まーちんあにすとん

人生、下り坂最高! 還暦過ぎの私が懺悔とともにショートショートを書き散らかします

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最近の記事

共感フェロモン

「ねぇあなた、すごいフェロモンが発見されたんですってよ」 いつもフェイクニュースに振り回されてる女房がスマホから目を離さずに教えてくれた。 「そりゃどんなフェロモンなんだい」 「アナタみたいな女心がわからないスットコドッコイに必要なものかもね」 ひどい言われようである。 仕方が無いので自分でニュースを調べてみると、薔薇の棘に含まれる成分が、他人に共感する感情を高めるらしい。こんなもの役に立つんだろうか。 数ヶ月後、妻が新しい柔軟剤が当たったと喜んでいた。なんでもモ

    • 聖典

      それはもう大昔のこと、人は毎日食い物を得るために魚をとったり狩りをしたり、食える植物を育てたり、そんなことをして生きていた頃。 1人の大法螺吹きがいた。 始まりの始まりはな、この世の中は何にもなかったんだと ずっと夜でな、それも星も月もない夜でな、だから俺が言ってやったさ 明るくならなきゃ何も見えねぇ、明るくなれってな それで昼と夜ができたんだ そのまんまじゃちっと味気ないからな、お日様やら月やらキラキラする星やらがなきゃなるまいってな、ついでに空と地面もな、ちゃ

      • 新製品

        この度は弊社の全自動家事支援ロボット(オートマティックホームヘルパー)AHOH203-0ω0をお買い上げ頂き誠にありがとうございます。 【警告】 怪我や損傷のリスクを低減するために、ロボットの設定や使用、お手入れの際には次の安全上のご注意をお読みの上、指示に従って下さい。 本製品をお子様や、身体知覚思考能力が著しく低下している方が単独で使うことは絶対におやめ下さい。ご使用の際には安全に使用できる環境下かつ製品の安全な使用方法と危険性を理解している方の指示監督のもとで使用す

        • スタンダード

          ネットニュースを見ていた妻が「まぁ」と驚いている。 「ん?どうしたどうした」 「かたきうち法案が国会で可決されたんですって」 「へぇ、そりゃまた急に決まったね」 政権や国会議員達への不信をブツブツ言ってる妻の言葉を聞き流しながら、俺はもやもやと不安が湧き上がる気持ちを抑えることができなかった。 敵討ち法案、正しくは被害者自力救済特別支援法及び関連法案。民法による親族及び婚族の特殊自力救済権特別保護法。 詳しくは知らないが、現代的にリニューアルされ、敵討ちを望む遺族

          流星

          屋敷の敷地をトロットで一回りしてきた僕は、雑木林を横目に田園地帯を厩舎へ向かった。小一時間で戻り、愛馬を馬丁に渡す。 「旦那様、今日は新しいじゃじゃ馬が納車される日でしたね」 若い馬丁が身をくねらせるようにして聞いてきた。 「中々早耳だね、うふふ」 僕といえども今日という日は特別で、感情を抑えきれないのだ。 午後、ガレージ前の広場に馬鹿でかい木箱がトレーラーに乗せられ到着した。ブガッティ本社から15人のメカニックスタッフが同行し、丁寧にセロンスポーツを取り出す。固定

          エレジー

          俺は流しだ。流しの作家だ。紙媒体が衰退し本が売れなくなったおかげで、書店も潰れ、作家はみんな途方に暮れた。ネット配信も過当競争に晒され、一部のカリスマしか食っていけない。そしてついに、飲み屋に門付けする輩が現れた。俺もその1人だ。 流石に昔飲み歩いたバーやクラブには顔を出しにくい。文士崩れが呑んでる店も厄介だが背に腹は変えられない。上から目線の批評を聞いていれば優越感で金を払う。草臥れたジャンバーの襟をたて、風呂敷に包んだ数冊の本を片手に、カラオケのないうらぶれた小料理屋に

          継承者

          いつものようにクラハ(ClueHabit)に接続すると、馴染みのメンバーが出迎えてくれる。リーダーのFK以下、皆元気そうだ。 暫くは雑談に花が咲く。貴重で美味しいフルーツの話、近所のコロニーであった面白い話、コスプレ画像を見せてくれるメンバーまでいる。2つの太陽を持つ惑星の話も興味深い。 取り止めのない会話が、日常という確かな重みから全身を解放してくれるようだ。30分ほど雑談を楽しみ、自作のSSを披露する時間になった。 今日の朗読は3作。初めにGMが「マーズの孤独」を読

          密林世界

          ピンポーン「宅配便でーす」 「やぁ、いつもありがとう」 全く便利な世の中になったものだ。米味噌醤油、ペット用品から日用品、今やなんでも宅配便で自宅に届く。 それだけではない。不要になった品物は、リサイクル便で必要とする人の元へ送り届けてもらえるのだ。コレも全ての購買記録が一元管理され、不要なモノがあれば必要な人に届けられ、活用する様に社会が進歩したお陰だ。 先日は我が家に2人乗りのオープンカーが届いた。子供も独立し、ドライブが共通の趣味である妻の希望通りの車だった。

          世の理(ことわり) リアさんのお題「両義性」

          村のはずれに大変古い、小さな祠がある。正月二日、その祠がキラキラ輝き始めた。 「おーい!村の衆!どえりゃー事が起こったぜよ!」 慌て者の権八が泡食って村中に知らせ回った。そして村の衆が祠に集まってみると、金色の神さんがニコニコ笑っていた。 「ありがたや、ありがたや、この村に福の神さんが現れなすったぞなもし」 早速お供えをする者、数珠をジャラジャラ鳴らして拝むバァさん、そこらの木にしめ縄を掛けるもの、神輿を担ぎ出す者など大騒ぎとなった。 噂は噂を呼び大勢の人間が福の神

          世の理(ことわり) リアさんのお題「両義性」

          金が無い  (題名指定 蒲生竜也氏)

          世の中にこんな不条理は無い。俺に金がないことが不条理そのものだ。 だが、目の前にいる裸のオンナには俺の背負った不条理など関係ない。 「ね、わかってくれるでしょう?今は少し距離を置いた方があなたの為だと思うの」 金が無い男に用はないと言ってるわけだ。その程度の付き合いだったと思うしかない。無論異存はない。 女の部屋の鍵を隠し持ち、俺はさっさと退散する。身繕いしながら恨めしそうな目で俺を見上げる女を置き去りに、ホテルの部屋を出た。 故買屋の徳さんが渋い顔をしてる。 「

          金が無い  (題名指定 蒲生竜也氏)

          言い訳

          「わかった、今夜はアタシ一人で過ごせば良いのね!」 鼻息荒く言い放つと彼女は電話を切った。昔なら受話器を叩きつけるところであろうが現代ではそうはいかない。スマートフォンは命と同義語だ。有難いことである。 未だ特別親密とは言えない、十三夜のような関係を進めるためであろう彼女の提案だったが、おいそれと受け入れるわけには行かない。綿々と続く旧家(キュウケ)の我が家には、我が家のしきたりがあるのだ。 「ご苦労だったね」 二人の使用人に声をかけ、純金製の馬鹿でかい電話の受話器を

          悪夢ふたたび

          若宮大路を鶴岡八幡宮方向へ歩く。俺の左手を握り締める小さな手が少し汗ばんでいた。 お前に抱かれた幼子は瞳を見開き、始めての景色を見ている。 俺の少し前をゆく、お前の首筋のか細さが、妙に白くて儚げで、俺は軽い疼きを覚えた。 3年前、真夜中の由比ヶ浜でプロポーズしたんだったな。あの時、お前は何も言わず、ただ涙を流した。 何かを指差し、手を離した娘がお前に駆け寄りスカートを掴み、俺を振り返ると笑った。お前も振り返り俺を呼ぶ。お前だけに許された俺の呼び名だ。 新緑の山から吹

          猫がオンナに変わる時

          左拳の痛みが俺より先に目覚めた。続いて記憶がランダムにフラッシュバックする。 この後遺症がなけりゃ俺の能力もまんざらではないのだが、ウダウダ言ってもしょうがない。うめきながら起き上がり目を開ける。 そして呆気に取られた。 全裸の女がありえない「のの字」になってベッドに転がってる。 ベッドから飛び出し意識を覚醒させる。出し抜けに能力の呪縛が解けた。   気持ちよさそうに寝ているのはいつの間にか居着いた猫だった。 くそ、冗談じゃねぇ。にしても、なぜ猫が人間の女に見えたんだ

          猫がオンナに変わる時

          働き蟻

          今日も朝から仕事だ。素早く食事を済ませ身支度をし、一晩中仕事をしていた 連中と交代するために僕は持ち場に向かう。 途中で兄貴とすれ違う。 「やぁ、おつかれ。様子はどうだい?」 僕は通路の奥に顎を向ける。 「そろそろだろうな。気を抜くなよ」 兄貴は背を丸め疲れ果てているようだ。 「okay 、十分注意するよ」 兄貴と別れ通路を進む。すると仕事場の前で警備に呼び止められた。 「おはようございます!私に御用でしょうか?」 彼はもぐもぐ口を動かしながら答える。 「

          誘拐

          ある日、人種の違う3人の子供がそれぞれの国から誘拐された。4歳の女の子が1人、そして男の子2人だった。 時空を飛び越え、清潔な施設で子供達の共同生活が始まった。両親と会えず、 不安そうな子供達だったが、3人で仲良く暮らしていた。 痩せて泣き虫のくせに我の強いフーシェン、太ってお調子者だが抜け目のないデビッド、眼が大きく大人しそうだが芯の強いアリーヤ。 3人は仲良く暮らした。たまにおもちゃの取り合いで喧嘩になっても、アリーヤが仲裁するとすぐに仲直りした。時々何処からか聞こ

          カサブタ

          何処で作ったか左腕の肘の辺りに擦り傷が出来ていた。 「やっ、参ったなぁ、まぁでも袖で隠れるからいいか」 大きめの絆創膏を貼り付け、俺は仕事に出かけた。 午前中の仕事を終え、昼休みになると、何やらちょっと痒い。 絆創膏を剥がしてみるとカサブタになっていた。 「なんだか大きくなってないか?、気のせいかなぁ」 午後は腕が気になって仕方なかったので、掛かりつけの医者に電話で予約を入れておいた。 「こりゃ見事なカサブタですな!」 左腕全体がカサブタに覆われていて俺はびっ