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アジアリーグアイスホッケーどうなる?

 本日2023年12月29日に釧路を本拠地とするプロアイスホッケーチーム「北海道ワイルズ」がアジアリーグへの加盟申請を辞退した事を発表した。

 これは、日本アイスホッケーの歴史の中で、トップリーグと対等に渡り合える実力を持ったチームが、トップリーグへの参戦を見送った、という大事件である。
 少し説明をする必要があるが、昨年までアジアリーグに加盟・参戦していた「ひがし北海道クレインズ」は3年前に親会社の日本製紙が釧路工場閉鎖にともない、廃部した「日本製紙クレインズ」をクラブチームへと移行したチームであった。アジアリーグでの優勝はなかったが、全日本選手権でも3年間に2回優勝・1回準優勝しており、実力を備えた選手を多数有するチームである。しかし昨季のアジアリーグ終了後に、選手等への給料遅配を含む経営状態の悪化があり、またその際の対応について選手側が会社への不満があり、監督および全選手がチームを離脱する事態となる。その監督と選手たちが新たな支援者と新規に立ち上げたチームが「北海道ワイルズ」である。

 その「北海道ワイルズ」、旧チームへの破産申し立てをする等、強行な姿勢をとった事もあり、リーグ加盟他チームからの理解が得られず、約款どおり2022年12月末日までのリーグ加盟申請がなかったことから、アジアリーグアイスホッケー加盟を認められなかった。このため今季チームは地元の釧路アイスホッケー連盟や釧路市、旧チームの地元スポンサーの理解を得る事に努力した。
その一方で報道にあるとおり、「北海道ワイルズ」は今後、横浜GRITSの成功例もある「デュアルキャリア」のチームを目指す方向を模索しており、リーグ参戦できない今季はアジアリーグチームとの交流戦や全日本アイスホッケー選手権、地元も含めアマチュアチームとのエキシビションゲームなどで選手はプレーを続けている。

プレスリリースの中で「チームが未来に向かって前進するための判断」という記載があります。この文章や漏れ伝わってくるいろいろな噂から推測できる事としては…

・アジアリーグへの加盟の準備はしていた。しかし地元釧路の関係諸団体等との調整がうまく行かず、今回の申請を見送ったのではないか
・アジアリーグへの参戦費用が捻出できる予算を将来的にも組める見込みが今の状態では難しいのではないか

特に2つめは現在のアジアリーグの状況を示していると思う。現在は日本・大韓民国の2カ国リーグとなっているが、韓国内もオリンピック終了後にチームの廃部が止まらず、現在はHLアニャンの1チームのみの参戦。日本国内もコロナ禍で一時的に「ジャパンカップ」として開催していたが、今シーズンも1チーム32試合で争うリーグとなっていて、ゲーム数が著しく少ない。日本リーグ時代は1チーム40試合、アジアリーグでも一時は1チーム48試合開催のリーグであった。開催数が少ないという事はチケット収入の減少に直結するし、選手のレベルアップにも影響を及ぼす。
観客の減少は各チームとも営業努力をしているが、コロナ禍以後もなかなか回復曲線は緩やかのようだ。そしてある意味残念なことだが、日本チームと韓国チームのゲームの人気は概ね日本チーム同士のゲームよりも低い。

今後アジアリーグはどうなっていくのか? 加盟チームが増えないというのは上記の問題解決には決してよい話ではないはず。また今季は5チームでの争いという事で、ゲーム開催日程の組み方も無理が生じてしまい、毎週末ゲームがある状況ではない。遠征費も含めたチームの経費負担は大きく、どのチームも青息吐息の状況であると思われる。

現在、中京地区にあるアマチュアチーム「サンエス オルクス」が今年から大きな活動を開始しており、将来的にはアジアリーグ加盟を目指すというものの、「北海道ワイルズ」のようにアジアリーグに加盟せず、自主運営のゲーム開催等を行っていくという方法もある。選手たちの「デュアルキャリア」で仕事もアイスホッケーも支えていく、という手法は「横浜GRITS」「サンエス・オルクス」「北海道ワイルズ」の3チームになっていきそうな状況であり、今後の一つの事業モデルとなっていく可能性がある。サッカーでもJ3以下では「デュアルキャリア」の選手も少なくないという。

あくまで推測の域を脱していないが、たとえば日本アイスホッケー連盟主催、アジアリーグが共催している「Jアイス」リーグのようなものを規模拡大していくという方法もあると思われる。これを発展させる事で「シン・日本アイスホッケーリーグ」という形にできれば、アジアリーグを開催している主旨が骨抜きになりかねない。

別に「独立リーグ」を作ってアジアリーグと敵対するという事ではないが、そもそういう関係になるほど日本にはチームはないし、かつてのバスケットボールの「BJリーグ」と「NBL」のような関係は基本的には望んでいない。しかし興味を持たれないアイスホッケーを今後どのような方向で事業として成立するエンターテイメントに成長させるのか、これは一つの案である。
特に人口の多い地域での興行は観客を見込める可能性がある。北海道の釧路は日本製紙の工場撤退や地元産業の衰退、若年層の流出で人口が減少しており、当然観客の増加を見込める地域ではなくなっている。これはレッドイーグルス北海道も同様な悩みを抱えており、北海道経済の厳しさもあって、札幌圏域外は少子化・人口減少の影響を大きく受けている。

一方、大都市圏では経済レベルの高さや、現在スポーツの情報などもSNS等で情報収集されている人が増えていることを考えると、プロモーションの方法によっては、新規観客の獲得可能性は高いと推測できる。「サンエス オルクス」は名古屋圏域のチームだが、現在トップリーグの試合が開催されていないこともあり、圏域内でのスポーツ・エンターテイメントとしての新たなムーブメントとなっていくのだろう。

トップリーグに(あえて)参加を見合わせた「北海道ワイルズ」。選手が活動を継続出来る様な選択、そして進むべき道を模索している。これはその地域での支援者(スポンサー)がいない、という事かも知れない。もしそうなのであれば、「北海道ワイルズ」自体が他地区への「移転」という事も検討されている可能性はある。「デュアルキャリア」の成り立つ地域、スポンサーのいる地域へのフランチャイズ移転は、選手が今後継続してプレーするための「苦渋の選択」となる可能性は否定できない。
アジアリーグの魅力は興行をエンターテイメントとしていかに成功させるかの手腕にかかっている。それは各チーム主導でなく、各チームと連盟が一丸となって取り組んでいかなければ、これ以上の発展は難しいのではないだろうか。


 

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