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『美味しんぼ』でよくわかる、中二病と甲州ワイン

小さい頃、何でも出来ちゃうスーパーマンのような親戚のおじさんがいました。


僕は小学生の頃、夏休みになると母方の実家に1か月ほど預けられていました。
おそらく両親の負担を減らすためだったのだと思います。

その実家に「テツさん」という親戚のおじさんがいました。自営業で時間がある人だったので、よく遊んでくれました。趣味がアウトドアだったためか、いろんなところに連れて行ってもらい、新しい遊びを色々教えてくれました。裏山で一緒にカブトムシを捕って、大きく育てるにはビールを飲ませるといいと言われました。変わったルールのブラックジャックをさせられ、小遣いを巻き上げられ、夏休みの最後に恩着せがましく返されたりしました。

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先日、十数年ぶりに親戚で集まる機会がありました。今となってみると、彼の言っていたことは半分ぐらいが間違いだったとわかります。年をとって、見た目も何だかしょぼくれてきています。話も政府とかの文句ばかりで、全然楽しくありません。


……というテツおじさんは架空の存在です。

今回甲府に行ってみて、久しぶりに『美味しんぼ』のことを思い出し、何となくキャラを作ってみました。


・甲府といえばワイン?


9月14日、柏レイソルはアウェイでヴァンフォーレ甲府と対戦しました。

今回の甲府戦は第32節(全42節中)でしたが、柏にとって今年の遠距離アウェイはこの試合が最後の予定です。
リーグ戦はあと10試合あり、まだアウェイの試合は残っています。しかし残りの相手は横浜、千葉、大宮、町田と、東京都に隣接している県のチームばかりです。アウェイとはいえ旅行感がありません。

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実は、山梨県も東京都に隣接してはいます。甲府が遠距離かというと、微妙なラインではあります。この日の試合は18時キックオフで、電車でも日帰りできる時間でした。でも今年の遠征はこれが最後かもと思うと感慨深くもあり、試合後はあえて一泊して旅行っぽくしました。


試合結果は引き分けでした。そして試合後は「絶対に負けられない戦い」があります。旅行感のある食事をしなければなりません。

僕はなぜか、甲府グルメと言えば「甲州ワイン」である、というイメージを持っていました。
ほうとうなどを差し置いて、なぜ甲州ワインなのでしょうか?
その理由は『美味しんぼ』にあります。


・僕の中二病の歴史

『美味しんぼ』というマンガがあります。
手元の第1巻では、初版第一刷発行が昭和60年1月1日となっています。

僕は中学生の頃、初めてこのマンガの存在を知りました。親戚のいとこの家(このいとこは実在します)に遊びに行ったときに本棚に置いてありました。

そしてこの『美味しんぼ』の世界観に衝撃を受け、20巻ぐらいまで一気読みしました。

世間には「中二病」という言葉があります。思春期の中学生は背伸びした言動をしがちです。そして『美味しんぼ』の内容は、中学生が食の知識について理論武装するには、またとない好材料でした。


『美味しんぼ』の影響で、僕はこんな感じの中二病になりました。

・家の食事ですき焼きが出ると、「牛肉を一番まずく食べる調理法だな」とか言う

・母が料理に味の素を入れていると、「そんなものを入れたら舌がしびれて本当の味がわからなくなる」と文句をつける

・さしみ醤油にワサビを混ぜて溶いている人を見ると、「本当の食べ方を知らないんだな」と陰口をたたく

何て嫌な子供なんでしょう!父親が魯山人だったら、皿を投げつけられそうです。いや逆か……。

自分でも振り返ってみて恥ずかしくなってきました。まあ、標準的な中二ってこんなものですかね……。僕は高二ぐらいまでそんな感じでしたが。

ちなみにその後、サッカーについても、「金子達仁の本を読んで、その話を受け売りしていた頃」という時代がありました。本当に恥の多い生涯を送ってきたなと思います。生まれてきてすみません。


今となっては、中二の頃よりは社会に適応したので、余計なことはあまり言わなくなりました。それに、食についても人生経験を経て以前よりは正しい知識が身についています。
とはいえ多感な時期に『美味しんぼ』がインストールされてしまったため、いくつかの知識は今でも僕のグルメ行動を左右しています。例えば以下のような感じです。


・高級フレンチでフォワグラが出てくると「アン肝の方が美味いんだったよな……」と先入観を持ってしまう

・バーでウイスキーを頼むとき、なぜかボウモアを避けてしまう

・寿司屋に生簀があると、「活〆の方が……」とか考えてしまう


頭の中では正しい知識を上書きしているつもりでいるのですが、本能レベルではまだ古い知識が消えていないのです。


・山岡士郎が絶賛する甲州ワイン、でも本当に?


前置きが長くなりましたが、甲州ワインについてです。

なぜ僕は甲州ワインに興味があるのでしょうか?それもまた『美味しんぼ』の影響です。

主人公の山岡士郎は、「味の素」や「ウィンドウズ」など、様々なものを憎んでいます。そして同じように作中で何度もやり玉に挙げられるのが、

「生ガキと白ワインは、実は合わない」

というテーゼです。

よく生ガキにシャブリが合うというけれど、俺はそれにも疑問を持ってる。
少なくとも俺は生ガキのあとシャブリを飲むと生臭くてイヤになる。

ワインには日本酒と比べてはるかに多く有機酸塩が含まれている、それがワインの味の豊かさの源だが、同時にその中の有機酸塩のどれかが、魚介類の生臭さを強調してしまう働きがあるんじゃないのかな。
(『美味しんぼ』4巻 第4話「酒の効用」)

まだ中学生で、ワインを飲んだことも、生ガキを食べたこともないくせに、「本当は合わない」ということだけ教え込まれていました。教育って怖い。

そんな山岡士郎でしたが、後に甲州ワインについてはこのように絶賛しています。

(甲州ワインとは)海の幸、それも生魚と合わせても楽しめる、世界でただ一つのワインであるということだ。
https://nakadaep.web.fc2.com/vi/oishinbowine/index.html

「少なくとも俺は」だったのが、「世界でただ一つ」となり、自我が肥大しているのがわかりますね。山岡士郎は年を取って中二病が進行しています。

しかしこれほどまでに言われると、そんなに美味しい甲州ワインを飲んでみたいと思ってしまいます。

『美味しんぼ』の記念すべき第1話では「ワインと豆腐には旅させちゃいけない」と言われています。輸送に難がある場合、ワインは味が落ちるのです。

これは昭和60年当時の輸送事情の話で、今時ワインはフランスだのチリだのと世界中を旅するのが当然となっています。しかしもし輸送の途中で雑に扱われていたら、やはり美味しくなくなります。甲州ワインにも旅をさせず、僕の方から自ら旅に行って飲んだら、劇的に美味しいかもしれません。


そんなわけで、この店にやってきました。


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