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父の酒癖

うちの父の最大の欠点は酒癖である。
休肝日など1日たりとも存在しない。休日は昼間から飲む時もある。

父は今までに酒による悪事を何度もしでかしてきた。

父は飲酒によって気が大きくなったり、怒鳴ったり、暴れたりするタイプではないのがまだ救いなのだが、如何せん自損事故が多すぎるのだ。

私が高校3年生の頃のクリスマスの日。父は会社の部下と飲みに行ったので、母と2人で寿司をとって静かな夜を過ごしていた。

日付が変わる少し前、インターホンが鳴った。
母が出たのだが、何やら玄関が騒がしかった。

見に行ってみると、玄関のタイルには赤い血がポタポタ垂れていた。
出血元は父の右目の上だった。
酔っていて血行が良くなっていたからか、なかなかの出血量だった。

「すみません…。家まで送り届けたと思って安心してしまったのですが、タクシーを降りてすぐに転げてしまって…。地面に顔を打ち付けてしまいました。」
と場都合の悪そうな部下の方が説明してくれた。

そんな部下の方を他所に父はずっとにこにこヘラヘラしていた。
頭を打っていたらまずいと母は父を乗せた車を救急医療センターへと走らせた。
私も付き添ったのだが、後部座席に座った父は泥酔していて事態が把握できておらず、
「母ちゃんはどこに向かってるの?病院なんか行かなくていいよぉ。」
と、まだヘラヘラしていた。
酔っ払い特有の同じことを何度も言う現象を起こしていて、堪らず母が
「うるさい!!!!!」
と声を荒げたのを覚えている。父にそんな言い方をする母を初めてみた。
私はそんな父を見て馬鹿だなぁと笑っていたが、母は一切笑っていなかった。
本当に心配だったのだろう。

診察の結果、何の異常もなかった。
本当に人騒がせなおじさんである。
次の日には病院に行ったことさえも覚えていなかった。

この3年後にも、外で飲んで泥酔して帰宅し、自宅の玄関へ続くコンクリートの階段から転げ落ちて脛の骨が見えるほどの怪我をした。休日だったので実家に帰省していた姉と兄が病院へ連れて行き、何針か縫うことになった。
本当に懲りないおじさんである。

母はこれ以降、父が外で酒を飲む際はまた怪我して帰ってくるのではないかと心配するようになった。そういう心労を母に与えるのはやめて欲しい。切なる願いだ。

姉は、
「父のことは大好きだが、父みたいな人とは結婚したくない。」
と言っている。激しく同意だ。

父が酔った時に厄介なことは怪我をすること以外にも何個かある。
呂律が回らなくなる、何を言っているかわからないからと軽く遇らうと拗ねる、何度も同じ話をする。本当に面倒臭いのだ。
そして次の日には何も覚えていない。これもまた厄介である。

酔った父を相手にするとでっかい子供みたいで本気で苛つくのだが、邪険にすると可哀想になる。程々に酔っ払えぬものかと毎回思う。

それでも姉弟みんな、父と酒の席を交わし続けるのは父の人柄故だ。
なんだかんだ、父は楽しい人なのだ。面倒だけど。本当に。

健康を害するような飲み方はしないで欲しいが、何を言っても父が酒をやめることはないだろう。
だからせめて、健康面でも事故でも、酒で命を落とすような真似だけはしないで欲しい。



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