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ファッションに「流行」は必要か

1.ファッションは金持ちが楽しむもの?

 ファッションを楽しむという行為、あるいは衣装を競い合うという楽しみは、もっぱら上流階級のものでした。
 ファッションは常に変化します。シーズン毎に新しいコレクションが発表され、それをお金持ちが注文します。
 高級注文服と訳されるオートクチュールがあるのは、オペラ座がある都市だそうです。オペラ劇場、オペラ歌手、オーケストラを支える富裕層が、一定以上存在するいうことです。
 かつて、多くのファッションデザイナーは、上流階級の一員でした。外交官の娘が、世界中を旅行して、世界中の文化や芸術に触れてコレクションを発表し、デザイナーとしてデビューする。こんなプロフィールを持つデザイナーが多かったのです。
 外交官は上流階級に所属しており、その親戚、友人、知人等も上流階級。上流階級が上流階級相手の商売をする。それがファッションビジネスの原点です。

2.大量生産による大衆ファッション

 西欧におけるファンションの大衆化は米国から始まりました。
 米国のアパレル産業は、パリでコレクションを買いつけ、それを大量生産し、安価な製品として販売することで成長しました。パリにとって、アメリカのバイヤーは最大の顧客であると同時に、パリのファッション産業と競合するアメリカアパレル業界の代表でもあったのです。
 米国の既製服業界のノウハウは、1970年頃に日本に伝えられました。それ以前、日本の繊維産業は対米輸出が盛んでした。しかし、日本からの輸入増加に危機感を抱いた米国政府は、日本に対して対米輸出の制限を要求し、数年の交渉を経て、日本が自主規制するという形で決着しました。
 日本の繊維産業は、輸出から内需への転換が迫られ、米国既製服産業のノウハウを導入したのです。
 ここから、日本のアパレル企業の成長が始まります。欧米のライセンスブランドを中心に、多ブランド戦略を展開し、百貨店の売場シェアを確保しました。
 欧米のコレクション情報、トレンド情報を元に、年2回のコレクションを、月毎の商品計画に組み直し、デザインバリエーションを増やし、週単位のきめ細かな商品展開計画に落しこみました。
 そして、消費者は、新しいシーズンの到来と共に、新しいデザインの商品を購入するという購買習慣を身につけたのです。
 この手法は、ファストファッションに引き継がれ、世界に拡大しました。その結果、世界的にアパレル製品の価格が下落し、人件費の低い新興国へと生産拠点が移動しました。
 これにより、国内生産のアパレル企業は淘汰され、グローバル企業による寡占化が進みました。画一的なトレンド情報に基づく同質化した商品が市場にあふれ、ファッションの魅力は希薄になりました。そして、生産数量の増加と大量廃棄が社会問題化したのです。
 

3.同じものを使い続けるスタイル

 現在のアパレル市場では、全てファッション化しているように見えます。しかし、ファッション化以前にも、アパレル製品は存在していました。
 1960年代までは、オーダーメイドが主流でした。男性はテーラーで背広を仕立て、女性は百貨店、洋装店でよそいきの服をオーダーしました。普段着は、自分で洋裁する人もいました。
 オーダーメイドでは、制作者と着用者が話し合って生地やデザインを決めます。流行よりも、顧客の嗜好が優先されました。自分の好きな色、自分の好きな素材、自分の好きなデザインの服を作ったのです。
 現在は、何も考えなくても、店頭に服が大量に並んでいます。簡単に流行の服が手に入るし、周囲から浮かび上がることもありません。
 オーダーメイドでは、最新の流行よりも、オーソドックスなデザインが選ばれました。
 男性は、常に同じメーカーの生地を選び、年に数着のスーツをオーダーしていました。
 これは家具や照明器具、食器等と同じ考え方です。壊れたら同じデザインのものを買い換える。老舗のメーカーは、変わることなく同じデザインの商品を作り続けることが求められたのです。
 消費者が同じデザインのモノを使い続ければ、メーカーも継続可能なビジネスが可能になります。オーダーメイドであれば、余剰な商品を作ることもないし、商品を廃棄する必要もありません。それが、サスティナブルな社会です。
 

4.グローバリストの発想

 貧困、貧富の格差、人権弾圧、環境破壊等々は、大量生産と市場競争から始まりました。資本力のあるメーカーは、大量生産のための大規模工場を建設し、規模の小さいメーカーは価格競争に破れ、淘汰されました。
 大量生産した商品は、大量販売しなければなりません。規格化された店舗を、多店舗化するチェーンストアの展開にも資本力が必要です。一方で、中小零細の商店と、そこに商品を卸していた卸商は淘汰されました。
 価格競争の結果、常に人件費の低い国に工場を移転することになります。工場が建設されれば、その国の所得が上がり、新たな市場が形成されます。
 その裏で、自給自足で自立していた地域も、現金収入がなければ暮らせない社会に変わっていきます。こうして貧富の格差が拡大していくのです。
 グローバルファッションが目指すのは、世界のアパレル市場を均一の市場に変え、共通のトレンド情報でコントロールし、少数の企業が世界市場を制覇することです。
 「世界が一つになる」ことは、美しい言葉のように聞こえます。しかし、それが格差を招き、環境や人権を侵害していくのです。
  

5.流行なんていらない

 コロナ禍で世界のサプライチェーン、市場、物流が止まりました。
 その中で、多くの人は、惰性のように購入していたファッション商品は本当に必要なのか、と疑問に思いました。1年間、新しい服を買わなくても困らなかったのなら、数年間は新しい服を買わなくても困らないのではないか、と。
 外出せずに、家にいると、不要なモノが見えてきます。断捨離して、シンプルな生活を取り戻したいと思った人も少なくないでしょう。
 最早、ファッションに対する憧れは消え、ファッションなんて必要ない、と考える人が増えています。
 ファッションとは変化ですが、時代が変化しないことを求めるのなら、変化しない商品を提案すべきです。あるいは、変わらないことを訴求するブランドの訴求です。
 例えば、白シャツだけのブランド。下取りを保証し、リメイクして再販するブランド。
 それらをオーダーメイドで販売する。価格は高くなりますが、少量の資源で大きな経済活動をするなら、価格は高い方が地球にも人にも優しいのです。
 既存の制度が壊れてこそ、新しい動きが出てきます。流行がなかった時代に戻ってもいいし、不変であることを訴求してもいいと思います。
 「流行を追いかけない」「流行なんて必要ない」というブランドが流行したとしても、それは良しとしましょう。
 

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