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中国政府が派遣した女子大生 ACL貴州後編

2013年2月の、柏レイソルのACLアウェイ、貴州人和戦の観戦に来た時の話、後編になります。

前編はこちら

・電車に乗って、アジア最大の滝を見に行こう

2月26日(試合前日)。
この日は一日全く決まった予定はありません。
「地球の歩き方」によると、貴陽から西へ100kmあたりの「安順」からさらに南西へ50kmほど行ったところに「黄果樹風景区」という観光名所があるそうです。中にはアジア最大の滝もあるということなので行ってみることにしました。

朝8時に出発。
貴陽から安順までは電車で2時間弱です。
ホテルから貴陽駅までは歩いていける距離ではないので、仕方ないのでタクシーを探します。
昨日軽いトラブルがあったので不安はあったのですが、とはいえ早朝だとタクシーも空車が多くてすんなり乗れました。

駅に到着。ものすごい混雑です。
切符売り場にたどり着くだけでも一苦労でした。
30分ぐらい並んで、ようやく9時に買えた切符は、10:48発の電車でした。
1時間半、何をして過ごそう?

外国人の場合は、電車の切符を買うのにもパスポートの提示が必要らしいです。
パスポートは中国語の標準語だと「フオジャオ」みたいな発音のはずなのですが、貴陽駅の切符売り場では「グワジャー?」みたいに言われたので、最初は何の事だかわかりませんでした。
おそらく方言だったのでしょうか。

貴陽市は人口300万人の都市なのに、近距離電車や地下鉄などの公共交通機関がありません。
貴陽駅も基本的に長距離列車のための駅になっています。
すぐに電車に乗れないのは当たり前らしく、駅の近くには食堂や休憩所などの時間をつぶすための施設がたくさんあります。
床屋もあったのですが……。

オープンエアーな床屋!!

ポテトチップスに唐辛子をまぶしたような軽食を路上で売っています。
貴陽の人は辛い物が大好きみたいです。


物珍しさで色々回っていたら、1時間半はあっという間に過ぎました。時間が来たので電車に乗るのですが、その手続きが……。

①まず、駅の構内に入るのに切符を提示する。

②駅構内のホームに下りる階段に改札があり、また切符を提示する。

③ホームに降りると電車のドアごとに係員が立っていて、またまた切符を提示する。

④もちろん車内でも検札があって切符を提示する…

こんなに何度も必要なのか?
人件費が極端に安いからこういうことができるのでしょうが、効率的ではないような……。
とはいえ、効率的にやろうとすると仕事を失ってしまう人が出てくるのでしょうか。

1時間ほど電車に乗り、安順に到着。
ここからは中距離バスで黄果樹風景区に向かいます。
バスターミナルでバスのチケットを買うのですが、ここでももちろん混雑です。
20分ぐらい並んで、実際に買えたのは12:44でしたが、なんと12:50発車のバスだった!出発まであと6分!
発車時間までに昼食を食べようかなどと思っていたのですが、そんな時間はなく慌てて飛び乗ることに。

バスの車内では何やら、反日的な映画を流している……。第二次世界大戦中の日本軍の横暴と、それに立ち向かう中国人のヒーローみたいな内容でしたが、車内の誰も見ている様子がありませんでした。水戸黄門的な時代劇みたいな位置づけでしょうか?

1時間ほどで黄果樹風景区につきました。3か所の景勝地の共通券が180元(約3000円)。
窓口でチケットを買うと、タクシーの客引きらしき人が声をかけてきました。といっても向こうは当然英語は話せないのですが、こちらから

「多少銭?」(ドーシャオチェン? 『いくら?』の意味)

と聞くと、

「一百!」(イーバイ、 『100元』の意味)

と答えてくれました。一応確認のために紙に「100」と書いたらうなづいてくれました。
地球の歩き方を見ると、この地区を走っている観光専用バスが50元のようです。タクシー貸切なら100元で妥当でしょう。

英語が通じない地域に行くと、下手をすると全くコミュニケーションがとれなくなってしまいます。中東とかだと数字すら読めない地域もあります。
そんな状況で、例えば今回の「いくら?」みたいに、ひとこと何かが話せるだけで局面が全く変わることがあります。

2008年の北京五輪の前に1か月だけ、仕事の合間に中国語を勉強したのだけど、それぐらいでもかなり役立ちました。そうだ来年のブラジルワールドカップに備えてポルトガル語を勉強しないと、と当時は思ったのですが……。日常に流され、結局何もしませんでしたねえ。


アジア最大の滝、黄果樹瀑布。ナイアガラやビクトリアほどの迫力ではないのですが……

ここのウリは、滝の裏側を歩けること。

天星橋景区。奇岩が見どころ。水の中の飛び石は、元は自然のものでちょうど365個あったそうです。それを一年になぞらえて歩いて渡ったそうな。

陡坡塘瀑布、直訳すると「急な傾斜と水たまりの滝」になるそうですが…

直訳されていた!

こちらはトイレにあったメッセージ。直訳にすらなっていない


・帰りはバスで、便利だと思ったら……

黄果樹風景区も堪能し、そろそろ貴陽に帰ろうかと思いました。
探すまでもなく、滝の出口にバス乗り場があって、しかも貴陽行きと書いてあります。どうやら安順の駅を経由しなくても、ここから貴陽に直接向かえるバスがあるみたいです。値段は55元。行きもこれに乗ったほうが良かったのかな?

16:30に発車。
例によって、いろんなところを回って出来るだけお客さんを乗せて、17:00頃にようやく高速道路に乗りました。
とはいえ完全に満員にはなりませんでした。僕の隣の席だけ空いています(やっぱり外国人ということがわかるのでしょうか?)。ゆったり座れていいかな、と思っていたら……。

途中、サービスエリア?の度にバスが止まります。
そして、そこで待っている客(どうやってここまで来たのだろう)と交渉し、乗せようとしているようです。
10回ぐらいは止まったでしょうか?2km進んだけで止まったこともありました。
完全に満席になったらようやくノンストップで貴陽に向かい始めました。

売上げを増やしたい気持ちはわかるのですが、これでは何時に到着するのか全く読めません。
結局、最初に発車してから3時間、19:30ごろにようやく貴陽の町外れのバスターミナルに着きました。
そして、ここからシェラトンのある中心部までは、さらに1時間かかります!
げんなり……。もう疲れたよ。タクシー?バス?どこで乗るんだ……。

20:30ごろようやくホテルに到着。
ああ、疲れた。そういえば昼食も食べてないんだった。でも今から外出する元気もないのでホテルのレストランで済ませる。


・女子大生のボランティアが部屋に来た!

シャワーを浴びて、部屋でくつろいでいました。
すると急に呼び鈴が鳴りました。時間は22時ごろ。
ドアスコープからこっそり覗いてみると、地味な若い女性二人組が立っています。ホテルの制服は着ていなくて、地味な私服……。


何だろう?怪しさもありますが一応出てみます。

「円子サンデスネ?」

名前を知られている。どういうことだろう?

「ワタシタチハ、政府カラ派遣サレテキタ、ボランティアデス」

「明日、外出スルトキ、道案内ト通訳ヲシマス」

「ダカラ円子サン、ワタシニ電話番号、教エテクレナインデスカ?」


何だか文法が微妙におかしい気もしますが、用件はわかりました。とはいえ怪しい……。
一人がメモ帳を取り出し、こちらの電話番号をメモしようとします。
するとその前のページに、「秋野央樹」「狩野健太」「クレオ」(注:当時の柏レイソルの選手名)などの、名前と電話番号が書かれていた!
ということは、本当に政府から派遣されてきたボランティアのようです。確かに、ここに泊まっていることや名前まで把握されてるわけだしな……。

連絡先は教えて、ついでにこの辺でお酒を買える店はないかどうか聞いてみると、ホテルの裏にある酒屋に案内してくれました。いろいろな種類の酒が売られていましたが、中国製のワインという珍しい物を売っていたのでダメ元で買ってみました。
「Changyu Wine」という名前で、750mlで88元(1000円程度)でしたが、結構美味しい!日本だったら3000円ぐらいしそうなレベルでした。中国のワインもあなどれないですね。


・女子大生ボランティアは日本語が上手

2月27日、試合当日。試合は19:00からです。
移動がいちいちストレスなので遠出はせず、気が向いたら近所を散歩でもしようかと考えていました。
そうしたら10:00ごろ、また呼び鈴が鳴りました。昨日の女子大生達(地味)です。

「一人デ出カケルノハ危ナイノデ、一緒ニ行キマショウ」

別に出かけるなんて言ってないし、昨日は安順まで一人で出かけたような気もするのですが……。
とはいえ朝ごはんも食べていないので連れて行ってもらうことに。
昨日の酒屋の向かいにある店でした。手抜き?

うどんの店で朝食を食べながら、ボランティアの女子大生(繰り返しますが本当に地味)と色々話しました。
貴州大学の4年生だそうです。
大学で日本語を学んでいて、去年は日本を4日間旅行したと言っていました。
どこを旅したのか聞くと、「佐賀デス」と……。なかなか不思議なチョイスですね(佐賀の人すみません)。

今日は試合会場にも来るそうです。貴州人和を応援しているのか聞きましたが、サッカーはよくわからないと言っていました。じゃあよく見るスポーツは何なのか聞いてみると、

「卓球!アト……バドミントン」

なるほど、中国っぽい。

なぜ今回こんなボランティアが組織されたのか聞いてみたところ、「貴陽に外国人が来るのは初めてだから」というようなことを言われました。国際空港もあるのに、外国人が来るのは初めてと言われてもいまいち信じがたいのですが、そういうものなのかなと思っておくことにしました。

ちなみになぜあなたはボランティアに応募したの?

「父ガ政府ノ人ナノデ……」

なるほど!「政府から派遣されてきました」=「お父さんに言われて来ました」だったのね。
でも日本語が出来るガイドがいて非常に助かりました。


・ACL貴州人和戦

さて、いよいよ試合だ!
トラブルを避けるためか、日本人サポーターは現地政府がチャーターしたバスでスタジアムに向かいます。

僕は2010年・2011年と柏レイソルのほぼ全試合を現地観戦したのですが、ゴール裏にはほとんど行ったことがありません。出来れば見やすい席で試合を見たいので……。
アジアのアウェーはゴール裏の席しか売ってくれないので、珍しくコアなサポーターと接近する機会です。そしてやっぱり世間のイメージ通り、頭のネジがぶっ飛んでいる人がいました。

スタジアムに入るときの荷物検査でトラブルがありました。太鼓などの鳴り物は事前に相談してOKになっていたそうですが、係員の判断で太鼓の「バチ」が持ち込み不可だと言われてしまいました。これにコアサポの一人が怒りをあらわにして警備に食って掛かりました。気持ちはわかるがここで暴れたら大問題だろう……。

しばらくしたら警備の偉い人が出てきて、バチもOKだという判断にしてくれました。喜ぶコアサポの人。これ見よがしに太鼓を打ち鳴らし警備員(多分警察官だと思う)を挑発します。うーん……。
まあ何とか無事にスタジアムに入りました。

前年のACLアウェイ広州恒大戦にも行きましたが、その時は4万人収容のスタジアムが満席で、すごい圧迫感がありました。しかし今回の貴州では1万ちょっとと思われる客入りで、ちょっと拍子抜け。
ピッチの芝はかなり荒れています。
陸上競技場なので反対側のゴールはほとんど見えません。

試合開始。

スコアボード。チーム名の表記が中国風になっているのは去年の広州戦と同じ。
しかし対戦相手が「貴州人和」だと思っていたのだが、表記が「貴州茅台」となっています。どうやら「茅台」というのは親会社の酒造メーカーらしいです。

試合終了。調整不足で苦しい試合だったが勝った!
クレオのゴールで1-0の勝利でしたが、反対側のゴールだったので正直よくわかりませんでした。
ボランティアの女子大生も喜んでくれています。試合は面白かったか聞くと、

「良ク分カリマセンデシタ」

と言われてしまいました。うん、僕と同じだね。

試合後、1万人ちょっとぐらいはいたはずの観客が、あっという間に掃けました。
そういえば前年、4万人を超える超満員だった広州のスタジアム(しかも広州が勝った)でも、試合後あっという間にスタジアムから観客が消えていました。よく躾けられた国民……。警察がよほど怖くて、整然とスタジアムから退出しないとひどい目に遭わされるのでしょうか。

チャーターバスは僕のホテルまで送ってくれました。
祝勝会のワインを買うため昨日の酒屋に行こうとすると、ボランティアの人が「危ナイデスカラ」とついてくる。夜分遅くまでお疲れ様です。
昨日は1000円のワインでも十分美味しかったのだけれど、じゃあ300元(4000円)のワインはどれほどなんだろう?と気になります。
それを買おうとしましたが、なぜかボランティアの人が止めてきます。

「ソレハ高イデス」
「コッチノ方ガ安イ」

と、3本で60元のワインを勧めてきます。
いやいや、大きなお世話!せっかく勝ったんだし、わざわざ中国まで旅行に来たんだから、安いワイン飲んでもしょうがないの!
政府高官(想像ですが)の娘って、あまりお金持ってないのか…?


・家に帰るまでが遠征です

翌日、北京経由で帰国。
貴陽の空港でチームと遭遇しましたが、あちらは広州経由で帰るそうです。
クレオとワグネルが土産物屋を物色していました。何だかタイミングが合って、クレオに握手してもらいました。

僕はサッカー選手個人にはほとんど興味がなくて(ゲームやプレーの内容に興味があるだけなので)、サインも全くもらったりしません。
この日は、新加入の外国人選手であるクレオが初ゴールで決勝点だったので、サポーターが喜んでる姿を見せてあげた方が本人も喜ぶかなと思って敢えて握手をしてもらいました。
他に日本人もほとんどいなかったし、迷惑にもならないかなと。
差をつけるのも申し訳ないので、一応ワグネルにも握手してもらいました。

北京の空港でトランジットでしたが、飛行機に乗っても全く動く気配がありません。
北京国際空港は滑走路が飽和状態で、遅れることがしょっちゅうらしいです。
そしてこの日はAir Chinaの便でした。Air Chinaは自国の航空会社なので、滑走路の都合が悪くなった時に真っ先に割を食う立場になっているそうです。
成田に着いたら、もう電車がない時間になっていました。
日本人の客で激怒している人がいました。ACLとは関係ない、北京からの乗客だと思います。

「また遅れたじゃないか!お前らは一体どうなってるんだ!これじゃ明日の仕事に行けないよ!」

今後北京に行くときは、Air China だけは避けよう。
柏のクラブスタッフが広州経由で帰国したのはひそかにいい判断なんでしょうね。


・ショートトリップのススメ:リアルドラクエ

長文にお付き合いいただき誠にありがとうございました。

僕はもちろんサッカーの応援のために遠くまで行っているのですが、読んでもらえるとわかるように、アウェイの遠征は結構旅行メインで考えて行動しています。

特に、今回だと滝を見に行ったような、ギリギリの難易度でクリアできるショートトリップがあると最高です。今回は一人でしたが、旅行先で仲間と力を合わせて困難を克服できると、ドラクエでいうと中ボスを倒したような爽快感があります。

とはいえラスボスクラスになると旅行ではなく、リーグ優勝やACL優勝、ワールドカップの優勝など応援しているチームのタイトルの瞬間に立ち会うことになってきそうです。クリアできるんですかねこのゲーム?

柏は今年はネルシーニョ監督になって、良かった時代を思い出せればと思います。これを書いていたので今週末の山口のことを全然調べられていません。何か情報があったら教えてください(高級でも構わないので一人で入れる飲食店など)。

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本編はここまでになります。
この先はおまけ部分で有料記事となります。本文の趣旨とは直接関係ありませんが、貴陽バスターミナル付近の交通事情や中国郊外特有のゴーストマンション事情についてなどについての文章になります。

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