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読む、「奇跡を、生きている」

人は悲しい生き物だ。
そして、人生はいつも理不尽だ。

自分が手にしているものを、与えられているものを、その時には気付かずに、失って初めて思い知ることになる。
それが自分にとっていかに大切なものかを、それが消え去ってから理解する。
僕たち人間は、そんな悲しくも愚かな生き物だ。
なぜ教えてくれなかったと恨み言を言っても、人生は聞く耳を持たない。

しかし、人間はそんな自分の愚かさを補うために読書という手法を生み出した。
本を読むという行為は、すべからくそのようなものなのだと僕は思う。
失う前に、自分が持っているものの素晴らしさに気づくこと、一見ぶっきらぼうな人生に隠された何となく良さそうなものを見つけること、そのために読書という行為はある。
「文学とは、我々にとって生きるためのワークブックなのだ」
そう語った作家もいた。

横山小寿々さんの「奇跡を、生きている」はまさにそのような読書の目的を、一読で満たしてくれる本だ。
著者は、この本の中で、自分自身が健康な体を失って気づいたこと、見えてきたことを歯に衣きせずに語っておられる。

決して、自分の環境に同情して欲しいわけではない。
「大変でしたね、これからもしっかり生きてくださいね」
そんなことを言って欲しいわけでもない。
著者は、今では既に幸福であり、しっかりと生きておられる。
むしろ、誰よりも。
ここに書かれていることは、よくある「みんなで傷を舐め合いましょう」そんなことではない。

もちろん、僕たちがみんな著者と同じ境遇になるわけではないし、なる必要もない。
しかし、この本を読めばわかる。
今の自分のままで、どのように生きればいいか。
どんな人も、生きてきた数だけ何かを失っている。
それでも、何かを失った今のままで、よりよく生きることはできる。
幸福とは、この先にあるものではない。
それは、往々にして自分の足で踏みつけてしまって気がつかないものだ。

コロンブスの卵のような目新しいことが書いてあるわけではない。
むしろ、そうそう、その通り、わかっている、そんなことが多いかもしれない。
しかし、人生とは、わかるものではない。
それは、生きるものであり、生きるに値するものだ。
そう、この本は教えてくれる。

ハグとは誰かとするものだと思っている人。
そんな人には是非この本を読んで欲しい。
そして、最初に抱きしめるべきは誰なのかを知って欲しい。

ただし、喫茶店や電車の中など、人目のあるところでこの本を開くのはおすすめしない。
人前で泣くのが平気だと言う人は別にして。

どんな生き方も尊いものだ。
どんな選択も尊重されるべきものだ。
人はひとりでも立派に生きていくことはできる。
でも、この素晴らしい家族。
いちど見てほしい。

国はお金さえ出せば人は結婚して子供を産むと思っているので、なかなか、愛することの素晴らしさを示そうとはしない。
でも、この本を読めば、
「誰かと暮らすのもよさそうだ、生き方の選択肢として、考えてみてもいい」
そう、思ってもらえるのではないだろうか。

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