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【感想】劇場映画『沈黙のパレード』

シリーズはテレビドラマも劇場版もSPドラマも全作観てる。
とはいえオールタイムベスト級に好きかと問われるとそこまでではない。
それぐらいの距離感で接してきた『ガリレオ』

劇場版2作品

容疑者Xの献身

これ当時映画館で観たんだっけな…
記憶があやふや。
時期的には大学のサークルを引退した頃だから多少時間に余裕あった気もする。

正直当時はあまりピンと来なかった。
それは自分が大学生の若造でストーリーやテーマを咀嚼できなかったのが大きい。
ただ、この度改めて配信で見返してもやっぱり個人的には微妙と感じる部分が多くて、一言で言えば「時期尚早」だったのだと思う。
福山雅治にとっても柴咲コウにとっても西谷弘監督にとっても。

ずっとテレビドラマ中心にキャリアを積んできた福山雅治は良い意味での軽さ・ポップさという自身の武器がここでは足かせとなり抑えた重厚な演技がもう一つ。
柴咲コウはまだ20代で、この3〜4年前は『オレンジデイズ』で主演してたぐらいの時期。

なので堤真一・松雪泰子サイドのシリアスで重厚なテンションと何かチグハグな印象を受けてしまうんですよね。
念のため書くと、これは良し悪しではなくて向き不向きの話です。
逆に『容疑者Xの献身』の堤真一・松雪泰子の演技を連ドラで毎週観るのも(凄い演技だ!と最初は思えたとしても毎週は)辛いでしょう。

そして西谷弘監督も長編映画2作目なのでまだまだキャリアの初期。
今回劇中で『容疑者Xの献身』の出来事に言及する台詞があって(台詞は違うけど原作でも湯川が花岡靖子に言及する場面あり)もし今この座組みで撮ったらどんな仕上がりになったのだろうか?と思わなくもない。

真夏の方程式

そんなこんなで(?)『真夏の方程式』は劇場公開当時はスルーしてしまった。
当時の私は「テレビ局製作の映画って2時間ドラマをわざわざ金払って観るようなもんでしょ?」というイタい思想に取り憑かれていた。
典型的な“お手軽に映画通ぶりたい病”であるw

で、1年後にCS放送の日本映画専門チャンネルで観るわけです。
いやシリーズは好きだからテレビ画面でなら全然観るよ!という面倒くさい奴でした。
そして度肝を抜かれた。

ストーリーとかそっちのけで、映像の質感が前作とも過去のテレビ局映画とも全く違う。
何だこれは!?
色々調べる中で初めて撮影監督という存在を意識することになった。
映画は監督や脚本家の名前をチェックするだけでは足りないのか、てかアカデミー賞にあれだけ技術部門があるんだからそりゃそうかと痛感。
僕の映画の見方を決定的に変えた1本。

公開順は前後したものの『そして父になる』で是枝組を経験した福山雅治の演技も明らかに一皮剥けていた。
テレビドラマ版と異なりグッと抑えた湯川の演技。

最新作『沈黙のパレード』

結論から言うと自分の中で『真夏の方程式』は超えませんでした。
でも『容疑者Xの献身』の再挑戦は達成できていたと思う。
以下、それぐらいの熱量で書きます。

ミステリーと映画

これはもう原作がそういう話だから仕方ない面もあるのだが、やっぱりストーリーは地味。
いや、過去2作に比べると派手な真相は用意されているのだけど、結局は序盤で起きた事件を語るのに追われていると言うべきか。
起きることはもう起きてしまった後なのでサスペンス要素は薄い。
なので推進力という観点では分が悪い。

西谷弘監督も経験を重ねているので説明台詞だけで処理せずに回想シーンで見せるといった工夫は施されているのだが、やはり頑張っても説明的にはなってしまう。

そういう意味では映画公開に合わせて放送された新作SPドラマの方は、とある犯罪計画を未然に防げるのか?というサスペンスになっていて題材的には映画向きだった。

もちろんこれを映画館で流せばいいとかそういう単純な話ではない。
そもそも西谷弘監督も劇場版はテレビドラマ版と異なり人間ドラマをじっくり描きたいという意向が恐らくあるんだと思うし。

映画的な見せ場

映画が説明的になってしまう事態を防ぐのが演出。
映像的な見せ場。
例えば『真夏の方程式』ではあのペットボトルロケットのシーン。
北野武映画のキタノブルーを支えてきた柳島克己が撮った青い海も美しく、シリーズ屈指の名場面。

今作では序盤の素人のど自慢のシーンとパレードのシーンがそれに該当するだろうか?
個人的にはあそこであまりアガらず…
パレードのシーンの撮影規模は確かに凄かった。
ただ、あれは夕方のニュースでちょくちょく見るご当地のお祭りなわけだから、あまり綺麗に撮りすぎてもおかしいわけで。
一種のアマチュア的な安っぽさが出ないとリアリティに欠けるから映画的には結構難しいのかもなと。

そういう意味で映像的な面白さでは個人的には『真夏の方程式』を超えず。

俳優陣と監督の成熟

ただ、『容疑者Xの献身』と比較した場合の成熟度は段違い。

福山雅治は是枝裕和、大根仁、岩井俊二といった監督の現場を通って中年男性の渋さみたいなものが完全に出せるようになっている。

ちょうどTVerでポップさ全開テレビスターの頃の『美女か野獣』が配信されてるけど、見比べると全然違う。
(前述の通り良し悪しではなく向き不向きの話です。僕は『美女か野獣』もテレビドラマとしては大好きな作品です)

シリーズ久々の帰還となった柴咲コウも事実上の主役である北村一輝も。
役者を観る楽しみをこれでもかと味わわせてくれる。
2代目相棒の吉高由里子が台詞上でさえも一切登場しないのは少し同情してしまうが…

西谷弘監督も、これまでの監督作全部が傑作とは正直言えないが着実にキャリアを積み重ねてきた。
『容疑者Xの献身』の語り直しは間違いなく成功している。
フジテレビ局員だけど無視できない映画監督。
『マチネの終わりに』みたいにテレビドラマ劇場版じゃない作品も撮ってほしいな。

そういえばここでも福山雅治を撮っていたのか。

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