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ちーちゃんの絵本

一冊の本を埋める。
誰にも、絶対に見つからないように!

*

ちーちゃんは、絵本をかいた。
進級のお祝いにもらった、新しいノートに。
絵本には、大きくなったちーちゃんと、若返ったおばあちゃんとが旅をする。旅を通して、二人が『しんゆう』になるお話。
表紙には『しんゆう』と、タイトルがついていた。

おばあちゃんはその絵本を気に入って、何度も読んだ。

「ちーちゃん、おばあちゃんこの絵本とっても気に入ったわ」
「どのへんが、すき?」
「もう、ぜーんぶよ。絵も上手。そうね、なによりお話が好き。ちーちゃんとおばあちゃんが『しんゆう』になれるなんて、最高!」

ちーちゃんは、誇らしげに絵本を抱えています。
すごいすごいと、ちーちゃんの頭を撫でながら、おばあちゃんが言った。

「おばあちゃん、とっても気に入っちゃったわ。どこに行くにもこの絵本持っていきたいくらい。天国に行くときも、持って行っちゃおうかしら、ふふふ」

*

(お母さんにも、おばあちゃんにも、誰にも、絶対に見つからないように!)
ちーちゃんは、せっせ、せっせと本を埋める。

おばあちゃんが遊びに来てくれるのは、いつも土曜日か日曜日。
チャンスは、月曜日と火曜日と水曜日と木曜日と金曜日。
(でも、お母さんがいるからなぁ)

ちーちゃんの家の庭は小さい。
庭に出ていたら、お母さんにすぐに見つかってしまう。
だから、お母さんがおやつを用意するときがチャンスだ。
おせんべいの日や、アイスキャンディーの日はだめ。
すぐに用意しちゃうから。
ときどき、お母さんはドーナツを作ってくれる。その日がチャンス!

(お母さん、お願い!ドーナツ作ってくれますように…)

ついに水曜日、お母さんが言った。
「ちーちゃん、今日のおやつ何がいいかなぁ」
「ドーナツ!ドーナツ、ぜったいドーナツ」
「はいはーい。じゃぁ、ちょっと時間かかるからね。待っててね」

そうして、今。
せっせ、せっせと本を埋めている。

薄べったいお菓子の缶に、ちーちゃんの絵本を入れる。
その缶を、スーパーの袋に入れて、結ぶ。
もう一回、スーパーの袋に入れる。しっかり結ぶ。

土がこんもりしてしまったので、ちーちゃんは上からぴょんぴょんとはねて、土をかためる。
「これで、よし!」

*

土曜日、おばあちゃんがやってきた。
「ちーちゃん、あの絵本また読ませてちょうだい」
「…あの本は、今ちょっと…ないの」
「あら?なくしちゃったの?おばあちゃんと一緒に探す?」
「ううん、だいじょうぶ、ちーちゃんだけで、へいき」

(てんごくになんて、いっちゃだめ!)

*
次の土曜日も、そのまた次の土曜日も、おばあちゃんが遊びに来た。
でも、いつまでたっても、ちーちゃんの絵本は見つからない。
おばあちゃんは絵本を読ませてもらえないまま。

「ねぇ、ちーちゃん。あの絵本、見つかった?」
「…ちーちゃん、みつけない。みつからない。あの本、もう、ずっと出てこない。おばーちゃん、あの本もっていけない」
「あらぁ、残念ねぇ」

ちーちゃんのことを大好きなおばあちゃんは、ちいちゃんのことをよく知っています。ちーちゃんが、とっても優しいこと。よーく、知っています。

そして、おばあちゃんのことを大大大好きなことも。

ちいちゃんの顔をそっと覗き込み、おばあちゃんは言った。
「ねぇ、ちーちゃん。あの絵本、見つかったらいいのにね。おばあちゃん、あの本大好きだから、読んだら元気がでて、200歳まで生きちゃうかもなぁって、思うのよ」
「え?ほんと?」
「うん。おばあちゃん、そんな気がするのよ」
「おばあちゃん!ちーちゃん、絵本のばしょ、わかるかもしれない」
「あら、そうなの?おばあちゃん、びっくりだわ」

*

一冊の本を掘りおこす。
おばあちゃん以外には、誰にも、絶対に見つからないように!

「おばあちゃん、あのね…」
「なぁに?」
「…あのね、う〜んと…えっと…」
ちーちゃんは、黙り込む。

「おばあちゃんね、ちーちゃんが優しいこと、よぉ〜く、知ってるの。それから、おばあちゃんのこと、大好きでいてくれることも」
ちーちゃんの顔を覗き込むおばあちゃん。
その優しいまなざしに、ちーちゃんの心は素直になった。

「この絵本…ちーちゃんが、埋めたの」
「おばあちゃんは、嬉しいよ。ちーちゃんの、その気持ち」

土から掘りおこした一冊の本を、二人は隣に並んで読む。
お母さんの作ったドーナツを食べながら。

「おばあちゃん、この本もって、天国にいったりしない?」
「しないしない。おばあちゃん、この本読むときは、ちーちゃんと一緒がいいわ。200歳まで、読んでくれるかしら?」
「ちーちゃん、いつも読んであげる!」



(だって、ちーちゃん…おばあちゃんの…『しんゆう』だもの!)




小牧幸助さんの楽しい企画に参加させていただきました。


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