家内制手工業×デジタル革命

1.家内制手工業、問屋制手工業、工場制手工業

 職人が自宅で手仕事をすること。家族も仕事を手伝っている。これが家内制手工業のイメージです。
 ある程度、余裕が出てくると、仲間の職人に仕事を振るようになります。生産力が上がり、大量に材料を仕入れることにより、スケールメリットが出てきます。まとまった注文を受け、大量の商品を小売店に卸すようになります。これが問屋制手工業です。
 複数の職人に仕事を振ると、どうしても品質や納期にバラツキが出ます。そこで、工場を建て、共通の材料,機械を使って生産します。職人は会社員となり、収入は安定します。これが工場制手工業です。
 現在も、伝統工芸のほとんどは、いずれかの手工業によって作られています。
 家内制手工業が残存する条件は、「地域性が高いこと」「機械化が困難なこと」「価格弾力性が低いこと」と言われています。つまり、大量生産ができないことです。
 これらの条件は、販売価格の維持が可能で、生産数量は伸びないが、競合も起きず、細く長い商売ができることを意味しています。つまり、サスティナブルなビジネスとも言い換えられます。
 

2.工場制機械工業、産業革命、グローバリゼーション

 工場制手工業の工場に、機械設備が導入され、工場制機械工業になりました。更に、蒸気機関で稼動する大型機械が導入され、産業革命につながっていきます。
 それまで各地域に分散していた工場は、一カ所に集中し、人口の集中と都市化が進みました。そして、貨幣経済の比率が高まり、貧富の差が拡大しました。
 産業革命は大量生産を可能にしました。大量生産した商品を販売するには、大量販売が必要です。そこで、規格化された店舗を多店舗展開するというチェーンストア理論が提唱されました。
 それが世界規模に拡大し、グローバリゼーションが生れました。そのベースには、デジタル技術がありました。世界中がインターネットでつながり、世界各地の情報を入手することが可能になりました。サプライチェーン、物流、市場の全てがグローバルに拡大したのです。
 やがて、グローバリゼーションは限界を迎えました。技術の進歩は世界中の需要を超える供給能力を生み出し、世界中の資源を消費する規模に達したのです。そして、大量廃棄と環境汚染、資源の枯渇が大きな課題となりました。
 世界がそうした現実と向き合えたのは、パンデミックがあったからです。惰性で動いていたグローバル経済が、一度完全に停止し、世界は将来を考え始めたのです。

3.デジタル革命は「脳と感覚器の革命」

 世界を人体だとすると、産業革命は「筋肉と骨格の革命」でした。巨大なパワーを生み出し、工場や交通機関を動かしました。巨大な筋肉を支えたのは、膨大なエネルギーを供給する化石燃料です。
 デジタル革命は、「脳と感覚器の革命」です。コンピュータは外部の脳であり、カメラやセンサーは感覚器である。そして、両者をつなぐ神経がインターネット回線です。
 世界という人体は巨大化しすぎました。最早、筋肉や脂肪により、内臓は押しつぶされそうになっています。
 また、巨大な人体を保つためのエネルギーも不足しています。大量のエネルギーを摂取し、大量の排泄物を放出するので、環境汚染も深刻になっています。
 世界は代謝を下げて、ダイエットしなければなりません。そして、肉体の活動を減らし、知的活動を増やすことです。物質経済から情報経済へと転換し、我々人類の活動も頭脳的、精神的、感覚的な分野にシフトすることが求められています。
 

4.デジタルな江戸文化を再現できるか?

 もし、家内制手工業の時代に、デジタル革命が起きたら世界はどのように変わっていたでしょうか。もっと具体的に言うと、江戸時代にいきなりデジタル革命が起きたらどうなっていたのでしょうか。
 江戸時代は幕藩体制であり、各藩は現金収入を得ようと特産品の開発を競い合っていました。しかし、化石燃料も使わず、エネルギーは完全に国内の薪炭、植物油等で賄っていました。ほぼ全ての商品は家内制手工業で生産され、高度な問屋流通によって、全国に流通していました。
 江戸時代は大量生産の商品がないだけで、実は高度なビジネスが行われていました。
 例えば、当時の吉原は、単なる色街ではなく、江戸文化のサロンでもありました。江戸で最高の格式を持つ芸者が在籍し、夜毎、江戸中の大店の主人、大名、僧侶、役者、絵師、作家等が集まり、交流していたのです。
 その中で歌舞伎役者は錦絵となり、背景には当時の大店(おおだな)が紹介され、役者が着る衣装には最新流行の柄が描かれました。つまり、様々なプロモーション、マーケティング活動が行われていたのです。
 また、江戸市中の一般人の中から美人を見つけ出し、それを美人画の錦絵として販売しました。これは読者モデルやアイドルの走りであり、当時も大ブームを起こしました。
 世の中に事件が起きれば、それをアレンジして狂言作家が台本を書き、歌舞伎の演目として上演しました。その度に、長唄や清元、常磐津の名人達が新曲を書き下ろし、役者は振りをつけて踊り、新しいデザインの舞台衣装を誂えていたのです。
 こうした活動は、現代のエンターテインメントと比較しても勝るとも劣らないものです。これがもし、インターネットで世界に配信されていたら、パリでは数十年早くジャポニズムブームが起き、ヨーロッパに大きな影響を与えたと思います。
 また、当時の高度な工芸品も、世界的注目を集めたと思います。
 日本にとっての産業革命は、富国強兵に多大な貢献をしました。しかし、経済的成長の裏側では、日本は独自の文化を捨て、西欧文化の植民地となっていきました。
 産業革命の果てのグローバリズムが行き詰まった現在、我々はデジタルな江戸文化、江戸ライフスタイルを再現すべきなのかもしれません。完全なリサイクル社会とエネルギーの国産化によるサスティナブルな社会とライフスタイル。それを世界に発信することこそ、脳の時代の新たな産業になるのではないでしょうか。

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