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毒親のバックグラウンド。

毒親の親は毒親――。

このことを思うと、自分が毒親育ちの親でもあるので考え込んでしまうところではある。

父は田舎の貧乏な家の三人兄弟の次男として生まれ育った。父の父、つまり祖父は無口だが真面目な男気あふれる人だった。口数は少ないものの、昔から地域の中で奉仕活動を続け、信頼を得ていた。祖母は底抜けに明るく、ケラケラとよく笑い、よく喋った。田舎の親戚がよく泊まりに来たり、住んだりするような明るく賑やかな家庭だった。

何も問題はない。なので、祖母や叔母に父の過去を根掘り葉掘り聞いてみた。すると、色々と見えてきたことがある。

父は昔から人をよく笑わせ、人に尽くすエンターテナーだった。祖母が姑にいびられていたとき、よく助け舟を出して場をなごませていたという。しかしここで一点目。父は上記の事で祖父を恨んでいた。「言わなきゃいけないこと(ここでいうと祖父が祖母を守らなかったということ)を言えない夫は最低」と思っていた、と昔父が言っていた記憶がある。それがあの、はっきりズバズバと周囲に物を言うようになったきっかけのようだ。そして、2点目。中学生の時に父はその村で一番美人の大地主の娘と付き合っていたそうだ。しかしそこで周りが貧乏人の父とその金持ちの娘を比べて笑っていたらしい。そのせいで父は貧乏な自分の家を恨むようになった。それが後に「貧乏」へのコンプレックスとなり、子どもに金持ち至上主義(笑)として学歴を押し付けるきっかけになった。そして3点目。これは祖母たちが声を大にして言っていたことなんだけど、それは結婚してから父は変わった、ということ。それまではあんなにひどくはなかった、と――。

母は乾物卸問屋の長女として生まれた。幼いころこそ貧乏を経験したが成長してからは商売が成功し、そこそこ裕福な家庭だった。祖父は敏腕営業マンの社長として全国を飛び回り、なかなか家には帰らなかったが亭主関白で厳格な父親だったという。祖母はそんな祖父を陰で精一杯支えていた。義理と人情に厚い人で、多くの社員を抱え、客に頭を下げた。子どもに対しては祖父が留守がちな分、躾もしっかりとしていた。特に世間体を大切にしていて、どこに出しても恥ずかしくないように娘たちの教育は怠らなかった。神棚、仏壇を毎日磨いて商売繁盛を祈った。

一見、母の父母も特に毒親に育てられたような感じはしない。……しかし、実はこの母の母が重要なキーパーソンだったのである。

前述したように、祖母は子どもへの躾をしっかりと行った。だからと言って暴力をふるったりしたということではない。祖父の不在の中、経理として働き、子育てをし、住み込みの社員への対応……大変な仕事量だったと思う。もちろん、祖母もそれに疲れたりストレスを感じただろう。酔って一人泣いていたのを見たことがある、と昔ぽつりと母が言っていたことがある。しかし、祖父は感謝を表に出すような人ではなかった。結構怒鳴ったりして祖母に命令口調で物を言っていたような記憶がある。祖母は貧乏で多忙なため子どもを仕方なく堕ろしたこともあった。しかし祖母は負けなかった。業績は上がり、商売繁盛と共に生活はぐんと楽になった。同時に祖母にも自信が生まれた。そしてその自信が、子どもへ確信を持った教育となった。

母はぼんやりとしていて要領が悪く、おまけに器量も妹と比べるとよくなかった。そのため、母への教育は祖母の人生の課題となった。

母を20回ほどお見合いさせ、なんとか父と母は結婚の運びとなった――。祖母は歓喜し、娘に大金を祝いとして持たせた。そして、数年後母へ商売(自営業)の良さを吹き込み、娘夫婦に起業をさせる。(父は猛反発したが、母はがんとして譲らなかった)店を開くにあたって、娘夫婦に大金をつぎこんだ。娘夫婦の商売は祖母の乾物屋の商品をよく使う。近所で店を開かせ、場所も良かったのでそれはなかなか繁盛した。

しかし、ここで父のプライドやコンプレックスは生涯刺激され続けることとなる――。父は嫁の実家に援助してもらって店をしている、と周囲から散々言われることになった。「自分は貧乏人」というコンプレックスにまた苦しめられることになったのだ。どんなに一生懸命商売で努力を重ねても、嫁の実家が常に目の前をちらついている。周囲に馬鹿にされる。「俺は馬鹿にされている!」という思いがずっと胸でくすぶり続ける。それが妻や子どもたちへ向いていく。「子どもの成績によっては周囲を見返せるかもしれない」と考えたのだ。それが「コントロールする親」となってエスカレートしていく……。

母は母で、そういう夫を見ても、亭主関白であった父親を思い出し「妻は陰で支えるもの」と思い込んでいるので子どもへの対応に口は出さない。それどころか、もう抑えのきかなくなった夫をどうすればいいのかわからず、呆然と眺めている。夫に怒鳴られるのが怖い、というだけの大きな子どもとなって立ちすくむ。祖母は金は出しても、夫婦間のことには口を出してくれなかったのだ――。

このように、毒親の親は毒親、というのははっきりと明言はできない。しかし、毒親(両親)の組み合わせや性格によっては充分子どもにとっての毒親となることはありうる……と言える。


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