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絶品のくじら料理を通じて南氷洋を想う 2019アウェイ山口 食事編

山口県の「食」と言えば何が思い浮かぶでしょう?

一般的には、「下関のフグ」と考える人が多いのではないでしょうか。

しかし僕は声を大にして言いたい。

「山口に行ったら、クジラ料理を食べずに帰るな!」


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柏レイソルサポーター2年目(通算15年目)、円子文佳です。

『OWL magazine』のプロジェクトオーナーもしています。

今年はネルシーニョに心臓を捧げると決意しました。よろしくお願いします。


柏レイソルの開幕戦を見るため、2月22日の金曜日から2泊3日で、山口に行ってきました。

この遠征が我ながら久々に完璧だったなと思い、いくつかのテーマに渡って色々と書かせていただきます。今回は「食事」です。
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「旅」とは何か?と考えだすと、それだけでも深遠なテーマになりえます。
しかし、Jリーグ観戦におけるアウェイ戦への旅を考えると、もう少し話はシンプルです。

1.自宅からの移動
2.現地の観光や移動
3.食事
4.試合観戦

この4点を、週末を利用して日帰り~2泊3日の範囲で行うという「規定演技」と言えると思います。時間、移動、お金、体力の制約下で、いかに有意義な体験ポイントを積み重ねるかの勝負です。

この中で今回の話は食事についてです。なお今回の2泊3日は、下関に宿泊して拠点としました。


山口県の「食」といえば何が思い浮かぶでしょうか?

『OWL magazine』の飲み会でそう聞いたところ、「ふぐ!」「円子さんはぜひ、一番高いふぐの店に行ってレポ書いて下さい!」などの意見を寄せられました。

僕もまあ、山口といえばふぐかな、ぐらいに思っていたのですが……。

誤算だったのが、高級店、というか有名な老舗の店は、一人だと入れてくれないことがあるのです。

正直に言うと、サッカー観戦を趣味としてから十数年、この「おひとりさま問題」はずっと僕の悩みです。

一人でアウェイに行っても、最高級店(地方だと飲み物を除く食事代が一人一万円を超えるぐらいが該当します)には入れないことがあります。友達と一緒だとしても、物価水準が合わない人だと「そんな高い店は行けない!」と拒否されることもあります。かといって全おごりするのも人間関係が不自然になりますし、人数が多いと金銭的に不可能です。なので、行きたい店があっても諦めざるを得ないことも多いです。

旅慣れた今でも『るるぶ』は結構役に立ちます。紙の本はざっと通読することで、脳内にその土地のインデックスを作ることが出来ます。直接興味のない情報も、視野に入ることで引っ掛かってきます。後から旅の復習をするのにも役立ちますし、本棚に並べると物理的に旅のコレクションにもなります。

というわけで、『るるぶ』を見ながら、ふぐの店を探しました。一番最初に載っている最高級店(日本で最初にフグ料理が公認となった由緒ある料理旅館と紹介されていた)に電話したところ、

「うちは2名様以上でのご予約を承っております」

とあっさり断られます。わかる、事情はわかるよ色々と……。でも何事であっても、断られるのってすごく心のダメージになるのです。もう駄目だ、2軒目以降に電話をかけられる気がしない。

『るるぶ』がダメならgoogleです。「下関 ふぐ おひとりさま」で検索。条件に当てはまりそうな店を発見しました。呼吸を整えてから電話します。

「22日ですが、一人で伺いたいのですが、お席の方はありますでしょうか?」

電話口には弱々しい声のおじいさんが出ました。

「え、22日?ってことは、何日?」

大丈夫かこの店。でも面倒くさいことは言われなさそうなタイプの店かな、とポジティブに考えることにしました。

「6000円の鍋だけのコースしかないけど、それでいいよね?」

いいのか……?「鍋だけ」なのにコースとはこれいかに。そうは言っても、行ってしまえば単品の注文も出来なくはないだろう。

最悪、物足りなかったら帰りにラーメンでも食べようと、近くのラーメン屋も念のため調べておきました。そして当日。羽田から飛行機、宇部空港からバス、下関に着いたら徒歩でドーミーインにチェックイン、ちょっとお風呂に入って徒歩20分でフグ店です。

他に客がいない。店内には古めかしい洋品?が陳列されている。
大丈夫かこの店。

まずはふぐ刺しが出てきます。
「1枚でちょうどいい厚さに切ってあるから、重ねないで食べて下さいね」

お、意外と(失礼)美味しい。

確かに厚さが絶妙。歯ごたえがプリプリしている。安い店で出てくる薄ーい刺身(重ねて食べざるを得ないやつ)とは違う。

その後は唐揚げ、寿司、ふぐ皮、鍋、雑炊と出てきました。クオリティとしてはまあまあで、2019年のファーストタッチで大失敗をしなくて良かったです。
しかし、これで感動したかというとそこまでではありません。

「やっぱり、ふぐは銀座の方が美味いな」

「秋刀魚は目黒、河豚は銀座」みたいな格言を思いつきました。

宿に戻って考えました。まだ金曜の夜なので、翌日も食事で挽回のチャンスはあります。ふぐでも下関で最高級店に行ったらまた別かもしれませんが、とはいえ明日またふぐを食べても新鮮さがありません。ではどうしましょう?

下関市は水産物5大ブランドとして、「ふく、うに、くじら、あんこう、いか」をPRしているそうです。

この中で僕が一番ビビっときたのがクジラです。イカは土曜の昼食にドライブがてら食べに行く計画にしました。そしてアンコウやウニよりもクジラかな、というのが僕の直感でした。『るるぶ』を見るとクジラ料理専門店が載っており、店内の写真はカウンター席が写っているのでおひとりさまでも大丈夫そうです。実際電話したらOKということで、翌日の夕食はクジラになりました。

翌日2/23(土)。朝から晩まで色々観光しましたが、昼食についてだけ今回。インスタスポットとして有名な角島大橋に行った際、「特牛いか」を食べました。「特牛」と書いて「こっとい」と読みます。これも素晴らしい。まあ活イカは外れがないです。


入り口に活イカの在庫が表示してある、活イカマニアには親切な仕様。11時半に着いてラスト2でした。

この日は一日レンタカーを運転して観光地巡り。角島、元乃隅神社、秋芳洞・秋吉台と一日めいっぱい回りました。下関に戻り、夜になりました。お待ちかねのクジラ料理の店に向かいます。

日本では縄文時代の頃からクジラ漁が行われていたそうですが、下関は「近代捕鯨発祥の地」とされています。明治後期の1899年に「ノルウェー式捕鯨」が導入され、いくつもの漁業会社が下関を拠点とし、南氷洋捕鯨に進出していました。そして現在も、下関は調査捕鯨船の母港となっています。今年、2019年中に日本は国際捕鯨委員会(IWC)を脱退予定となっていますが、それにより今後は日本近海での商業捕鯨が再開される可能性が見込まれています。

店に入るなり、捕鯨への情熱を感じさせるデコレーションが出迎えてくれます。とりあえず、通常の量りを超えた店のようです。

席は予約していましたが、注文は店に来てからということになっていました。8000円のコースだとその日一番の刺身などが出てくると聞き、迷わずそちらにします。

まずはお通し的に、クジラの心臓が出てきます。

絶妙な弾力の歯ごたえ。

そして意外と、臭みはありません。牛肉のハツ刺と言われたら普通にそう信じて食べてしまいそうです。

続いては刺身三点盛り。尾の身(奥)、鹿の子(左)、頬肉(右)です。

「尾の身は凍っていて、半解凍が一番美味しいので、頬肉→鹿の子→尾の身 の順番でお召し上がり下さい」

指示通り頬肉から。

これはヤバい。とろける。

しばらく動きが止まってしまいました。僕の様子を見て隣のお客さんも頬肉を注文しましたが、この日はこれで品切れということでした。隣の人、すまん。

続いて鹿の子。弾けるような噛みごたえの中に肉の旨味と、脂の香りが。南氷洋を雄大に泳ぐクジラの躍動感に想いを馳せます。ああ、クジラになりたい。

尾の身。クジラの尾の身が美味しいというのはよく聞く話ですが、ここまでちゃんとしたものを食べるのは初めてです。大トロのような滑らかさ

クジラは哺乳類ですが水棲の動物です。「肉と魚の中間」というイメージでしたが、確かに今回食べてみるとマグロのような、鹿のような、獣肉と魚の両方の表情が見えました。

クジラの筋肉中にはアミノ酸としてマグロやカツオなどと同じ成分が豊富で、長距離を泳ぐ筋肉に必要だからではないかと考えられています。そのため、「肉でありながら魚」という独特の味わいがあるのかもしれません。

クジラは個体数が減少しているとされており、そのため日本でも現状では商業捕鯨は行っておらず、調査捕鯨という形で行われています。調査した後の鯨体は可能な限り完全に利用することが国際捕鯨条約で定められており、そのためだけでもないでしょうが内臓なども料理として確立しています。小難しいことはともかく、「珍味」の盛り合わせです。

おばいけ(尻尾)、百ひろ(小腸)、ベーコン、胃袋、さえずり(舌)、喉仏、ヒメワタ(食道) 

こんなにも様々な部位があるのですね。食道は「ザ・扁平上皮」という感じで、力学的に強い食感です。さえずりはとろける……。喉仏は「南氷洋のアワビ」とも評されるそうで、確かにコリコリとアワビのようです。

刺身や珍味は魚寄りな味わいでしたが、こちら「塩クジラ」は獣寄りでした。最後にご飯と一緒に出てきて、そのままつまんでもよいし、ほぐしてお茶漬けに混ぜてもよいし、ということでした。

一口食べると、旨味のげんこつ。ビーフジャーキーを濃厚なかつおだしで煮込むとこうなったりするのでしょうか?お茶漬けに非常に合います。保存もききそうなので通販で買おうかな……。

コース外で、「たけり」というものを注文しました。クジラの睾丸だそうです。なお、クジラは哺乳類ですが睾丸は体内に位置しており、メスの卵巣と同じような場所にあるそうです。確かにクジラに金玉があるイメージってないよな……。「チャンジャ風に味付けしてあります」と言われましたが、言われなければチャンジャだと思って食べてしまいそうです。


こんなにも素晴らしいクジラ料理ですが、やはり肉の保存や調理がすごく難しいそうです。そのため提供している店があまりないのでしょう。刺身だけでなく唐揚げも出てきましたが、野性味のあるビーフカツのようで非常においしい。

「揚げれば大抵のものは旨い」という料理界の格言があるそうですが、翌日たまたま小倉(下関から電車で10分ほどです)の天ぷら屋でクジラの天ぷらを食べる機会がありました。安さが売りの店で、一つ200円でした。

その店のクジラ天は、いかにも「給食のクジラ」という臭みがありました。
好き嫌いが分かれる臭いだと思います。僕は嫌いではないですが……。
一方、この日に食べたクジラの唐揚げはまるで上等な牛肉のようで、臭みを全く感じませんでした。この辺りが肉の保存状態によって変わってくるのでしょう。

鯨肉の扱いの難しさに思いが至ります。そんな素材を丁寧に仕上げる昨日の店に対しても改めて、鯨食文化を守ろうという心意気を感じました。


「旅とは何か」を考えだすと深遠なテーマになってしまうのですが、旅で楽しい要素の一つは「未知との遭遇」だと思います。その一つが現地の食事です。

日常ではクジラ料理にあまり接する機会がなく、ここまでちゃんとしたものを食べたのは今回が初めてでした。そして今回のクジラは非常に繊細かつ雄大なスケールの味わいでした。またこれをきっかけにクジラ肉や捕鯨の背景について色々と調べてみて、遠く南氷洋まで思いを馳せることになりました。「柏から南氷洋へ!」

楽しいアウェイに来てみたら新しい世界を知ることができ、2019年は最高のスタートを切ることが出来ました。おっと、試合はこれからだ……。


著者 
円子文佳(まるこふみよし)

Twitter
https://twitter.com/maruko2344
note
https://note.mu/maruko1192

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本編はここまでになります。
この先はおまけ部分で有料記事となります。本編だけで独立した読み物になっていますが、下記では具体的な店名を出して紹介しつつ(有名どころは調べればすぐにわかると思いますが)、お店であった細かいエピソードを書いています。また、「ごはんと元カレ」執筆裏話(書いている途中どうしてもラーメンが食べたくなった)なども書いています。

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