見出し画像

2000年冬、合宿所の僕らは、ウイイレで熱く燃えた

ストイクビッチが華麗に舞い、ビレリが吠え、エムポマが跳ねる。

「絶対に負けられない戦いが、そこにはある」

この記事は、僕が2000年の冬にユーゴスラビアを率いて戦った、雪山での決戦を振り返った戦記です。



初めましての方もいるかと思います。円子文佳(まるこふみよし)と申します。旅とサッカーを巡るwebマガジンをやっています。

画像21

今回はプレイステーションのサッカーゲーム、『ワールドサッカー 実況ウイニングイレブン4』(以下『ウイイレ』などと略します)の話をさせていただきます。

ウイイレ4は99年秋に発売されました。もう20年前ですね。
当時の(男子)大学生は、大体みんなプレステを持っていました。まさに日本の共通語でありました。


・新任キャプテンが導入したウイイレ

大学4年の時、競技スキー部でキャプテンをやっていました。

元々スキーが得意だったわけではありません。入部した時はほぼ初心者でした。学年が上がって、いつの間にかキャプテンを任せられていました。
当時は部員も減って、部の成績も低下しており、何とかしないとと思っていました。

画像3

冬の間、スキー部の活動は大半が合宿所での生活になります。練習は昼だけなので、合宿中の夜は結構時間を持て余します。いつの間にか、そこにプレステが一台あるのが習わしになっていました。

僕が新入生だったころは、部活としては「夜は体を休める時間」とされていました。TVゲームは、禁止はされていないものの、推奨もされていない雰囲気でした。

僕は頼りないキャプテンでしたが、まずは部内の風通しを良くしたいと思っていました。そこで、むしろゲームは推奨しました。みんなで集まって出来る、短時間で終わるゲームをいくつか置いておきました。その時期はフランスW杯の直後でサッカー人気に火がついていたこともあり、ウイイレが部内ゲームの主流になっていきました。

画像4


・小山くんが提案したメンタルトレーニング

3月の大会が、スキー部の一番の目標です。その大会に向けて本格的な練習が始まり、緊張感が高まっていた時期のことでした。2年生の小山君が思いつめた口調でこう切り出しました。

「先輩、(ウイイレの)公式戦やりませんか?」

彼は真面目な部員だったのですが、実力の割にスキーの成績はいまいち伸び悩んでいました。

画像5

アルペンスキーとは、決められたコースを出来るだけ速いタイムで滑り降りてくるという競技です。リザルト上、100分の1秒を争う世界です。
スタート時には失敗が許されない独特の緊張感があります。今思い出してもあの電子音は息苦しくなります。

小山君も僕以上に、本番のレースの緊張感を苦手としていました。そこで小山君は、スタート時の緊張感に慣れるため、日ごろのウイイレでも緊張感を持ってプレイしたい、と言ってきたのです。

確かに、一日何試合もゲームをして、その度勝った負けたと言っていても、あまり得るものはありません。スキーのレースと同じように、ウイイレも一日1試合の公式戦とすれば、非常に重い緊張感の下でプレイすることになります。

「よし、やろう!」

周囲の大学にも呼びかけて、「公式戦」としてウイイレの大会が行われることになりました。

画像22


・当時のサッカー情勢

「ウイイレ4」は基本的に、当時のナショナルチームを操作して対戦するサッカーゲームです。

国によって強さが結構違うので、普通はどのチームを使うかで揉めるのですが、この時は意外とスムーズに決まりました。

大会には8人がエントリーしました。

オランダ(江坂:東大6年)
アルゼンチン(佐々木:東大5年)
ユーゴスラビア(円子:東大4年)
イタリア(村井:東大4年)
南アフリカ(松島:東大3年)
クロアチア(小山:東大2年)
カメルーン(瀬川:群馬5年)
スペイン(坂木:山梨3年)

足が超速いFWがいるブラジルとナイジェリアは使用禁止とされました。当時のウイイレでは「ブラジルとナイジェリアは禁止」というのは、割と普及していたルールだったと思います。

今回のチーム選択では、ナイジェリアより格は落ちるが快速FWを求めたアフリカ派、中盤の総合力とFWの高さを求めた欧州派、よくわからないですがアルゼンチン(最下位に終わった)という流派に分かれました。

フランス

フランスは98年ワールドカップで優勝していますが、FWの能力が低いとされていて当時のゲーム的には人気がありませんでした。ドイツも当時は、「年寄りばかりの終わった国」扱いされていて人気がありませんでした。今とはだいぶサッカー情勢が違います。ちなみに日本も弱くて、全く人気ありませんでした。


・前キャプテンから託されたバトン

東大から6人の他、山梨から1人、群馬から1人参加しました。
まず、群馬の5年生の瀬川さんが参加したいと言ってきました。当時の群大スキー部は「群国主義」と評される厳しさで、ゲームなど全く許されない雰囲気でした。しかし瀬川さんはスキーが天才的に速く、学年も上の方だったので治外法権扱いされていたようです。軍国主義の群馬の中、一人だけいつも飄々としている人でした。

東大からも、5年生の佐々木さんが参加を表明しました。5年生は学校が忙しく、佐々木さんはしばらく練習に参加していませんでした。3月に入り、実習が終わって久しぶりに合宿にきた佐々木さんでしたが、「ウイイレ?俺も近所で5年生リーグやってるから強いよ」と自信満々でした。その自信は木っ端みじんに打ち砕かれることになるのですが……。

あとは2~4年のうち、腕に覚えのあるメンバーが集まり、7人まで増えました。奇数だとリーグ戦がやりにくいので、あと一人欲しい……と思っていたら、6年生の江坂さんが参加してくれることになりました。

画像6

江坂さんは前キャプテンで、国家試験が終わって大会の応援に駆けつけてくれた6年生です。昔だったら、このようなゆるい雰囲気を許さない人でしたが、

「今はお前がキャプテンだから」

と協力してくれました。江坂さん……。その気持ちに応えるためにも、大会頑張ります!ユーゴスラビア、絶対優勝します!

「スキーもちゃんとやれよ」

はい。

この記事は、旅とサッカーを彩るWEB雑誌OWL magazineのコンテンツです。もし面白かったら、SNSで拡散にご協力いただけるとうれしいです。より多くの人が読んでくれることが作者の希望です。

著者 円子文佳(まるこふみよし)
Twitter https://twitter.com/maruko2344

この先、大会の途中までは無料で読めますが、途中から有料部分になります。月額700円で15〜20記事が読み放題となるので気が向いたらご購読いただければと思います。


・第1節 屈辱のアルゼンチン

互いのプライドをかけた雪上の熱い戦い、第1回・裏東医体の開幕です!

ゲーム中の実況はジョン・カビラ、解説は早野宏史です。20年後の現在でも普通にありそうな組合せですごいですね。

<第1節>
スペイン 1-1 カメルーン
イタリア 0-2 ユーゴスラビア
オランダ 1-1 南アフリカ
クロアチア 4-0 アルゼンチン

優勝候補は生意気な2年・小山のクロアチアか、僕のユーゴスラビアとみられていました。とはいえ5年生たちの実力が未知数なので、緊張感に包まれた第1節でした。注目の開幕戦は、(スキーでは)天才・瀬川さんのカメルーン対、地味な山梨・坂木くんのスペイン。「コソ練してきた」という瀬川さんの実力はどれほどのものでしょうか。

画像7

画像8

立ち上がりからカメルーンは猛攻を仕掛けます。エムポマ、シノといった俊足を生かし、スペインゴールに迫ります。前半7分、あっという間にシノのゴールでカメルーンが先制。その勢いのままカメルーンの攻勢が続きましたが32分、スペイン・イメロの単純なロングボールを、なぜかキーパーが処理しそこない、痛恨のオウンゴール。後半はカメルーンも前線の選手のスタミナが尽きたのか、攻撃に決め手を欠くようになりそのままタイムアップ。

カメルーン  スペイン
  前半 1-1
  後半 0-0
  合計 1-1
得点者 
(カ)7分 シノ 
(ス)32分 オウンゴール 

瀬川:「カメルーンというチームが……。でも去年より出来るようになったので楽しいね」
坂木:「瀬川さん相手に1点取れるとは…。引き分けで満足です」


その他の試合は、優勝候補のユーゴ(円子)はイタリア(村井)をミヤタビッチの2ゴールで2-0で下しました。村井は4年生で同学年ですが、いつも下ネタばかり呟いている奴でした。具体的なネタは下品すぎてここには書けません。
生意気な2年・小山のクロアチアも開幕戦を勝利で飾りました。「けっこう強いよ」と豪語していた5年佐々木さんのアルゼンチン相手に4-0と爆勝。小山は「5年生リーグって何ですか?」と傍若無人に勝ち誇っていました。オランダvs南アフリカは1-1のドロー。

画像9


・第2節 アルゼンチンの苦難は続く

<第2節>
カメルーン 0-1 南アフリカ
スペイン 2-2 ユーゴスラビア
クロアチア 1-0 イタリア
アルゼンチン 0-3 オランダ

尊大な2年・小山のクロアチアは2連勝で順調に勝ち点を伸ばしました。円子ユーゴは、「引き分けで満足」スペインとドローで後退。地味な坂木くんのスペインでしたが、この後も地味に対戦相手をドロー沼に引きずり込み、順位表に影響を与えます。5年佐々木さんのアルゼンチンは、偉大なる前主将・江坂さんのオランダと対戦しましたが、初戦に続く大敗でした。

画像10

画像11

江坂:「あんなところでフリーにさせるのは、クライファートへの冒涜だ!」
佐々木:「全くボールにさわれない。あー、やってらんねえ」
佐々木:「俺の1年間は何だったんだ……」

オランダ  アルゼンチン
 前半 2-0
 後半 1-0
 合計 3-0
得点者 
(オ)15分 R・デムール 
(オ)22分 クラウハート
(オ)53分 ベウカンプ 


画像12


ここから先は

4,564字 / 9画像
スポーツと旅を通じて人の繋がりが生まれ、人の繋がりによって、新たな旅が生まれていきます。旅を消費するのではなく旅によって価値を生み出していくことを目指したマガジンです。 毎月15〜20本の記事を更新しています。寄稿も随時受け付けています。

サポーターはあくまでも応援者であり、言ってしまえばサッカー界の脇役といえます。しかしながら、スポーツツーリズムという文脈においては、サポー…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?