つづき
短編小説を集めました。 800字から2000字程度です。
タネカラプロジェクト関連記事。エッセイ。 活動の内容、想いを書いています。タネカラプロジェクトとは地元に根差した「育苗」「植林」の活動ですが、タネの不思議、地域の森に触れ、感じることで育つものを大切にしていく、長いスパンの活動です。 詳しくはこちら。https://tanekarap.jimdosite.com/
文学フリマに関連する記事です。本の紹介や当日のエッセイ、振り返りなど。
ベージュのマフラーを巻きなおしながら、幸子は待ち合わせ場所を変えればよかったと首をすくめた。風が思ったより冷たい。待ち合わせの時間までまだ少しある。さっき駅のト…
小さい頃、習っていたものといえば英語とピアノ。英語は二軒隣のおばちゃんが家で英語教室をしていたから。ピアノは日曜日に駅前のYAMAHAピアノ教室で、わたしと妹がレッス…
ものすごい雨。肌寒いからか、猫が膝にのってくる。 仕事が始まって慣れないことばかりで、不甲斐なさが募る。 家に猫がいてくれてよかったなぁと思う。 言葉を持たないた…
妹の活動しているタネカラプロジェクトが、とある講演会で展示をさせてもらえることになり、そのお手伝いに行ってきた。 わたしは妹と違って知識も経験もないし、山にもそ…
植物園に行って、知らない木に咲いた知らない花の匂いをすごく好きだと思ったのに、名前を忘れてしまった。 大きくも小さくもない白い花が、通り過ぎたときに匂ってわたし…
去年、書いた原稿を読み返してみた。数ヵ月ぶりである。 推敲ではなくて、ただ読む。少し離れていたから、作者としてではなく、読者を意識して目を通す。 そんなに枚数は多…
大人になってからも読書感想文はすごく苦手である。ウッとなる。夏休みの宿題の最後はいつも読書感想文が残っていた。 というわけで、去年、文学学校の宿題(?)で書いた…
わたしたちはあの日、海辺にいた 半分の月がのぼりかかって、波に合わせて揺れていた どんな話をしたのか覚えていない あなたがいなくなってしまったから 記憶はどんどん色…
ふくちゃんはお母さんの妹で、わたしのおばさんだけれど、お母さんとは全然似ていないなぁといつも思う。 「こんにちは」 うちのリビングに入ってきたふくちゃんは、こんが…
特に忙しかったわけではないのに、noteには書きかけの記事が4つも眠っていた。もう今更UPできんなというものばかりで、あぁ、流れていくなぁ、時間は、と思う。 今、書い…
自分で決めたくせに、雨の日にわざわざ出かけなくてもと思いながら玄関を出た。 図書館には駐車場がないので、ショッピングモールに車を停めて図書館へ向かう。折り畳み傘…
2月もそろそろ中盤のようで、タイムリークしたのかなと思ってしまうくらいに日にちの感覚がない。 猫といると眠ってしまう現象が家族のあちこちで起きていて、気をつけない…
5年ぶりにピアノの調律をしてもらった。 中がカビていたらどうしようと思ったけれど、大丈夫だった。 想定内やねと言われ、ほっとしながら今回はずっと隣に立って調律を見…
朝から雪が降っていた。 カーテンを開け、外をよく見えるようにするときみはひょいと窓のへりに飛び乗った。それから、上手に後ろ足を折りたたんで窓の外を眺めた。 「今日…
2022年9月20日 20:36
ベージュのマフラーを巻きなおしながら、幸子は待ち合わせ場所を変えればよかったと首をすくめた。風が思ったより冷たい。待ち合わせの時間までまだ少しある。さっき駅のトイレで確認したところだったが、もう一度、カバンから手鏡を取り出し、口元をチェックする。40をすぎた女には明るすぎる口紅だった。男に殴られて切れた口の端を隠すにはこれくらいでないといけない。離婚する前から関係のあった男は、近ごろになって暴力
2024年6月8日 19:18
小さい頃、習っていたものといえば英語とピアノ。英語は二軒隣のおばちゃんが家で英語教室をしていたから。ピアノは日曜日に駅前のYAMAHAピアノ教室で、わたしと妹がレッスンしてもらっている間、母は買い物をしているというルーティンだった。正直、別に好きな習い事ではなかった。田舎だったので習い事が少なかったのと、両親が仕事をしていたため、送迎してくれる人がいなかったという理由で可能な習い事がそれだった、
2024年6月5日 21:07
ただいま文学イベント東京にて、通販していただいています。ポストカード付きなのでよかったら覗いてみてください。https://stainbeck.thebase.in/
2024年5月28日 20:38
ものすごい雨。肌寒いからか、猫が膝にのってくる。仕事が始まって慣れないことばかりで、不甲斐なさが募る。家に猫がいてくれてよかったなぁと思う。言葉を持たないただ温かいだけの小さな生きものが与えてくれるものの大きさを知る。存在する価値は誰が決めるのだろう。きっと神様は平等だから、いいものもわるいものも、この世にいる。存在価値のないものもあるのだろう。でもそれを決めるのは神様でもなく、自分
2024年5月19日 21:15
妹の活動しているタネカラプロジェクトが、とある講演会で展示をさせてもらえることになり、そのお手伝いに行ってきた。わたしは妹と違って知識も経験もないし、山にもそんなに行ったことのないふにゃふにゃの人間で、何も考えずに妹の車に乗せてもらい、到着したらみんな○○を守る会、とかの人たちばかりでちょっと気が引けてしまった。妹は知り合いもたくさんいて、挨拶をかわす中、隣でうっすら微笑みながら、必要がありそ
2024年5月4日 18:30
植物園に行って、知らない木に咲いた知らない花の匂いをすごく好きだと思ったのに、名前を忘れてしまった。大きくも小さくもない白い花が、通り過ぎたときに匂ってわたしの足をとめた。引き返して確かめる。あぁ、この花だったのか。木に巻かれたプレートを見て名前を知る。きっと忘れてしまうな、と思った。でも匂いは忘れないだろう。次に出会ったとき、この花だとわかる自信があった。クチナシ、バラ、水仙、どれも違う
2024年4月22日 20:51
去年、書いた原稿を読み返してみた。数ヵ月ぶりである。推敲ではなくて、ただ読む。少し離れていたから、作者としてではなく、読者を意識して目を通す。そんなに枚数は多くないのに、時間がかかった。普段、原稿を読んでもらうということはその人の大事な時間を使っていただいているのだなと改めて思う。結果、いまいちだなと思った。めちゃくちゃ悪くはないかもしれない。でも読後感がよくない。ラストが弱いし、ところどこ
2024年4月14日 21:00
大人になってからも読書感想文はすごく苦手である。ウッとなる。夏休みの宿題の最後はいつも読書感想文が残っていた。というわけで、去年、文学学校の宿題(?)で書いた読書感想文。何か書こうと思うのだけれど、今、どうしても書けないので掲載しておきます。今読んでもなんか恥ずかしいです。透明な感情 (川上弘美 神様 を読んで)恥ずかしいことに川上弘美さんを知ったのは割と最近のこと。いつだっただろう
2024年4月10日 11:14
note10周年なんですね。note始めたのが2018年なので、もう6年目になるのか。最初はコラムを書く練習に、と思って始めたのですがエッセイばかりになってしまいました。やっぱりコラムは得意じゃないんだと思います。
2024年3月29日 20:10
わたしたちはあの日、海辺にいた半分の月がのぼりかかって、波に合わせて揺れていたどんな話をしたのか覚えていないあなたがいなくなってしまったから記憶はどんどん色あせていくけれど、もともと色のなかったあの夜のことはまだ少しだけ、覚えている船着き場の船も、海の鳥も、眠っていて、わたしたちはちっとも眠たくなんかなかった眠ってしまわなくてよかったのだと思う眠るにはもったいないほどの夜だった
2024年3月18日 20:32
ふくちゃんはお母さんの妹で、わたしのおばさんだけれど、お母さんとは全然似ていないなぁといつも思う。「こんにちは」うちのリビングに入ってきたふくちゃんは、こんがり焼けたパンみたいな顔で、ニカッと笑った。お母さんはふくちゃんを見て目を丸くした。「ちゃんと帽子かぶってる? 日焼け止めは?」「めんどくさいからかぶってないよ、日焼け止めもしてへんし」お母さんはあきれた顔になった。ふくちゃんは全然気
2024年3月5日 19:38
特に忙しかったわけではないのに、noteには書きかけの記事が4つも眠っていた。もう今更UPできんなというものばかりで、あぁ、流れていくなぁ、時間は、と思う。今、書いている小説がうまくいっていなくて行き詰っている。ちょっと離れてはまた書いて、でもまだまだ核心にはいけていない、という気がする。一番大事なところが書けていない、いや、むしろ書かないほうがいいのか、決めかねている。小説だけではなくて
2024年2月21日 19:56
自分で決めたくせに、雨の日にわざわざ出かけなくてもと思いながら玄関を出た。図書館には駐車場がないので、ショッピングモールに車を停めて図書館へ向かう。折り畳み傘がしっかりと開かない。仕方なく手で上を押さえながら、交差点へ向かう。途中、ポストに封筒を投函する。雨でぬれにくいように投函口にはちゃんと雨避けがつけられていると気づく。傘は思いのほか小さくて、左肩を濡らしながら、もうこれ捨てなきゃだめかも
2024年2月13日 19:45
2月もそろそろ中盤のようで、タイムリークしたのかなと思ってしまうくらいに日にちの感覚がない。猫といると眠ってしまう現象が家族のあちこちで起きていて、気をつけないと一家全滅すると気づいたので、もうちょっとしっかりしようと思う。もともと布団には魔力があり、布団を敷きっぱなしにすると危ないと思っているのだけど、猫もその類のものである可能性は高い。20年生きると人の言葉をしゃべるとか30年で猫又にな
2024年1月31日 21:33
5年ぶりにピアノの調律をしてもらった。中がカビていたらどうしようと思ったけれど、大丈夫だった。想定内やねと言われ、ほっとしながら今回はずっと隣に立って調律を見せてもらった。わたしのことを「まーちゃん」と呼ぶ人はわたしを小さいころから知っている人だ。調律師のOさんもそのひとりだけれど、年に一度の発表会では顔を合わすものの、ゆっくり話している時間はないので、調律に来てもらったときに話せるのを楽し
2024年1月18日 19:35
朝から雪が降っていた。カーテンを開け、外をよく見えるようにするときみはひょいと窓のへりに飛び乗った。それから、上手に後ろ足を折りたたんで窓の外を眺めた。「今日は雪だね」話しかけながら、きみの目線に高さを合わせて同じように外を見てみる。「雪、はじめて?」と聞いてから、そんなことはなかったなと気づいた。きみは雪のたくさん降るところから来たんだった。でも、わたしだって雪の降るところで育ったの