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I MOTHER EARTH ガチ勢

先日、PEOPLE IN THE BOX の波多野さんが高松のライブ・スペース燦庫2周年の記念ライブを行うということで、いそいそと出かけて行った。(おめでとうございます!!)

いやー、素晴らしかったですね。燦庫はライブ・ハウスTOONICEがあるビルの3階に入っているんだけど、まずガラス張りで外が見渡せるのがいい。波多野さんも仰っていたけれど、壁のない自由な感覚で聴く音楽は別格だ。

演奏は言わずもがな。共演された uniTONE の大森さんを含めて、香川の心臓、菊池寛通りに贅沢な音の雨がキラキラと降り注ぐ。波多野さんはあの有名スタンダード "Moon River" をやってくれたんだけど、まるで巨匠ジョー・パスが降臨したかのような狂気の長尺ギターソロで、僕の魂を月ならぬ三途の川の向こう側へとひきずりこんでくれました。ヤンギとかギタマガとか秒で取材来いよ。何やっとんじゃ。ギターソロは10分がベスト。

で、演奏が終わって、いつものように打ち上げながらまったりと数人で話をすることに。そこで僕は、高松の良心ルーツ・レコードで仕入れてきた非常に危険なあるブツを取り出した。それはSUBWAYというバンドのアルバムだった。

「波多野さん、これ知ってますか?」

知ってますか?=知らんやろ。僕は会社でマウンティング・ゴリラとあだ名されるほどのマウント・ガチ勢であり、マウント剛のものだ。もちろんベッドはパラマウント。カフェラッテならマウント・レーニア。サッカーならメイソン・マウント。なんならこの文章も、カリスマと友人であることを知らしめるある種のマウントである。

以前、TNTの "Firefly" を音だけで看破されたときは一敗地に塗れたものの、今回は完勝だろう。思わず、メスガキのようなエチエチマウントニヤニヤ笑いがこぼれる。そもそも、これほど知的オシャレ音楽界隈からリスペクトされる日本を代表するバンドのボーカリスト/ギタリストが、SUBWAY などというどう考えても地下鉄汚水まみれの怪しいメタル・バンドを知っていてはいけないのだ。

「あー!SUBWAY ですね!ドイツのバンドですね。歌の合間に怪しいサックスがプワーっと入ってくる。でも、あれ、おかしいな。サックスのメンバーがいない。99年。これはサックスのメンバーが抜けたあとのアルバムではないですか?」

そうはならんやろ…またしても完敗だった。僕はブツの中身を見破られただけでなく、SUBWAY の魂ともいえるサックスのないアルバムを愚かにもホクホクと購入してしまったのだから。

これはもはや、僕だけでなく、ツイッター・メタル・ドヤ顔界隈の完全なる敗北といえる。僕はつい先ほど、uniTONEの大森さんにツイッターのフォロワーやいいねの数、そしてコルピクラーニの生態について盛大にマウントをとったことを大きく恥じた。

で、なんやかんやで夜中の2時。たいてい、飲まない僕が波多野さんを車で送ることになる。僕は疲れ切ったメスガキのような顔で、RUSH の話をふった。ほんの軽い気持ちで、再結成してほしいなどと言ってしまったのだ。するとその刹那、知的オシャレ音楽界隈から大きなリスペクトを集める日本を代表するバンドのボーカリスト/ギタリストの口から信じられない言葉が飛び出たのだ。

「ドラムは I MOTHER EARTH の人がやればいいんですよ!!」

I. MOTHER. EARTH.

さながら、I ♡ NY のような響きをもちながら、その実まったくそんなかわいらしいものではない。

I MOTHER EARTH は、カナダはトロントのオルタナティブ・メタル・バンド。ガンズのプロデューサーがついていたり、RUSH のアレックスが関与していたり、カナダで売れたカナダ人アーティストでトップ40に入っていたりするわりに、誰も知らない。実際に存在したのかも疑わしいほどに誰も知らない。

だからこそ、20000年ぶりに聞いた魔法の3単語、I MOTHER EARTH で僕は、駐車場へ向かう横断歩道の信号機にすがりつかねばならないほど腰を抜かし、大射精からの大脱糞をしてしまった。ダップンダ。ド田舎だから多少の粗相は大丈夫。

実際、知的オシャレ音楽界隈から大きなリスペクトを集める日本を代表するバンドのボーカリスト/ギタリストは I MOTHER EARTH ガチ勢だった。すべてのアルバムを網羅していた。そこに立つのはもはや、先程までの神々しいアーティストではなく、ひとりの厄介リスナー。だがそれでいい。最初の2枚しか聴いていないメタル・メスガキ・マガジン (MMM) の編集長こそザーコザーコだった。

とはいえ、日本に5人生息するかも疑わしい I MOTHER EARTH ガチ勢2名が、高松のしなびた横断歩道に一堂に介している。まさに奇跡。まさに行幸。これほど母なる地球の素晴らしさに酔いしれた夜は他にない。

いやー、ほんと、I MOTHER EARTH、いいバンドなんですよ…たぶんね、日本ではオルタナ・グランジ的な紹介のされ方でウケがよくなかったんじゃないかな…メロもいいしうまくやれば DIZZY MIZZ LIZZY みたいになれてたと思うんだよね…もちろん、SOUNDGARDEN とか CANDLEBOX の影響は受けているし、音像も受け継いでいるんだけど、でもそれだけじゃないんだよね。

まず、演奏がめちゃくちゃ上手い。ギターもベースもドラムもめちゃくちゃテクニカル。リフは時に鋭く、時に浮遊し、グルーヴィーな変拍子も効果的。謎の変態ギターソロもかますし、スラップもブリブリするし、手数も多くて多彩。ファンキーでメタリックなジャム・パートなんて最高ですよ。もっとジャム・バンド、RUSH や TOOL の文脈でも語られていいよね。

ファーストの "Dig" が発売されたのが 1993年だから、まさに多様なモダン・メタルが花開き始めた時代。彼らは、その先駆けと言うにはあまりに個性的で "ミクスチャー" な音を創造していたんだ。

"Dig" は大傑作だよ。ここには、グランジも、ドゥームも、グルーヴも、プログレッシブも、ファンクも、ニューウェーヴも、ジャズも、ラテンも、そしてドラマもすべてが内包されている。まさに母なる地球。まさにカナダのトリオの音楽。まさに RUSH の息子。再結成してライブはしているみたいだけど、アルバムも期待したいね…

家に帰ると、嫁がまだ起きていた。ふだんは母なる地球のような母性で包み込んでくれる嫁の顔が、真っ赤に染まって噴火寸前だった。まさに生きたナショジオ・チャンネル。どうやらエチエチなお店に行ってきたと思われているようだ。残念ながら、エチエチなメスガキになっていたのも、辱めをうけたのも僕なんだけど…とにかく、地球も嫁も色々な顔を見せてくれる。それは I MOTHER EARTH も同じなんだ。


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