前回のエッセイ『弱き者の権利』で、「労働組合」をとりあげました。組合は、「労働者の人権問題」にも積極的に取り組むべきで、「ジャニーズ問題」もそのひとつの事案であると考え、Note友の彩音幸子さんの、9月3日の「ジャニーズ問題」に関する記事を紹介しました。
彩音幸子さんの「ジャニーズ問題」についての記事には、第一弾もあります。日本テレビ「24時間テレビ」で、「未来の子どもたち」をテーマにしておきながら、ジャニーズ事務所のタレントをMCに据える無神経さに問題があると、「放送倫理検証委員会」(BPO)に抗議することを提案していました。

そして、第二弾が前回紹介した記事。「首相官邸に、国連人権理事会『ビジネスと人権』作業部会のステートメント(声明)を実行するよう求めるメールを送りませんか?」でした。

これらご提案に賛同して、第一弾ではBPOに、そして第二弾は首相官邸に向けて意見文を送りました。ここでは、首相官邸への意見文を掲載することにします。
私は、「(今月20日前後に予定されている)国連総会の演説で宣言せよ!」に絞りました。宣言した以上は、諸々の人権問題に向き合わざるを得なくなります。たぶん、「真摯に向き合います」と言いながらも、なにもやらないかもしれません(これまでのように)。しかしそのときは、「宣言したじゃないか!」と、われわれも、諸外国も、その人権団体も追及することになり、日本政府も動き始めるでしょう(淡い期待かもしれないが)。今回の「ジャニーズ問題」も、英国BBCの報道番組がきっかけとなり、多くの日本人が知ることになったように。


「今月予定されている岸田首相の国連総会演説についての意見」

報道(「東京新聞」電子版 2023年8月12日 18時00分)によると、
<国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会は、8月4日に公表した声明で、ジャニーズ事務所を巡る性加害問題など日本の人権課題について、日本政府に改善を迫った>とされています。特に「ジャニーズ事務所を巡る性加害問題」については、耳を疑うほどの衝撃を受けております。
日本政府に国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会の「声明」を早急に実行していただくことを、強く求めます。
今月20日前後に国連総会での岸田首相の演説が予定されているということですが、手始めに、国連作業部会からの要求に応じ、国家人権機関を設置し、人権擁護に関し、政府主導で具体的行動を起こすことを総会で宣言していただきたい。
国連作業部会が会見を開いた後。声明について、松野官房長官は8月7日の記者会見で、「作業部会の見解は、国連や国連人権理事会としての見解ではなく、わが国に対して法的拘束力を有するものではない」と発言。ジャニーズ問題への対応の質問が続くと、「一般論として、個別の事業者における事案は、当該事業者において適切に対応されるべきものと考えている」と語ったと報じられています。しかし、外務省人権人道課の担当者は、松野官房長官の「法的拘束力を有しない」というのは、「あくまで事実関係として述べただけで、見解を重視しないというわけではない」と解説されたとのこと。
であるなら、「重視した」姿勢を、日本はもちろん諸外国にも、国連で示していただきたい。
日本は長年、国連人権理事会の理事国を務めてきており、国連人権理事会が2011年に決議した「ビジネスと人権に関する指導原則」にも賛同していますね。指導原則では、国家には人権を保護する義務があるとされ、政府が被害者救済など人権対策の中核を担うよう位置付けています。
この指導原則に基づき、日本政府は2020年10月に「『ビジネスと人権』に関する行動計画」を、22年9月には「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定しています。一歩も二歩も前に進めていただきたい。
国際的な日本の信用を高めるためにも、いま明確な姿勢が求められています。
岸田首相の強烈なリーダーシップを、ぜひ発揮していただいたく、切に願うものであります。

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