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【気まぐれ連載】映画でまーる vol.3|2023年6月号|甘酸っぱい初恋と、異文化との出会いと|文:アーヤ藍@石垣島

このコーナーは石垣在住のライター「アーヤ藍」さんによる、「気まぐれ連載:映画でまーる」。人と人との“まーる”い繋がりが見えるような映画や、観終えた時に心が“まーる”くなるような映画をご紹介していきます。映画PRの仕事もされており、映画に関して深い造詣をお持ちのアーヤさんが、コミュニティや、人との繋がり、縁をテーマとした(まーる的な)映画を紹介していきます/不定期配信。(月刊まーる編集部)
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映画『タレンタイム』



1年を通して気温が20〜30度ぐらいの温暖多湿な気候。国土の約65%はジャングル。国花はハイビスカス。

そんな石垣島との共通点が多いマレーシアのラブストーリーを今回は紹介します。

石垣島とたくさん似ているところもあるマレーシアですが、一つ大きく異なるのが、マレー系、中華系、インド系などの多民族の人たちが暮らしている点です。

言語もマレー語、英語、中国語、タミル語などが入り混じり、宗教もイスラーム教、仏教、儒教、ヒンドゥー教、キリスト教などがあります。身につける服装も異なれば、食生活も生活習慣もさまざまです。

そうした異なる部分を互いに尊重して暮らしているからこそ、国家として成り立っているわけですが、しかし、表には出てきにくいところで心理的な溝があったり、時には民族間の対立が生じることも少なくありません。

そんなマレーシアで生まれ育ち、異なる人々が互いに理解し合い、赦し合い、愛し合う社会への願いをこめて映画を製作してきたヤスミン・アフマド監督。51歳の若さで亡くなった彼女が最後に遺した作品が『タレンタイム 優しい歌』です。

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ある高校で音楽コンクール「タレンタイム」(マレーシア英語で「学生の芸能コントスト」を指す)が開催されることに。

先生たちの審査によるオーディションで選ばれた生徒の一人が、ピアノが上手なマレー系女子学生のムルーです。コンクールに向けて特別練習があるため、送迎役がつくことになります。

ムルーの送迎役になったのがインド系のマヘシュでした。しかしムルーがマヘシュにいくら挨拶をしても無言。挨拶を返さないことに怒っても、何も言葉を発しません。

そう、マヘシュは耳が聞こえなかったのです。

口の形で言葉を読み取ったり、筆記やシンプルな手話でコミュニケーションを交わしていくうち、二人は一緒に過ごす時間に心地よさを感じるようになります。初恋のはじまりです。

しかし二人の心が通い合うだけではどうにもならない現実がありました。マヘシュの母は、自分の弟がマレー系の人に殺害されたばかりだったこともあり、異民族・異教徒との交際を断じて許してくれないのです。果たして二人の恋の行方は……。

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そんな甘酸っぱく切ない初恋の物語が本作の中心軸ですが、この映画は二人だけの物語ではありません。

二胡の演奏でタレンタイムへの出演が決まっている中華系のカーホウは、成績トップをキープしてきた優等生ですが、マレー系の転入生ハフィズにトップの座を奪われてしまいます。そのことでハフィズに冷たく当たったり、嫌がらせをするようになるのですが、実はカーホウがそうした行動をとってしまう背景には、父親の体罰を含めた厳しい指導が……。

はたまた、成績もトップで、タレンタイムにも自作の歌とギター演奏で出演が決まっているハフィズは、一見何もかもがうまく行ってるように見えます。しかし、実は重病の母親を喜ばせるための努力の成果なのです。

生徒だけにもとどまりません。ムルーの家で働いている家政婦さんや、タレンタイムを取りしきっている先生たち、登場する名前がある人物は全員と言っていいほど、大小さまざまな「物語」を持っているのです。

自分と異質なものに対してすぐに壁をつくるのではなく、その人が実は抱えているかもしれない苦悩や悲しみを想像して接することの大切さを感じさせられます。

そしてたくさんの「物語」が編み込まれた本作には、恋愛の愛だけではなく、親や兄弟への愛、友人や隣人への愛、宗教への愛なども詰まっています。いわば壮大なラブストーリーです。

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本作のなかには、私たちにとっても、異なる文化・価値観がたくさん詰まっていると思います。もしかしたら違和感や心地悪さを感じる部分もあるかもしれません。そうした感覚もひっくるめて、マレーシアの愛の物語を味わってみてください。

予告編(2バージョン連続)

映画『タレンタイム』
2009年 / 115分 / マレーシア


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この記事を書いた人


Ai Ayah 
ユナイテッドピープル(株)で環境問題や人権問題など、社会的メッセージ性の強い映画の配給・宣伝を約3年手掛ける。2018年春よりフリーで、ライター、イベント企画・運営、映画PR等を行う。石垣市在住。
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