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「ナースの卯月に視えるもの」〜noteの夢

秋谷りんこさんのデビュー作。

主人公の卯月咲笑は、長期療養型病棟に勤める看護師。
長期療養型病棟とは、
「急性期を脱してからの療養に特化した病棟だ。在宅に向けてリハビリをしている人もいるが、病棟で亡くなる患者も多い。死亡退院率、つまり病棟で亡くなる患者が、一般的な病棟では八%なのに対し、ここは四十%と言われている」
その長期療養型病棟で働く卯月には、ある頃から患者の思い残しが視えるようになった。
その思い残しを解決しようと、卯月は同僚たちの手を借りながら奮闘する。
卯月は仕事を終えて部屋に帰ると、ルームメイトだった千波の写真に語りかける。
千波とのことは、物語全体の中ほどで語られる。

お仕事小説と言われているが、オカルト要素、ミステリー要素もあり、ページをめくる手を止めさせない。
患者の思い残しは一話にひとつずつ解決されていくが、物語が進むに従って、卯月の、思い残しへのかかわり方も変わっていく。
それは、何かからの解放の過程でもある。

帯に、「号泣しました」と新川帆立さんのメッセージがある。
さすがに号泣するかどうかは別にして、最後の20ページはひとりで読まれることをお勧めする。
この老体でさえも、何度も本を置き、深呼吸して溢れそうになるものをこらえたのだ。
若い人においておやだ。

「何だ、創作大賞のやつか。それならnoteで読んだから、わざわざいいよ」
そんな人は間違っている。
これは、あの時読んだ物語とは、まったく別の新しい物語になっている。

いつもは電子書籍だが、今回はちょっと違う感覚を味わいたくて、紙の本を購入した。
既に重版が決定しているとか。

僕は本を読むと、名言とか名場面でもないのに、線を引き、書き取って何度も味わいたい箇所が出てくる。
多分、他の人にとっては何でこんなところがと思う文章なのだろう。
でも、僕の心には響くのだ。
今回は、こんな文章だ。

 また明日……。あと何回こう言えるのだろう。また明日、と挨拶した人に永遠に会えなくなったことを、私は何度も経験している。コルサコフ症候群は不可逆的なものだし、一日排便がなかっただけで肝性脳症を起こし意識レベルが落ちるなら、近いうちに「また明日」と言えなくなる日がくるのだ。病棟の廊下を照らす電気は煌々と白く、私は自分の影を踏むように歩いた。

「ナースの卯月に視えるもの」文春文庫113ページ

全6話。
ドラマのワンクールにもちょうどいい長さだ。
ぜひドラマ化してほしい。
その際には、秋谷りんこさんにも、カメオ出演をお願いしたい。

あとがきで、秋谷りんこさんは担当編集者、イラストレーター、デザイナー、そして作家の新川帆立さんに、感謝を述べられているが、一読者としてもこの素晴らしい物語を世に出していただいてありがとうと言いたい。

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