見出し画像

お母さんの幸せ

 さこう(酒匂)さんは 時々私のお家に来る男の人です。お家に来る時はいつも私に何か買って来てくれます。お母さんと私との3人で水族館に行ったこともあります。
 別に嫌いじゃないんだけど、一緒にいると私どんな顔をしたらいいかわからないし、なんだか変な感じで緊張します。

 この前お母さんは『コトちゃん、さこうさんがお父さんになってもいい?』と私に聞きました。私は小学校2年の時からずっとお母さんと二人きりでした。私はお母さんがいてくれたらそれでも全然寂しくなかったんだけど、最近なんだかお母さんは嬉しそうだったから、私 なんとなくそうなのかな? と思ってたけど本当にそうなるみたいです。お母さんは さこうさんのことを結婚したいほど好きなんだと思います。
 どうしてなのかわからないけど、お母さんにそう聞かれて 私涙がポロポロ出てお母さんを困らせてしまいました。でもその後お布団の中で お母さんがそうしたいなら 私のことはいいよって言ってあげたいと思いました。お母さんが選んだ人だし お母さんが幸せになるんだったら、私はイヤだなんて言えません。

 次の日朝ごはんの時に お母さんに『いいよ』って言った時、お母さんは『ありがとう』って泣いてました。すごく嬉しかったんだと思います。

◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 昨日ご飯の時にさこうさんの呼び方のことを『パパでもお父さんでもいいよ。どっちにする?』って言ったお母さんに、私はすぐ『お父さんはイヤ』って言ってしまいました。お母さんは『え?どうして?』ってびっくりしてたけど、本当の気持ちは言えませんでした。
 だって私の『お父さん』は『お父さん』1人しかいないと思います。だからさこうさんのことを『お父さん』って呼べません。それまで笑ってたお母さんはじっと私の顔を見ていました。

 お父さんが死んだのは今から4年前です。はじめの頃お母さんは、私が寝た後 リビングでよく泣いてたみたいです。時々お母さんの泣いてる声が聞こえたから私知ってます。そんな時は私まで悲しくなりました。

◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 今日私は給食の時間に気持ちが悪くなって、初めて保健室のベッドに横になりました。保健の先生は『寝てもいいよ』って言ってくれたけど、私は目をつぶってずっと色んなことを考えてました。保健室に来たことはお母さんに言ってほしくなかったけど、先生は『それはできないよぉ』と困った顔で言いました。最近お腹の調子が良くないし、吐きそうになって困ることがあるけど先生にはそれを言いませんでした。

 早引きしたのは初めてだったから 悪いことをしてるみたいでドキドキしました。家に着いてリビングの横で笑ってる写真のお父さんの顔を見てたら、涙がポロポロ出てきて 最後は大声で泣いてしまいました。
 でもきっと悲しむと思うから このことはお母さんには内緒です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?