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うちの両親は普通じゃない

私は父親が好きだ。
それには、母親が大きく影響している。

母は父のことが大好きだ。
そして父も母のことが大好きだ。

毎晩二人で晩酌をするし、同じ部屋に布団を並べて寝ているし、気が付くとどちらか一方がどちらか一方に纏わり付いている。記念日には二人で旅行にも出掛けている。
私は夫婦というものを彼らしか知らないから、それが普通だと思っていた。

大人になってから両親の話を他所ですると、
「凄いね。うちの両親が触れ合ってるところなんか見たことないよ。」
「るいちゃんのご両親って本当に仲が良いよね。」
と言われることが多く、そうか、うちの両親は比較的仲が良い方なのだな、と認識するようになった。
誤解されたくないからしっかり記すが、両親は仲が良いとはいえ、性的な仲の良さを私たち子供に見せることは絶対になかった。
今でこそ、子供である私の方から性について言及するようになったから両親もフランクに話してくれるようになったが、私が高校に上がるくらいまではどちらかと言えばそういった話題はタブーだった。

私が成人して家を出るまで、母の口から父の悪口を聞いたことがなかった。
両親が口論をしているのを見たのも私が3歳の時と、15歳の時の2回ほど。2回しかないからこそよく覚えている。実際はもっとしているのかもしれないけれど、少なくとも私の前では2回しかしていない。

何故と聞かれると答え難いが、父と母が喧嘩をしていたら理由を聞かずとも、母の味方をしたくなる。だから、もし私が母に父の悪口を吹き込まれて育っていたら、私は今のように父のことを好きではいられなかったのではないかと思う。

私が父と一日外で遊んでいた日、母からLINEが入っていた。
「何時に帰ってくるの?」
その時はただ帰りの時間が気になっているだけかと思っていた。
後日家族5人で夕飯を食べていて、嫉妬についての話になった時。
「あんたたちでも、父ちゃんと二人で出掛けたりすると、母ちゃんの父ちゃんなのにな。と思ったりはすることあるよ。」
と言った。驚き桃の木山椒の木だった。

幼い頃、父と戯れるときは力の差があり過ぎるため本気で戦かっていた。大人になって、父が酔って絡んできた時、私は自分の身体が大きくなっていることを忘れて子供の頃のままの戦い方をしたら父が吹っ飛んだ。お互い大笑いをしていたが、父は額を少し擦りむいてしまった。すると母が笑いつつも
「母ちゃんの父ちゃんに何すんのさ!」
と言った。冗談混じりの本気だった。

母はなぜ父のことがそんなに好きなのか。
母は「私は子供の頃から母親もいなかったし、父親もまともじゃなかったから、身近に信頼できる人なんていなかった。だから大人になっても子供みたいに父ちゃん(夫)に依存してるんだよ。」と言う。
切なすぎる。私はそんな理由じゃないと思う。
私は、単純に父が母のことを誰より大切にしているからだと思っている。

ある日父がホールケーキを買ってきた。注文しないと買えない美味しいチョコケーキだ。
「今日はおかんが旧姓だった日数と現姓になってからの日数がちょうど半分になった日だからお祝いのケーキを買ってきた。」
と言った。もう少し柔らかい表現であったが、こんな内容のことを言っていた。母は24歳で結婚したので48歳の時の話だ。
純粋に素敵だなと思った。

私が何をしでかして叱られた時だったかは忘れてしまったが、母も同じことをしていたのに叱られていなかった、という場面があった。私は父に
「何でるいには注意するのに、お母さんには言わないの?」
と尋ねてみたことがある。すると父は
「子供は俺のエゴで、こういう人になって欲しいっていう想いがあって躾をするでしょ。でも母ちゃんは俺と出会うまでの母ちゃんの人生があってそれによる価値観や考え方があるんだよ。俺のエゴでそれを変えろって言うことは俺と出会うまでの母ちゃんを否定することになる。だから母ちゃんには言わないの。」
と答えた。
当時の私にはなあんにも意味がわかっていなかった。でも今ならわかる。でっかい愛だなあと思う。

2人は紆余曲折しながらも30年間仲良く暮らしている。いまだにラブラブだ。
もしそれが普通じゃないのなら、普通の夫婦ってどんなのなんだろう。

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