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入社1年目がしておくべき「あなた」を救う最強のマインドセット


はじめに


31.2%

この数字は厚生労働省が「新規学卒就職者の就職後3年以内の離職状況」(令和3年10月22)で発表した、大学を卒業した新入社員の早期離職の割合だ。

約3割の人が新卒で入社した会社を辞めていく。これまではそう思っていた。私が学校法人で専門学校の責任者をしていた頃も、早期離職者は約3割と伝えてきた。

しかし、この数字はあくまで平均だ。実態はもっと深刻だった。事業規模で分類した数字を見たときに、私は衝撃を受けた。

社員数100人未満の会社だと40%、さらに30人未満の会社だとなんと50%になる。

事業規模として社員数500人を超えて、ようやく3割の水準に達する。

そうなのだ。社員数が少ない会社は3割よりももっと早期離職の割合は高かったのだ。なぜ、社員数が少ないと早期離職の割合が高まるのだろうか。考えられる理由を次に列挙した。

⑴社員が少ないと、研修に時間も人員も割く余力がなく、OJTから始めることになる

⑵毎年たくさんの新卒社員が入社してくるわけではないため、上司、先輩側に育成のスキルがない

⑶人間関係が限定的で、人間関係の問題を配置転換によってクリアする体制が取れない

 内閣府の調査によると、退職理由の第一位は「仕事が自分に合わなかったため」で、第二位は「人間関係がよくなかったため」だ。この順位は過去二回の調査を見ても変わらない。

まとめると、仕事が合う合わないという考え方を好転させる取り組みや、人間関係をどうクリアしていくのかという工夫、つまり社会人としてのマインドセットが肝要であることがわかる。

 予め社会人としてマインドセットをしてくれる本があったなら

 これがこの本を書こうと考えたきっかけだ。私自身、社会に出て一番苦しかったのは社会人一年目のゴールデンウィーク明けだった。

就職したのは学校法人。生徒を四月から迎える関係から専門学校に三月から着任し、研修や会議に参加した。

社会人としての覚悟が備わらないまま目まぐるしく日々が過ぎていく中で生徒40名の担任となり、若者の人生を若者が背負った。

毎日必死で残業は当たり前。そうして迎えたゴールデンウィーク。連休を過ごす中で学生気分に戻ってしまい、連休明けには過酷な毎日に戻るのかと想像したら、このまま電車に飛び込むのもありか、などという考えがちらつくほど追い込まれていた。

幸いにも、そのときに話を聴いてくれる先輩がいたことで結果としては持ちこたえることができたが、私が社会人としてマインドの芯を確立できたのは四年目だったと自覚している。

自身の経験から、私のように若者が追い込まれてほしくないという想いで、当時どんなマインドだったら自分で状況を打破できたのか体系化した。

それをもとに様々な業界で新入職員の研修を実施し、若年層から取得したアンケートでは「働くことが楽しみになった」という回答を必ず9割以上得てきた。

その背景には「社会人育成の場」である専門学校の教育現場で培った、「どんな人材も社会人として育て上げるために向き合ってきた経験」が生きている。

その過程で伝えてきたこと、実践してきたことをこの本にまとめたい。事業規模にかかわらず、例えば内定式や入社式にこの本を新入社員に贈ることで就労意識を高め、若者の不本意な早期離職を解消する。

上司ガチャという言葉をなくしたい

上司ガチャという言葉が近年、若者の間で使われている。ガチャという言葉はガチャガチャやガシャポン、ガチャポンに由来する。

ガチャの特性である、何が出るかわからないけど、出たものによって当たり外れがあることを指しているのだ。そのことから新卒社員の間では、「上司ガチャで外れをひいた」というような文脈で使われる。

どんな上司の下、どんな人間関係の職場に就こうとも、あなたがあなた自身の力で成長し、事実の捉え方を工夫することでストレスから解放されてほしい。

上司や同僚や環境のせいにしている時間はもったいない。なぜなら、その全てからあなたは学びを吸収し、あなただけの成長曲線を描くことができるからだ。

まずはこの本で、あなたと一緒に成長していきたい。あなたがあなた自身を知る内省の機会を提供したい。せっかくこの本を手に取っていただいたあなたの社会人人生が輝いてほしい。

そのために、できるだけわかりやすい事例でまとめていく。社会で働くことによって想定される困難を、この本と一緒に乗り越えていってほしい。それでは早速、この本を読み進めていこう。

第1章 受け取り方が変われば最強
 第一節 あなたを救う自責型思考とは
 第二節 適性なんて誰も持ち合わせていない
 第三節 人と比較して迷わなくなる方法
 第四節 あなたの選択は正解にできる
 第五節 目標なんて、なくてもいい
 第六節 プライドより先に、何から守っていく?

第2章 素直さが習慣になれば最強
 第一節 「先輩が忙しそうで質問できない」の本質とは
 第二節 人見知りなあなたへ
 第三節 被害者思考は今すぐ卒業しよう
 第四節 口にする言葉は本音か、本心か
 第五節 成長の分かれ道となる失敗との向き合い方
 第六節 どんな仕事を後回しにするのか
 第七節 万全なとき、なんてない

第3章 チームの信頼を勝ち取れば最強
 第一節 小さな約束を守ることから始めよ
 第二節 自分から手を挙げて、苦悩を手に入れよう
 第三節 自信を持てないあなたに
 第四節 まずは自分から興味を持つ 
 第五節 一般常識で損をしないために
 第六節 上司への気遣いは、自分を救うトレーニング
 第七節 先輩がトラブルを解決したときにすべきこと

第4章 自責を習慣化できれば最強
 第一節 仕事の不安を解消する逆算思考をマスターせよ 
 第二節 他者の仕事でストレスを感じない計画力とは
 第三節 指示がわかりづらいときに取るべき行動とは
 第四節 センスの磨き方 
 第五節 評価をフィードバックされたときはどうする?
 第六節 「報告・連絡・相談」をあなたの武器にする方法 
 第七節 環境に成長を左右されない方法とは

第5章 社会人の基礎的スキルを手に入れれば最強
 第一節 成果にこだわる意味とは
 第二節 社外の人との関わり方
 第三節 「好きなことを仕事にする」の本当の意味とは
 第四節 会社の資産を活用する上でのマナーとは
 第五節 定期的な整理整頓は自分を救う
 第六節 言った、言わないはノーサイド
 第七節 会議で意見を発するには

まとめ マインドこそ全て

第一章 受け取り方が変われば最強

第一節 あなたを救う自責思考とは

 
自責思考。この言葉にあなたは触れたことがあるだろうか。この言葉は次のような文脈で使われることが多い。

ビジネスマンは他人のせい、環境のせいにする他責思考よりも自責型思考を持つべきだ。こういった「はず・べき論」で発信される。

ただ、この発信は私が考える自責思考という考え方の本質を表しているとは言えない。自責という言葉を構成する漢字。そこから意味を読み取った気になった先輩社員が、自分に責任を持たせるような意味合いで伝えているだけなのだ。

 責任がどちらにあるのか、そこがポイントなのではない

 自責思考の本質は、鈴木博氏の著書である「自分が源泉」に書かれているので引用する。

どんな経緯であれ、「この状況を作っているのが自分だとしたら」と捉える態度、それが鈴木博氏の考える自責思考の本質である。

つまり、どちらが良い悪いという考え方はいったん脇に置いておくということが重要なのだ。

これまで述べた内容から、責任の所在を自分に置くということが自責思考ではないという本質をあなたに理解いただいた。そこで今節の本論に入る前に、もう一つ補足をしておきたい。

あなたと考えたいのは、自責思考を習慣化する目的だ。自責思考の重要性を説く先輩の中には、「それがあなたの成長のため」という意図で伝えてくれる人がいる。

確かに他者のせい、環境のせいにする人は自分以外のことに要因を見出して、自身の至らなさに目をつぶる傾向がある。いつまでも人のせいにする人は、自分を変えないので成長しない。

例えば社内研修を実施した際に、受講者が居眠りやあくびをしてしまったとする。そのときに、受講者の受講態度のせいにする講師はまた同じ資料、同じ流れ、同じトーンで次回の研修に臨む。

ところが「この状況を作っているのが自分だとしたら」と捉える講師であれば、受講者の興味を惹きつけられる構成ではなかったのかと次回までに改善し、トーンや抑揚をつけて話せるようにスピーチの力量も向上させていく。

ここまでの例だけを考えると「成長のため」に自責型思考は習慣化しておく、という伝え方はあながち間違ってはいないと感じる人もいるだろう。

ただ多くの人から、またさまざまな類書で自責思考の大切さが既に説かれている中で、あえて第一節に持ってきたのには意図がある。私が考える自責思考を習慣化する目的。それは次の通りである。

 ストレスから自分を救うため

 あなたには、これから社会で体験するストレスから解放されてほしい。これは対人関係に限った話ではない。

まずはあなたがストレスから解放されるために、ケーススタディで自責思考の習慣化をしていこう。

 ケース1 

あなたが相談した内容について、翌週に返答すると回答した上司がそのことを忘れていた

さて、このようなケースを体験したらあなたならどうするか。その上司を信頼しなくなる。その上司に相談をしなくなる。「うちの上司、約束を守らないんだよな」と学生時代の同級生に愚痴をこぼす。

いずれの対応も「仕事を前に進める」という点においては具合が悪い。

先ほど述べた責任の所在を追求するのではなく、「この状況を作っているのが自分だとしたら」という態度で捉えたらどうなるか。

三日前にリマインドをする。口頭の相談だけでなく、メールやチャットなど文字でも残しておく。忘れていたことについて、失礼のないように意見してみる。いろんな手立てが浮かんでくることがわかる。

大切なのは、打ち手には正解がないということ。そして、人は打ち手が浮かんでいる間は人のせいにしなくて済むのだ。

どんな打ち手を選ぶかはあなたの上司の性質、性格から読み取れた、あなたの中での最適解を導き出せば良いのだ。

そのためには上司のことをよく理解していく必要がある。つまり自分のストレスを軽減するためには、相手のことを理解する必要があるとも言い換えられるのである。もう少し補足しよう。

 ケース2

あなたが人と待ち合わせをする上で、待ち合わせ相手の遅刻は15分までしか許せない価値観を持っているとする。もし、その待ち合わせ相手が人の遅刻を30分まで許せる人物だったら、20分遅れてしまったときの態度はどうなるか。

もちろんあなたとの関係性にもよるが、あまり悪びれずに、あなたが期待する温度よりは軽めに謝罪されるだけである。本人は30分まで遅刻を許せるからだ。相手はまさかあなたが15分までしか許せない価値観を持っているとは想像をしていない。

 ここでは遅刻の是非を問いたいのではない。わかりやすく遅刻を例にしただけだ。つまり何が言いたかったのか。

社会で起きるストレスとは、お互いの「普通、こうだろ」という期待や価値観のすれ違いが原因となることが多いのだ。

そのため、相手の価値観や性質、性格を理解しようとすることは、ストレスを軽減する自責思考として有効な態度なのである。次のケースを見てみよう。

 ケース3

同僚から心ない言葉をかけられた

これは「この状況を作っているのが自分だとしたら」あなたならどうクリアするか。スルーする。気にしない。そういう態度を選んでストレスを軽減できるならそれでもいい。

ただ、その同僚との関係性に要因を見出すなら、どんな言葉もこれまで受け止めてしまっていた自分の反応を変えてみるのも一つだ。

我慢せずにはっきりと不愉快な旨を表明する。そんな反応をすると後々面倒なことになると主張する人は、伝え方を工夫すればいい。

良くないのは、本当は勇気がないだけだという自分の「保身」を自覚せずに、弱い自分から目を背けて相手に怒りの矛先を向けることだ。

良くないというのは、あなたのストレスを軽減できていないという点において良くないのだ。繰り返しになるが、心ない言葉をかけてくる同僚の責任の所在を論点にしていないということを補足しておく。

これまでのケースで、責任の所在から外れた自責思考というものを学習してきた。さらに、最後のケースで自責型思考の奥深さを体感してほしい。

 ケース4

長い年月をかけて準備してきた野外イベント。これは会社の事業の中でも多くの収益を見込めるものだった。それにもかかわらず、雨天中止となり、見込んでいた収益を得られなかった。

 このケースであれば、あなたならどうするか。世界的なベストセラー「7つの習慣」の表現を借りれば、「影響の輪」をどこまで広げるか、という話だ。天気は自分の力では変えられない。だから仕方ないと捉えるのか。

そうすると、天気によって被ったストレスからは解放されないことになる。このケースは本当に仕方ないのだろうか。

自分の影響の外にある出来事だったのか。例解は、雨天であっても収益を見込めるビジネスモデルを予め組んでおく。そんな打ち手を予め講じられるかどうか、そしてその打ち手を講じられる自分でありたいと思えるかが重要なのだ。

これまでの話をまとめる。責任の所在を明らかにすることではなく、「この状況を自分が作っているとしたら」という態度で捉えると、問題に対して打ち手が浮かぶ。

その打ち手が浮かんでいる間は他者のせい、環境のせいにしないのでストレスから解放される。ストレスから解放され、様々な打ち手を試みる過程で自力がついていくので、結果として自身の成長につながる。

このようなサイクルをまわせると、あなたの前向きな姿勢に周囲も信頼を寄せるようになるだろう。

アクション1
日常生活で感じたストレスに対して、自分を救う自責思考で打ち手を考えてみよう

第二節 適性なんて誰も持ち合わせていない

 
仕事が楽しくない。想像と違った。自分には向いていないかもしれない。とても先輩のようにはなれる気がしない。

新卒一年目が抱く葛藤の例を挙げてみた。これらの葛藤の根っこに共通するのは、現状がうまくいっていないことだ。

私の例を挙げてみる。新卒で入社したのは全国に専門学校を展開する学校法人。教員になることを夢に持ち、教員免許を取得した私が選んだのは、教科指導ではなく人間教育ができる専門学校。

「社会人育成の場」である専門学校は、まさに私が思い描いていた「やりたい」仕事だった。

ところが生徒40名の担任となった私は、ホームルームで生徒の前に立っただけで緊張した。授業も下手で、うまく生徒の興味をひきつけられない。

人間教育をするために多くを学んできたと自負していた私の話は、生徒の心を動かせない。まさに「知っていること」と、「できること」の差を痛感していた。また同僚から信頼を得る上で、そもそも私自身が社会人として人間として、大きく成長する必要がある環境だった。

ホームルームや授業の準備。担当している校務分掌の資料作成。入学者確保のための広報活動。毎日が目まぐるしく過ぎていく。

どれだけ仕事に時間を費やしても、思ったような結果は得られない。そんな日々を過ごす中で、当時の私が職業適性について考えていたら、確実に教員には向いていなかっただろう。

ではなぜ、続けることができたのだろうか。長年持ち続けた夢である教員を辞めたら次に何をすればいいのかわからない、辞める勇気がない、そんな思いがあったのはもちろん否定できない。

ただ当時はこの仕事に向いているとか、向いていないなどの分析をしている時間すらなかった。

目の前の仕事をまわすことに必死だった。だから私が考えていたのは、「いつか花を咲かせる」というこの一点だった。

この言葉をとにかく心の中で唱え続けた。自分の成長に対して短期スパンで捉えるのではなく、長期スパンで期待したのだ。

このことから、どんな仕事にも「やりたい」ことを実現するためには先に、「やらなければならないこと」が存在することを知った。

人間教育がやりたいと思った私には、先に人を育てられるスキルと経験を得ていかなければならなかった。

ここからは生徒の例を出そう。スポーツの専門学校でスポーツインストラクターを目指す。すると、「からだを動かして人の健康の役に立ちたい」生徒は、機能解剖学など先にからだの仕組みを学ばなければならなかった。

製菓・調理系の専門学校。家族にお菓子を作ったことで喜ばれたのが嬉しくて、パティシエを目指す生徒は「自分が作ったお菓子で人々を幸せにしたい」けど、先にお菓子を作る技術を高めなければならなかった。

美容系の専門学校では、「ヘアアレンジが好き」で美容師を目指す生徒は、カットやワインディングの技術を高めなければならなかった。

入学時は「やりたい」という気持ちが高かったのに、「やらなければならないこと」の壁の高さに熱意と決意が揺さぶられる。

これらは生徒の例だが、社会人もこのようなサイクルを体験する。ではどうしたら良いのだろうか。その結論に至る前に、これまでの話にもう一つの側面を補足しておく。

 好きなことを仕事にするとは

 「やりたい」ことを実現するためには、「やらなければならないこと」が存在する。そう示すと、やりたいことなのだから、そのためにスキルを獲得する努力も、本人にとってはやりたいことなのではないのかという意見をもらうことがある。

その「スキルを獲得する努力すらもやりたい」と思える仕事こそ、本人にとって本当に「好きなことを仕事にする」ことを実現できたと言えるのではないか、だからそういう仕事を見つけよう、そんな論調だ。

あなたはこれを聞いてどう思うだろうか。「そうだ、確かに本当にやりたいことなら、技術を高めることも楽しいと思える仕事であるはずだから、そういう仕事を探そう」と思うだろうか。

私の持論では順番が違う。人は自分ができることの中からしか、好きだと確信できることを見つけられないからだ。

 WILLーCANーMUSTをどう理解するか

 ではなぜ、好きなことで仕事を探そうという発信が支持されるのか。ひとつは、「WILL―CAN―MUST」の捉え方に要因があるのではないか。

「好き」を探す人はまずはWILL(やりたいこと)を見つけて、そのためにCAN(できること)を増やすことに意欲が湧き、その上で目の前のMUST(やらなければならないこと)を継続してクリアしていく、この順番をイメージしているのだ。

これは大きな舞台で活躍しているアスリートを想像すると、確かにこの順番をなぞっている。

プロの世界で活躍したい、そのためには技術を高める必要がある、だから毎日この練習は欠かさないというルーティンを幼少期より繰り返して目標を達成していく。

ただ、果たしてこの方法しか目標達成の方法はないのだろうか。そもそも目標が見つかるまで、探し続けることが適切なのだろうか。

多くの人はプロの世界で活躍する前に方向転換することもあるだろう。そんなとき、目標自体を見失うかもしれない。

だから、「WILLが見つかるまで」と自分に制限をかけてしまうと、いつまでもWILLを探すことに疲弊していくことになる。

 WILLに違う意味を込める

 ではどうしたら良いのか。「WILL―CAN―MUST」ではなく、「WANT―MUST―CANーWILL」という順番で「好きなこと」を探すと良い。

ここでのWANTとは、あなたが今の仕事を選んだ動機でいい。漠然とした想いでいい。私の例で言えば、「人間教育がしたい」という想いだ。確信に満ちていなくていい。憧れでも、誰かの影響でもいい。きっかけはそんな小さな出来事でいい。

ただ、それをやるためにはどんな仕事でも必ずMUSTはある。これを覚悟しておこう。この目の前のMUSTに腐ることなく、前向きに取り組んでいることで、あなたにCANが増えていく。そうしてCANが増えた後、WILL、つまり「実現したいこと」が見つかっていく。

 “やるべきことというのは、「将来の自分が、今の自分にやっておいてほしいこと」”

(「手紙屋 蛍雪編」喜多川 泰氏)

 結論としては、WILLを「やりたいこと」や「目標」とするのではなく、MUSTやCANに取り組んでいった先にある「実現したいこと」と捉えるのだ。

すると、まだあなたが今の仕事を続けていった先で実現したいことが見つかっていないことも安心できるはずだ。まずは漠然とした想いでスタートした今の仕事で、目の前のMUSTに前向きに取り組んでいればCANが増えていき、その先でWILLが少しずつ輪郭を帯びていくだろう。

職業の向き、不向きを考える時間があったら、まずは目の前のMUSTに全力で取り組んでみよう。せっかくあなたがWANTという想いで就いた仕事なのだから、その想いは否定しなくていい。

アクション2

今抱えているMUSTをリストアップして、それらに取り組んだ先にどんなCANが得られるか書き出そう

第三節 人と比較して迷わなくなる方法

 前節では目の前のMUSTに取り組むうちにCANが増え、その後にようやくWILLが見つかっていくと述べた。

そうすることであなたの迷いが消えて、目の前のMUSTに取り組んでいくができる。しかし、その過程で再びあなたを迷わす出来事が襲ってくる。

その出来事とは何か。それは人と会うことだ。どういうことか、順番に説明していこう。

先にその「出来事」を体験し、葛藤を抱く専門学校生の例を挙げよう。高校を卒業し、4月に入学。「社会人育成の場」である専門学校では高校までの一般教科の教育と異なり、そこで展開される授業はすべてが生徒の目標に直結する。

「数学は苦手だけど、国語は好き」というような世界ではない。どの教科も卒業後の職業を見据えてカリキュラムが組まれている。そのため気を抜く時間はないのだ。

また学校の方針にもよるが、毎日朝から夕方まで授業があることも珍しくない。そういった環境だとしても、彼らは高校を卒業する段階で将来就きたい職業を選んで専門学校に入学しているのだから、当然目の前の授業に熱心に取り組んでいくのではとあなたは思うだろう。ただ、専門学校に入学する生徒の動機は様々だ。

 ⑴将来就くための職業を選んだ強烈なエピソードを持っており、意欲が高い生徒

⑵大学に行けなかったので、なんとなく選んだ仕事に就くために入学した生徒

⑶親や周りの勧めに従って、自分の意志ではなく覚悟を持たずに入学した生徒

 このように、一つの組織(クラス)を構成する人間がばらばらな方向を向いて所属している、それが専門学校の特徴だ。

そこで入学時には、⑵と⑶の生徒が前向きに授業に参画できるように事前教育を実施する。そうして、なんとか一人も欠けることなく初めの一か月をやり過ごす。ここであの「出来事」に遭遇するのだ。すなわち人と会うこと。どんな人だろうか。

生徒たちがゴールデンウィークを迎える。入学して新しい環境に慣れるために気を張っていた一か月間。

その期間を過ごした自分を休めるために帰省する生徒もいれば、高校時代の友人と会う生徒もいる。すると、その友人の中にはこんな環境下にある人が現れる。

 ・大学に通う友人は自分でカリキュラムを組み、適度な授業数で毎日を過ごし、アルバイトに精を出している

・就職した友人が初めての給料を手にし、自立した大人になっている

・他分野、他法人の専門学校に通う友人は自分と違い、早く授業が終わって遊んでいる

 これらの特徴を持つ友人と一緒に過ごす。出てくる話の一つひとつに対して羨ましい気持ちを抱く。実際には友人も友だちの前で去勢を張っているだけに過ぎない可能性もある。

ただ気を張った一か月間を過ごした生徒にとっては、「何で自分だけがこんなに毎日忙しいのだろう」という疑問を抱くには充分な材料なのだ。

そのため私がいた専門学校現場では、ゴールデンウィークに突入する前に予め発信をしておく。ホームルームでは、こういった友人と過ごすことになったとしても入学時の夢を忘れることなく、クラス全員で目標を達成しようと発信しておくのだ。

あるいはもし今、卒業後の進路に不安を感じているのであれば、友人と過ごすのではなく家族と過ごすように伝え、人と比較するという状態を避けるように伝える。

例えるならダイエットで成功するコツは、甘いものを買える環境に近づかないこと。

 隣の芝生が青く見えるなら、芝生を見なければいい

 もしあなたが今、社会人一年目として気を張った日々を過ごして不安を感じていたなら、この生徒と同じ対応を推奨する。

すなわち、仕事の話になる友人と出会う機会は割けること。初任給、時間外労働時間数、休日の取得しやすさ、尊敬できる先輩の有無など、比較できてしまう材料はいくらでもある。

そんな話題になったとき、今の仕事で充実した日々を過ごしていると胸を張って言える状態でいないならば、まだ会わないほうがいい。

前節で述べたMUST(やらなければならないこと)に向き合っている日々は、迷いや不安が生まれやすいのだ。ただ、このMUSTに全力で取り組むうちにCANが増える。

あなたがもし今、不安や葛藤を抱えているのなら、解決方法はCANを増やすことだ。それまではどうしても仕事の話になる友人と会う機会は避けておこう。

 居場所は三つあったほうがいい

 これまでの話に補足を加える。私は友人と会わないほうがいい、と伝えているのではない。「仕事の話をすることになる友人」とは会わないほうがいいという表現をしている。

そのため、もしあなたが趣味でつながっている友人がおり、仕事の話になる心配がないのなら問題ない。

そういった意味では、あなたがあなたらしくいられる居場所を学生時代の友人と過ごす以外にも二つ作っていくことをお勧めしたい。

三脚も足が三つあるから安定する。どんな居場所がいいか、ぜひ今からでも開拓していこう。

今節のまとめとしては、あなたがCANを増やす過程でMUSTと向き合う上で、迷いや不安を抱えた状態では職場の環境を比較することになる友人との出会いは避けること。

その間にできることを増やし、居場所を新たに開拓することで、あなたは日々のMUSTに向き合うことができるようになる。

アクション3

今の職場、仕事について胸を張って話せる状態なのか振り返り、もし不安や迷いがあるのなら、比較しなくて済む居場所を開拓しよう

第四節 あなたの選択は正解にできる 


第二節では目の前のMUSTに取り組むことでCANを増やすこと、そして第三節ではその過程においてあなたを迷わす出来事について触れてきた。

さて今節では、あなたに根本的な質問をするところから始めよう。今の会社に入社を決めたのは誰か。

何を当たり前のことを聞いているのだと思っただろうか。そう、決めたのはあなただ。

そこであなたには今の会社に入社を決めただけでなく、覚悟まで決めてもらうことをゴールとして、一緒に「選択」ということについて考えていきたい。

選択を考察する上で、アメリカの精神科医であるウイリアム・グラッサー博士が提唱した「選択理論」の考え方を前提としてあなたに共有しておこう。

要約すると、人の行動は外部からの刺激で反応しているわけではなく、刺激と反応の間にはスペースがあり、どんな行動を取るのか選択しているのは自分だということ。

もしあなたが入社するにあたり、人事の方の人柄が魅力的だったからとか、先輩からの勧めがあったとか様々な背景があったとしても、最終的に入社という選択肢を選んだのはあなただということなのだ。

なぜ当たり前のことをこのように繰り返し述べているのか。選択の主体が自分だと自覚するということが、結果としてあなたをストレスから救うからだ。次の例を見てほしい。

 ケース1

先輩から取引先に電話をしておくように指示を受けた。あなたは形に残るようにメールにしておいたほうが良いと思いながらも、指示通り取引先に電話をかけた。すると取引先からは電話ではなく、メールで送ってほしいとお叱りを受けた。

 このようなケースに遭遇した場合、あなたはどう思うだろうか。先輩に対して、「ほら見たことか、初めからメールにしておけば私が叱られることもなかったのに」と感じるだろうか。

最終的には先輩の指示に従うという選択肢を選んだのは自分だから、次は自分の見解も先輩に予め伝えるトレーニングを積んでいこうと思うだろうか。

第一節の自責思考とも関連するが、ストレスから解放され、自分を成長させる人はどちらの考えを持つ人だろうか。もちろん、後者である。

こういった例を出したとき、いやいや、先輩には意見なんてまだできないでしょうとか、先輩に持論を述べるほうがストレスですとか、その選択を取らなかった自分を正当化する人がいる。自分に選択の主体があったと自覚できない人だ。

このような思考を持つ人は、どんな選択も選ばざるを得なかったと捉え、悲劇の主人公を演じ、ストレスを抱えて生きることになる。あなたにはそうなってほしくない。もう一つ身近な例を挙げて補足する。

 ケース2

友人と昼食を摂るお店を相談。AとBという店が候補になり、あなたはBというお店で食べたかったが、友人が主張したAというお店に行くことになった。すると、いざAというお店に着いたとき、Aが定休日であった。

 このケースでは、選択の主体が自分だと自覚している人ならば、友人の主張を尊重する選択を選んだのは自分だと捉えるだろう。「だからBに行こうと言ったのに」などと考えないのだ。

 スタートはなんでもいい

 あなたが今の会社に入社を決めた理由。それはなんでもいい。これまでのケースで見てきたように、入社の選択をしたのは自分だと捉えること。

それが次の「選択の特徴」について触れていく上で前提となる態度だ。この前提を踏まえて、本題に入ろう。

私たちは選択について考えるとき、中学校や高校で実施してきた選択問題のように考えてしまう傾向にある。つまり選択肢には正解、不正解があり、×を選んでしまうと自分に点数が入らない。

その経験から私たちは人生における選択についても同様に、正解、不正解があると考えてしまうのだ。この会社を選んだのは正解だったのか、もう一つ内定を得ていた会社に入社したほうが正解だったのではないか、そんな調子だ。

ただテストとは異なり、人生における選択については、正解も不正解もない。あるいは正解も不正解も両方潜んでいると言っても支障はない。

その考え方を示す上で、田中修治氏の著書である「大きな嘘の木の下で」に端的に表現されているため、次に引用する。

 “人生における選択の先には、どちらにも天国と地獄が待っているのだ”

(「大きな嘘の木の下で」田中修治氏 幻冬舎)

 繰り返しになるが、あなたがどのようないきさつを経て今の会社、今の仕事を選んだのかは問題ではない。大切なのはこれからの行動だ。

そのためにも、もっと他に良い選択肢があったかもしれないという迷いは今すぐ捨てたほうがいい。この選択を正解にするのは、他でもないあなただ。

あなたの行動だ。MUSTに迷いながら取り組むのではなく、そして人のせい、環境のせいにすることもなく、ただただ目の前の仕事に取り組んでほしい。

そうすればきっと、あなたの選択はあなた自身の行動で正解にしていけるだろう。

アクション4

過去の選択について思考する時間をなくし、今の選択をどう正解にしていくのか、アクションプランを立てよう

第五節 あなたは何に感謝するのか

 
感謝と素直。伸びる若手の特徴、活躍している社員の素養、求める人材。どんな分野でも必ずと言っていいほど挙げられる二大性質だ。

一緒に働く人に感謝し、人からの助言に素直に耳を傾ける。そんな人物像が想起される。私もそんな人物となら一緒に気持ちよく働くことができるだろう。

ただし、「一緒に働く人に感謝し、人からの助言に素直に耳を傾ける」人材になるためには、もう少しこの「感謝」という言葉を具体的な行動レベルまで落とし込む必要があるというのが今節のテーマだ。

人から何かしてもらって、「ありがとう」と感謝の言葉を述べる。あるいはお礼として何かお返しの行動をする。これが感謝の気持ちを大事にする言動というのなら、多くの人が実践できるだろう。

しかし、もっと大事な観点がある。私が感謝の気持ちを抱く上で大事だと思う場面は、人から耳の痛い指摘や指導を受けたときだ。

あなたはどうだろうか。人から叱られたとき、相手に感謝できる素養はあるだろうか。

人から自分が至らなかった点について指摘をされるとき。考えが甘かった点について指導されるとき。あなたはどんな反応を選択するだろうか。

もしかしたら初動は苦しいかもしれない。落ち込んでしまうこともあるだろう。ただ忘れてはならないのは、指摘する側も決して気持ち良いものではないということだ。

あなたに嫌われるかもしれない。素直に耳を傾けてもらえないかもしれない。指導することで関係性が悪くなるかもしれない。それでもチームのため、あるいはあなたが今後、同じ失敗を繰り返さなくて済むように指摘せざるを得ない。

会社は学校ではないので、教えたり成長を促すというのは義務ではない。

だからあなたに対して苦慮しながらも、指摘、指導をするために時間を割いてくれたことに感謝ができると良い。あなたと向き合ってくれたことに感謝ができると良い。

言われるうちが花。この「言われるうち」という期間をどこまで伸ばせるかは、あなたの態度にかかっている。周りからの信頼をなくし、相手にされなくなる人の特徴は共通している。

指導されたときに「確かに失敗だったけど、あの言い方はないよな」とか、「皆がいる前で言わなくても」とか、言われたことの本質を理解せずに、枝葉である「言い方」や「環境」の粗さがしをおこない、自分を慰める。

なぜこの類の人は自分を慰めるのだろうか。自分が知っている自分を守りたいのだ。セルフイメージという言葉とも言い換えられる。

自分は詰めが甘くないはずだ、今回はたまたま自分が勘違いしていただけ、など過去に褒められた経験を基に作り出した自分像が脅かされたときに、素直に指摘を受け止められない傾向にある。

つまり、端的に言うとプライドが邪魔をするのだ。そのプライドは過去の成功体験に起因する。過去の成功体験から作り出された自分を守りたい、要は「保身が起点の感情」が素直に受け止めることを阻害する。

このようなプライドを優先する人物はどうなるだろうか。愛情の反対は無関心という言葉があるが、まさに関心を持たれなくなる。

愛情がなければ指摘も指導もする気は起きない。そうして指摘をされなくなった人物は、言動の改善がなされず、成長もしない。

周囲の信頼も得られない。いつの間にか配置転換をされて、あるいは異動、転勤が頻繁になされ、どこの部署でも活躍できない人物となるのが関の山だ。

半年経ったにもかかわらずとか、何年目にもかかわらず、とか余計な前置きはなくし、失敗を事実として素直に認め、向き合ってくれた相手に感謝しよう。

そうすることで「言われなくなり墓」という状況は少なくとも避けられる。

コミュニケーションにおいて、伝えた内容より伝わった内容が大切という観点があるが、セルフイメージにおいても同じことが言える。

「自分が知っている自分」よりも他者に映った「自分は知らないけど他者が知っている自分」について自覚できることで、

意識が変わり、行動を変えていくことが可能となる。これは四つの窓で表現される「ジョハリの窓」の理解の応用版だ。次の図を見てほしい。

 (ジョハリの窓の図を挿入)

 前段の内容の理解を深める上で、私の例を紹介しておく。私は学生時代に人の顔色ばかり窺っていた。人前に出るのが苦痛だった。

それがいつしか人の気持ちに配慮した言動が取れることが強みだと自覚して、教員になるという夢を抱いた。繊細だけど配慮ができる、これが新卒で入社する頃の「自分が知っている自分」だった。

ところが生徒40名の担任になったとき、生徒の納得感を得られる発信ができなかった。同僚や講師の先生に「どれだけ鈍感なんだよ」と叱られることが多かった。まさに「自分は知らないけど他者が知っている自分」とのギャップに苦しんだ。

自己評価では繊細だが、他者評価では鈍感。正反対だ。繊細という強みを生かした仕事として教育業界を選んだのに、鈍感だという性質に更新するのであれば、教育業界自体の選択が誤っていたことになるのではないか。そういうネガティブな思考で自分を追い込んだこともあった。

でも繊細というセルフイメージにいつまでもこだわったところで、状況が好転するはずもない。そう思って、一度自分に対するイメージはゼロに戻し、先輩や講師からもらう一つ一つの指摘、指導に感謝した。

もちろん、その指摘の中には愛情が根っこにあった「お叱り」だけでなく、私の鈍感さが起点となって感情の爆発を巻き起こした「怒り」を浴びることもあった。

しかし、その怒りの感情すらも、私には有り難かった。教員として生徒から、そして同僚から信頼を得るために、「鈍感」から脱却するための再構築にはどんな材料も学習する必要があったからだ。

そのため相手は指導のつもりがなく、文句や意見だったとしても、向き合ってくれたことに感謝した。

「ご指導ありがとうございました」と述べる私に、ときに「指導で片づけるな。文句だよ」と直接言われたこともあったが、それでも感謝した。

言われなくなることのほうがよっぽど怖かったからだ。そうして本当に些細な指摘もすべて吸収していくことで、人格の面でいちから鍛え直してもらったと、今でもあの頃の環境に感謝している。

もしあなたが学生時代にうまくいった出来事や、褒められた経験から抱いているセルフイメージがあったなら、社会に出たことで一度リセットすることをお勧めする。

自分についてゼロベースで捉え、周りに映る自分を一つ一つ、何が要因でそう映っているのか言語化して、課題を感じるなら改善していこう。そうすれば学生時代とは異なる、成長した自分に会えるだろう。

アクション5

「自分が知っている自分」を一度ゼロにして、指摘や助言を素直に吸収できる態勢を整えよう

第六節 目標なんて、なくてもいい


今節では第三節で述べた「WANT―MUST―CAN―WILL」について、より理解を深めるために「目標」について掘り下げていきたい。

あなたには今、目標はあるだろうか。もし明確にこれだという目標がないのであれば、安心してほしい。あなたに目標がなくても良い理由と、目標が見つかっていく過程についてこれから触れていこう。

まず、なぜ上司や先輩はあなたに目標の有無を尋ねるのだろうか。それは上司や先輩が成長サイクルの基本として、目標と現状の間のギャップを埋めるというイメージを持っているからだ。

ギャップを埋めるためにあなたの課題を抽出したいのだ。その課題にあなたが真摯に取り組んでいくことで成長を促し、なおかつ最終的なゴールに沿っていることで、課題克服のための意欲も持続するだろうと期待している。

ところが私自身の例もそうだが、入社一年目に目標を尋ねられたとしても、確信に満ちた回答をすることはまず難しい。上司や先輩からすると三年後に支店長とか、五年後に課長など、何かしら役職を挙げると指導がしやすいのだろう。

しかし、もしそういった回答をしたとしても、あなたが心からそう思えているとは限らないのだ。また、私に三年後の目標を尋ねた上司は一年後に異動し、二年目に尋ねてきた上司も結局一年後に異動した。

だからあなたが今は同期に比べて、あるいは先輩と比べて明確な目標がなかったとしても気にする必要はない。それよりも大切なのは、成長サイクルには二通りの方法があると知っておくことだ。

それは「山登り型」と「川下り型」の二通りだ。山登り型は、上司や先輩が期待する成長サイクルだ。すなわち先に登る山を決める。つまり目標を立てる。その山を踏破するために必要な準備は何か洗い出す。そうして一つ一つの課題をクリアすることで、着実に山頂を目指す方法だ。

小学校の卒業文集で既に将来の目標を明言し、具体的な準備と取り組みすらも当時から決めてあったアスリート。彼らが世界を舞台に活躍していることから、キャリアを築く上でも山登り型は目標達成方法の主流になった。

それに対して「川下り型」とは、スタンフォード大学のクランボルツ教授の「計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」を基にした成長サイクルだ。

計画的偶発性理論について簡単に要約する。クランボルツ教授の調査では、成功したビジネスパーソンにヒアリングしたところ、「自分のキャリアは偶然によるところが大きい」と、約80%もの人が「偶然」について言及したというもの。18歳の時に望んでいた仕事に就いている人は、たったの2%に過ぎなかったのだ。

ここで偶然という言葉だけを拾うのは注意したい。「計画的」という言葉があるからだ。つまり「偶然」を「計画的」に手にしていくこと、そんなキャリアの築き方を指しているのだ。

山登り型が初めから登頂に必要な準備物が明確であるのに対して、川下り型はゴールには流れ着くけど、その時々の流れの分岐で何が起こるかは予想していない。

良い景色に巡り合うこともあれば、思いがけず急流に遭うこともある。それらの一つひとつの環境の変化を楽しみながら、ゴールを目指すのだ。山が見つかれば山登りをすればいいし、山が見つからなければ川下りを楽しむといい。ただ、キャリアを築く上で一番避けたいことがある。

山が見つかっていないのに、川も下らない。つまり同じ場所にずっと留まることだ。使い古された表現だが、水は同じ場所に留まると濁っていってしまう。同じ職場にいることは危険だという意味ではない。

「同じ場所に留まる」というのは、既にできるようになったのに同じ仕事ばかりすることだ。これは毎日同じ作業をする仕事に就いている人を蔑んだ表現ではなく、あくまで「目標を見つける」という視点では、不向きな作業だという意味である。

ではなぜ、同じ場所に留まっていると目標は見つけられないのだろうか。新たな情報を得にくいからだ。

 情報を仕入れないと、目標は見つからない

 情報というのは、自分が感じたこと、体験したこと、気づいたこと、とにかくインプットしたもの全てを指す。私は社会人四年目のときに強烈な体験を得た。

他部署の先輩がプロジェクトリーダーとして関わるプロジェクトに、私がOJTとして関わっていた後輩社員が参画した。

そこで、その後輩社員が先輩のプロジェクトの進め方と自部署との調整に翻弄される様子を目の当たりにした。私が客観的に見て、後輩が翻弄されていた要因は、その先輩の計画性の無さからくるものだった。

その他部署の先輩を反面教師として、そのときに私は初めて自分の将来像をはっきりと定めた。「長所進展法という考え方に甘えずに、どんなジャンルの仕事も得意な先輩になる」というビジョンがクリアになった。

現時点でセンスがない、自信がない、苦手である、それらの感情が先行する仕事であっても積極的に取りにいく、そんなスタンスが確立された。

そうして仕事の選り好みをせずに取り組んでいくことで、新たな体験、情報を得ていくことができ、自分が描くビジョンを目標へと落とし込んでいくことができた。

私の事例で伝えたかったのは、反面教師を見つけようということではない。現時点で目標が見つかっていないのであれば、川下り型でキャリアを築けるように、「計画的」に新たな情報をつかむ機会を得ていこうということだ。

上司や先輩に与えられたMUSTだけでなく、自分の意志で得た機会で生じるMUSTにも取り組んでいく。

そうすることで、なりたい自分よりも前に、ありたい自分を確立できる。それが目標を見つけていく過程の中で、あなたの基礎となるだろう。

アクション6

確信を持って目標を立てるために、新たな情報を得られる機会に積極的に挑戦しよう

第七節 プライドより先に、何から守っていく?

 

自分が知っている自分。それを一度ゼロにしていく必要性については第六節で触れたとおりだ。ただ、自尊心やプライドというのはとても厄介なもので、一度理解しただけでそうやすやすと手放せない。

そこで今節では、あなたにプライドより先に、何から守っていくのか優先順位を決めてもらいたい。

 最上級生から一年目へ

 学生時代には団体の代表を務めていた。部活では部長を務めていた。友達の間では論理的思考の持ち主だと言われてきた。家族の中では全体を見た発言ができると評される。

あなたがあなたをイメージする上で、これらに相当するような象徴的なエピソードがあったとしたら一度ゼロにしておこう。

大丈夫。ゼロにしていたとしても、社会で同じような成功体験を積むことができれば、もっと確信に満ちた強みに変えることができる。そのときが来るまで、まずは自分をまっさらな状態にしよう。

このことを繰り返し述べるのは、就職活動中に自己分析が大事と言われ、自分についてしっかり振り返ってきた人ほどセルフイメージを手放すのは難しいからだ。

もちろん自己分析自体を否定しているわけではない。むしろ社会に出てからも自己分析の習慣は継続し、内省、つまり自分に問うことの機会は得ていってほしい。

ではなぜ、学生時代までの「自分が知っている自分」=「できると思っている自分」を手放す必要があるのだろうか。

これも確認になるが、「できると思っている自分」に執着すると、そのプライドを守るために他者のせい、環境のせいにしてしまうからだ。

他者のせい、環境のせいにしてしまうと、指摘された本質を理解できないので改善につながらない。社会人一、二年目はまだいい。

改善してきた幅の差が見えづらいからだ。しかし、やがては自分の言動を具体的に改善してきた人と、心のどこかで他者や環境のせいにしてきた人とでは打ち手の数も種類も明らかに異なっていく。

前置きが長くなったが、あなたにしてほしいこととしてまずは、あなたができていないことを書き出してみることだ。

できると思っていたことや強みは書かなくていい。仕事をする中でできていないと痛感したこと、あるいは上司や先輩から指摘を受けたこと、これらを書き出してみよう。

その中には、もしかしたら学生時代の自分はできていると思った項目もあるかもしれない。それでも書き出してみよう。そして、実際にどう改善していくのか打ち手を考えるのだ。

私の例を挙げてみる。私は文学部日本文学科出身で、大学では国語の教員免許を取得した。友人の間でも私が書く文章を褒められることが多かった。

ところが社会人となり、社内メールを送信したところ、先輩に文章がわかりづらいと指摘を頂いた。文芸小説からビジネス本まで読んできたという読書量に自信があった当時の私には、受け入れがたい指摘だった。

しかし、指摘された内容は至極もっともな内容だった。社内メールや社内連絡は、読み手が時間をかけずに端的に内容が伝わることが重要である。

現代文のように「また」とか「なお」などの接続詞を駆使して文章を構成するよりも、まず結論を提示する。次に括れる項目はひとまとめにし、箇条書きを駆使するほうが伝わりやすい。

その先輩の指摘のおかげで、文章の伝わりやすさは向上し、意図した内容と結果が違うという状況は防げるようになった。

このエピソードを共有した意図は、「自分ができると思っていたことでも改善していく大切さ」を改めてあなたに伝えただけではない。もう一つの側面がある。

私が指摘を受けたとき、初めに「受け入れがたい」と思った心理的抵抗の背景も共有しておきたかったからだ。

その指摘をもらった先輩とは、先輩でありながら後輩にも助言を求めてくれて、しかも私と同い年だった。そのため、心理的距離が近いと感じていた先輩から指摘をされたことで、この人には言われたくないと感じてしまったのだった。

あなたにもそんな心の動きを感じた経験はないだろうか。言っていることはわかるけど、この人には言われたくない

よく「何を話すかより、誰が話すか」が大事と言われる。ただ、これは話し手が意識するのは確かに大事だが、聴き手が開き直る材料に使うのは間違っている

だから当時の私の心の初動として、親しいからという理由で「この人には言われたくない」と感じたのは誤っているのだ。

幸いにもその先輩が、私にかみ砕いて伝える辛抱強さを持っていたおかげで事なきを得たが、もし私の顔に「納得していない」表情が浮かんでいたら、それ以上の指導はしてもらえなかったかもしれない。

 “誰がそう言ったかをたずねないで、言われていることは何か、それに心を用いなさい”(トマス・ア・ケンピス)

 あなたの職場には様々な人がいる。就職活動中に接していた人事の方と、実際に配属された部署の人とではイメージにギャップがあるかもしれない。

それでも、その同僚の人たちや上司から指摘されたことに真摯に向き合っていく。「あの人だってこの点はできていないのに」とか「あなたに言われたくない」という気持ちが働いたら、それは自分を守ろうとしている危険な信号だと自覚する。

「誰」にこだわらず、「何」を言われたのか、なぜそれを指摘されたのか、本質の部分を捉えて改善していけると、あなたは一緒に働く方々から信頼されるだろう。

今節のまとめに入る。まずは自分ができていないこと、人から指摘されたことを書き出していく。その中で、自分がプライドを持っている項目があったとしても、それはいったんゼロベースにして真摯に向き合う。

そして、誰に言われたのかという枝葉の部分を気にせずに、何を言われたのかに心を使う。それを指摘されたときのルールとして自分に設ける。

プライドを守るよりもそのルールを守っていく。その習慣は結果として、あなたを将来の指摘から救うことになる

アクション7

自分ができていないことを書き出し、誰に言われたのかに左右されないルールを固め、どうクリアしていくのか考えよう

第二章 素直さが習慣になれば最強

第一節 「先輩が忙しそうで質問できない」の本質とは


わからなかったら聞いて

冒頭の言葉は、業務の引継ぎや仕事の指示、説明後に上司や先輩から頻繁に言われる言葉である。この言葉を受けて、あなたはわからなかったときに積極的に聞けるイメージが持てるだろうか。

もしあなたの先輩方がどんな質問でも笑顔で応じてくれて、常に真摯に答えてくれるので業務を進めることに何の不安もないという状態なのであれば、今節は読み飛ばしてもらって問題ない。

ただ、あなたが先輩は忙しそうだからなかなか質問ができないという不安を抱えているのなら、今節のテーマでその不安を取り除きたい。

まず、なぜあなたは先輩に聞きづらいのだろうか。先輩は常に忙しそうで聞けない。だから質問してもひと言、ふた言しか答えてもらえず、あまりしつこく尋ねても不快にさせてしまうのではないか。

できない人と思われてしまうのではないか。もし、先輩に実際に質問をせずに、このような想像の範疇で行動をためらっているようであれば、次の言葉をあなたに贈る。

お前の顔を気にしているのは、お前さんだけだよ

これはヨーロッパに伝わる格言だ。仕事ができない人。そんなレッテルを貼られることを恐れているのなら、気にしなくていい。前述したが、私は人の顔色を気にしていることで繊細なつもりであった。

ただし、実際は自分の想像の世界であれこれと気をもんでいるに過ぎなかった。人と向き合って、実際に会話をすると私の想像とは異なった反応を見せる。

そんな体験は一つや二つではなかった。そんなとき、ある本で出会った言葉が「お前の顔を気にしているのは、お前さんだけだよ」だった。

みんな自分のことで手一杯。そう思ったら、自分がどう思われるかよりも、自分がどうしたいかに目を向けられるようになった。

わからなかったら聞いて。この言葉に込められた上司や先輩の真意を、あなたは何だと思うか。引継ぎや説明にかけられる時間は限られている。

そのため、ひとつひとつのタスクの意味や情報の在り処などを上司はすべて説明できているとは思っていないのだ。もちろん、中には資料だけ渡されて、大した説明もなく、この言葉をかけられることもあるだろう。

真意もへったくれもないと感じるのも無理はない。そんなときは次の四点のアプローチで目の前の状況を前に進めていこう。

 一、マインドを変える

 相手の時間を奪いたくない。その感情を掘り下げていくと、あなたの本音が隠れている。嫌な顔をされたくない。前に説明したよねと叱られたくない。使えない人と思われたくない。すべて相手を気遣っているようでいて、実は自分が傷つきたくないという「保身」が起点となった感情だ。

そう気づいたとしても、だからって「自分が傷つきたくない」という感情を否定する必要はない。誰だって質問して嫌な顔をされるのは避けたい。私もそうだった。そんな私がどうやってマインドを変えたのか、あなたに共有したい。

それは、大義を描くのだ。職場の人間関係を壊さないため。自分の評判を守るため。それらもストレスを避けるには大事だと思う。

ただ、視野が狭くなっていることは自覚したい。それらのストレスを避ける上で、「仕事が前に進まない」という大きな不安を抱えることになる。

だから、あなたには大義を言語化することをお勧めする。「顧客のため」あるいは「ここで食い下がってしつこく質問しておくことで、結果として上司のイメージ通りの成果物を提出することができ、手直しの時間はなくなり、トータルでの時間削減、効果の最大化につながるため」などだ。

意志を固めるには、強固な目的、つまり大義が必要だ。「枝葉」の思惑にとらわれず、大事な「幹」を言語化できると、あなたの迷いはなくなるだろう。

 二、まとまった時間をもらう

 「聞いたけど、ちゃんと教えてもらえなかった」と主張する人。その「聞いた」の蓋を開けてみると、自分のタイミングで事務所内において声をかけただけ。

本人は勇気を出して聞いた。でも相手はろくに答えてもらえなかった。そんな状況だったということが珍しくない。

逆の立場になってみよう。突然聞かれても、上司や先輩は多くの仕事を抱えている。一、二分の回答で済む質問なら時間を取れる可能性はあるが、10分以上の時間を必要とする回答であれば、あなたが満足のいく答えを出す余裕はないだろう。

そんなときはきちんとアポイントを入れるのだ。自分がつまずいている点を整理した上で、腰を落ち着けて聞ける場を用意するのだ。

 三、締め切り前に提出する

 自分の中で完璧なものを締め切りの直前に提出する。すると上司や先輩のイメージと違うことが発覚する。または情報の不足が多数見つかる。

上司や先輩が「忙しそうだから」と途中過程を見せなかったことで生じた結果だ。

それを避けるには先に方向性だけをまとめた資料を報告する。または7割程度の出来でも一度見てもらう。一度の案件で何度も見てもらうわけにはいかないと気にする必要はない。

一の「マインドを変える」で、既にあなたには時間をもらうための大義があるはずだ。

 四、ふとした機会を利用する

事務所の清掃時間。取引先への道中。就業後の会食。そんなちょっとした時間、機会。上司や先輩と同席できるタイミングがあれば、普段抱えている仕事について疑問点を解消するチャンスだ。

それらの予定は上司や先輩も、仕事に没頭できる時間帯ではないと覚悟している。そんなときに質問ができたら、丁寧に回答してくれるだろう。

あなたのスケジュールに、そんなチャンスが転がっていないか見てみよう。もし当面の予定にそんな機会が得られなそうであれば、二の「まとまった時間をもらう」で示したアポイントを取りに行けばいい。

 今節のまとめに入る。先輩が忙しそうで質問ができない。あなたがこの問題に直面したときは、まずは忙し「そう」という想像の世界から脱却してほしい。

想像で気をもんでいる時間がもったいない。勇気を持って、質問しに行こう。そのときに必要なのは大義だ。仕事を前に進めるための大義を描こう。それでも満足な回答を得られなかった場合は、ふとした機会やまとまった時間を使って、能動的に解消していこう。

そうして上司や先輩に挑む姿は、結果にこだわろうとする積極性という評価の副産物を得ることにつながるだろう。

アクション8

「先輩が忙しそうで質問できない」場合、自分の保身が原因なのか、質問の仕方が問題なのか振り返り、具体的な打ち手を見つけよう

  

第二節 性格は免罪符にはならない


三つ子の魂百まで。この言葉を引用し、人の本質は変わらない、他人のことをそう評す人がいる。

あなたはどう思うか。人の本質は変わらないと思うだろうか。そして、あなたの本質に対してはどう思うか。今節ではあなたの「性格」について振り返る機会を提供したい。

「性格」という曖昧な概念を取り上げる上では、次の場面において現時点であなたが苦手と思うものはいくつあるかチェックしてから考察していきたい。

 □多くの人の前で発表する

□新しい機械に慣れる

□会議で意見を述べる

□友人、知人がいない交流会に参加する

□グループディスカッションに参加する

□クレームの場面に立ち会う

□チームの方向性を決める

□難しい判断を迫られる

□会食の場で余興を進行する

□上司と二人で外出する

 

いくつチェックがついただろうか。ちなみに私があなたと同じ新入社員の頃は、これらの項目すべてが苦手だった。

抵抗を感じた。自分にはできないと思っていた。そう感じていた理由は、自分の性格に原因があると思っていた。自分は人見知りだから。自分は恥ずかしがり屋だから。余興なんて無理。初対面は苦手。そんな調子だった。

では今はどうか。今はすべて問題ない。むしろ人からはこれらの項目のすべてを得意だと思われている。昔と今とでは、何が違うのだろうか。

 性格はすでに持っている

 今では、人の性格は後天的に変えられると信じていることだ。いや、この表現は正しくない。人は性格を全て持っている。その中で経験や場に応じて必要な性格を出し入れしているだけ、と考えるようになったというほうが正しい。

あなたにも先に場が与えられ、その場に必要な性格を出していたら、後天的に新たな性格が備わったという経験はないだろうか。

それは開発されたというよりも、必要に応じて出し入れをしているだけ、とも捉えられないだろうか。わかりやすく言うと、明るくなったのではなく、明るい自分を出すようになっただけというような具合だ。

私が新入社員の頃は、人前で話すだけで背中に汗をかいた。直前に何度もトイレに駆け込むほど緊張した。

なぜそんなに緊張していたのかを思い返すと、高校生の頃に準備不足のまま臨んだ音楽の発表で、クラスメイト全員の前でとても恥ずかしい失敗をしたことをずっと引きずっていた。

それ以来、自分で「自分のことを人前に立つことは苦手な人間という烙印」を押していた。でも私は今では100人以上の方々の前で講演をすることもある。

以前よりは緊張しなくなり、苦手意識はなくなった。その状態になったのは、何度も人前に立つ経験を積んでいったからというとてもシンプルな結論だ。

 過去の失敗で、将来の自分の可能性を否定しない

 ここまでの私の話を前置きとして、あなたについて振り返ってほしい。先ほどチェックしてもらったような、あなた自身が性格を理由に苦手だと思う項目をリストアップしてみてほしい。

その中で、あなたが仕事を続けていくうちに克服したいと思う項目はいくつあるだろうか。必ずしも「変わりたい」という前向きな理由でなくてもいい。

「変わらざるを得ない」という義務感でもいい。私の場合はどちらかというと、生徒や後輩に不信感を抱かせたくないという義務感で何度も失敗と改善を繰り返した。

場に応じて表に引っ張り出す性格を変える。簡単に言うけど、難しいと思う人もいるだろう。そんなときは、コミュニティが変わる瞬間を利用してほしい。

入社というのは、学生時代の自分の性格を変えるチャンスだ。今後も部署異動や、私生活で属するコミュニティなど関わる人々が変わる機会がある。

新たな場では積極的に手を挙げる。意見を言う。やったことがない仕事に挑戦する。そんなことから始めてみるのもひとつだ。

今節をまとめる。あなたが現時点で無理だと感じていることが、将来にわたってできないなんてことはひとつもないということ。まずはそれを自覚しておく。

克服していくために経験を積んでいくのか、ずっと避けて通るのかは、あなたの今後の社会人としての幅を左右する大事な選択だ。

もし、そのチャレンジが苦手だと感じる理由があなたの「性格」なら、新たな機会に挑戦してみよう。きっと将来のあなたが「今」のあなたを誇りに思ってくれるはずだ。

アクション9

性格を理由に苦手だと思う項目をリストアップし、今の仕事を続ける中で克服したいことにチェックしてみよう

第三節 被害者思考は今すぐ卒業しよう

 

若者がかかる病がある。「悲劇の主人公」という病だ。本人は病気という自覚はない。

もしかしたら前節で述べた性格のひとつとして片づけられてしまうかもしれない。ただし、この悲劇の主人公という病は、あなたをストレスの殻に閉じ込める可能性のある厄介な病だ。

今節ではあなたと一緒に、この病を予防するための方法と治療法を身につけていきたい。

病には発病する前に前兆があるように、この悲劇の主人公に関しても兆候がある。これから挙げる三つの特徴。この特徴にあてはまる人は、悲劇の主人公を発症する前に病気のタネを取り除いておこう。

 一、過去にいじめを受けた経験がある人

 安心してほしい。過去の経験を思い出す必要はない。そして、この経験を持つのはあなただけではない。私も経験がある。

中学生のときに通っていた学習塾。私の軽はずみなひと言が原因で、他の中学に通う男子生徒二人組から執拗な嫌がらせを受けるようになった。

塾を終えて帰宅するときに、塾の門前で何かが投げられ、私のこめかみにあたった。折り畳み傘だった。遠くにはその様子を見て嘲笑する二人組の姿があった。

その面白がっている表情を見て、これは今後も続くなと予感がした。突起物がこめかみに投げられた。この経験は私に塾に通う恐怖心を植えつけた。

当時は中学二年生。せっかく成績が上がってきたところではあったが、親に相談し、退塾した。

親に話したときの理由は「もう勉強は基礎がわかったから」だった。要因はいじめなんて言えるはずがない。心配させたくなかったからだ。

この経験はあなたに同情してほしくて共有したわけではない。同じような経験を持つ人がいたら、あなたに語りかける資格を得たかったからだ。

まず、この経験を持つ人の特徴をおさえておこう。場の空気を読む。そのためにチームの雰囲気が不穏な流れになったら、自分が損な役回りを買ってでも、平和に議論を収束させていく。

よく気がつき、チームに尽くす。人が見逃す細かい雑用に率先して取り組み、元気がない人に声をかける。人とはWIN―WINな人間関係を結ぶよりも、LOSE―WINな人間関係を結んでしまう。

つまり、自分が望む結果を得られないとしても相手の希望を優先する。そしてそんな機会を提供し続けていることにだんだんと疲弊していく。

私はこれだけ尽くしているのに、誰も理解してくれない。そんな思考に偏っていってしまう。あなたはどうだろうか。

さて、対処法について触れる前にもう少し補足したい。この経験を持つ人は、人の悪意に必要以上に敏感だ。

「必要以上に」とあえて表現したのは、本来は悪意ではないことも「悪意」として捉えかねない危険性があるからだ。

もしあなたが、「なんで私ばっかり」「同じことをしてもあの人は言われないのに」と感じる場面が多いのであれば、この「悲劇の主人公」を発症する兆候がある。

あなたが「私にばっかり」と目を向けている相手。その人とは価値観が合わないと決めて、あなたが距離を取ってしまっている可能性がある。

では、どうしたら良いのだろうか。あなたには自分を大事にするトレーニングを積んでほしい。ここでいう自分とは、自分の想い、つまり「自分はどうしたいのか」という意志を表明することだ。

他人の想いを優先するということは、他者を大事にしているので良いことなのではないかと主張する人もいるだろう。違うのだ。

他人のやりたいことを優先することで、あなたは意見の衝突を避けているだけなのだ。その根っこにあるのは保身だ。傷つきたくないのだ。

ただ、その場は傷つかずに済んだとしても、自分の想いを押し殺したままでは、あなたは「本当はこうしたかった」というストレスを抱えたまま過ごすことになる。

まずは、「自分はこうしたい」という主張をしてみよう。初めはうまくいかないかもしれない。意見の衝突で嫌な思いもするかもしれない。

でも、そうしてトレーニングを積む中で、相手に敬意を払いながら、伝え方に気をつけた上で自分の意見を伝えることができるようになる。

 二、過程を評価されたい人

 この特徴については、結論から述べる。仕事は価値の提供だ。どれだけ価値を提供できたのか、結果にこだわろう。

あなたの周りの人が評価されたとき、「私だってこれだけ頑張っているのに」「私も同じぐらいやっているのに」と思ってしまう人は要注意だ。

同じ過程でも「過程を評価されたい人」の過程と、「結果にこだわった人」の過程の違いはわかる人にはわかるのだ。

結果を出せなかったのであれば、その中で他者と比べるのではなく、どうしたら結果につなげられるのか振り返る機会に多くの時間を使おう。

 三、自分の話をしてしまう人

 一や二の特徴と比べて、悲劇の主人公病にかかる予兆としては一番気づきにくいかもしれない。

人と会話する場面。相手の話は最後まで聴ける。あいづちも打ち、頷きもおこなう。そうして相手の話が終わった後、その話の中で出てきた言葉から着想した自分の話をする。

そんなコミュニケーションの頻度が高い人は、悲劇の主人公病の予備軍だ。前段階の「主役病」にかかっている。

双方向でコミュニケーションが取れているから問題ないのではと思う人もいるだろう。ただ、その言葉のキャッチボールの仕方は、あなたはグローブを持たずにお互いにボールを投げているだけ。

人に興味がないとも言い換えられる。悲劇の主人公になる人は、総じて人に興味がない。

「なんで私にだけ」「私ばっかり」「私だって」すべて「私」の中で繰り広げる葛藤だ。相手と向き合わない。相手の想いを知ろうと挑む勇気がない。

そのため、普段の会話から相手の話を受けて、相手に質問するトレーニングをしていこう。相手の想いや気持ちを知ることで、相手の意外な一面を知ることができ、苦手だと感じていた自分の気持ちが思い過ごしだったと相手の印象を更新できる。

あなたには悲劇の主人公にかかってしまう人の三つの特徴について共有してきた。この病にかかると人から信頼を得られないとか、そういった類の高尚な話をしたいのではない。

この病にかかった人は人と比較しながら、自分のストレスの殻の中で悶々とした日々を過ごすことになる。それをあなたには未然に防いでほしい。今節のまとめに入りたい。

「大丈夫だよ」と言ってほしい。そんな想いで自分の現状を話す。いかに自分が出来ないか話して、周りの同情を買いたい。

周りを褒めることで、自分の人間性を保ちたい。身の上話をするより、どうしたら仕事をまわせるのか真剣に相談すべきなのに、周囲に理解を求めることに労力を割く。悲劇の主人公という病にかかった人の末路だ。

あなたにはそんな日々よりも、人と向き合って、意見交換を恐れずに人に興味を抱く。人とコミュニケーションを取る中で、その人の良い一面を知ることができ、相手に好印象を抱く。そんな日々を過ごしてほしい。

 アクション10

あなたが葛藤を抱く場面で「私」という言葉が多く登場していないか振り返り、人と向き合うトレーニングを積んでいこう

第四節 口にする言葉は本音か、本心か

 

心理的安全性。一九九九年にハーバード大学のエイミー・C・エドモンソン教授によって提唱され、二〇一二年~二〇一五年の四年間の生産性向上の成果報告としてグーグルによって有名になった概念だ。

心理的安全性とはエイミ―教授によると、「だれかに助けを求めたり、ミスを認めたりしたからといって、罰が科されることはないと保証することである」と定義されている。

今節では今さら多くの既刊本で説かれている「心理的安全性」についてあなたと確認したいわけではない。

この心理的安全性が保たれた職場の成果のひとつである「課題やネガティブなことを言い合える」という状態について間違って理解し、そのせいでストレスを抱える人がいるために引用した次第だ。

あなたが仕事をする中で、上司や先輩に本音を言えずに建て前でやり過ごすという場面はあるだろうか。本当は納得していないけど、「承知しました」と返答する機会だ。

これは組織で働く以上、誰しもがあって当たり前。本音と建て前。これを引き合いに出して、本音が言えない職場は心理的安全性が低いなどと主張する人がいるので気をつけてほしい。

本音と建て前という対比では、どうしても自分の気持ちを押し殺す「我慢」というニュアンスが含まれてしまう。

でも「自分の気持ち」とは、本心のことだ。だから本音と建て前ではなく、本音と本心という対比で考えてみる。

そうすることが、あなたのストレスを軽減するアプローチだというのが今節のテーマだ。

本音と本心という対比を意識した人が少ないと仮定して、次のようなケースを見てほしい。

誰でも想像つきやすいように、専門学校の生徒の事例を出す。きっとあなたの高校生活や中学校生活でも似たような場面があったのではないだろうか。

 ケース

行事の実行委員を務める生徒が、全員で作り上げる行事にもかかわらず、放課後に残って作業を手伝うクラスメイトの少なさについて相談に来た。

委員「みんな協力せずにすぐに帰っちゃうんですよね。これまで我慢していたけど、こんな状態ならもうこのクラスでみんなと一緒にやりたくないって言っちゃってもいいですかね」

教員「そうなんだね。そんな状態じゃやりたくないって気持ちになるのもわかる。ただ、やりたくないってみんなに言いたいというのが、あなたが得たい結果って理解で良い?」

委員「得たい結果は…みんなが協力してくれること…です」

このケースだと、委員の本音は「もうこのクラスでみんなと一緒にやりたくない」だった。ところが、本心は「みんなに協力してほしい」だったことがわかる。

この整理を理解せずに、なんでも本音を言い合える職場を推奨する人がいるので注意してほしい。

ただ、それだけ本音と本心を整理するのは、自分を振り返る習慣がある人でないと難しいのだ。そのため、あなたには次の図で本音と本心を整理するイメージをつかんでほしい。

(図を挿入)

 本音は意見で、本心は願い

 なぜ、あなたに本音と本心を分けて考える習慣を身につけてほしいのか。あなたが今の職場における会議のやり方に疑問を持っていたとする。

「心理的安全性」を間違って理解している人があなたの身近にいた場合、「そんなに会議に疑問があるなら、今の会議はあまり意味がないと思うという本音を打ち明けてみたら?」という助言をしてしまう。

若手社員の意見を聞き入れられないなら、その会社は長くいなくても良いかもね、などという補足をしながらである。

ここまで読んであなたはどう思うだろうか。本音と本心に分けて考えることができるだろうか。

ここでいう本心は、「意味がある会議にしたい」である。本音をぶつけることよりも、本心と真剣に向き合うと、どうしたら本心を叶えられるか、打ち手を考えようとするのではないだろうか。

補足として、本音を軸に自分の意見を通そうとする人のパターンを次に示したい。

 一、勇気を出して本音を打ち明ける

二、想いを受けとめてくれる上司や先輩の有無によって結果が異なる

三、結果が環境によって左右される

二や三のように不確定要素があり、環境に恵まれて意見が通ったときには、上司や先輩に意見したことを武勇伝のように語り始める人が生まれることも少なくない。

そういう人はいつの間にか、本人も無意識のうちに意見だけ言う人として経験年数を重ねていき、うるさ型の社員としてポジションを確立していくことになる。だからこそ、あなたには本心を大事にしてほしい。

本音は意見で、本心は願いである。願いを叶えるには、具体的な行動を伴う必要がある。本音を述べただけで、周りが動いてくれるという淡い期待はあなたを苦しめるだけだ。

本心を言語化できれば、あなたが次にどんな行動を起こしたらよいのか具体的なイメージを持つことができる。そして、本心をベースにした意見であれば、周りの人の心を動かすこともあるだろう。

今節のまとめとして、まずは本音と建て前という対比ではなく、本音と本心という対比の習慣を身につけていこう。

そして、本音を述べるのではなく、本心に従った行動を起こせるように本心を言語化する癖を身につけていこう。そうすれば、上司や先輩が傾聴の姿勢を持つ持たないなどの環境に左右されない強さがあなたに宿るはずだ。

 アクション11

納得できないことがあったら、本音と本心で分けて書き出してみよう

第五節 成長の分かれ道となる失敗との向き合い方

 

失敗は成功に至る過程。本当の失敗とは何もしないこと。だから一度失敗したぐらいで諦めずに挑戦を続けよう。

ビジネスパーソンがあらゆる場面で引用する言葉だ。これは確かに真理だ。ただ忘れてはいけないのは、失敗には痛みを伴うこと。失望される。落胆される。自己嫌悪に陥る。

失敗を次に生かそうという前向きな切り替えの前に、痛みもセットだということは覚悟しておこう。このことと向き合わずに、たくさん挑戦して多くの失敗を経験して成長していこう、そんな想いだけで社会に挑むのは危険だ。

失敗は成功に至る過程。そう語る前に失敗との向き合い方をあなたと考えたい。失敗を美談にできるのは、成功した人だけだからだ。失敗との向き合い方を考える上で、まずは失敗の特徴から確認していこう。

 ごまかした失敗は繰り返す

 あなたは火傷を負った経験はあるだろうか。私は幼少の頃、郵便配達員が乗ってきたバイクのマフラー部分を素手で触ってしまい、手の平が軽い火傷をした。

母親が水道水で慌てて私の手を冷やしていたのを強く覚えている。このような軽い火傷の経験は多かれ少なかれ、あなたにもあるだろう。

火傷は、軽い火傷を負うからこそ熱を帯びた物への危機感を高めることができ、重い火傷を防ぐことができる。

仮に四六時中保護者の管理下にあり、軽い火傷すら未然に防ぐ環境にあったなら、熱への恐怖心を知らずに、唐突に重い火傷を負ってしまう危険が増すだろう。火傷はちゃんと火傷をするからこそ、その攻略の仕方を学べるのだ。

火傷の例を出したのはビジネスの現場において、火傷をどうにか避けようとする場面を見かけるからだ。

つまり、失敗をごまかすことで、痛みを感じずに済む方法に頭を使うことを指している。あるいは失敗と向き合わずに、前述した「悲劇の主人公」を演じ、周りにフォローやケアをしてもらうことで、どうにか痛みを減らそうと無意識に画策する人もいる。

 ケアは失敗をなかったことにする魔法じゃない

 「ごまかしたらなんとかなった」という経験は、痛みを避けられたという点では本人にとっては満足だろう。

ただ、それは火傷を避けて痛みを経験しなかったことで、より大きな失敗、痛みにつながる可能性も秘めている。「何がダメだったのか」という地雷のポイントをつかめていないからだ。

あなたがつらいとき、苦しいとき、先輩がフォローしてくれる。話を聴いてくれて、気持ちを軽くしてくれる。そうだとしても、その失敗であなたが迷惑をかけた、負担をかけた相手の状況はしっかりおさえておこう。

そのときは申し訳なさで苦しいかもしれない。ただその苦しさが、後々のあなたが同じことを繰り返さないための成長の糧になることは間違いない。

では、人はどうして失敗をごまかしてしまうのだろうか。私が実際に接したことがある人間の実例をまじえた次のケースを見てほしい。

 上司「これってどうなっている?」

A「はい、すぐにやります」

 上司「これってどうなっている?」

B「申し訳ありません。すぐにやります」

 上司「これってどうなっている?」

C「申し訳ありません。まだ着手できていません」

 会話が成立しているのは、この中ではCさんだけなのはあなたもおわかりだと思う。

でも実社会ではよくAさん、Bさんのような返答を耳にしたり目にする。もしかしたらAさんもBさんも初めの頃はCさんのような返答をしていたかもしれない。

でも正直に返答すると、もしかしたら次のような会話の流れに発展するかもしれない。

 C「申し訳ありません。まだ着手できていません」

上司「なんで?何が原因でとまっているの?」

C「ここの部分の情報がまだ得られていなくて。あとはこの進め方のイメージがわかなくて、これから先輩に相談しようと考えていました」

上司「そんなの、こうすればすぐにできるじゃん」

C「・・・・・・はい。すぐにやります」

 このように詰めるタイプの上司との会話を経た後は、恥ずかしい思いや悔しい思いを抱く人も少なくない。

そういった経験を重ねるうちに、痛みを減らすためにもAさんやBさんのような返答をする人材が生まれてしまうこともあるだろう。

ここであなたと考えたいのは、このときに得たものは恥ずかしい思いや悔しい思いだけなのだろうか。「こうすればすぐにできる」という上司の知見も得ることができているのだ。

その場は叱られるかもしれない。指導されるかもしれない。理不尽なタイミングでの確認もときにはあるかもしれない。そんなときは、自分のスタンスを予め決めておこう。

「怒られないために仕事するんだっけ」と自分に聞いてみてほしい。「自分が成長することで、喜んでもらえる人を増やすため」に働くと決めていれば、失敗と向き合うこと、指導を受けることに迷いはなくなる。

このスタンスを予め決めているだけでも、覚悟が変わってくる。

今節のまとめに入る。失敗は真摯に向き合う。周囲に与えたダメージはしっかり認識する。その上で挽回を誓う。この経験を糧にすることができるはずだと将来の自分に期待する。そういう失敗との向き合い方ができる人になろう。

 アクション12

失敗してしまったときは痛みをごまかすことなく、将来の糧にするために何が地雷だったのかポイントを把握しよう

第六節 噂との対峙の仕方


組織。チーム。一人ではできないことも、集団の力でクリアして成果を上げるために作られるモノ。その過程でどうしても生まれてしまうものがある。「伝言ゲーム」だ。

AさんがBさんのことを悪く言っていたらしいよ。C部長があなたの言動を不満に思っているらしいよ。

若手の頃は特に他者からの評価が気になることも多いだろう。かく言う私も気にしていた。気になっていた。そんなとき、どんな考え方で「伝言ゲーム」から被る過剰なストレスを避けてきたか、あなたに共有していきたい。

目の前では特に何も言ってこなかった。でも裏ではこんなことを言っていることを知った。とてもショックだ。人を信じられない。そうなる前に身につけてほしい「噂との対峙の仕方」がある。

それはトヨタやホンダなど製造業界において大事にされてきた三現主義だ。三現とは、現場、現物、現実のことを指す。三現主義は、机上の空論ではなく、しっかり現場で起きていることを把握して経営判断をするという場面で引用されることが多い。

ただ私は人の噂に対峙するときこそ、この姿勢が生きてくると実感している。まずは噂が生まれる瞬間をあなたと考察していこう。

 ケース1 場の話題に合わせた言葉を選んだ結果

 普段頑張り屋のDさんが珍しく愚痴を言う。その自己開示に応えるべくEさんがDさんの気持ちを軽くするために「自分もそう思うときはある」と共感を示す。

すると翌日、同席していたFさんがDさんではなくEさんの不満をなんとかしてあげようと、Eさんの発言だけ切り取って部署内に共有する。するとこの話が噂として部署内に広まる。

 どうだろうか。このFさんの行動は糾弾されるべきものだろうか。Fさんの行動の源泉は、「どうにかしてあげたい」という善意だ。そのため発信側を責めるより、情報を受け取る側が工夫すればいい。

大事なのは噂というものの側面には、ケース一のように実は噂として流れてきた不満の主体が、噂の主体と異なる人物だったという可能性があることだ。

だからこの噂と対峙したときに必要な態度は、Eさんはそのような不満を持っているのだなと理解することではなく、Eさんに直接聞いてみないと真相はわからないという冷静さを保つことである。それでは次のケースを見てみよう。

ケース2 その場の笑いが欲しいだけのリップサービスだった場合

(普段はそこまで不満に思っているわけでもないのに)「こないだ専務の取引先への態度がちょっとひどかったんですよね。こんな態度、社内では良いけど、外部にはしてほしくないですよね」と言って、実際に放たれた言葉を引用し、その場の笑いを取ろうとする。

このケースは、軽口を叩いて笑いを取りたいお調子者の社員に多い言動だ。お酒の席などでこのような話題を提供し、場を盛り上げる。

ただし()内にも記載されているが、普段はそこまで不満に思っていないという特徴を持つため、いざ専務の前に立つと、とても専務を気遣う言動を取る。

周囲にいる人間からすると、裏表がある人間のように映るだろう。でも本人にとっては、専務を気遣う気持ちに嘘いつわりがないのだ。

だから職場の外で使っていた言葉が、その人の本心とは限らないという姿勢で噂を捉える姿勢は大事になる。それでは最後のケースを見てみよう。

ケース3 前後の文脈が切り取られていた場合

人事評価のフィードバック面談。今期は数字で結果を出したと自負しているGさんは、上司の説明に納得がいかなかった。目標も達成しており、チームの利益の最大化に一番貢献していた。

ただ、上司からのフィードバックは、評価項目にない理由ばかりで会社のルールからは逸脱した理不尽なものだった。そのため、Gさんはなぜこの評価になったのか説明を何度も求めた。

この面談の後、上司は周囲のメンバーにGさんが評価に不満を抱き、面談時に意見を述べてきたということだけをこぼしていく。

この噂に対峙したとき、上司からの情報だけでGさんを見てしまうと、実際の前後の文脈が切り取られているため、その人柄を誤ったイメージで捉えられてしまう懸念があることがわかるだろう。

これまで、三つのケースをあなたに見ていただいた。三現主義として噂に対峙する姿勢には、共通することがあると理解できた人もいるだろう。

一方の情報だけで、把握したつもりにならない

それはあなたが噂を流す本人と対峙したときに、その人が言っている内容に対して、「一方の情報を聞いただけではなんとも言えない」という距離感で情報に接することが肝要だということだ。

その現場にいたわけではないし、実際にその人がどんな気持ちや表情で述べたか直接見たわけではないし、両方の言い分を聞けたわけではないという態度で噂に接するのは、将来的にあなたが部下を持ったときに必ず役に立つだろう。

ストレスを軽減するだけでなく、判断の精度を高めることにも役立つはずだ。今から情報への接し方としてトレーニングしておこう。

最後に今節のまとめとして、噂を聞くときの態度だけでなく、噂の対象としてあなたが話題に上がらないための姿勢を共有しておく。

これはお笑い芸人のスピードワゴン小沢さんが端的にまとめてくれているので、次に引用する。

“何をしゃべるかが知性で、何をしゃべらないかが品性”

何を話さないか。ケース一~三のような場面に遭遇しても、あなたが何を話さないかという視点は持っておいてほしい。

あなたの周囲にいる人が、必ずしも噂との対峙の仕方を身につけているとは限らないからだ。何を話すか、何を話さないか、その一線を決めるのは、あなたの人間性だ。

アクション13

日常的に触れる情報に、三現主義の態度で接することを徹底しよう

 

第七節 あなたの給与は何に対して支払われるのか

 

給与。賞与。同級生と初任給や年収を比較する前に、知っておきたい前提が三つある。まずは一点目から共有していきたい。

 一、会社はあなたに先行投資をしている

 就職活動を終えて、晴れて新入社員として入社する。実はそんなあなたに会社はすでに先行投資をおこなっていることは把握しておきたい。あなたの採用のために支出した経費だ。

企業によって採用教育費や採用活動費という勘定科目で区分している。媒体紙への掲載、ナビサイトへの登録、イベントへの参加費用、さらには近年では新卒採用の市場でも人材紹介が活発化し、その仲介手数料や成功報酬なども含まれる。

もちろん採用されたあなたは、自分が意図して支出した経費ではないため、責任を感じる必要はない。

ただ、それらの採用教育費は、その採用に携わった全ての経費から採用できた人数を割ることで、採用単価を計算することが可能になる。

つまり、あなた一人を採用するのにいくらかかったかという金額が算出できるのである。

その採用単価とは、あなたが会社に将来的に貢献してくれると見込んだ価値提供に先行投資をした金額だ。

給与の比較をする前に、会社の先行投資に対して、どうリターンをしていくのか。その点を考えられると、新入社員として過ごす日々の生活が一分一秒も無駄にできないことに気づけるはずだ。二点目は、人件費の考え方について共有したい。

 二、あなたがもらっている給与以上の人件費を会社は負担している

 あなたが会社からもらう給与。多くの人は、給与から社会保険料などが控除された所得、いわゆる手取りの振り込み額ばかりを気にするだろう。

この所得の部分から日々の生活費や家賃などを支払うためだ。あなたが給与と聞くと、この手取り額を想像するのもそのためだ。

だから給与分の働きができているだろうかと自問する人もいるのだが、実際はあなたが得ている給与以外に会社が負担している金額がある。

それは社会保険料だ。フリーランスは全額自分で負担しなければならないが、会社員は、社会保険料のおよそ半分を会社が負担してくれている。

あなたの人件費を計上する上で、給与以外に会社は社会保険料を法定福利費として別途支出金額を計上しているのだ。

だから給与分の働きでは会社は赤字なのである。給与以上の価値を提供してこそ、あなたは黒字をもたらすことができることを知っておこう。

 三、給与は何に対して支払われているのか

 学校と会社は違う

 では給与は何に対して支払われるのか。その点を説明する上で、あなたに学校と会社の違いを理解いただくことが初めの一歩となる。

まず学校は努力を認めてくれる教育機関で、会社はあなたが提供した価値を認める営利団体である。

学校では先生が出した宿題を真面目にやる、テストで良い点を取るなど、どういう行動を取ったら良い評価をされるのか細かく教えてくれる。受動的な態度で問題なかった。

しかし会社ではあなたが顧客に、あるいは同僚に、会社にどんな価値を提供したのかが問われ、その提供方法まで細かくは教えてくれない。

自分で考えて実行していく能動的な態度が求められる。価値を提供する、つまり結果が問われるという観点があなたにとってはなじみがなく、いまひとつわかりづらいかもしれない。

もう少し端的に表現してみよう。例えが乱暴だが、次の例を見てほしい。

 ・十年の修行を経て寿司職人になったAさんが提供した150円の寿司は、原価が高いわりにお客さんにとって不評である

・Bさんは数日の勉強を経て最適な機械を導入し、その機械で製造して提供した150円の寿司は、原価も安くお客さんに好評である

 この二つの例の中でわかること。Aさんがお客さんに対して、「私は十年間も修行したんだ」と主張したところで、提供している価値は150円という値付けに見合った味ではないという結果だ。

それに対してBさんは十年間も修行したわけではないが、150円という価格に満足できる価値を提供しているのである。ここで伝えたいのは「十年間も修行した」という努力は、結果を伴っていなければ価値を生んでいないという点だ。

身近な寿司を例に挙げると、読んでいるあなたもそれは当然だろうと思うだろう。ただ社会では、「こんなに頑張っているのに評価してもらえない」と不満を抱く人がいる。

会社に対して、まるで朝練を頑張ったら、その姿勢を認められてレギュラー入りを果たせる部活と同じだと思い違いをしているのだ。

偉そうにその思い違いを見下したいわけではない。そもそも不満を抱くということは、その人自身も苦しいのだ。

そのため、あなたにはそのような不満でストレスを抱えてほしくないので、学校と会社の違いをくどくどと伝えている意図を理解してほしい。

学校はあなたがお金を支払う側だったのに対し、会社はあなたにお金を支払う側なのだ。そして給与はあなたの努力に対して支払われているわけではなく、あなたが提供している価値に対して支払われている。

 ここまでの前提を踏まえ、今節のまとめに入りたい。まずは義務と権利の整理だ。義務と権利はどちらが先か、よく取り沙汰される話なので、一般論としておさえておこう。

義務と権利とは、義務を果たさずに権利を主張する人は信用を失うという論調で引用される。価値を提供できていない、結果を出せていないにもかかわらず、給与を上げてほしい、昇進させてほしいと意見する人を想像したら理解しやすい。

他にも仕事が終わっていないにもかかわらず、休みを増やしたいと意見する人がいる。なぜ、そのように主張するのだろうか。

 先に貢献する

 それは先に貢献するという意識を持っていないからだ。たまに「もらっている給与分は働きますよ。

でも給与が毎年変わらないので、これ以上は働きません」と達観したように述べる人がいるが、順番を間違えている。

つまり、給与が上がったから、そのぶん今以上に働くという考え方が間違っている。給与以上の価値を提供するから、給与が上がるのだ。

与えられている役割以上の貢献を果たし、上位職の役割を担えるようになるから、昇進するのだ。

今節のテーマはあなたが会社の利益に直接的につながる営業職か、管理部所属かは関係ない。あなたに支払われている給与について、どれだけ生産性を高めたら会社に貢献できるのか、どれだけの価値を提供したら会社や同僚、顧客の利益になるのか、主体的に考えてみよう。

まずは先に貢献する。この姿勢を大事にできると、あなたには信用が集まってくる。

 アクション14

会社やチームに貢献するには、まずは新入職員として何ができるのか書き出してみよう

第三章 チームの信頼を勝ち取れば最強


 

第一節 小さな約束を守ることから始めよ


人との約束は守ろう。何を当たり前なことを言っているのかとあなたは思うかもしれない。ただ、社会での約束はどんな意味を持つのか、改めてあなたと考えていきたい。

家族との約束。友達との約束。これまであなたがしてきた約束について、100%徹底して守ってきたと胸を張って言えるだろうか。

そう、これまであなたがしてきた約束は、破っても許される類のモノだった。それはもちろん、家族や友達との関係性が既に構築されており、なおかつその関係性は利害関係を伴わないことが理由であることが大きい。

では社会ではどうか。社会では約束を守らない人は信用を得られない。たった一度のミスで、信用を失ってしまったがために大事な取引先を失うことにもつながりかねない。

社会で約束を守ることは大切。そんな当たり前のことを、なぜ今、あなたに何度も伝えているのか。それは私の社会人一年目の失敗に起因する。

私が新卒社員として配属された専門学校現場は、たくさんのステークホルダーが存在し、日々多くの約束が交わされる。同僚との約束。上司との約束。非常勤講師との約束。保護者との約束。生徒との約束。

しかも、この生徒との約束は、自分が担任をしているクラスの生徒だけでなく、授業を担当しているクラスの生徒との約束も含まれる。

これらの約束をもし破ってしまうとどうなるか。私は身をもって体験したので断言できるが、約束を守らなかったことで信頼を失い、クラス運営や授業を担当するクラスの雰囲気づくりに支障をきたす。

よく「何を話すかより、誰が話すか」という表現が使われるが、まさにこの「誰」という点で、約束を守れなかった人間は話す資格を失うのである。

では意図的に約束を守らなかったのか。約束はした自覚はあったけど、相手との約束を軽んじていたのかというとそうではない。

前述したとおり、多くの約束が交わされることで、約束したことさえ忘れてしまっていたり、後でやろうと思っている間に次の約束が入ってしまったりと誰もが陥りそうなミスで遵守できなかったのである。

ただ、それは私の事情であって、約束を交わした相手からすると、自分との約束をないがしろにされた気持ちになるのだ。

「あなたとは仕事をしたくない」

約束を守らなかったことで、他の教員には協力的な講師の先生からこのような言葉を浴びせられることもあった。

また私が担任をしていたクラスにおいては、初めのうちは顔を上げて話を聞いてくれていた生徒たちが、約束を忘れてしまった場面が蓄積されるにつれて露骨に不信感を表情に浮かべ、目線すら合わせてくれないようになった。

自分が信頼を得られていないことがあからさまな空気感の中で過ごす時間は、とても苦しかったことを今でも鮮明に覚えている。

これらの経験から、人との信頼関係を構築する上で、第二章第五節で触れた手痛い火傷を負った私は、約束についてとても敏感になった。

私がどのような工夫と態度で人との約束を捉えるようになったか、あなたに共有したい。

「これ、後で送っておいて」「わかりました。後で送信しますね」

「会社に戻ったら連絡しますね」

このような口約束をどのように徹底して守っていくか。まずは絶対に守ると決めること。

約束は面倒なタスクではなく、信頼を貯める機会と捉えて、必ず守ると決める意識を持つところから始めよう。

必ず守ると決めると、例えば昼食時でも他部署の訪問時でもちょっとした用事を済ますだけの時間ですら、手帳やメモ帳を持参する。

あるいは社用携帯から自分のパソコンにメールやチャットを入れておく。リマインド機能を活用してアプリにメモしておく。

このような姿勢を貫く理由は、いつ、どんな人との会話で約束が生じるか予測が難しいからだ。

これまでは約束を守ることの重要性をあなたと確認してきた。それと同時に、「約束」を取り扱う上で、もう一つの側面にも触れておきたい。

言った方は覚えていて、言われた方は忘れてしまう

「これ、後で送っておいて」と言った方は覚えているが、「わかりました。後で送信しますね」と返答した方は、意識しておかないとすぐに忘れてしまう懸念が残る。

そのため、あなたが誰かに依頼した側として誰かと約束を交わしたときには、相手は忘れてしまうかもしれないということを前提に動くことをオススメしたい。

社会人だからきっと後で送ってくるだろうという想定で動くと、もし相手が約束を忘れていたら、あなたにストレスがかかってしまう。

あなたが依頼した側なのであれば、相手へのリマインドは徹底しよう。

今節の最後に、先ほど私が専門学校でクラス担任をしていたときの苦しかった状況をあなたに共有したが、それ以来、その火傷を負うことがないように上司、講師、同僚、保護者、生徒との約束を徹底して遵守した結果について触れておきたい。

「相手の困った」がチャンスに変わる

約束を必ず守ると決めて、メモやリマインド機能を駆使してどんな小さな約束や口約束も遵守した結果、相手との信頼が蓄積されていった。

相手から信頼を得られているため、私が依頼したことや伝えたことを気持ちよく対応いただける場面が増えていった。

相手が困りごとを抱えているときには、こちらで手助けできることを自分から約束して守ることでさらに信用を得ていくことができた。

今節のまとめとして私はこのクラス担任での経験から、新しい職場、新しい部門に着任するときには、まず些細な約束も徹底して守ることから始める。

自己開示や周囲の人間に興味、関心を向けることと同じぐらい、小さな約束を守ることから始められると、あなたはどんな新しい環境に飛び込むことも怖くなくなるはずだ。

アクション15

 どんな小さな約束も必ず守ると決め、守るための工夫を検討しよう

第二節 自分から手を挙げて、苦悩を手に入れよう

 

個人としての市場価値。会社の看板に頼らない生き方。そんなキーワードとともに、自己投資の重要性が改めて注目されるようになった。

自己投資という言葉には、新たなスキルや知見を得るために時間やお金を使うことをイメージする人も多い。ではあなたに問いたい。

今、あなたが新たなスキルや知見を手にするとしたら、どんなものを得たいか。パッと答えが浮かぶ人もいれば、浮かばない人もいることと思う。

また、浮かんだ人の中でも本当に得たいと強く思っているのか、ただの願望なのかという温度差があることも想像できる。

ではなぜ、新たなスキルや知見の獲得において、人の意欲に差が生まれるのか。自己成長を遂げていく、自己研鑽を習慣化している人とそうでない人にわかれるのか。

それは、そのスキルや知見の必要性をあなたが痛感しているかどうかが関わってくる。

なんとなく必要としているのか、絶対に身につけたいのか。多くの人にとって、これらの自己成長意欲は自然と湧き上がってくるものではない。

大事なのは新たなスキルや知見の必要性を痛感するきっかけを得られるかどうかなのだ。

そのきっかけとなるのが今節のテーマにも掲げている「苦悩」だ。苦労でも良いが、内面的な成長も遂げる広義な範囲で、苦悩としている。

なぜ苦悩が、成長意欲の源泉となるのかは喜多川泰氏の著書『 One World』で表されているので次に引用する。

 “もしも生まれたときから今日まで、悩みや苦悩と無縁の人生を送ってきたとしたら、私はきっと『私の何がいけなかったのか』なんて考えたこともなかったでしょう。だとすると、私が今持っているたくさんの学びや習慣は一つも手に入らなかったでしょう。そうすると、私が自らを省みて、自らを改めることによってその後、手に入れた幸せのすべてが、私の人生では経験できなかったことになってしまう。それはもはや、私の人生とは言いがたい。つまりね、『苦悩』こそが、今の私を作り上げたと言ってもいいほどなんですよ”

(『One World』喜多川 泰氏)

今のあなたの価値観や習慣は、自分を省みて作り上げてきたものだ。その省みるきっかけを作ったのが、これまで苦悩を感じた機会だとすると、心当たりのある場面が思い浮かぶのではないだろうか。

そこまで理解したら、あとはどのように苦悩を得ていけば良いのかという疑問も解消していきたい。そのためにも私がこれまで感じてきた苦悩をあなたに共有したい。

専門学校現場で掲示物を作成したら、デザインセンスが無いと揶揄される。多くの人を巻き込む行事を統括したら、私に計画性がなく、周囲に迷惑をかけてしまう。あなたは人に興味がないと、同僚に指摘される。OJTを担当していたが、後輩から信頼を得られない。マネジメントをする役割を頂いたものの、チームで成果を上げられない。大人数を相手とした講演の機会で、極度に緊張してしまう。

このような事例を挙げつらねたら枚挙に暇がないほど多くの苦悩を抱えてきた。しかし、その苦悩を乗り越えるたびに内面もスキルも成長できたと実感している。

これらの苦悩をどのように得ていったのか、それは次に挙げる言葉に影響を受けていた。

 “自ら機会を創り、機会によって自らを変えよ”

 リクルートの社是だった言葉だ。私はこの言葉に新入社員の頃に出会って以来、やったことがない仕事、できるかわからない仕事に積極的に手を挙げてきた。

経験がないため、当然のようにうまくいかなかった。そのたびに苦悩を抱え、乗り越えるために創意工夫を重ねてきた。その経験の蓄積が今の私を形作っている。

ここまでの内容を読んでいただき、今のあなたの心境はどんなものだろうか。新たな機会、やったことのない仕事に前向きに挑戦しようという気持ちになっているだろうか。

または経験のないことにチャレンジするのは、失敗するのが怖いという不安を抱いただろうか。

失敗を恐れずに挑戦しようというのは、失敗を乗り越えた状態の人が楽観的に言う言葉であって、失敗でまさに失意の渦中にいる人には刺さらない。

ただ、それらの失敗も苦悩の経験として重ねていくことができれば、あなたの人間性はきっと磨かれていく。そんな挑戦から得られる失敗についても前向きになれる言葉をあなたに贈りたい。

 “どんなにたくさん失敗によってできた隙間や傷があっても、そこから漏れる明かりの全てが、その作品を美しく引き立たせる個性になる。内側に明かりを灯すことによってね“

(『君と会えたから』喜多川 泰氏)

 挑戦した結果、たとえ失敗してしまったとしても、それらの経験があなたを美しく引き立たせる個性となる。また、その経験が他の人の不安を解消することもある。

今節のまとめとして、スキルや知見を新たに獲得し、自己成長を図っていくためには、先に苦悩に直面できる機会に挑戦し、その必要性を心から欲する体験を得ていく勇気をあなたに宿したい。

そのためには、これまでやったことがない仕事や新たな機会に積極的に手を挙げていく姿勢を発揮してほしい。

 アクション16

今の環境下で、自分が挑戦できる新たな機会や仕事は何があるか書き出し、積極的に手を挙げていこう

第三節 自信を持てないあなたに

 

あなたは自分に自信があるだろうか。そんな質問を受け、即答で「Yes」と言える人は、今節を読み飛ばしてもらって問題ない。

もし今、あなたが社会で働いていけるだろうかという不安を抱え、自分に自信を持っていないのだとしたら、自信の身につけ方や考え方についてあなたと考察していきたい。

「自信」という言葉を言い換えると、「自分ならできる」と自分を信じられること。これは「自分には価値がある」と捉える自己肯定感ではなく、カナダの心理学者アルバート・バンデューラが提唱した「自己効力感」の考え方が参考になる。

バンデューラによれば「自己効力感」とは、ある物事に取り組もうとしたときに「自分ならそれを達成することができる」という自分に対する期待や自信のことと定義されている。

自分に対する期待。この期待があれば、前節で述べた新しい機会や、やったことがない仕事にも「自分ならそれを達成することができる」と積極的に挑戦することができるだろう。

ただ、この期待には2種類あるとバンデューラは指摘する。一つは結果への期待。もう一つは効力への期待。

自転車に乗るという事例で例えるなら、練習すれば徒歩よりも遠くへ行けるようになるというのは結果への期待。自転車に乗れるようになるために、自分なら乗れるまで練習を続けられるだろうというのが効力への期待。

これまでの内容から自己効力感さえ高められれば、あなたが新しい機会ややったことがない仕事に挑戦する上で、「自分ならできる」という気持ちになれるということを理解していただいた。

ではどうしたら自己効力感を高められるのだろうか。その点もバンデューラは指し示してくれているので引用する。自己効力感を高めるには次の4点のアプローチが有効だ。

 

一、達成経験

二、代理的経験

三、言語的説得

四、生理的情緒的喚起

順番に補足していく。

 一、達成経験

 まず、一の達成経験については自分が立てた目標を達成する、あるいは仕事で成果を出す経験を積み重ねていくことの重要性を示唆している。

過去に似たような状況下であっても結果につなげられた経験は、次の目標に対しても挑戦できる原動力となる。

 “勝気な人って非難されがちだけど、一度も勝ったことがない人は勝気にさえなれない。どんなに小さなことでも良い。人に認められる快感を味わい、勝った記憶を積み上げていくと、人格だって変わっていく”(作家 林 真理子)

 人はどうしてもネガティブな場面を記憶として定着しやすい。雨男、雨女と主張する人が多いのは、人間は元来、ネガティブな場面を記憶しやすい傾向にあるためで、大事な機会に雨が降った記憶が根強く残っているだけに過ぎない。

雨が降らずに順調に催されたイベントの記憶より、雨が降った記憶の方が残りやすいのだ。

そのため、もし今のあなたが達成経験を得た出来事がパッと浮かばないとしても問題ない。記憶に定着していないだけだ。だから、どんなに小さなことでも良いから達成経験を書き出してみてほしい。

 二、代理的経験

 あなたに近しい人や、会社の同期が既にそれを達成していることを見ることができると、「自分もできるかもしれない」と力が湧いてくる。過去に似たような挑戦をした人がいないか調べてみよう。

 三、言語的説得

 言語的説得とは、例えばあなたが信頼を寄せる上司や先輩から「あなたならできる」と口に出してもらえると、「よし、やってみよう」という気持ちになれることを指す。

この考え方は、あなたが上司や先輩になったときにも応用できるため、覚えていてほしい。

 四、生理的情緒的喚起

 一~三がおこなわれたとしても、あなたの体調やコンディションが整っていることが大前提となる。

生理的情緒的喚起というのは、心身が健康であり、新たな取り組みに対してワクワクできる精神状態であることの大事さを表している。これは健康だけが作用するわけではなく、健全さも問われている。

二の代理的経験で、近しい人や同期の活躍を見て、「自分もできるかもしれない」と思えるか、「自分だって頑張っているのに」と思ってしまうか、その捉え方が健全であればあるほど、自己効力感を高めていくことにつながる。

 “他人となんか比べなくても、昨日の自分よりも一歩でも前進しようと努力しているとき、人は幸せを感じるようにできているんだ”

(『上京物語』喜多川 泰氏)

 一から四で示した自己効力感を高めていく方法を踏まえた上で、7つの習慣」における自信の持ち方を紹介しておきたい。

それは自分との約束を守ること。自信貯金と表現したり、自信残高と表現するが、自分の自信になる言動を積み上げていくことで、自らを信じられるようにしていく。

例えば明日は5時に起きると決めた翌朝、実際に5時に起きられたという具合だ。

ここでの留意点は自分との約束を守るというのは、他人との約束を守るよりも難しいということ。だからダイエット商品は売れ続ける。

でも、もしあなたが過去にダイエットや勉強習慣などを定着できなかったことで自分を信じられないのだとしたら、前述のネガティブな場面のほうが人は記憶に定着しやすいという話を思い出してほしい。

自分で立てた目標を達成できなかった経験のほうが記憶に定着しているかもしれないので、達成してきた経験をぜひ思い出して書き出してみてほしい。きっとあなたの自己効力感は高まるはずだ。

アクション17

自分が達成してきた経験を書き出し、自分との小さな約束を徹底して守っていこう

第四節 まずは自分から興味を持つ


あなたはどんな人にも興味を持つことができるだろうか。すぐに頷けなかった人には質問を変えたい。

あなたはどんな人にも興味を持てるように努力することはできるだろうか。この答えの重要性を今節ではあなたと考察していきたい。

人に興味を持つこと。そのことについて、これまでの人生で特に体系的に学ぶ機会は恐らくなかったのではないか。

なぜなら学校では、一緒に過ごす人間について自分の興味の有無で選別しても問題なかったからだ。つまり同じクラスでも同じ学年でも、興味がなければ表面上のコミュケーションだけでやり過ごすことができた。

 では社会ではどうか。同じようにあなたの興味の有無で、人間関係を結ぶ相手を選別しても支障はないだろうか。もちろん、答えはノーだ。

あなたは上司や同僚を選べない。一緒に仕事をすることになるチームメンバーも選べない。

もし、あなたが学生時代と同じく、周囲のメンバーと価値観が合わないという理由で壁を作ったらどうなるか。あなたが依頼する仕事は気持ちよく受け入れてもらえず、あなた自身が仕事を進めづらくなるだろう。

ではどうしたら良いのか。今節は結論から述べる。まずは自分から興味を持つのだ。興味の矢印は、私生活でも人間性でもその人の価値観でも良い。

特に価値観を知ることは、仕事をスムーズに進める上で重要な要素となる。報告連絡相談の頻度や、会議の進め方、訪問時の事前準備など、価値観によって好みがわかれるために把握しておきたい。

なぜ、これだけ私があなたに「人に興味を持つことの重要性」を伝えたいのか。それは私がまさに人に興味を持たない若手社員だったことで被った失敗をたくさん経験してきたからだ。

どんな有様だったかと言うと、ベテランの女性社員と事務所にて二人で仕事をしているときに「休日に何をすることが多いか」と質問を頂き、私は回答を終えた後、仕事に戻った。

すると女性社員からは「普通さぁ、聞き返さない?」と指摘を受けた。

普段から私の人間性に対してあきらめずに指導してくれていたその女性社員からは、私が質問を返さなかったことで、相手に対する興味の無さが露呈していると指導していただいた。

コミュニケーションはキャッチボール。そんな当たり前のことを社会に出てから指導をしていただいた私は、それ以来、意識して人に質問をされたら相手にも返すようにしている。

しかし、質問をされたら質問を返すというのはあくまで受動的な態度で、それでは学びとして不十分だったことを社会人6年目に思い知ることになる。

上司として新しい部門長が異動してきた際に、自部署の社員全員と面談を実施いただいた。その部署では古株となっていた私との面談時に、その上司からは私や部署のことについてたくさん質問を頂いた。

面談の後半に「何か質問ある?」と聞かれ、「特にありません」と答えたら、「人に興味ないんだね」と指摘を受けた。

そのことがきっかけで、私はそれまでの人とのコミュニケーションの取り方が自分の話ばかりする傾向にあることに気づき、周囲の人が「興味」というパスをしていただける環境だったから人間関係が成立していただけだったことに恥ずかしさを覚えた。

それ以来、私と同じようなコミュニケーションを取る若手と接する度に次のような価値観を共有している。

人に興味を持つことも技術だ

 人に興味を持つには、まずは自分から興味を持つと決めること。「私、人に興味を持てないんだよね」と吹聴する人は、それはキャラクターではなく、社会人としてチームに所属する人間としての態度においては怠慢だ。

人は理屈ではなく、感情を起点に行動する。感情を動かすには良好な人間関係を築いておきたい。良好な人間関係を築くためには、相手に敬意を払う。そのためにはまず相手のことを知ろうと努めていく。

 “居心地のいい場所は、まわりの人があなたに何をしてくれるかによってじゃなくて、あなたがまわりの人のために何をするかによって決まるの。家も、学校も、職場も、全部。”

(『「また、必ず会おう」と誰もが言った。』喜多川 泰氏)

 

それでは自分から興味を持って、相手に質問するときにはどんな姿勢で臨むと良いのだろうか。それは教育業界の知見があなたの役に立つだろう。

人は意識しないと、相手の欠点ばかり目につくようになる。第一印象が良くても、一緒に過ごす上で相手の嫌な部分が自然と目に入るようになるのだ。

それは人によって価値観が異なるために生じる行き違いが原因であることが多い。そこで、相手の長所や良いところに意識的に目を向けていく姿勢を発揮できることはあなたのストレスを軽減することになる。

欠けている点に着目するのではなく、長所にフォーカスして相手に興味を持つ姿勢のことを教育業界では「美点凝視」と呼ぶ。

 “生徒に自分の担当教科を好きにさせる。そのためには自分を好きにさせる。そのためには根本には自分が生徒の良いところを見つけ、先に生徒を好きになること。”

(『ココロでわかると必ず人は伸びる!』木下 晴弘氏)

 人の信頼を得ている人は、すべからく聞き上手であることが多い。今節のまとめとして、社会で良好な人間関係を築くために、まずは自分から人に興味を持つ。

人に興味を持つ上で、相手の良い点にフォーカスする美点凝視の姿勢を発揮する。人に質問をして、相手の価値観を知っていく。

その価値観を踏まえた上で、適切なコミュニケーションを取っていくことで、あなたは周囲の信頼を得ていくだろう。

アクション18

上司や同僚の良い点を見つけ、普段から質問を主体にコミュニケーションを取っていこう

第五節 一般常識で損をしないために

 

あなたは封筒に「親展」と記載された郵便物が会社に届いた場合、どういう対応を取ることが適切かご存知だろうか。

もし知らなければ、ビジネススキルを磨く前に、一般常識を身につけておくことがあなたの信用を守ることにつながる。

簡単に言うと「親展」とは、宛名に書かれた本人が開封してくださいという意味が込められている。

一般常識については、自分で学ぶ努力をすることで、あなたの上長からしか学ばないリスクを軽減することができる。

例えばビジネス文書にしても鑑(鏡)文において「下記の通り」と記載するのか、「以下の通り」とするのかで、その後に続く文章の体裁が異なってくる。

これらの違いを理解しないまま、過去に社内で周知された文章を見よう見まねで作成し、なんとなくやり過ごしてきた上長から教わるビジネス文書は、外部のお客様にお送りしたときに違和感を与えてしまう可能性がある。

敬語や名刺交換、席次のマナーなどのビジネスマナーも基本はおさえておきたいが、ビジネスマナーについてはあなたも重要性を理解していると思うので、あくまで一般常識に特化して述べていきたい。

他に先輩社員からいちから丁寧に教わることがなく、しかも慣例にならって何となく携わることになる事例としては、取引先との契約だ。

電子契約が増えているので、基本的な知識を必要とする場面は減ってきているかもしれないが、紙での契約を交わす際に、印紙の必要有無の根拠や、割り印の意味などは自分で調べておさえておきたい。

他にも機密情報や個人情報を得る機会があったときには、軽はずみに同期に共有したりなどせず、機密事項遵守の姿勢を若手のうちから発揮できると、あなたの信用が高まるのでオススメだ。

これまで述べたような郵便物の意味、ビジネス文書の基本やその他慶弔時の対応などの一般常識を網羅的に学べる教材として、秘書検定2級の勉強を私は内定者や新入社員に勧めている。

ビジネスマナーやビジネス文書の検定の教材もそれぞれに特化して知識を得ることは可能だが、まずは取っ掛かりとして全般的な知識を得る手段としては秘書検定の教材は有用である。

あなたの上司や上長から「ここから教える必要があるのか」という失望を避けるというよりも、これらの知識がなかったばかりに、仕事に手直しが生じて、あなたの仕事が遅々として進まないという状況を避けることが、結果としてあなたの退勤時間を早くすることにつながり、あなたのストレスを軽減できると確信しているため、あえて今節で取り上げた。

今節のまとめとしては、会社の慣例や社内で共有されている書式やフォーマットを加工、修正することで、なんとなく社会に適応するのではなく、その書式が採用されている背景を理解することを推奨する。

アクション19

一般常識に懸念を感じたら、秘書検定の教材で網羅的に学ぼう

第六節 上司への気遣いは、自分を救うトレーニング

 

あなたは上司への気遣いと聞くとどんな印象を抱くだろうか。時代錯誤の価値観だと思うだろうか。上司だからと気遣いを強要されるのはおかしいと思うだろうか。

上司や先輩に対して気を遣う。それよりも風通しの良さを重視し、フラットな組織を目指す会社も増えてきている印象を抱く。

私はどんな組織風土の会社であっても、上司への気遣いを若手のうちに学んでおくのはあなたにお勧めしたい。

その理由を説明する上で、まずは私の体験から共有したい。

私が新卒で入社した部署は、上司への気遣いを厳しく指導していただける風土があった。私が実践していたこととして、会議の前には必ず会議室の机を新入社員が吹いておく。

床が汚れていないか確認し、空調温度が適切か確認する。打ち合わせレベルの応接室でも同様の対応をおこなう。また、上司が入室する前に電気はつけておく。

上司と外出するときには、前日までにチャージしておき、上司をお待たせすることがないように事前準備をおこなう。また道程は確認しておき、目的地までの案内をできるように調べておく。車での移動の場合は若手がおこなう。

上司との会食の場ではトイレの位置、喫煙所の位置などを事前に把握しておき、上司が到着した際には上着をかけられるようにハンガーを予め持っておいた上で上着を受け取る。上司に確認は取りつつも、メニューを見ながら率先して提案し、料理が到着したら小皿に取り分けて盛り付けていく。

新入社員のときには、これらのことを徹底的に叩き込まれた。

ここまでの内容を読んで、あなたは私に大変な職場に就職したのだなと同情するだろうか。実は私が新卒一年目の職場としてはとても幸運だったと感謝しているのである。

その理由は、普段上司への気遣いを教わっていたからこそ、社歴を重ね、社外の方と会食をご一緒する機会、あるいは会議をおこなう機会を頂いたときに、自然と社外の方への礼儀や気遣いを発揮できたからだ。

そこで私はこれまでの上司への気遣いに意味を見出すことになる。上司への気遣いは、社外の方とご一緒する機会に向けたトレーニングなのだ。

もし仮にあなたの職場がフラットな風土を推奨する組織で風通しの良さを強みとしていても、いざ社外の方と一緒になる機会が来たときに備えて、自ら上司への気遣いをおこなっておくことをあなたにお勧めしたい。

会食の場で、上司が「セルフで取っていくから良いよ」と言っていただいたときも「小皿に取り分ける練習をさせてください」と申し出てみるのも良いだろう。

なぜならそういった気遣いを避け、マイペースに仕事してきた人が、社外の人とご一緒する機会があったときに、「あの人は腰が重い」「あの人は言わないと気づけない」という印象を持たれ、信頼を得られなかったケースを見てきたからだ。

今節で取り扱った内容は、もしかしたらあなたの考えや、職場の考えと合わない可能性もある。ただ、厳しい水準を知っている人は緩めることはできるが、初めから緩いマナーしか知らない人間は、対社外において失礼な応対を気づかずにおこなってしまうリスクがある。

今節のまとめとして上司への気遣いは、上司から信用を得るためや上司に敬意を表すという社内的な意味合いで捉えるのではなく、社外の人とご一緒できる機会に備えたトレーニングと捉えると、能動的、主体的に気遣いを発揮できるという捉え方も可能なのであなたに推奨した。

アクション20

上司や先輩にできていなかった気遣いはないか洗い出し、今日から即実践していこう

第七節 当事者意識を発揮するには

 

当事者意識。素直な姿勢や自責思考と同じぐらい成長に欠かせない要素として多くの人が挙げる言葉。この当事者意識を持っている状態についてあなたはどんなイメージを持つだろうか。

恐らくどんな仕事も他人事とせずに、当事者と同じぐらい熱意を持って臨んだほうが良いのだろうと、漠然とした理解をしているのではないか。

ただ、この当事者意識を若手時代に理解し、実際に言動に表せている人と表せていない人とでは、30代、40代における仕事の引き出しの数に圧倒的な差が生じるため、今節で取り上げたい。

当事者意識を発揮している状態を定義するには、当事者意識を発揮していない状態をイメージすることから始めたい。

例えば車の運転。目的地に向かうために道順を調べたり、曲がり角の景色を覚えていた運転手は道を覚えている。それに対して同じ風景を見てきたはずの助手席や後部座席にいる人は、どうやって目的地に着いたのか覚えていない。これを心理学ではドライバーズ効果と呼ぶ。

つまり、仕事においても助手席や後部座席にいることなく、ドライバーズ効果を常に意識できるようになれば、当事者意識を発揮できたと言える。抽象的な例だったので、もう少し補足していく。

教員がいつ発問してくるかわからない授業と、一方的に講義だけを聴く授業。生徒はどちらのほうが集中して授業を聞いていられるだろうか。

もちろん、いつ発問してくるかわからない授業だ。もしかしたら自分が指されるかもしれないと思いながら参加するのと、どうせ自分が回答する機会はないだろうと思う場では、時間の使い方が全く異なるのはあなたも想像できるはずだ。

 当事者意識とは、時間の使い方の表れ

この授業の例を仕事に置き換えてみると、当事者意識の重要なポイントが理解できる。

他者が取り組んだ仕事に対して、「どうせ自分がその仕事の担当ではない」と考えるのか、「いつかその仕事を自分が担当するかもしれない」と思うのでは、一つひとつの場面での時間の使い方が変わってくるのだ。

会社や組織はチームで成果を上げられるように役割分担や業務分掌が最適化されている。そのため、自分の役割が明確で、効率的なぶん、自分が担当していない業務に対するアンテナを低くしてしまう人がいる。

なぜ、アンテナを低くしない方が良いのか。なぜ、業務分掌に基づいた役割のみを全うしているだけでは仕事の引き出しの数に差がついてしまうのか。次の三つの切り口でさらにあなたと考えていきたい。

 一、会議に臨む姿勢

 会議で当事者意識を発揮するためにお勧めの時間の使い方は、案件当事者が質問を受けたとき、自分が案件者のつもりで回答を考えることだ。

なかには質疑応答を遠巻きに見てしまう人もいるが、せっかくその場に同席しているのにもったいない時間の使い方をしている。

あなたも回答を考えることで、案件者の回答があなたの想定通りなら会議後も記憶として定着しているだろうし、想定外の回答であれば、新たな知見を得られる。

またあなたが質問をする側だったときも、自分がこの質問を受けたらどう答えるかというのを案件者と一緒になって考えられると、代案を考えずに懸念だけ述べる人間よりも信頼を得られるだろう。

二、トラブルに臨む姿勢

機器のトラブル。人間関係のトラブル。自分が若手の頃には、上司や上長が解決してくれるときがある。

そのときに、自分の手に余った問題を他者が解決してくれて感謝をするだけで終えてしまっては機会損失だ。

何の機会を損失しているのか。新たな知見を得るチャンスだ。

機器のトラブルでも、人間関係のトラブルでも、何が要因で起きた出来事で、上司や上長はどんな対応でその問題を解決したのか、自ら質問することで、同じような問題に遭遇したときの解決の糸口を得られる。

自分がいつか上司や上長の立場になったときになるまで、その問題について真剣に向き合ったことがない人と、若手のうちから情報や知見を収集していた人とでは解決に至る引き出しに差が生まれている。

三、同僚の失敗

三つ目の場面は、同僚が失敗した場面に遭遇したときだ。クライアントからクレームを受ける。上司から叱責される。ベテラン社員に指導される。それをあなたが経験するのではなく、同僚が取り組んだ結果であった場合、あなたはどんな態度で臨んだら良いのか。

もちろん、同僚としてフォローやメンタル面のケアをするのも良いだろう。ただ、モチベーションのサポートだけして、何があったのかさりげなく経緯や背景を聞かないのはもったいない。

そこで知見を得ないと、もしかしたら「明日は我が身」になるかもしれないのだ。同僚も、あなたが話を聴いてあげることで、少し心が軽くなる可能性もある。

これまでに挙げた三つの例から理解してもらった内容は、どれも当事者意識を発揮することで知見を蓄えることにつながる。

このようにアンテナや当事者意識の有無で、その後の明暗が分かれることを表現した内容として、非常に示唆に富んだ言葉を二つ紹介したい。

既に既刊本で多々取り上げられているが、まずは薩摩藩の人材評価の順番だ。

“何かに挑戦し、成功した者

何かに挑戦し、失敗した者

自ら挑戦しなかったが、挑戦した人の手助けをした者

何もしなかった者

何もせず批判だけしている者“

 あなたがこの本と出会ったことで、この「何もしなかった者」と「何もせず批判だけしている者」にはならないことを期待する。

次に、アメリカの格言を引用する。

 “職務経験を20年積む人もいれば、1年の職務経験を20回積む人もいる”

(『㊙人脈活用術』ボブ・バーグ)

 

当事者意識を発揮せずに、自分の業務領域にこだわり、職務経験を20回積んだだけの人のキャリアの後半は、自分の思い通りにならない問題にあふれて、いつまでもクリアできないストレスを抱えている様子を何人も見てきた。

まとめると、今節では当事者意識を発揮することであなたの成長につながるという論調で伝えたかったわけではない。

あくまであなたの引き出しの数、打ち手の数に当事者意識が大きく関わることを共有したかった。なぜなら、人は打つ手がないと感じたときに、絶望感や不安感、ひいてはストレスを抱えるものだからだ。

当事者意識を発揮して、他者の仕事に関心を持ち、仕事の引き出しを増やしていくことができれば、あなたは充実したキャリアを築いていくことができるだろう。

アクション21

他者の経験も自分の糧にできるように他者の仕事に当事者意識を発揮しよう

第四章 人のせいにしなければ最強

第一節 仕事の不安を解消する逆算思考をマスターせよ

 

依頼された仕事を納期ぎりぎりに報告してしまう。完了したと思った仕事が手戻りになり、修正作業に追われる。他の人に協力を仰ぎたいのに、その人が不在の時間が多く、手持ちの時間が生じてしまう。

もし、これらの場面にあなたが少しでも心当たりがあったなら、あるはこれから遭遇したとしたら、その状況を改善する鍵は逆算思考を身につけることにある。

それをあなたと考える上で、まずはテーマとして掲げている逆算思考という言葉の定義から整理したい。

 逆算思考

 ゴールを設定してから始める

 つまり逆算思考というのは、その仕事をいつまでにどんな形で終わらすのかをあらかじめ決めて、それに必要なタスクは何かという段取りを初めに練り上げる考え方のことだ。

これと対になる考え方というのは、積み上げ思考と呼ばれる。

 積み上げ思考

 今やるべきことを起点にゴールに向かう

まずは目の前のやるべきことを優先して取り組む中で、だんだんとゴールに向かっていくのが積み上げ思考だ。

あなたはどちらの思考習慣で仕事に取り組むだろうか。これまでの生活の中で次の場面において、どんな状況だったか思い出してほしい。

一つ目は夏休みの宿題だ。あなたは余裕を持って宿題を終えられるタイプだったか、それとも夏休み終了直前に慌てて取り組んでいたタイプだったか。

二つ目はレポート提出だ。持論だけで書き進めれば良いと思って取り組んでいて、いざ書き終わるというときに改めて課題を見直すと、実は客観的なデータを補足する必要があり、もっと情報や素材を集める必要が生じるなんてことはなかっただろうか。

こんなときは大抵、後から得られた情報によって、せっかく書いていた論理に整合性が取れなくなり、修正が必要になるなんてことも珍しくない。

三つ目は水光熱費の契約に関する連絡や保険会社からのお知らせを放置していたら、契約日や更新日ぎりぎりになって必要書類が不足していることが発覚し、平日に取りに行くことができずに家族に協力を得るというような事態を経験したことはないだろうか。

もしこれらの三つの例であなたに思い当たる節があり、いつも慌ててしまっているという自覚があるなら、もしかしたら次の視点がすっぽりと抜け落ちているかもしれないので要注意だ。

 一、 いつまでに終わらすのか

二、 終わりまでに必要な行動は何か

 夏休みの宿題を早めに終えられる人というのは、能力の問題ではない。まずいつまでに終えるというのを決めている人なのだ。

レポート提出で慌てない人は、初めに課題をしっかりと読み込み、まず必要な情報を得てからレポート作成に取りかかる。

更新書類についても同様に、締め切り日までに必要な書類は何か、またそれはいつに取りに行けそうかという段取りを組むのだ。

ここまで読んでみてもしかしたらこう思った人もいるかもしれない。そんなこと言ったって性格の問題でしょう。

何度も痛い目にあったけどこれまで直せていないってことは私ってそういう人間なの。意識だけで変えられるようだったら、何度も同じ苦労はしていないでしょう。

確かに意見として伝えたい気持ちはわかる。しかし、性格の問題ではないと私は言いたい。

なぜならこれらの三つの例で、私はすべて積み上げ思考で取り組んでしまう学生だったにもかかわらず、今は逆算思考で仕事に取り組めているからだ。

ではなぜ変われたのか。それは何度も痛い目を見たからだ。期限ぎりぎりになって自分一人の力で解決できない問題が発覚し、多くの人に迷惑をかけることになった。

自分を変えたいと思ったけど、何を変えたら良いかわからずに何度も葛藤した。そんな経験を経て、習慣化できるようになった。

でも私はあなたに私と同じような痛い目を体験してほしいとは思わない。逆算思考は痛い目を見ずとも身につけられるからだ。

もし私と同じように積み上げ思考で物事に取り組む人がいたら、今日から意識を変えてほしい。

ではどう習慣化していけば良いのだろうか。逆算思考を身につける上でのコツをあなたに共有したい。

 そのゴール設定に根拠をつけられる

夏休みの宿題の例で言えば、あなたも早めに期限を設定することはやったことがあるかもしれない。

これを私は「気合い締め切り」と呼んでいる。多くの場合、仕事でもそうだけど「気合い締め切り」を自分が守ることは少ない。なぜなら期限に余裕があると自分が知っているからだ。

そのため、「気合い締め切り」ではなく、「自分の中で根拠のある締め切り」を設けることがコツのひとつになってくる。

夏休みの宿題であれば、その締め切りの後に好きなアーティストのコンサートや友達との旅行の予定を入れておく。すると、せっかくの予定を「宿題が終わっていなくて不安な気持ち」で過ごしたくないという欲求を生むことができる。

仕事においては、この日までに終えておかないと上司にアドバイスしてもらえる時間が得られなそうだという先々の予定まで想定に入れる。

上司の予定を見たら、出張でろくに資料を見てもらえないまま会議に出すことになれば、その場で多くの意見をもらうことになりそうだという根拠をつける。すると、その日までに終えておくべき理由が自分としても腹落ちした状態になる。

 どうなってほしいかから考えられる

 逆算思考とは期限を予め設定するというだけではない。ゴールを設定してから始めるという定義をあなたに共有したのは、期日や仕事の成果物といった側面以外でも適用できる考え方だからだ。

例えば提案資料やプレゼン資料を作成するときには、その提案を終えた後に、相手にどんな気持ちになってほしいかというゴールから考えて構成を考える。

今節の内容も、このテーマをあなたに読んでもらった後に、どんな感想を抱いてほしいかというところから考えて書き始めている。

どんな資料においても「相手に伝える」という性質を帯びている内容については、ぜひ相手にどうなってほしいかから考えて着手してほしい。

作業と思考を分離できる

積み上げ思考に多い傾向だが、新入社員のうちは作業が少しでも進んでいる実感がほしくて、考えがまとまっていないうちに作業を始めてしまうことがよくある。

でも中途半端な段取りと構成で作成にとりかかった仕事は、途中で修正や最悪の場合初めからやり直しという事態に陥りかねない。

パソコンの作業をしながら考えるのではなく、考えをまとめることと資料に落とし込んでいく作業は分離したほうが、結果として発生した時間の総量を減らせている場合が多いのだ。

この作業と思考を分離する上で、もう一つ気をつけるポイントがある。

 “標準化できる定型業務と標準化できない非定型業務があったら人は定型業務を優先する”

『稼ぐ力』大前 研一氏 

 つまり人はイメージが湧かない仕事よりも、既にやったことがあって確実にやらなければならないルーティン業務を優先してしまうということなので、「考える時間」というのは意識的に捻出する必要がある。

逆算思考についてさらに理解していくために、新入社員の日常で発生し得る仕事の例から、積み上げ思考の落とし穴と比較していきたい。

 一、 議事録を作成してくれという指示

 ・質問もせず、わかりましたという返事

・とりあえずワードに打ち込む

・後から普段使われている議事録の形式を見て、打ち込んだ内容だと全然使えないことに気づく

 二、 懇親会の幹事をしてくれという指示

 ・どんな店が良いか、条件を聞かずにわかりましたという返事

・とりあえず空いているところからリストアップしていく

・やみくもに仮予約する時間が生まれる


三、 提案資料を作成してくれという指示

・まず取り掛かる

・ある程度出来上がってきてから上司に見せよう

・納期まで日がない中で上司が出張に出ており、見てもらえる時間がない

 今見てもらった三つの例から、あなただったら逆算思考でどう改善していくか。

議事録の例で言えば、まず普段使われている議事録の書式を見てから会議に臨みたい。少なくともどこまで反映すれば良いのかはイメージを持って作成できるからだ。

懇親会のお店については、予算感、人数、日程、料理・お酒の種類の指定有無、個室の是非などを聞いてからお店選びをスタートしたほうが良さそうだ。

提案資料については先に上司に見てもらう日を資料の作成に入る前に押さえてしまうと良い。根拠のある締め切りを設けられるからだ。

ここまでの内容を踏まえて、逆算思考を徹底するとあなたにどんなメリットがあるのか整理したい。

成果物のクオリティが上がるなど様々な恩恵はあるけど、新入社員として一番実感が得られやすいのは調整に追われる無駄な時間を減らせることだ。

調整とは例えば意見の調整。急に言われてもという周りの社員に、そこをなんとかとお願いし、できる人がいないかと探す時間を減らせる。

次に日程の調整。資料作成を優先し、締め切り日ぎりぎりになって上司の予定がおさえられないという焦りを味あわなくて済む。

最後に体裁の調整。締め切り日ぎりぎりになって資料のイメージが違うというエラーを防ぐことができる。

今節のまとめとして、逆算思考は徹底していくことができれば多くの時間短縮につながり、またゴールに着実に進んでいるという実感を得ることで仕事上の不安を減らせる有益な思考習慣なので、ぜひあなたも今から徹底していってほしい。

アクション22

作業を進める安心感を優先するのではなく、まずゴールとそれまでの段取りを描き、根拠のある締め切りを設定していこう

第二節 他者の仕事でストレスを感じない計画力とは

 

毎日が自転車操業。仕事に終わりが見えず、いつも大きな不安を抱えている。そんな日々を送っているので、常に気持ちに余裕がない人がいる。

一方で多くの業務を抱えているにもかかわらず、同時並行でタスクを進めながらも精神的な余裕を感じさせる人もいる。いわゆるマルチタスクができる人だ。

私はせっかく拙著を手に取っていただいたあなたには、多くの仕事を抱える不安から解放されてほしい。

そんな想いで今節のテーマである計画力を取り上げたい。

まず聞きたい。あなたはこれまでの人生で計画性がある人だと評価されたことはあるだろうか。

もし「ある」と答えられる人は、仕事にどう発揮していくのか確認するために読み進めてほしい。あるいは「ない」と答える人は、安心してほしい。計画力は後天的に身につけられるものだからだ。

先に計画力の定義から確認してみよう。経済産業省が提唱する「社会人基礎力」における計画力は次のように表現されている。

 計画力=課題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力

 つまり特定した課題や設定したゴールに向けて、プロセルを明らかにできているか、そしてそのための準備ができるかどうかが問われている。

ではこの計画力を身につけられると、あなたにどんなメリットがあるだろうか。

 一般的に計画力があるとできること

一、 複数のタスク、必要な行動をリスト化できる

二、 同時に複数のタスクをまわせる

三、 タスクを思い出す日を決めて、効率よくまわせる

 これらの三点ができるようになると、あなたには次の三つの状態を得られるようになる。

 今節のゴール

①       自分の計画性が向上する

②       他人の計画性に振り回されなくなる

③       他人の仕事がフォローできるようになる

 前置きが長くなったが、あなたと一緒に計画力について考えていきたい。

最初に、計画力を発揮するための要素である「逆算思考」についてはあなたには前節で理解いただいた。この逆算思考を前提として、計画力を発揮するためには他にも必要な姿勢がある

 計画力を発揮するための姿勢その一

 フロントローディングを徹底する

フロントローディングとは元々は製造業界の用語で、設計を進める中で設計変更などの修正が発生して結果的にコストが膨れ上がるのであれば、先に労力を前倒しして設計図を描く段階にコストを割こうという発想のことだ。

これを他業界でも応用するならば、簡単にスタートしたものが、後で修正や挽回に多大な労力が発生するぐらいなら、スタート時のゴールプランニングにしっかりと時間を割いて、修正や挽回を極力減らし、結果として簡単にスタートした場合に比べてコストの総量を減らすという考え方になる。

つまり、ゴールまでのスケジュールを描かずに、目先のタスクの完了だけを優先すると、予期せぬタスクが発生し、余計なコストが生じてしまうということだ。

これは先に逆算思考でも述べた通りである。次に必要になる姿勢その二に触れる。

計画力を発揮するための姿勢その二

感即動=即時処理

感即動の姿勢とは、感じたらすぐに行動に移すということ。

先ほどのゴールプランニングに時間を割くという点と一見、矛盾しているように感じるかもしれないが、ここでいう行動とは、メモをすること。

思いついたら、必要が生じたら、思い出したら、依頼を受けたら、打診をされたら、すぐにメモをする。

ノート、手帳、メモ帳ではなくても良い。スマートホンでも社用携帯でもなんでも良い。大切なのは、その場でやらずにまとめて反映しようと後回しにしないこと。

この習慣があると、この後に記載する計画力を発揮するための姿勢三~五を身につける準備ができる。

計画力を発揮するための姿勢その三

仕事を思い出す日を決める

 一般的にメモとは仕事を忘れないためにするものだと思われているが、実はそれだけではない。

人の頭はパソコンのメモリと一緒で、同時に開く領域には限界があり、頭の中だけで抱えると思考の精度が鈍る。

自分の担当業務において、検討を始める、またはその仕事を思い出す日を決めてあれば、その日までは仕事を忘れられるのだ。

計画力を発揮するための姿勢その四

未来の自分の行動すらメモをする

人に声をかけるような細かいタスクもメモをする。この作業をさぼってしまうと、誰かに話を通してから会議に臨みたかったのに、自分の手が空いて、いざ声を掛けようとしたときに相手は会議日まで出張中なんてことが起こりかねない。

他にも予定の確認、進捗の確認などリマインドをすることについても、思いつきで行動しない。一週間前、三日前、など根拠をもってタスクを反映する。

計画力を発揮するための姿勢その五

開始日の記載を徹底する

頭の中で抱える業務が多くなったと感じるとき。定期的に今抱えている業務を紙に書き出す。あるいはパソコンで打ち込む。

次にそのタスク一つひとつに逆算思考で学んだ根拠のある締め切りを設定していく。

毎日が自転車操業のように不安を抱えている人はここまでの作業で終えてしまう。つまり、締め切りだけははっきりしていてタスクが増えれば増えるだけ不安が蓄積されていく。

ではどうしたらよいのか。

最後に整理したタスクに対して、必ず作業、あるいは検討を開始する日を決めていく。

姿勢その二でお伝えした「思い出す日」を決めるとも重複するが、いつから開始するという日にちを決めてさえいれば、今自分が抱えるべきタスクが明確になっていく。

これらの計画力を発揮するための姿勢一~五を踏まえて、これからあなたが計画力を発揮するには次のような手順を踏んでいこう。

計画力を発揮する手順

一、 ゴールを設定する

二、 ゴールに至るプロセス、タスクを明確にする

三、 タスクに未来の自分の行動も反映する

四、 設定したタスクに根拠のある開始日を設定していく

五、 自分でやる方が早いか、人に依頼するのか、役割分担を決める

 今の手順をまとめるフレームとしてWBSやガントチャートなどの整理の仕方があるが、どんなフォーマットでタスクを整理するかはあなたが所属する会社のやり方や、あなた自身がやりやすい方法にあわせてまとめれば良い。

今節のまとめとして、他者の仕事にストレスを感じないための計画力とは、他の人が忘れそうなタスクだった場合、予め自分がリマインドする日を決めておくということだ。

この人は忘れそうだなと感じた時点で、感即動を発揮し、自分でメモをしておく。相手が忘れてしまうことからのストレスや、進捗を確認しなかったことによる想定外の場面を減らすことができる。

他にもあなたには今節で示した計画力を発揮するための姿勢や、手順を身につけてもらうことで、寝る前に仕事を思い出して不安や生活や、帰宅中や休日においても常にタスクへの不安が両肩に乗っているという状況を避けてもらえればと強く願う。

アクション23

フロントローディングの姿勢で労力を前倒し、最初にゴールと開始日を反映したスケジュールを立てよう

(随時更新中)


【著者略歴】
立教大学を卒業後、学校法人三幸学園に入職。8 年間教員として従事。3,000 人をまとめるプロジェクトリー ダーを経験。9 年目からは売上高 7 億円、4 億円それぞれの拠点の責任者を兼務し、部下 50 名、30 名のマネジ メントに従事。携わった学校全ての粗利向上、人材定着、退学率の低下を達成。それらの経験を活かし、持ち株会社の経営企画部として経営支援、採用業務、人材開発を担う。グループ会社の組織開発の実績を もとに現在は日経総合コンサルティングファームで組織開発・人材開発のコンサルタントとして中小企業の管理職研修、階層別研修、採用戦略を企画・講師を担う。

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教育参謀 本間 正道
Email: playbook.consultant@gmail.com
twitterID:@masamichihon
著  書↓

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