言葉がわかる犬の話
うちの麦は毎晩、私の隣に寝る。夫のことが大好きなくせに私の隣にぴったり身体を寄せて寝る。
夫が右側、私が真ん中、麦が左。川の字で寝る私たち。真ん中の私はときどき、窮屈に感じる。身体を大の字にして寝てみたい。
娘が久しぶりにマンチェスターからエジンバラに帰ってきた。リビングで淹れたてのコーヒーを飲みながら、私は娘に言った。
「麦がね。私の横でぴったり寝るからさ、たまにはゆったり寝てみたいのよ。だから、あなたがここに戻っている間は、麦と一緒に寝てくれる?」
娘はもちろんだよと言って、ソファの上で寝ている麦を優しくなでた。
娘が帰ってきている間、麦は娘の部屋で寝た。久しぶりに私はゆったりと寝ることができた。
しばらくして、娘はマンチェスターに帰って行った。
その晩、麦は私のとなりにやってこなかった。名前を呼んでもこない。ベット脇にある犬用マットレスに身体を丸めて寝ていた。
その次の晩も、そしてその次の晩も麦は私のとなりに来なかった。
ようやく私は気づく。麦は私と娘の会話を聞いていたのだ。麦なりに気をつかっているのかもしれない。
私はパジャマに着替え、ベッドに入る。そして、マットレスに寝そべっている麦を呼ぶ。麦はじっと私をみつめた。
私は自分の左側のシーツの上をぽんぽんと軽くたたいてみせた。
麦は嬉しそうにやってきて、私のとなりに身体をぴったり寄せてから私の頬をペロリと舐めた。
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