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肩の可動域と機能

私たちの肩

 肩は凄い。なぜなら鎖骨が付いているかである。肩は私たちが動かすことのできる関節の中で最も大きく円を描けるような可動域をもっている。ラジオ体操第一でお馴染みの「腕を前から上げて」から「腕を横に大きく振って」も普通にできる。さらに背中をかくために内側に回旋もできる。車に乗ればシートベルトを片手でも取れる。昔で言えば腰に差した刀を抜くこともできる。野球の投球動作となれば、肩関節は後ろに回旋するのだが、投手なら過剰なまでに外旋する。それではこの可動域はどこから生まれているのかと言えば「鎖骨」である。鎖骨は胴体から突っ張り棒のように張り出していて、そのお陰で肩は腕をあらゆる方向に大きく回すことができるようになった。二足動物のみが鎖骨を発達させ、犬や猫のような四足歩行する動物には鎖骨がない。そして私たちの腕が胴体に繋がっているところは胸骨である。肩関節は胴体に繋がっていない。胸の真ん中の骨、胸骨と鎖骨が接続し、この胸鎖関節が腕の支点となっている。そして腕を動かすたびに鎖骨が上下に前へ後ろへ回旋している。

上肢の目的は握ること

 私たちの肩の目的は腕の高さを調整することである。鎖骨を発達した私たちの上肢の目的は物を握ることである。握るために肘は体と物までの距離を調整し、手首の小指側がよく曲がるため肩を前後に動かさずに物が持てる。たとえばカップの取ってをつかんでコーヒーを飲む際、まず小指側を倒して取ってを持ち、口に運んだ時に親指側に曲げるなどである。さらに肘を曲げれば肩の回旋なしに手のひらを上に下に回すこともできる。手の親指の腹は残りの指の腹すべてを触ることができるのであらゆる形のものを握ることができる。野球のボールも飲み物が一杯に入った紙コップも持てる。しかも指先の皮膚が握る目的を達成させるために必要最小限の力を調整している。まさしくこの握る動作、指先だけならつまむ動作が文明を生んだと言え、今でいえばスマートフォンを操作しイノベーションを生むことに繋がる。その始まりが二足歩行ゆえに鎖骨を発達させたことがすべてであり、その結果とんでもない可動域を獲得した肩である。

肩の可動域と機能

 関節の整形外科的診断は安定しているかである。しかし肩関節だけは安定性でなく、「可動域」であり「機能」である。足関節や膝関節、肘関節どこを見てもまずは安定しているかどうかで、それゆえに周りの筋肉が働く。一方で肩関節の機能とはどのような動作を必要としているかで決まる。たとえば棚の上の物を取りたい、頭を洗うことも肩関節の機能である。剣道だと面を打つ、投手やテニス選手なら相手にとって難しい球を投げる、サーブすることができるかが肩の機能である。肩に関しては可動域なしに機能は達成しないとも言える。

鎖骨と肩甲骨

 私たちの鎖骨だが、肩甲骨という背中の平べったい骨と繋がっている。肩甲骨は手のひらほどの大きさであるが、派生的には種子骨である。種子骨とは腱の中にある骨のことで、たとえば膝のお皿や足裏側の親指の付け根にある骨が種子骨の代表である。種子骨は腱の高さを少し上げ、力の効率を上げている。役割としてはシーソーの支点である。しかし肩甲骨はあまりにも大きい骨なので206個ある人体の骨の一つとして数えられている。
 肩甲骨には17の筋肉が付いていて、いくつもの筋肉が共同に働いて肩甲骨を動かしている。突っ張り棒としての鎖骨を肩甲骨が腕を動かせるように存在している。腕は力強く動くこともあれば投球のように回転速度が毎秒8000度あるいは1秒間で22.2回転以上の超高速動作も行う。これには肩甲骨が肋骨の上を滑るように対応している。肋骨と肩甲骨の間には二つの筋肉が存在し、肩甲骨は浮いているようなものである。

同じ環境で始動する投球動作

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